東北大学名誉教授 田中英道氏「マルクス超える文化史観と家族の復権を」

世界思想10月号を刊行しました。今号の特集は「ルター宗教改革500年」です。

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【インタビュー】マルクス超える文化史観と家族の復権を

GHQがつくった日本国憲法の内情は、ソ連コミンテルンの思想的影響を受けた「社会主義憲法」だった。憲法制定のいきさつが分かれば、今の憲法をどう改正すべきかクリアに見えてくるー

東北大学名誉教授

田中 英道 氏  

戦後の日本を決定づけたGHQの占領とOSS(戦略諜報局)計画

 -- 戦後日本の「マッカーサー憲法」を起草したGHQ民政局次長のケーディス大佐はOSSメンバーとされているが、OSSと日本の共産主義者との関わりはどうだったのか。

 戦後日本のGHQ(連合国軍総司令部)占領政策とOSSの問題だ。アメリカのOSS(戦略諜報局)はCIA(中央情報局)の前身だ。CIAは反共だが、OSSは容共、むしろ「世界の社会主義化」に動いた。だから戦後は否定された。「インテリジェンス専門家」と称する人たちも、このOSSについては全く触れない。

 だが、OSSを知らずして日本の戦後は語れない。このOSSこそ、ソ連(コミンテルン)と連動して「世界を社会主義化」しようとしたのだ。東欧諸国はそれで成功したが、それ以外の世界を全部社会主義化しようとした組織がOSSだった。1942年、日本がアメリカに真珠湾攻撃した後、それ以前に既にOWI(戦時情報局)ができていた。これが日本だけではなくドイツでも、戦争で日独をいかに破り、社会主義化するかを研究した組織で、ルーズベルトがつくった。

 ルーズベルトはアメリカの民主主義の主のように戦後言われたが、実はソ連を礼賛した社会主義者だった。だからソ連のスターリンと近く、ソ連がナチと互角に戦えたのはルーズベルトがスターリンに武器を供与して助けたからだ。

 -- 毛沢東にも支援した。

 それもOSSだ。毛沢東が延安に入った時、日本共産党幹部の野坂参三もOSS計画に従って、延安で動いていた。OSSは何をやろうとしていたかというと、中国を毛沢東を中心とした社会主義国、日本を野坂参三を中心とした社会主義国に変えようとしたのだ。

 これはOSS計画から明らかだ。その経緯を調べると、野坂参三はこの計画に従って延安で動き、1946年1月に延安から帰国した。本当はそこで「社会主義宣言」をしたかったが、その時に2・1ストライキが起こり、完全にGHQとマッカーサーが「おかしい」と気づき、大統領がトルーマンに替わっており、急激に変動してしまい、OSSが解散されてしまう。

 

日本国憲法は二段階革命を意図した社会主義憲法だ

 そこでOSSの計画は潰え去るが、中国と日本では2年間は残り、OSSメンバーだったケーディスを中心としたGHQ民政局が「革命勢力」の巣となり日本国憲法制定に動いたわけだ。

 だからGHQがつくった日本国憲法は、「二段階革命」というものを意図した「社会主義憲法」だったと私は見なしている。

 だがそれが一切無視されてきた。私が『OSS日本計画』という本を出して版を重ねたものの、左翼側も含めほとんど引用もされず無視され続けている。

 私は戦前から戦後までの「左翼化」「社会主義化」を重要視しているにすぎない。なぜ、日本国憲法がおかしいものになったのか。財閥解体から農地解放、神道指令といった一連の占領政策がなぜ行われたのか。こうした現象が説明できないからだ。

 本来これらを全部変える必要はなかったはずだ。日本の「国体」は残ったからだ。だからこうした無理な変革をしたおかげで、中途半端な改革になった。結局は日本は立ち直ったものの、当時は変革したと思い、公職追放のように、戦前の有力な知識人らがことごとく追放され、人事が変わってしまった。これにより左翼が完全に根づいてしまった。大学から官庁まで主要なポストが、左翼リベラルの人々にほとんど占められてしまった。

 

9条護憲は革命勢力暗躍のための実力組織排除の論理

 思想的にも戦後のあらゆる改革がそちら側に偏った。一番問題なのは憲法9条で、「軍隊を持たない」と言ったことの意味は、「平和のため」だと言うが、「平和を守るため軍隊が必要だ」とさえ言えない。侵略しないため軍隊を持たないと書いているが、防備するのも同じ軍隊のはずで、結局自衛のための軍隊すら否定していることになる。

 結局、何も守らない国家、たやすく侵略されてしまう。逆にそれは、国内の革命運動が起き、労働者が革命に蜂起した時に、それを抑えて防備する軍隊がないことをも意味している。実はそれが重要で、日本に革命を起こすためだった、ということが、ちょうど他の財閥解体や農地改革などと連動していた。

 労働者が立ち上がった革命軍とは本来は素人の集団で弱い存在だから、本来の軍隊であればたちまち制圧されるものだ。この経験は、ドイツ革命やハンガリー革命などから、社会主義者も経験知として知っていた。

 だからそれをさせないために、9条で軍隊を持たせないようにした。今でもなお共産党や社会党(社民党)が「9条護憲」を主張しているのは、そのために他ならない。もし本当に「平和のため」と言うなら、「平和のためにこそ軍隊を持つ」のが常識だ。そこにこそ、9条を変えなければならないゆえんがある。

 それをOSSが計画していたことが文書で明らかになってきた。だから、OSS文書をさらに翻訳して日本人に明らかにしなければならない。この研究こそ反共に貢献するだろう。これは戦後日本の最大の癌であり、これを解明しないと戦後日本の病気の本質が見えてこない。

【たなか・ひでみち】東北大学名誉教授。国史学会代表理事。1942年東京生まれ。東京大学仏文科・美学美術史学科卒業。仏ストラスブール大で学位(Ph.D)取得。東北大学教授、ローマ大学、ボローニャ大学客員教授、国際教養大学特任教授、歴史教科書をつくる会会長、国際美術史学会副会長を歴任。イタリア美術史の第一人者として活躍する一方、日本美術の世界史的価値を発信。著書に『イタリア美術史』『国民の芸術』『日本と西洋の対話』『戦後日本を狂わせた「OSS日本計画」』『日本美術全史』『日本の文化 本当は何がすごいのか』など多数。


「マルクス超える文化史観と家族の復権を」
東北大学名誉教授 田中英道氏インタビュー (世界思想10月号掲載)

●経済中心の階級史観から文化中心の新たな歴史観築け
●イタリアに続き花開いたドイツ・ルネッサンスの巨匠
●新教に傾倒しつつカトリック美を保持したデューラー
●マルクス主義の挫折により現代のリベラリズムが登場
●フランクフルト学派の「批判理論」こそリベラリズム
●リベラルを武器にした左翼と保守の対立軸ができた
●日本は「国+国」で国家を形成する「家族の集合体」
●権威を持つ父的存在と権力を持つ母的存在が日本の形
●20世紀の芸術を破壊し「否定=創造」と誤解させた
●戦後の日本を決定づけたGHQの占領とOSS計画
●日本国憲法は二段階革命を意図した社会主義憲法だ
●9条護憲は革命勢力暗躍のための実力組織排除の論理

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