生誕200年で蘇るマルクスの『偶像』

 思想新聞5月15日号の【共産主義の脅威 シリーズ】「生誕200年で蘇るマルクスの『偶像』」を掲載します。

 

「マルクスの正しさ」を高らかに宣言する習近平。マルクスの銅像をドイツへ寄贈し、文化覇権支配を狙う。

  中国の「覇権主義」が、軍事的ブレゼンスのみならず、文化・学術面において知らぬ間に侵蝕され、「エージェント」を養成する中国共産党の「プロパガンダ機関」として「孔子学院」(表向きは中国語の語学研修機関と謳っている)が世界中に中国の資金で作られていることが世界的に認知されるようになってきたようだ。

 米国では次々に閉鎖され、関係者がFBIに逮捕される状況が多くなっている。カナダやオーストラリア、ニュージーランドでも同様になっている。そんな中、中国はチャイナマネーに物を言わせ、「孔子学院」とは異なる新たな「文化覇権主義による支配」に乗り出す動きを見せ始めた。それを象徴するのが、「マルクス生誕地・トリーアに贈られたマルクス像」である。 

 

 

 カール・マルクスは1818年5月5日、ドイツ南部のトリーアに生まれた。現在は生家が「カール・マルクスハウス」と呼ばれる記念館になっている。このトリーアで生誕200年を記念し高さ5m超の銅像の除幕式が行われた。像を製作したのは中国人彫刻家・呉為山氏で、中国がトリーア市に寄贈する形だ。

 実はこの「銅像受け容れ」までに賛否両論が巻き起こった。中国が寄贈を申し出ると、トリーア市議会が昨年3月、賛成42、反対7で受け入れが決まったものの、「中国の人権侵害を批判しながら寄贈の受け入れは矛盾する」との反発もあって、意見が2分する。そもそもマルクスは『共産党宣言』で世界の共産主義者の決起を促したいわば「共産革命の父」であり、マルクス主義は今なお「革命の原点」ともなっている。

 そのため、東欧の共産主義諸国では「抑圧の象徴」でしかなく、冷戦崩壊でマルクスの像が打ち壊されてきた歴史がある。ましてやその共産主義独裁体制下ではナチスのユダヤ人虐殺や世界大戦の戦没者よりも遙かに多い累計1億5千万人が殺されたとも言われる。それを知る人間はマルクスは「悪夢の偶像」「東西ドイツ分断の元凶」としか映らないはずだ。

 除幕式に参加した中道左派与党・社民党のナーレス党首は、「冷戦終結でマルクスを冷静に分析」とやや醒めた見方をする一方、寄贈側から同席した中国政府高官は、マルクス像は「中独両国友好の証しであり、中国人観光客誘致に役立つ」と強調した(時事など)。朝日新聞では反対勢力の動きとして、昨年9月の総選挙で初の連邦議会の議席を獲得した右派政党「ドイツのための選択肢(AfD)」の主張として「共産主義は多くの人々を殺害したのに、(マルクス像は)それを正当化する」と批判し、ネット上で反対デモへの参加を呼びかけ、抗議のハンガーストライキが行われたことを紹介している。

 

 ただ、少し違った見方をしているのが産経新聞。ベルリン特派員の宮下日出男記者で、中国の寄贈による彫像設置への疑問として、「地元の中国専門学者ゾフェル氏は地元紙にマルクスの思想が中国の共産党支配の正当化に利用されていることを踏まえ、『彫像は中国の力を誇示するプロパガンダ』と批判。メディアでも『毒のある贈り物』(独紙ウェルト)との見方が上がっている」と伝える。

 トリーアのライベ市長は「国の端の小都市で中国が権力を示そうとしているとは考えない」と釈明したというが、中国政府が「友好の代償」として「チベット・ウイグルの人権問題などの政治的発言をさせない」よう忖度を迫る可能性は大いにある。なぜなら、「孔子学院」がその先例となってきたからだ。

 しかもそれを大いに政治利用したのが、「北京の皇帝」習近平国家主席その人であった。すなわち、北京で「マルクス生誕200年記念行事」を盛大に行い、「マルクスの正しさ」を高らかに宣言する談話を発表したのである。このように考えると、今後、世界中の「共産主義者の偉人」たちの銅像を寄贈しまくる「共産主義思想の文化覇権支配」への第一歩と見ることは、的外れではあるまい。共産主義とはそれほど警戒が必要な恐ろしい思想なのである。

思想新聞掲載のニュースは本紙にて ーー

4月15日号 巻頭特集「北の非核化は「リビア方式」で 段階的措置は過去の誤り / 主張 辺野古移設に拍車をかけよ etc

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