田村重信氏 「安保・政治の現実的議論で改憲実現を」

世界思想5月号を刊行しました。今号の特集は「時を逃すな、憲法改正」です。

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【インタビュー】安保・政治の現実的議論で改憲実現を

憲法改正、きちんと筋道立てて自信を持って説明すれば必ず納得してくれる---

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田村 重信 

<本インタビューの注目発言>
  冷戦時代:ソ連支持の社会党が「自衛隊は違憲!」「日米安保で戦争に!」で憲法改正、安全保障の議論進まず。
  湾岸戦争後:自衛隊の平和維持活動がスタート。安全保障の必要性から憲法改正議論が始まる。
  安倍政権:衆参改憲勢力が3分の2を超えて改正が現実問題に。政局の動向次第でいよいよ発議へ。
  我々国民の平和で安全な生活を確保することが憲法の役目であり、国家の義務。憲法に非常事態の規定が不可欠。
  感情論ではなく、きちんと筋道立てて自信を持って説明すれば必ず納得してくれる。その努力を怠らないことが大事。

なぜこれまで改正が進まなかったのか。

 ーーー 制定・施行から70年になる日本国憲法は、なぜこれまで改正が進まなかったのか。

 自主憲法をつくるのが自由民主党の結党以来の党是。それが実現しなかったのは、衆参両院の3分の2の賛成がないと(発議が)通らないからだ。その後に国民投票にかけられるわけだが、実際3分の2を改憲賛成派が占めることはなかった。ところが最近の選挙で、衆参両院で改憲派が3分の2を超えた。そこで安倍晋三総理・総裁が昨年の憲法記念日(5月3日)に憲法改正に言及し、9条の問題をクローズアップさせた。

 ところが、平和安全法制の議論の中でも、憲法学者の約7割が「憲法違反の自衛隊。だから平和安全法制は違憲だ」と表明していたり、共産党も「自衛隊は違反の存在」とも言ってきたためだ。だから少なくとも「自衛隊は憲法違反」という議論がまかり通る現状を何とかしたいとの思いが、安倍総裁の頭にあって、昨年の憲法記念日に提案した。すると9条の問題なので、賛否両論が巻き起こったというのが現在までの経緯だ。

 

改憲への転機となった冷戦終結

 憲法改正の議論には時代との関係が強くある。かつて「55年体制」と言われたが、これは左右の社会党が一緒になったことと、その一方で「保守合同」で自由民主党が誕生したこと。それには冷戦の激化という国際的背景があった。米ソの対立構図だ。ソ連を支持する社会党、アメリカを支持する自民党という構図だ。だから冷戦終結まで「自衛隊は違憲」「日米安保条約で戦争に巻き込まれる」と感情論ばかりできちんと憲法改正や安全保障の議論が進まなかった。

 冷戦崩壊したのが1989年。安全保障の議論の転機になったのが、90年の湾岸戦争だった。これを機に国際貢献とか人的貢献が言われるようになった。当時、日本は金しか出せなかった。130億ドル拠出はしたが、戦争後にクウェートが米「ワシントンポスト」等に感謝の意見広告を出した時、日本が入っていなかった。それは軍事的貢献がなかったからだ。

 戦争が終わった後、日本は苦肉の策で海上自衛隊の掃海艇によるペルシャ湾での機雷除去等の平和維持活動によって国際貢献を始めた。当時私は国防担当になり、安全保障調査会長代理の山崎拓さんに掃海艇を激励に行こうと言われ、最も新しいPKO(国連平和維持活動)でUNICOMという停戦監視の視察に同行した。バーレーンの総領事館で自衛隊関係者と日本の商社関係者と一緒に懇談した。商社の方たちは「我々は湾岸諸国から原油を買って運ぶことをやって来たが政府は何もやってくれず肩身が狭かった。でも、自衛隊がこうして来てくれてホッとした」と非常に喜んでいた。

 そうした意味では国際貢献とはつまるところ軍事的貢献だ。戦争が終わっても紛争地は危険だから、各国とも軍隊が行って平和維持活動を行っている。

 クウェートで皇太子と面会した時、山崎拓さんが「日本は一生懸命やったのに、米紙の意見広告になぜ日本が載っていないのか」と質すと、皇太子に「あれは軍事的貢献の意味。だが今回、自衛隊が来援し感謝している。日本国民に伝えて欲しい」と言われた。

 それで帰国後PKO法案に取り組んだ。その時も社会党の凄い反対に遭った。自衛隊を海外に出すので「戦争しに行く」とか、最近の平和安全法制の議論と同様、野党もマスコミも大反対だった。当時社会党が第一党で、牛歩戦術で審議を引き延ばし、徹夜になることもあった。当時は朝日・毎日も大反対だったが、今はPKO活動は両紙とも反対しなくなった。その頃から憲法改正論議が浮上するようになった。『日本国憲法見直し論』という本を書いたが、タイトルに「憲法改正」とつけることもタブーという風潮だった。出版社が僕の顔写真を載せるのは危険だと進言したほどだ。

 

小沢調査会と国際貢献・改憲論

 宮沢喜一内閣でPKO協力法を成立させ、憲法改正の議論が高まった。その頃、小沢一郎さんが「国際社会における日本の役割に関する特別調査会」をつくり国際貢献を検討し始めた。僕はその事務局に入り、国連決議があれば自衛隊派遣は可能とか、多国籍軍の後方支援は可能だといった議論を行った。国連の集団安全保障でも日本の参加へと方向づけた。

 当時は湾岸戦争で国連決議が出て多国籍軍が機能したように、国連が機能していた時代だった。その時に日本の安全保障を組み立てられないかと主導した小沢調査会のスタンスは解釈改憲だったから、きちんと憲法改正をやるべきだという議論が沸騰した。党内で憲法調査会が立ち上がり栗原祐幸調査会長の下で僕が事務局をやり党機関紙「自由新報」でも僕はコラム「憲法セミナー」を書いた。

 その後、小泉純一郎内閣の時に、小泉総裁はただ議論しても仕方ないと、当時の山崎拓幹事長とか与謝野馨政調会長らで改正の条文を示そうという話になった。それで前総理総裁の森喜朗さんが会長になりテーマごとに分科会に分かれ討議を行った。この成果をまとめたのが『新憲法はこうなる』だ。

 そのQ&Aで「9条で戦争放棄を明記しているのは日本だけ?」との問いに「違う。実は他国も掲げている」と答えると、編集者が「それは本当?」とびっくりした。

 それに、日本は改正は1度もしたことはないが、他の諸国では頻繁に行われている。このように事実を示しそれをふまえた憲法論議を行うことで、みんなが改正に理解を示してくれる。

 大学の講義でも、憲法と自衛隊との関係はあまり教えない。憲法学者の大半が「自衛隊は違憲」という認識だから「憲法違反、以上」で済まされてしまう。そうではなく、なぜ自衛隊が存在しているのか、という議論が重要なのだ。

 憲法上では日本は戦力(=軍隊)は持てない。だが日本は独立国であり自分の国を守る自然権を有しており、それを行使するため「軍隊未満」の「必要最小限度の実力組織」すなわち「自衛隊」を持つことは許される、というものだ。

 自衛隊は海外に行くと、国際法上は「軍隊」として扱われるが、憲法上の制約により海外での武力行使は禁じられるため、他国と同じような活動はできない。だから平和安全法制でも武力行使と一体化してはいけないとか、現に戦闘行為が行われている場所では自衛隊は活動してはいけない、といった奇妙でややこしい法律になっている。そんな制約があるのは日本だけで、まさに憲法との関係、特に9条があるためだ。また日本の憲法の最大の特徴は何かと問えば、第一章の「天皇」だ。これは世界のどこにもない、日本にとってそれだけ重要な既定だ。

 

改正に向けたロードマップとは

 ---安倍晋三・自民党総裁が2020年までの憲法改正のロードマップを打ち出したが、その施行までの実現可能性はどうか。

 憲法改正論議が盛り上がったのは、やはり安倍政権になり衆参両院で改憲勢力が3分の2を超えたことが大きい。今までいろいろな議論がされてきたが、これまで現実的にできなかった。衆参の憲法審査会で議論されてきた内容は、与野党で対立する9条問題はを敢えて避け、与野党で合意できる緊急事態の問題などに限定して議論を進めてきた。ところが憲法改正の肝は9条にある。

 それで安倍さんのメッセージを踏まえ、自民党内で憲法改正推進本部で4項目の内容を作った。その4項目とは次のようなものだ。

 ①9条1項2項を維持しつつ自衛隊の根拠規定を明記する②高等教育の無償化③緊急事態条項④参議院選の合区解消--の4項目だが、昨年6月の自民党憲法改正推進本部の体制強化後初の幹部会で決まったもの。4項目になったのは改正手続き問題も絡むからだ。

 国民投票ではテーマごとに賛否を問うので、テーマが多いとクリアするのが難しくなる。だから出来るだけテーマを絞り、投票にかけた時に国民が賛成しやすいものにしならなければならない。

 ある部分が反対だと他にも影響が出る。だから最初の国民投票では、あれもこれもではなく、国民の多数が「これならイイね」と言えるものに絞った方が改正しやすい。極めて現実の話になるわけだ。

 9条2項(陸海空その他の戦力、交戦権を有しない)を変えるのは理想だが、そうした場合に、国民投票で過半数を得れるか否かだ。

 

占領憲法ゆえ緊急事態規定なし

 また、現行憲法で最大の欠陥は何か。そもそも憲法の目的は、よく野党が「憲法は権力者を縛るため」というが、それだけではない。われわれ国民が平和で安全な生活を確保することが憲法の役目であり国家の義務のはずだ。つまり、有事の際にどうするかの規定が他国の憲法にはある。だから自分たちの国民を守るために軍隊が存在し、非常事態にどうするか規定があるのだが、日本にはそれがない。

 なぜないのか。結局、憲法はGHQ(連合国軍総司令部)占領下で、「日本が悪いことをして戦争が起こった。日本から戦争を仕掛けなければ、周辺諸国はみんないい人だから戦争は起こりません」との思想に基づいて創られたからだ。そのため有事の軍規定も、緊急事態・非常事態の規定もない。

 それが今回の改正の4項目の一つになっている。しかも9条の議論以前に与野党が国会で議論し合意してきた内容だ。

 そして、参議院の「合区」解消の問題だ。例えば高知は徳島と選挙区が一緒になった。島根と鳥取が一緒だ。やはり「県」というアイデンティティというのは非常に大事ではないのか。それは人口が少ないからと一緒になるのは、当事者にとってはたまらない問題。だから自民党ではこれを憲法で解消することで一致した。

 もう一つの「教育の無償化」問題は、以前から維新の会が主張してきた内容で、完全に義務にするか努力規定にするかの折り合いをどうつけるかが課題だ。

 殊に、与党として公明党の協力がどうしても必要だ。だから自民党ではこの4項目にどうやって収斂していくか、が重要になる。それが決まれば公明党や他の政党に働きかけ、衆参両院の憲法審査会でそれをテーマに議論されていくことになる。そこで一つの成案が得られれば、衆参それぞれの委員会で過半数の賛成で可決され、国会で改正案は衆参のいずれかで提出され、衆参の総議員の3分の2の賛成で発議される。

 それが今までなかなかクリアできなかったため、憲法論議をしても具体的に改正に結びつかなかった。それが今度は具体化して進んでいるという状況だ。

 さらに、国会で改正を発議して60~180日間の周知期間を確保した上で、国民投票が行われる。国民投票では有効投票総数の過半数で改正が実現する。

 以上まとめると、「自民党で案ができる→公明党などとすり合わせする→国会で議論する→国民投票へ」ということになる。

 スケジュール的に言えば、9月に行われる自民党の総裁選との絡みが出てすんなりまとまりにくい。だから総裁選前にまとまらなければその先に持ち越す。いずれにせよ党内でまとまれば、自民党の議員は衆参で結束して賛成し、前に進むということになる。

 

左翼護憲派「最後の砦」は9条

 総裁選後だと臨時国会で憲法審査会通過、通常国会で論議される。20年施行だと来年の参院選で同時国民投票になるのか。

 同時の可能性もあるし、別々の方がいいとの説もある。問題は、参院選で憲法改正勢力が3分の2を割ってしまった場合、発議が実現する見込みはなくなる。そのところは政治的な見極めになる。同時にやった方がいいかどうかだ。

 それから、もう一つのポイントは、政局との関係だ。ともかく、憲法改正の議論は、政局が落ち着かないとなかなか前に進まない。だから今、いろいろ国会で議論されているが、その落ち着き具合と憲法改正の議論といったものが、リンクしてくるのだろう。

 しかも、今の憲法改正の議論というのは、まともな改正論議に持ちこませないために、「安倍政権がやる憲法改正には反対だ」などと平気で言っている。

 新聞メディアは、朝日・毎日、共同通信などは反対の立場。学者・文化人などにも反対の人たちが多くいる。だからこれまで平和安全法制でも反対してきたが、いわば彼らの「最後の砦」が憲法9 条なのだ。だからこそ、憲法改正への反対の動きというのは、否が応にも大きくなってくる。

 

  ーーー 今の国会は、あまりに「改憲潰し」「安倍政権倒閣」のための政局に偏りすぎている。

 まさにそうだ。そうすることにより「反安倍」の声を増幅させ憲法改正をさせない、ということだ。安倍批判がぐっと大きくなったのはやはり、昨年5月3日の憲法改正の安倍発言からのことだ。

 

  ーーー 自民党本部として、全国民的にこの憲法改正の意義など運動を盛り上げるために、全国の県連に働きかけはされているのか。

 もちろん、働きかけはしている。各県連で憲法の勉強会や研修会、集会とか開いている。僕も各県連に呼ばれて講演したりしている。

 

 ーーー デモやストライキなど「力」ではなく、知的文化的な啓蒙力が国民運動にとり重要ではないか。

   確かにそれは重要だ。その意味では僕がキャスターを務めている世界日報「ビューポイント」の国益ネット放送「パトリオットTV」で、毎回知り合いの論客をゲストに呼んでいるネット番組づくりなどは、そうした「啓蒙力」になるものではないか。文芸評論家の小川榮太郎さんの回はアクセスが5万件以上に上った。ぜひネットで視聴し活用して欲しい。

 先日も愛国団体の「一水会」に行き憲法改正を訴えてきた。参加した青年が、僕の話を聴き「護憲論者だったけど改憲派になりました」と理解してくれた。感情論ではなく、きちんと筋道立てて自信を持って説明すれば必ず納得してくれる。その努力を怠らないことが運動の成果となろう。

 

【たむら・しげのぶ】1953年新潟県長岡市生まれ。拓殖大学政経学部卒業。慶応義塾大学大学院法学研究科で「憲法と安全保障」を学ぶ。前自由民主党本部政務調査会担当審議役。現在、拓殖大学桂太郎塾名誉フェロー。日本国際問題研究所客員研究員。「パトリオットTV」キャスター。防衛法学会理事。国家基本問題研究所客員研究員。著書に『新憲法はこうなる? 美しいこの国のかたち』(講談社)『改正・日本国憲法』(講談社α新書)など多数。

※世界思想5月号 元法務大臣 保岡興治氏 「憲法改正がいよいよ最終局面に」のインタビューはこちら


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