土の科学
著/久馬一剛 PHPサイエンス・ワールド新書 840円
本書で言う土とは農耕用の土壌で、岩石が風化した上に、動植物の有機質や生命活動が加わり、長い歳月をかけて形成されてきた。
その役割は㈰陸上植物の生育を支える㈪生物の遺骸や排泄物などの有機物を分解し、元素の化学的循環を司る㈫水循環の重要な経路となる㈬大気圏とのガス交換で大気の恒常性を維持する——の4つ。生命を宿す地球を「水の惑星」と呼ぶが、著者は「土の惑星」と呼ぶことを提唱する。
肥沃な土地は柔らかくて多くの空気を含み、保水性とともに排水性にも優れている。そうした土に欠かせないのが団粒構造で、ミミズやアリなどの小動物に多くの微生物が関係し、有機物を分解することで形成している。人間にできるのは、堆肥など彼らの餌となる有機物を供給することだ。かつては里山の下草を刈って入れたりしていたが、機械化された今では稲わらを漉き込んだりしている。
植物は土から無機質を吸収し、それを光合成などによって有機質に変えることで生長する。自然界で不足しがちなのが窒素、リン酸、カリで、肥料の3要素と呼ばれている。
日本の土は酸性だが、水田では還元反応によって水素イオンが失われ、中性に近づくことで、リン酸が溶け出し、イネの生育を助ける。昔から、裏作の麦ではリン酸の施肥が必要だが、表作のイネでは不要だとされてきた。
さらに、水中では有機物が蓄積されて窒素の含有量が増え、また嫌気性の窒素固定菌の働きが活発になることで、作物への窒素供給が増える。しかも、カリウム、カルシウム、マグネシウム、ケイ酸などは灌漑水に豊富に含まれている。
世界の陸地の10%にすぎないモンスーンアジアに、人口の53%が集中しているのも、米と水田の効用だ。
多くの都市生活者は土から離れてしまい、裸足で土を踏むこともまれだ。地球の生命を育み、生命環境の維持に大きな役割を果たしている土を、もっと身近に感じて欲しい、と著者は語り掛けている。
夢を持ち続けよう!
ノーベル賞 根岸英一のメッセージ
著/根岸英一 共同通信社 1260円
ノーベル化学賞を受賞した著者が元気をなくした日本人に贈る熱いメッセージ。「永遠の楽観主義で大きな夢を求めよう」との結びの言葉に至る著者の人生が、簡潔に語られている。
若者には自分と日本を客観的に見つめるため、海外に出ることを勧める。好きなことを伸ばすには正確な自己評価が不可欠だからだ。「卓越性の追求」こそが社会に役立ち、人生にも満足を与える、と。
東大で電気工学を学んだ著者が応用化学に進み、帝人に入ったのは、将来性があり奨学金が出たから。フルブライトに合格して米国に留学し、やがてパデュー大学のブラウン教授の元で研究するようになる。ここで実験の仕方からノートの取り方まで教わった。競争とよい指導のあることが進歩の条件だという。
著者が目指したのはC−C、炭素結合を触媒を使って作ること。基礎研究の成果は根岸カップリングと呼ばれ、液晶などの製造に幅広く使われている。
米国の大学には世界の頭脳が集まる仕組みがあり、著者の元には中国人が多く、次いでインド人。内向きな日本人を心配する。
研究室で語られているネギシ語録には「自立しながらも協力的であれ」「適切な競争を通じて秀でよ」などのほか「問題を抱えたまま暮らすな」とのアドバイスもある。問題はつきものなので、早急に解決するか、でなければ棚上げせよ、と。
合唱を愛し、ゴルフやスキーにも興じ、人生そのものを楽しく生きている。炭素結合の可能性から、炭酸ガスの有効活用、光合成の実用化など、研究意欲も衰えを知らない。
