勝共運動50周年記念インタビュー 日本大学名誉教授 小林宏晨氏に聞く

世界思想4月号を刊行しました。今号の特集は「勝共運動の半世紀」です。

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【インタビュー】スパイ防止法制定で日本守ると誓いあう

 勝共運動50周年記念インタビュー 日本大学名誉教授 小林宏晨(こばやし・ひろあき)氏に聞く

日本大学名誉教授
小林 宏晨  氏  

 

勝共と共に「スパイ防止法制定」に尽力

   勝共運動との出会いは、スパイ防止法(国家秘密に係るスパイ行為等の防止に関する法律)制定運動が高まっていた1980年代の初め頃で、当時、国際勝共連合などの団体が「スパイ防止法制定促進国民会議」を結成し、全国的な運動を展開していた。

世界の情報機関と意見交換

 私も長年、ドイツで研究してきた経験から、スパイ活動を防止する法的仕組みがないと日本の安全は危機に瀕するので、スパイ防止法はぜひ実現しなければならないと考えていた。そこで、スパイ防止法制定運動を進める勝共と関係を密にしながら、各地を講演して回ったりした。

 それだけではなく、勝共連合とタイアップして国際会議に出席したり、世界の情報関係の専門者会議などにも参加し、イギリスでイスラエルの情報機関モサドとの意見交換をした。その折、欧州9カ国を回って各国のスパイ防止法を収集し、帰国後、論文にまとめ自民党政調会に提出した。

 久保木修己会長、梶栗玄太郎会長とは親しく交流し、日本を守るため力を合わせていこうと誓い合った。文鮮明総裁にはソウルでの国際会議に出席した折、日本からの参加者と一緒にお会いした。

 「共産主義は間違っている」と唱えた勝共運動には今も共感するし、敬意を表している。私自身も欧州滞在が長かったことから、特に東ドイツはじめ東欧諸国の共産主義の実態についてはよく知っていた。戦後、日本社会が容共的ムードに流される中、勝共連合が共産主義の核心である思想の誤謬を突いたのは慧眼だと思う。

 

憲法は部分改正を重ねよ

 勝共連合のスパイ防止法をはじめ憲法改正、北朝鮮による邦人拉致問題を先駆けて訴えたことは日本にとって意義ある活動で、それを長く継続してきた勝共連合は貴重な組織だと思う。現憲法はQHQ(連合国軍総司令部)占領統治時代に、実質アメリカから押しつけられ、日本は昭和27(1952)年の主権回復後も、条文を一字一句変えず、後生大事に護り続けてきた。制定後70年を経過し、国際環境や社会の変化に対応できない局面が多く現れている。理想的には新憲法を制定すべきだが、今の政治状況ではほぼ不可能なので、部分的改正を重ねつつ全面的な改正を目指していくべきだ。それに向けては草案を作成しておくことが必要だ。

 スパイ防止法に関しては、現在の特定秘密保護法はないよりましだが、いわゆるザル法なので、有効にするための手立てを加えていく必要があり、これについては私も支援していきたい。有本一家を冷遇した社会党拉致問題は、日本の国家主権に対する重大な侵害で、国民に対する深刻な人権侵害なので、政府として絶対に許してはならない。工作員らによって拉致された日本人は北朝鮮にいるわけなので、それをきちんと原状復帰させなければならない。それをしない限り、北朝鮮を交渉の相手にすることはできない。昔なら、戦争になってもおかしくない事件だ。

 それを既に解決済みだとして日本政府に様々な要求をしてくる北朝鮮は言語道断で、政府は必要な制裁を加え続けるべきだ。

 拉致問題がまだあまり知られていなかった頃、私は相談に来た被害者・有本恵子さんの両親に、北朝鮮とのパイプがある土井たか子社会党委員長に頼んだらどうかと勧めた。そこで有本さんは土井に相談に行ったのだが、けんもほろろで相手にされなかった。社会党とはその程度の、似非人道主義、似非民主主義の政党だった。その後有本さんが行ったのが安倍晋太郎外相事務所で、拉致問題が公になる契機となった。もっとも、有本恵子さんはいまだ救出されていないのが心痛いことではある。

今もフレッシュな啓蒙活動

 冷戦崩壊後、共産主義体制は敗北したが、中国など特殊な社会主義及び共産思想は残存している。

 思想というものは簡単にはなくならない。とりわけ労働組合など共産主義思想に基づいて活動してきた組織は現存し、活動家も振る舞いを変えながら存続しており、彼らの戦略を正しく見抜き、効果的に対応しなければならない。冷戦時代、共産主義のメッカはモスクワだったが、今は北京に変わっている。

 中国の人民解放軍は国軍ではなく、中国共産党に所属する軍隊だ。その違いを知るには、マルクス・レーニン主義をしっかり勉強する必要がある。その意味で、勝共連合がしている学習活動、情宣活動は今もフレッシュだと思う。大いに広めてほしい。相手がロシアから中国になったことをはっきり認識し、戦略を練る必要がある。

 

一党独裁体制の原因究明を

 今後の勝共運動について言えばやはり、マルクス・レーニン主義の根本を明らかにすることは重要で、「世界思想」が言論活動として長年続けている。もっとも、重点はマルクスに置かれ、思想を実践したレーニン主義の解明はやや弱いようだ。マルクス・レーニン主義の根幹の1つは軍事戦略で、その根拠であるレーニン主義に対する検討・批判を強めてほしい。共産主義の特徴である一党独裁も、レーニンの思想によってもたらされたものだ。

 独裁権力は絶対的に腐敗するのは共産主義も例外でなく、今の中国が腐敗まみれなのも、最大の原因は共産党による一党独裁体制にある。共産主義の中に一党独裁が生まれ、発展する原因、その経緯を歴史的、思想的に解明する必要がある。これは中国の民主化に向けても重要だ。

 ボリンスキー・ドミニコ会神父の『マルクス・レーニン主義』という独バイエルン放送の講演録が非常にわかりやすく、翻訳し解説も書いたのでいつか発表したい。

中国の不安要因を考慮せよ

 今、世界的にも一番の問題は中国の動向だ。勝共連合では日韓トンネル・国際ハイウェイ構想を推進するが、中国の一帯一路構想との関係が微妙だ。中国が大きな不安要因になる点を考慮すべきだ。

 朝鮮半島の南北統一にしても、韓国の不安定な政治状況を見ていると、金正恩の北朝鮮主導でなされかねない。さらに日韓関係も難しい状況で、政府や国民も南北統一を応援する雰囲気にはない。北朝鮮の背後に中国とロシアがいて、北主導の統一を望んでいる。韓国と軍事同盟があっても、アメリカがどれほど本気で介入するかは不明で、短期的に解決する問題ではない。(談)

 

【こばやし・ひろあき】1937年秋田県生まれ。上智大学、独ヴュルツブルグ大学、ジュネーブ大学、パリ大学に学ぶ。上智大学教授を経て86年より日本大学法学部教授、現在同大名誉教授。防衛庁防衛研修所客員研究員、ボン大学客員教授、防衛学会・防衛法学会・日独法学会各理事、比較憲法学会理事長、防衛施設庁中央審議会委員等を歴任。2007年4月から秋田県上小阿仁村村長を1期務める。法学博士。

 

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