前へ!
著/麻生幾 新潮社 1575円
福島第一原発のオフサイトセンターに待機していた自衛隊特殊部隊に3号機への給水命令ができたのは3月14日午前11時。指揮官は「前へ!」と叫んだ。その直後、水素爆発が起こり、2台の水タンク車は跳ね飛ばされ、4人が負傷、被曝した。初めての体験、目に見えない恐怖にさらされる隊員たち。彼らに勇気を与えたのは、先頭に立ち続けた指揮官の姿だった。
当時の検証で、被曝しながら2日間、放置された作業員がいたことが分かるなど、東電、政府、消防、警察、自衛隊が混成する現場は混乱を極めた。結局、力を発揮できたのは、指揮系統が明確で補給体制のある自衛隊で、逆に欠陥を露呈したのは、他局との連携が悪い原子力安全・保安院、本社と現場に格差のある東京電力、感情的な対応が先走った政府首脳である。警察は福島県警自体が被災して、支援部隊を受け入れることも不可能だった。
隊員の精神状態を見ながら、自衛隊が心のケアもしっかりしているのには感心した。彼らも同じ人間であり、愛する家族にメールしながら、危険に飛び込んで行っていた。その勇気のおかげで、東北全体を失うような放射能拡散は防げたのである。
東北の道路を管轄しているのは東北地方整備局。激震に襲われた直後、女性の防災課長はすぐにヘリ発進を命じた。その数分後、仙台空港は津波に呑まれる。通信が寸断されるなか、空からの映像が状況把握に威力を発揮した。
救援には道路が通じないといけない。東北を南北に走る国道から、くしの歯状に海岸線に出る道が被害が少ないことが分かり、ブルドーザーで土砂ががれきの撤去にかかる。がれきの下にある遺体を収納しながらの悲惨な作業だった。
大震災、原発事故を風化させないためにも、命懸けで戦った無名戦士たちの物語を、語り継いでいく必要があるだろう。
