安全保障全般
米国危機と安保戦略の再構築
9・11同時多発テロ事件から10年。米国はテロとの戦いで、6000人の兵士を犠牲にし、1.3兆ドル(約100兆円)もの戦費を費やした。テロとの戦いが財政を悪化させ、2008年のリーマンショックへの対応が追い打ちをかけた。失業率は9%台で高止まり、景気も回復の兆しを見せない。今年8月5日には、史上初となる米国債の格下げを招いた。米国の財政危機は深刻な状況に陥っている。
オバマ大統領は9月8日、上下両院合同会議での演説で「国家的危機」を訴え、総額4470億ドルの新たな景気雇用対策を打ち出した。
世界経済に占める米国GDPの比率を見ても、9・11前年の2000年は31%、2010年は23%である。(ストックホルム国際研究所資料)国際競争力順位も2000年は1位、2010年は4位に下落している(スイスの世界経済フォーラムの判定)。
クリントン元大統領が一般教書演説で「我が国は史上最強の状態にある」と宣言したのは2000年1月のことだが、この10年で、米国は「史上最強」の状態から「国家的危機」の状態へ移行したのだ。
米国が国力を低下させたのに対し、この10年で国力を増強したのが中国だ。中国はこの10年でGDPの世界経済に占める比率を5%以上伸ばし、世界第2位の経済大国となった。
米国の国力低下と中国の国力上昇、それを象徴していたのが、8月18日に北京で行われたバイデン米副大統領と周近平国家副主席との会談だった。中国は米国債を1兆1000億ドル以上保有する世界一の米国債保有国(債権国)だが、それを背景に周近平氏はバイデン氏に対して強気の外交姿勢を見せた。
国営新華社通信は「中国は最大の債権国として、米国の構造的な債務問題への対処や中国のドル資産の安全確保を求める当然の権利を有する」と主張。その上で、巨額の軍事費と社会保障費を削減しなければ、さらなる国債の格下げを招く」と財政再建の一環として、米国に軍事費の削減を求めた。(8月19日 読売新聞)
今後の米中関係は中国が米国と対等な立場で注文をつける場面が増えていくとみられている。
米国の国防予算削減という内政事情が、日本の安全保障にも直接的な影響を及ぼし始めている。米政府が沖縄に駐留する海兵隊8000人のグアム移転の内容を、司令部中心から戦闘部隊中心に切り替えるというのだ。司令部移転の場合には、家族住宅、医療施設、娯楽施設、下水道整備などで膨大な経費が必要だが、独身者が大部分を占める戦闘部隊を移転させれば、こうした施設を作らずに移転できるという理由からだ。当然、戦闘部隊が沖縄から減る分、抑止力が弱まるとの懸念も出ている。(9月15日 読売新聞)
日米同盟が日本外交の基軸であり、日米同盟深化が現在の日本の安全保障政策の最優先事項であることに変わりはない。しかし、米国の軍事力削減を見据えた上で、長期の安全保障戦略も同時に構築していかなければならない。自由アジアの平和と安全はアジアの国々が結束して守っていく、そういう気概を持たなければならない。
広島・長崎原爆忌─「核抑止力」こそ平和を守る
思想新聞8月15日号に掲載されている「主張」を紹介する。
広島は8月6日、長崎は9日に66回目の「原爆の日」を迎え、犠牲者に鎮魂の祈りが捧げられた。今年は福島第一原発事故で多くの人々が避難している最中の原爆忌である。広島と長崎の経験を収束・解決に役立ててもらいたい。一部に事故の脅威を煽り、それをもって「反核」に利用しようとする動きがあるが、乗じられてはならない。
核戦争の惨禍を招かない、招かせないために何が必要なのか、我々は世界の核を巡る現実を冷静に見ておかねばならない。
世界の核保有国は米国、ロシア、英国、フランス、中国、インド、パキスタン、イスラエルの8カ国で、北朝鮮が核配備に動き、イランが核開発を進めている。世界の核弾頭数は冷戦末期の1980年代後半の6万9369発から今年1月段階で2万5300発にまで減少した。
今年2月には米露間で新戦略兵器削減条約が発効した。これによって戦略核弾頭が3割削減される。とは言え、老朽化した核弾道を減らすだけとされ、お互いが何度も核兵器で破壊し合える「多すぎる上限」を下方に移したにすぎない。厳しい現実が続いている。
では、わが国にとって核の脅威はどこからくるのか、このことを見据えておかねばならない。脅威とは意図と能力の総和である。したがって脅威を知るには、わが国に核攻撃を仕掛けようとする意図と能力を持つ国を知らねばならない。
それは共産主義の中国と北朝鮮、強権国家ロシアの3カ国にほかならない。米英仏の自由諸国は価値観を共有する同盟・準同盟国であり、日本攻撃の意図を持っていない。これに対して中朝は日本を敵国と位置づけ、ロシアは北方衛士の不法占拠を続けようと、日本に核の矛先を向ける意図と能力を有する。だから脅威なのである。
とりわけ軍拡著しい共産中国は、推定250発の核弾頭を保有し、自由諸国に照準を当てている。日本本土に対しては北朝鮮の国境に近い吉林省通化にミサイル基地を置き、車両で移動できる「東風21」(射程1800㌔)など24基の弾道ミサイルをもって日本の主要都市に狙いを定めている。
一方、核開発を進める北朝鮮は射程1300㌔の中距離ミサイル「ノドン」が日本全土を射程圏内に収めるほか、最近、射程3200㌔~5000㌔の新型ミサイル「ムスダン」を配備した。ミサイル搭載可能な核弾頭小型化に成功したとされ、核の脅威は一段と高まってきた。
それだけに中朝露の核兵器を使わせないことがわが国の安全保障の最重要課題になる。たとえ意図と能力があっても手出しできないようにしておくことが肝要なのだ。それが「核の傘」であり、「核抑止力」である。
遺憾ながら、世界は「相互確証被壊」で平和が保たれている。一方が核兵器を使えば報復され、最終的に双方が必ず破滅するという心理状態のもとで互いに核兵器の使用をためらわせるのが相互確証破壊である。したがって本革核の脅威に対抗するには核武装するのが理屈である。
しかし、戦後日本ではそれをやらず、日米同盟を結び、米国の「核の傘」のもとで中朝露(旧ソ連)の核使用を阻止してきた。非核三原則(作らず、持たず、持ち込まず)を掲げ、米国の「核の傘」に依存してきた。
だが、21世紀の今日、果たしてそれで十分だろうか。今、問われているのは米国の「核の傘」のへの信頼性である。日本に核の矛先を向けられようとした時、米本土への核攻撃を覚悟してでも「核の傘」を提供できるのかとの疑問である。
この疑問を解消するには、「持ち込まず」を改める必要がある。1960年の日米安保条約の改定の際、「核を積んだ米が艦船の寄港、領海通過や米軍機の飛来は事前協議の対象外とする」との密約があったとされるが(日本政府は否定)、寄港や通過を持ち込みの対象外とするのが当然で本来、「持ち込まず」の範疇に入らない。この際、正々堂々と認めるべきだ。自民党が寄航・通過を認める2・5原則を打ち出したのは正鵠を得ている。
だが、それだけでも足らない。「持ち込まず」をやめ「持ち込む」の政治決断を下し、確固たる核抑止力を示すべきである。有事に米国から核弾道の譲渡を受ける「核兵器共有政策」(独伊など欧州非核五カ国採用)の導入も検討すべきだ。そうすれば有事には日本の核となり、抑止力を確固たるものにできる。敵基地攻撃能力も保持しておくべきだ。
同時に脅威の源泉である共産国の意図を消滅させる必要がある。それには共産主義を終焉させ、独裁覇権主義から民主主義に転換させることである。すなわち勝共こそ真の平和を構築する道である。このことを原爆忌に改めて想起しておきたい。
米サイバー戦略─日本も安全保障の要に据えよ
思想新聞8月1日号に掲載されている「主張」を紹介する。
米国防省は7月14日、初のサイバー戦略を発表した。サイバー空間を陸、海、空、宇宙と並ぶ新たな「作戦領域」と位置付け、米軍のサイバー防衛能力を増強するもので、同盟国に対して共同監視システムの構築など連携強化を目指す。今やサイバー攻撃は安全保障を脅かす「軍事攻撃だ。わが国も安保戦略の要に据えるべきだ。
サイバー攻撃は増加の一方だ。米連邦議会の政策諮問機関「米中経済・安全保障調査委員会」は昨年11月、中国当局が米国などへのサイバー攻撃を組織的に行っている実態を明らかにする対中年次報告書を発表したが、それによると中国政府や共産党、民間組織などが高度の方法で外国のシステムに侵入している。
昨年初めには米国大手ネット企業グーグル社が「オーロラ作戦」と呼ばれるサイバー攻撃を受け、米国の金融、化学、メディアなど計33企業のグーグル系電子メールに侵入され、知的所有権を含む大量の秘密情報が中国側に盗まれた。今年3月には国防総省のネットワークに侵入され、国防関連のデータを含む2万4千個のファイルが盗まれた。その中には戦闘機や潜水艦などに関する機密情報も含まれており、リン米国防副長官は「国家による犯行だ」と断定している。
こうした事態を受け米国は09年に国家サイバーセキュリティー・通信統合センターを設置、昨年5月には米軍コンピュータ網の防衛を任務とする「サイバー司令部」をワシントン近郊のフォートミード陸軍基地に約1000人規模で新たに設置した。加えて今回、「作戦領域」に格上げし、本格的な対サイバー戦略に乗り出すわけだ。
新戦略は、サイバー空間を新たな作戦領域と規定し、センサーやソフトウエアを利用してサイバー攻撃を水際で防ぐシステムを導入するなど米軍ネットワークの防衛体制を強化、サイバー攻撃による障害が起きた場合の防衛力を高め、作戦への影響を防止するバックアップシステムも構築するとしている。
さらに日本や北大西洋条約機構(NATO)などの同盟国とサイバー攻撃に対する共同警戒
システムを開発し、合同訓練を実施するなど共同防衛体制の構築を目指す。また兵器や防衛関連企業などのネットワークを守る民間協力も拡大。軍が電力の99%を依存する民間の電力会社なども防衛の対象に含む。
サイバー攻撃の被害を受けているのは米国だけではない。韓国は今年3月、北朝鮮からのサイバー攻撃にさらされ、大統領府や外交通商笥国防省や韓国軍と在韓米軍、銀行など40ヵ所のウェブサイトが「DDoS攻撃」(分散型サービス拒否)を受け、一部の企業サイトが接続不能になった。また北朝鮮は韓国の衛星利用測位システム(GPS)をかく乱する電波を発射し、ソウル首都圏の西・北部地域で受信障害が発生した。
わが国に対するサイバー攻撃は今のところ中国が主だ。昨年9月、尖閣諸島でわが国の巡視船に体当たりした中国漁船の船長が逮捕された直後には中国のハッカー集団が日本へのサイバー攻撃を呼び掛け、警察庁のホームページがダウンした。
サイバー攻撃を甘くみてはならない。北朝鮮はGPSかく乱装置を使って米国製の巡航ミサイル「トマホーク」や韓国製の巡航ミサイル、統合直接攻撃弾(JDAM)などを標的にしている。03年のイラク戦争では、イラク軍が同装置を使ってGPSで誘導される米国の統合直接攻撃弾に電波妨害を起こし、民間市場を誤爆させ、多くの民間人死傷者が発生した例がある。サイバー攻撃は軍事攻撃そのものなのだ。
国際テロ集団によるサイバーテロも想起しておく必要がある。軍事関連施設だけでなく、重要インフラも狙われるからだ。
とりわけ①情報通信②電力システム③ガス・石油備蓄運搬④金融機関⑤運輸交通機関⑥水道供給システム・医療・警察・消防・救助など緊急サービス⑦政府活動の8分野の危険度が高い。いずれもコンピュータ管理されており、データが破壊、改ざんされると国民生活が破壊されるからだ。
例えば原発の電力喪失がいかなる事態を招くかは福島第一原発事故で目の当たりにした。銀行や証券取引システムに侵入し、かく乱すれば、金融システムが崩壊し大混乱に陥るほか、航空管制システムのコンピュータ・システムに入り込みデータを改ざんすれば、民間航空機の衝突もあり得る。新幹線のコンピュータ・システムに入って速度を変更し、大事故を起こすことも考えられる。
あらゆる事態を想定して国家安全保障に臨まねばならない。米国のサイバー戦略を座視せず、わが国もサイバー戦略を構築し国民の暮らしを守るべきだ。
旧暦元旦、「北方領土の日」に新宿駅西口で遊説
国際勝共連合は国際共産主義や文化共産主義の攻勢に勝利すべく、各地で情宣活動を展開しているが、本部遊説隊は旧暦の元旦に当たる2月3日午後、東京・新宿駅西口において情宣カーから定例の遊説活動を実施した。中国をはじめアジアの人々にとって旧正月は新暦正月より祝賀する日であり、新宿駅界隈にも多数の在日中国人や観光客が祝っている。こうした人々に対して遊説隊は中国の覇権主義の脅威を指摘し、中国が共産主義の縄目から解放されて初めて真の日中友好が実現すると訴えた。
翌週2月7日の「北方領土の日」においては同じく東京・新宿西口で、遊説テーマを北方領土のロシア不法占拠に絞り、北方領土の4島一括返還を強く訴えた。今回、遊説に立った東京都本部事務局メンバーは「昨年11月のメドベージェフ大統領の国後島訪問など、北方領土へのロシア側の実効支配は強まっている。このまま不法占拠の固定化を許すことはできない。我々日本人は北方領土の領有権を絶対にあきらめてはいけない」と強調した。駅前を行き交う人の中には立ち止まって聞き入り、拍手をして賛同の意を評する人もいた。戦後66年、旧ソ連の侵攻により北方4島から強制移住させられた1万7千人の元島民の高齢化が進み、問題の風化が危惧されている。北方領土問題の最大の敵は国民の無関心と政治の妥協である。国際勝共連合遊説隊は、我々の父祖が血と汗と涙で開拓した北方領土を取り戻すため、国民啓蒙活動を続け、政府の粘り強い対応を求めていくものである。
(写真)
東京・新宿西口にて遊説する本部遊説隊・情宣カー

2011年2月17日
米国の「宇宙防衛戦略」に日本も参加せよ
米国防総省は2月4日、宇宙産業の合理化と開発支援強化を盛り込んだ初の「国家安全保障宇宙戦略」を発表した。中国の衛星攻撃能力を念頭に置いており、中長期の対処方針を示したもので、引き続き宇宙空間での軍事的優位を維持、拡大することが狙いだ。それによって米本土と日本など同盟国に対する防衛力向上を図っていくとしている(産経新聞2月6日付)。同戦略は、「仮想敵国が(ミサイル防衛計画や偵察衛星などに関する)米国の宇宙戦略の弱点を探っている」と指摘し、戦略環境と戦略目標、戦略アプローチの3点を強調、ロッキード・マーチン社やノースロップ・グラマン社など米宇宙・軍事産業に対して政府がテコ入れし、米国の宇宙開発能力を向上させていく。仮想敵国とは2007年1月にキラー衛星による撃墜実験を成功させた中国を指すことは論をまたない。同戦略は20世紀の「米ソ宇宙開発競争」に続く21世紀の「米中宇宙戦争」を想定しているのだ。日本は中国の宇宙覇権を阻止し、自国の平和と安全を守るために米国の宇宙防衛戦略に加わるべきである。
想起しておくべきは、中国が世界のタブーを破ってキラー衛星(衛星攻撃兵器)の実験を行い、宇宙戦争への軍拡姿勢を露わにしていることだ。1980年代にレーガン米政権が冷戦を勝ち抜くためSDI(戦略防衛構想)の中で「キラー衛星」の配備を検討したことがあるが、技術競争に敗北したソ連がペレストロイカ路線に転じて崩壊、それ以降、米国もSDIを中断し、宇宙軍拡はタブーとなっていた。それを中国は破った。中国がキラー衛星の実験を行なったのは2007年1月11日のことである。四川省西昌市にある宇宙センターから衛星破壊弾道弾を搭載した中距離弾道ミサイルを発射し、高度850キロにある自国の老朽気象衛星「風雲1号C」を破壊した。この打ち上げに使われたのは商業用ロケット「開拓1号」である。これは移動式中距離弾道ミサイル「東風21号」を商業用に転用した4段式ロケットで、中国が民間と軍を一体化させて宇宙軍拡に乗り出した証左とされた。米科学者団体によると、衛星破壊で他の衛星に危害を与える1ミリ以上の破片(宇宙ゴミ)が200万個発生し、今後10年間、宇宙空間を漂うとしている。中国は宇宙軍拡の脅威だけでなく宇宙の環境破壊にまで手を染めたのである。気象衛星やGPS(全地球測位システム)をはじめ、さまざまな衛星が日常生活に直結している。これを破壊するキラー衛星の脅威は想像に絶すると言うほかない。
米連邦議会の諮問機関「米中経済・安全保障見直し委員会」の報告書によると、中国は秘密裏に開発した兵器システムで米衛星を奇襲する計画を持っており、ミサイルによる衛星破壊のほか、電話妨害や地上局破壊なども予想されるという。GPSも標的対象で「50基の衛星に対して攻撃を仕掛けられた場合、米国の市民経済にも壊滅的な悪影響を及ぼす」と指摘している(読売新聞2007年1月20日付夕刊)。とりわけ懸念されているのは米軍が目くらまし状態に陥ることである。米軍の軍事行動の大半が偵察衛星や通信衛星に依拠しているからだ。それは湾岸戦争やアフガニスタン戦争、イラク戦争で顕著に見られたもので、「ネットワーク・セントリック・ウォーフェア(NCW)」(ネットワーク中心戦争)と呼ばれるものである。さらに米軍は最新通信機器を駆使して無人兵器や精密誘導兵器による新たな攻撃システムの構築を目指している。それだけに中国のキラー衛星は米国の軍事機構の中核を破壊し、重大な脅威を与える。むろん、わが国の衛星も標的にされ、安全保障や日常生活に致命的打撃をこうむる。
中国の宇宙開発は有人宇宙船「神舟」を始め、すべて国防部門で進められていることを忘れてはならない。2006年版中国国防白書は「今世紀半ばまでの情報化された軍建設の完成」を掲げ、「宇宙を制し、情報で優位に立つ者が、主導権を握る」(党学校機関紙『学習時報』)とし「宇宙技術領域で絶対的な覇権国」(『環球時報』)を目指すとした。それ以降、宇宙軍拡にひた走っている。この姿は旧ソ連とそっくりである。ソ連は1957年に人類初の人工衛星「スプートニク1号」、61年に人類初の有人衛星「ボストーク1号」の打ち上げに成功すると、ただちに衛星攻撃兵器の開発に乗り出した。1968年10月に打ち上げたコスモス249は、周回軌道の2週目で前日に打ち上げたコスモス248に接近、爆発・消滅させた。同11月から12月にかけて同様の衛星破壊実験を7回も繰り返し「ソ連はキラー衛星を作っている」として西側諸国を震撼させた。さらに1970年代には地上から衛星を破壊するレーザービーム兵器の開発にも本格的に乗り出した。レーガン米政権のSDIはこれに対抗するものだった(SDI構想については1月27日付「オバマ一般教書演説」参照)。
このソ連の宇宙軍拡を中国はそっくり辿っている。2003年10月に初の有人衛星「神舟5号」の打ち上げに成功すると、次にはキラー衛星実験を行った。06年秋には米国の軍事偵察衛星が中国領内からレーザー照射を受け、中国のレーザービーム兵器開発が確認されている。ソ連の場合はIT技術で米国に大きく遅れ結局、軍拡競争に敗れて崩壊した。だが中国の場合は、市場経済を背景にIT技術を西側諸国からそっくり移転(強盗だ)させている。中国の宇宙軍拡はソ連以上に危険なのである。
だから、オバマ政権が初の「国家安全保障宇宙戦略」を発表し、中国のキラー衛星対策に乗り出したのは当然のことだ。だが、問題はオバマ大統領がレーガン氏のように本気でやり遂げようとするかである。先の一般教書演説でオバマ大統領は「今は、私たちの世代にとって、スプートニクの時なのである」と訴え、そうした精神で米国経済危機を克服すると誓った。これに対して、言っていることと、やっていることがまったく違う、と保守言論界から痛烈な批判が浴びせられている。ワシントンタイムズは「オバマ大統領のとぼけた一般教書演説」(1月26日付社説)と皮肉る。「オバマ政権下で航空宇宙局(NASA)は、月に戻るための計画を打ち切り、その他の大部分のプログラムの規模を縮小した。しかし、宇宙における競争は生きているし、健在である。昨年10月、中国は無人探査機を着陸可能な地点を探るために月に送った。中国はこの10年以内に有人月面着陸を成功させようとしている。オバマ政府は中国政府のご機嫌取りに最善を尽くしたが、中国政府の方は、その見返りとして、米国の技術と自由市場をうまく利用した揚げ句、米国を尊大な態度であしらった。もしかすると、赤旗が月面にはためく時に、米国は真のスプートニクの時を迎え、ほかの人類が大きく飛躍しているのに、米国だけが、辛うじて遅々とした歩みに甘んじている、ということを悟って、衝撃を受けることになるのかもしれない」と述べている(世界日報2月2日付)。
そればかりかオバマ政権はEU(欧州連合)と宇宙ゴミ対策を進めるために衛星破壊兵器の使用制限をめぐって交渉を進めており、国防総省に「宇宙活動に関する行動規範」への加入を求めている。宇宙ゴミを防ぐのは歓迎されるが、「行動規範」によって米国の軍事面の宇宙戦略に足かせがはめられる可能性がある。そうなれば米欧だけが行動規範を守り、中国は野放しとなる。それで「国家安全保障宇宙戦略」が推進できるのか、疑問を残す。
いずれにしても日本にとっても他人事ではない。宇宙の軍事利用に躊躇している時ではない。宇宙においても日米同盟を深化させねばならない。そのためには武器輸出3原則や集団的自衛権行使禁止といった、あほらしい縛りから日本を解き放たねばならない。わが国にも宇宙防衛戦略が不可欠だ。
2011年2月9日
北方領土の日 ロシアは不法占拠認め即時返還せよ
2月7日は「北方領土の日」である。政府は昭和56年(1981年)に2月7日を「北方領土の日」とすることを閣議了解したものである。由来は安政元年(1855年)に日本とロシア(帝政ロシア)との間で日露和親条約(下田条約)が結ばれ、初めて国境の取り決めが行なわれた日だからだ。同条約によって北方4島は日本の固有の領土とロシアは正式に認めた。だが現在、わが国の北方領土返還の悲願と潰そうとばかりに、ロシアの北方領土への攻撃的姿勢が強まっている。昨年11月にメドベージェフ大統領が北方領土を訪問した後、シュワロフ第1副首相やバサルギン地域発展相らが相次いで訪問、今年1月にはブルガコフ国防次官が国後、択捉の両島を訪問し、駐留兵士の生活改善や燃料補給の増強を表明した。そして2月4日にはセルジュコフ国防相が北方領土の択捉島、国後島を訪問、現地に駐留する機関銃・砲兵師団を視察した。択捉、国後、色丹の各島には戦車や装甲車などで重武装する約3千人の機関銃・砲兵師団が駐留している。ロシアが政府一丸で北方領土の実効支配を進めようとしているのだ。日本国民はいかなる実効支配も容認しない。日本固有の北方領土の即時返還を強く要求するものである。
北方領土は過去に一度足りとも外国に侵害されたことのない、わが国固有の領土であることは自明のことである。以下にそのポイントを示しておこう。
正保元(1644)年に徳川幕府が作成した正保年度日本全図には松前藩が提出した自藩領地図が掲載されており、それには千島列島と北方領土39島の島名が刻明に書きこまれている。ロシアが同地域に始めて接触したのは1713年のことで、日本人船乗りを案内人とした探検家ゴジレフスキーが北千島に住む日本商人から金属を入手したと報告書に記載しており、それまでロシアは千島、北方領土、樺太と一切関わっていない。ロシアは北方4島を日本領と認識した。
安政元(1855)年、日本・魯西亜通好条約(下田条約)が締結されたが、同条約2条において「日本国と魯西亜との境を『エトロフ』島と『ウルップ』島との間に在るべし、『エトロフ』全島は日本に属し『ウルップ』全島より北の方『クリル』諸島は魯西亜に属す、『カラフト』島にいたりては日本国と魯西亜との間に界を分たす是迄の仕来の通たるべし」と明記し、得撫(ウルップ)島以北の千島諸島はロシア領、樺太は境を決めず日露の混在地とした。北方4島が日本の固有の領土であることをロシアが正式に認めたのである。
江戸幕府は樺太の境界談判を行ったが、ロシアは強硬に拒否。明治政府はこれを引き継ぎ、結局、全樺太と全千島列島交換を合意。明治8(1875)年5月、交換条約が成立した。これで下田条約によって失った千島諸島を取り戻せたが、樺太を放棄する代価を支払った。北方4島は日本固有の領土なのでまったく交渉の対象になっていない。
明治38(1905)年9月、米国ポーツマスにおいて日露戦争の講和条約が小村寿太郎とセルゲイ・ウィッテの間で調印された。「ロシアは樺太の北緯50度以南の領土を永久に日本へ譲渡する」とした。これによって樺太南部が日本に復帰した。千島列島と北方領土は日本領であることに変化はなかった。
1943年11月、ルーズベルト米大統領、チャーチル英首相、蒋介石中華民国総統の3首脳がカイロで会談、領土不拡大の原則に立って戦争や力を背景に獲得した領土を認めないとともに領土を拡大する意志がないことを明らかにした(カイロ宣言)。宣言は日本が第1次大戦後に得た領土についての処理方針を示した。したがって第1次大戦以前に日本領であった南樺太・千島はその領有が暴力や貪欲でなく宣言に該当しない。日本に対する降伏の勧告としてのポツダム宣言では「カイロ宣言の条項は履行せらるべく」と明記されており、ソ連はカイロ宣言には参加しなかったが、スターリンはこの主旨を全面賛成した上でポツダム宣言に加わっているので当然、ソ連も拘束する。戦勝国だからといって領土拡大は断じて許されないところである。
ところが1945年2月、クリミヤ半島のヤルタにルーズベルト、チャーチル、スターリン・ソ連首相がヤルタ協定と呼ばれる密約を結んだ。ドイツが降伏しヨーロッパにおける戦争が終結した後、ソ連が2、3カ月経て日本に参戦する条件として①1904年の日本の背信攻撃によって侵害された樺太南部、及びこれに隣接する全ての島嶼はソ連に返還される②千島列島は「ソヴィエト」連邦に引渡される-とした。ソ連は満州におけるさまざまな権益も要求した。ヤルタ協定でのソ連の要求は領土不拡大とした大西洋憲章やカイロ宣言の原則を踏みにじるものであり、幕末期の列強諸国の帝国主義そのものである。同協定は各国が批准していない個人的密約であり、国際法上、何ら正当性が認められない無効のものである。
1945年8月、日本はポツダム宣官を受諾した。同8条は「カイロ宣言の条項は履行されるべき。また日本国の主権は本州、北海道、九州及び四国ならびに吾等の決定する諸小島に限られなければならない」とした。当宣言によってわが国は4島とその周辺の小島のみの国土となり、琉球列島、小笠原群島等は米国の信托統治になった。千島・南樺太も当然、同様になるべきものであるが、ソ連はただちに国内法のもとに沿海州に組み入れてしまった。そもそもロシア革命後、ソ連政府は1924年5月に国際連盟に対して「1904年、日本の水雷艇が旅順のロシア艦隊を攻撃したことは法律的見地からは明らかに侵略的行為であるが、政治的にいえば、それは帝政ロシアの日本に対する侵略政策によって引き起こされた行為である。日本としては予め危険を避けるがため、その反対者に最初の一撃を加えたのである」との通告を行った。さらに1925年1月、北京で日ソ基本条約を結び、同2条においてポーツマス条約の効力が継続していることを認め、帝政ロシアが南樺太を日本に返したことを正当な行為として認めた。
1941年には日ソ中立条約を締結し相互不可侵を取り決めたが、広島に原爆が落とされた直後の1945年8月8日深夜、ソ連はいまだ有効であった同条約を一方的に蹂躙し、翌8月9日未明に南樺太の国境を突破して侵略を開始した。わが国がポツダム宣言を受諾し、武装解除を受け入れた8月15日以降も武力行使を続け、8月22日に樺太全島を占領。千島には8月18日に侵入し得撫島まで一挙に占拠した。択捉島以南の北方領土に米軍がいないことを確認すると、8月28日に択捉島に上陸、4島を武装占領した。わが国は9月2日、東京湾上のミズリー号において降伏文書に調印したが、すでにポツダム宣言受諾をもって8月15日に終戦となっていた。にもかかわらずソ連及びロシアは9月2日を「第2次大戦終結の日」とし、この間の蛮行を正当化しようとしている。何を言おうが領土不拡大とした大西洋憲章やカイロ宣言の原則を踏みにじった蛮行は消せない。
降伏後、わが国は連合国の支配に置かれたが、1946年9月、連合国との間でサンフランシスコ講和条約を結び独立を果たした。条約には49カ国が署名した。同条約によってわが国は「主権を持っていた千島列島・南樺太の権利、権原及び請求権」を放棄した(同2条)。北方4島は歴史的かつ日露間の過去の条約からも明らかなように千島列島には入っておらず、わが国固有の領土であり、放棄した島々では決してない。ソ連は同講和会議において「日本における外国軍の条約締結後即時撤退」「日本が外国と安全保障条約を結ばない」「日本の防衛力に制限を加える」「中共を連合国が承認する」等の条件を呑まない限り日本の独立を認めないとして会議の無効を唱え署名しなかった。同条約はソ連が3年以内であれは同条約に参加し、同一内容の条件で2国間の平和条約を結ぶことができるとしたが、ソ連は先の主張に固執し3年が経過した後も2国間条約を結ぼうとしなかった。従ってソ連は千島列島・南樺太に対する権限を一切失ったことになる。
わが国はサンフランシスコ講和条約において帰属先未決定のまま千島列島・南樺太を放棄したのである。同条約に署名しなかったソ連には何ら権限はない。ソ連はマッカーサー連合軍総司令官がソ連に日本軍の降伏受理をまかせた「一般命令第一号」を占有の根拠を置いているが、このことは自ら「戦時占領」を認めていることを示している。千島・南樺太の帰属先についてもわが国は国際社会に問題提起すべきである。
講和条約を結ばず戦争状態にある日ソ両国は1955年10月、日ソ共同宣言を結び、「日ソ両国間の戦争状態は、この宣言が効力を生ずる日に終了し、両国間に平和及び友好善隣関係が回復」するとし、戦争の終結と国交回復を行った。だが、懸案の国境画定(領土)問題は残され、「日ソ両国は引き続き平和条約締結交渉を行い、条約締結後にソ連は日本へ歯舞群島と色丹島を引き渡す」とした。この約束も1960年の日米安保条約の改定交渉期に入ると、「ソ連邦は、極東における平和機構を阻害し、ソ日関係の発展にとって支障となる新しい軍事条約が日本によって締結されるような措置を黙過することはもちろんできない」として、日本に外国軍隊が駐留する限り先の歯舞、色丹も返すことができなくなったと言い始めた。日ソ共同宣言が締結された当時もすでに日米安保条約は存在し、米軍も駐留していたのだから、全く矛盾した論理である。以降、冷戦下で条約締結・領土交渉はまったく進まなかった。
ソ連崩壊後の1993年にエリツィン大統領が来日し、「日露間に関する東京宣言」が発せられた。同宣言は「(日露首脳は)困難な過去の遺産は克服されなければならないとの認識を共有し、択捉島、国後島、色丹島及び歯舞群島の帰属に関する問題について真剣な交渉を行った。双方は、この問題を歴史的・法的事実に立脚し、両国の間で合意の上作成された諸文書及び法と正義の原則を基礎として解決することにより平和条約を早期に締結するよう交渉を継続し、もって両国間の関係を完全に正常化すべきことに合意する」とし、日ソ共同宣言を認め領土問題を話し合う考えを鮮明にした。また2000年にプーチン大統領が来日した際、「56年宣言(日ソ共同宣言)は有効であると考える」と発言した。2001年の日露間の「イルクーツク声明」では日ソ共同宣言の法的有効性が文書で確認された。2009年2月にはメドベージェフ大統領が麻生首相と会談した際、「型にはまらない独創的アプローチで領土問題解決を目指す」と表明し、独創的アプローチの中身は明らかにしなかったが、領土問題解決と言及することによって領土問題が存在していることを認めた。
メドベージェフ大統領は2010年11月1日、電撃的に北方領土の国後島を訪問、占領を恒久化するかのような発言を行い、さらに今日の実効支配アピールを行っている。ロシアはソ連共産主義から解放され民主化したとするなら、なぜソ連の蛮行に組みし、それを継承するような態度をとっているのか。そういう欺瞞的態度を改め、北方領土返還をもって真の民主主義国であることを世界に示すべきである。
以上から北方領土がわが国固有の領土であることは明白である。日本国民は4島返還の要求を決して放棄しない。北方領土の日に当たって我々は改めてロシアに北方領土の返還を強く要求するものである。
2011年2月7日
『世界思想』2月号の読み方―編集部だより
『世界思想』2月号が発行されました。今号の特集は「防衛ビッグバン 日本を守る10の誓い」です。昨年12月に民主党政権初の「防衛計画の大綱」が発表され、中国の軍拡を踏まえて南西シフトを重視する「動的防衛力」が打ち出されました。尖閣諸島をはじめ手薄な南西諸島を守るのは当然のことで、部隊配備などについては私たちも評価します。しかし、防衛力の全体像で見れば、陸上兵力の1千人削減など相変わらずの縮小路線です。また何よりも気がかりなのは、集団的自衛権行使や武器輸出三原則の見直しを棚上げするなど、日米同盟の深化に逆行する施策が少なくないことです。
こうした現状を踏まえ、私たちは日本を守るための10の政策を提言します。本来は憲法9条を改め、軍事力の保持、国防義務を憲法で明示し抜本的に対応すべきですが、憲法を変えなくても、とりあえず現時点で可能な施策をあげてみました。
それは以下の10政策です。
このほかにも自衛隊が領海防衛や臨検に当たれる法整備なども必要とおもわれますが、とりあえず緊急課題として10政策を取り上げ、この実現を「誓い」としました。
2月号で特に読んでいただきたいのは、戦後日本を代表する文芸評論家であった故・江藤淳先生の「言論の自由と国家機密」と題する講演再録です。これは1985年4月に東京・日比谷公会堂で開かれた「スパイ防止法制定全国決起大会」で講演されたもので、米国における言論の自由と国家機密のあり方を説き、スパイ防止法の必要性を切々と述べられています。江藤先生は情報公開と機密保護を結ぶキーワードは「愛国心」といいます。ウィキリークスなど情報問題が噴出する中で、今日の私たちにとっても良き指針になるのではないでしょうか。江藤先生の「遺言」として一読してみてはどうでしょうか。
外交評論家の井上茂信先生のインタビュー「日本がフィンランド化される日」は国際情勢の核心をついています。フィンランド化とは、言うまでもなく中国による日本支配のことです。日本を取り巻く国際情勢を基礎から学べます。
思想はとっつきにくいとお思いの方にも、「応用編 勝共思想講座」と「ポストマルクスの群像」をお薦めします。思想とはものの見方・考え方のことで、私たちは日々の暮らし中で何らかの見方・考え方に立って行動しています。マルクス主義という国家を壊す思想はどのようなものの見方・考え方で行動しているのか、それを克服し、真の人間、国民として私たちはいかなるものの見方・考え方に立つべきものなのか、多角的に考えてみてはどうでしょうか。両稿はその一助になると確信します。
文化共産主義そして無神論を伝播する禍(わざわい)になっている思想に「進化論」があります。進化論至上主義です。その問題点と誤りを「イラスト学習講座」では、マンガとイラストでわかりやすく紹介しています。中高校生の学習にも、うってつけです。
1年でもっとも寒い季節を迎え、インフルエンザの流行もピーク期に入る昨今、厳冬の夜のひとときにでも『世界思想』2月号をご愛読いただければ幸いです。(編集部 国鱒)
2011年1月12日
日韓米の「共通戦略目標」を定めよ
前原誠司外相とクリントン米国務長官が1月7日に会談し、日米両国の新たな「共通戦略目標」の策定を目指すことや外交・防衛担当閣僚による日米安全保障協議委員会(2プラス2)を数カ月以内に開催することで合意した。また北沢防衛相は10日、韓国の金寛鎮国防相と会談し、日韓の防衛協力を強化するため、国連平和維持活動(PKO)などで派遣された自衛隊と韓国軍が水や食料などを相互提供できるようにする物品役務相互提供協定(ACSA)の締結協議を開始することで合意した。いずれも朗報である。だが、考えてみれば、こうした話し合いが今まで進んでこなかったことが異常だった。
日米外相会談では、懸案の普天間問題で移転先の沖縄県名護市辺野古に建設する代替施設の位置と配置、工法について「検証および確認を次回の2プラス2までに完了させる」ことで一致。今春の日米首脳会談では▽安全保障▽経済▽文化・人材交流の3本柱で同盟深化の共同声明を取りまとめるという。また周辺事態や日本有事における日米協力を強化させるための協議も加速化させるという。これらは当たり前の話だ。だが、菅政権は肝心のことを棚上げにしている。共通戦略目標を定めるにしても、周辺事態・日本有事の日米協力を強化するにしても、避けて通れない課題があるはずだ。それは集団的自衛権行使と武器輸出3原則の問題である。
国連憲章は51条で個別的自衛権と集団的自衛権を国家の固有の権利として認めており、これを行使するのは国際社会では正当かつ常識的な行動と解される。それが憲法によって行使できないとする政府解釈は国際法から逸脱している。これに決別しなければ、日米同盟だけでなく、国連による国際平和維持活動にも支障をきたす。このことを想起しておかねばならない。
08年6月、集団的自衛権の憲法解釈を検討する「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」は福田首相(当時)に4つのケース(類型)をもとに行使容認を求める報告を提出している。4類型は①公海上での米軍艦船への攻撃に自衛隊が応戦②米国を狙った弾道ミサイルを日本のミサイル防衛システムで迎撃③国際復興支援で共に活動する多国籍軍への攻撃に自衛隊が応戦④武器輸送などの後方支援―で、前の2つは日米同盟、後の2つは国際貢献に関わるものである。いずれも現在は違憲としている。
これに対して報告は①について「日米が公海で共同活動している際に米艦に危険が及んだ場合、防護しうるようにすることは同盟相互の信頼関係の維持・強化に不可欠である」として、集団的自衛権を認め共同活動中の米艦防護を可能にすべきとする。②については「わが国が撃ち落す能力を有するにもかかわらず撃ち落さないことは、日米同盟を根幹から揺るがすことになるので、絶対に避けなければならない」として集団的自衛権行使を認めるべきとする。
また③については現在のPKO(国連平和維持活動)の自衛隊の武器使用が自己の防護や武器等の防御のみとしていれば、国際社会の非難の対象になるとし、「PKO等の国際的な平和活動への参加は憲法で禁止されていないと解釈すべきで、自己防護に加え、他国の部隊や要員への駆けつけ警護および任務遂行のための武器使用を認めるべき」としている。④については補給、輸送、医療等の本来、武力行使ではあり得ない後方支援と、他国の武力行使との関係を「一体化」論でくくらないで、政策的妥当性の問題として総合的に検討して政策決定すべきとの判断を示した。いずれも現行の憲法解釈を改めて、足かせを取り外すことを促しており、正当な提言である。これを自民党政権も民主党政権も棚上げにしてきた。国際法から見れば4類型は何ら問題のない行動である。
これらは早急に憲法解釈を改めるべきことは論を待たない。前原外相はどう考えるのか。当然、そうすべきと内心思っているに違いない。菅政権がここに踏み込めば本物となれる。
菅政権は昨年12月に決めた防衛大綱で、武器輸出3原則の見直しを先送りした。愚策である。だが、読売新聞によると(1月9日付)、その代案として日米両政府がミサイル防衛(MD)システムの一環として共同開発中の次世代型迎撃ミサイル「SM3ブロック2A」について、政府は米国から第3国への移転を可能にする基準の策定に着手する方針を固めたという。これは武器輸出3原則に触れず日米協力を進める、言って見れば裏技である。
武器輸出3原則は1967年に当時の佐藤内閣が打ち出したもので、①共産圏②国連決議による輸出禁止国③紛争当事国や恐れのある国-への武器輸出を禁じるものだった。この3原則の①②は当然のもので、何ら異議を唱える内容ではない。③については「恐れのある国」が曖昧で同盟国への輸出を禁じかねない問題を残すが、おおむね妥当なものといえよう。ところが、76年に3原則は変質した。安全保障に疎い三木内閣が適用範囲を拡大し、事実上、武器輸出を一切できなくしてしまったからである。これが現在に続く、悪しき武器輸出3原則である。すなわち①従来の3原則対象地域には「武器」の輸出を認めない②対象地域外の地域は「武器」の輸出を慎む③武器製造関連設備の輸出も「武器」に準じて取り扱う-とする3原則である。
しかも「武器」の定義について「軍隊が使用するものであって直接戦闘の用に供されるもの」としたため、軍隊で使用されるものはすべて武器扱いにされた。例えばカンボジアでの国連平和維持活動(PKO)に参加した文民警察官の防弾チョッキも武器とみなされ現地警察官に供給できなかった。非武装論に匹敵する不毛な原則と化しているのである。このため83年に日米間で一部が緩和され武器技術供与の道が開けたが、日本の技術で生産された兵器は日米間だけでしか使用できず、第3国への輸出が禁止されるなど足かせをはめた。また同盟諸国への武器提供も違反扱いすることで友好促進も阻害した。ASEAN(東南アジア諸国連合)は海賊対策として海上自衛隊で廃艦となった中古の駆逐艦の購入を希望したが、これを認めなかった。
ようやく96年にインドネシア国家警備本部に小型巡視船を無償供与したが、自衛艦は今なお禁輸処置をとっている。何よりも問題なのは、世界では共同開発が主流になっているにもかかわらず、わが国は共同開発に一切加われず、その結果、防衛産業が衰退し、安全保障を脅かす事態を招いていることである。NATO(北大西洋条約機構)は昨年11月、ロシアまで巻き込んで欧米全域にミサイル防衛(MD)網を張り巡らし、将来は自由世界全域に拡大していくとしている。米国は2014年をめどに日米が共同開発を進める海上配備型迎撃ミサイル「SM3ブロック2A」を欧州にも配備する意向だ。米欧MD計画は核ミサイルの拡散に対応するもので、欧米MDの傘はやがて東アジアとも連動させ、地球規模のネットワークに発展させる。それによって自由と民主主義を共有する全ての同盟諸国の「盾」する。そういう構想だ。
したがって日本が武器輸出3原則を理由に欧州への輸出を拒めば、民主主義陣営の不信を買い、東アジア危機でも協力が得られなくなり、世界の孤児になってしまう。即刻、見直すべきである。今回、政府は基準策定をもって3原則の例外としてMD技術を第3国(すなわちNATO諸国)に提供できる道を開こうとしている。要するに例外だらけで、もはや原則足りえない。こんな原則はいらない。そこまで踏み込むべきだ。
一方、日韓防衛相会談では物品役務相互提供協定(ACSA)の締結協議を開始することのほか、防衛秘密の保護に関する軍事情報包括保護協定(GSOMIA)について事務レベルで協議することで一致した。ここは注目すべきだ。なぜ包括的保護協定が必要かといえば、日韓が軍事協力を進めれば、当然、日韓の防衛機密に触れるようになり、情報保護の仕組みを作っておかねば、お互いうかつに情報を出せないからだ。スパイ防止法がない日本への韓国側の不安は大きいと見ておかねばならない。当然、スパイ防止法が必要となる。
東アジアの安全は米国と韓国、米国と日本という2国間の安保体制でこれまできたが、もはやそうした変則的状況を打破しなければならない。米日韓の三国の軍事協力を進め、「日韓米共通目標戦略」を策定し、軍事同盟に昇華させていくべきである。今回の北沢防衛相の訪韓はその一歩とすべきである。
2011年1月11日
ロシア強襲揚陸艦の極東配備に備えよ
ロシアがわが国固有の北方領土の支配を一段と強めようとしている。昨年11月にメドベージェフ大統領がソ連時代を含めロシア国家元首として初めて北方領土の国後島を訪問したのに続き、今年は近く、国防相や運輸相、地域発展相、教育科学相などが相次いで訪問する予定と伝えられる。民主党政権が日米同盟を揺るがしている隙をついて北方領土のロシア支配固定化を進めようとしているのである。南西諸島だけでなく北方領土にも関心を注がねばならない。
昨年12月24日、仏露両政府は共同でミストラル級強襲揚陸艦(仏製)2隻を建造しロシア側に引き渡すことで合意した(共同通信12月25日、産経新聞26日付=さらに2隻追加し4隻になる可能性もある)。強襲揚陸艦は満載排水量2万1千トン、全長200メートル。軍用ヘリコプター16機や戦車、野戦病院施設、上陸部隊750人など多目的な輸送が可能で、極東に配備される。極東で強襲揚陸艦のターゲットとなるのは日本のほかに存在しない。
メドベージェフ大統領は10年2月、新たな「軍事ドクトリン」を決め、その中で「ロシアおよび同盟諸国への領土要求」を脅威として捉え、わが国の北方領土返還要求を牽制した。7月には「ニュールック」と呼ばれる軍事態勢の抜本改革を断行、これまでの地上軍中心の軍管区体制を一新し、新たに陸海空を統合運用する「統合戦略司令部」を創設、6軍管区を「西」「南」「中央」「東」の4戦略司令部に再編。海、空軍も同司令部に入れ、ハバロフスクスには「東戦略司令部」を設置した。ウラジオストクの太平洋艦隊も同司令部の指揮下に置き、装備を近代化し師団構成を改革。6月29日から7月8日にかけて陸海空軍から約2万人の兵員と地上兵器2万5000点、航空機70機、船舶30隻が投入し軍事演習「ボストーク2010」を行った。マカロフ参謀総長は演習の目的について「極東の国境での安全を保障し、仮想敵から国家利益を守ること」と言明、日本を「仮想敵」として極東での戦争を想定し、海や空からの戦力展開や部隊の長距離移動、全軍による兵站の確保を重視。欧州方面やウラル地方から輸送機で部隊を移送する戦闘訓練まで行った。7月4日にはメドベージェフ大統領が視察する中、オホーツク海で北方艦隊の原子力巡洋艦「ピョートル大帝」や黒海艦隊のミサイル巡洋艦「モスクワ」などを投入し大規模対潜演習を行った。演習は北方領土を「死守」するというデモストレーションで、択捉島にあるオクチャブリ演習場も使用、海軍と連邦保安局(FSB=旧KGB)傘下の国境警備隊の共同演習を行った。その際、マカロフ参謀総長はフランスから購入するミストラル級強襲揚陸艦を「クリール諸島(北方領土と千島列島)での上陸部隊を急派する手段に使う」と語っているのである。明らかにロシアは極東軍事力の増強に乗り出している。
想起すべきは1980年代初め、英国の軍事誌『ジェーン年鑑』が、西太平洋が有事となった場合、ソ連軍は北海道北部を軍事占領する可能性があると論じたことである。ソ連太平洋艦隊が太平洋やインド洋で自由に活動を行うには宗谷、津軽、対馬の3海峡のいずれかを通航しなければならず、宗谷海峡が最も狙われやすいからである。実際、ソ連軍は北海道侵攻能力を保有し、作戦計画を練っていた。これに対してわが国は北方重視の防衛布陣を張り、日米安保体制を強化して備えた結果、ソ連は北海道侵攻を思いとどまった。
ひるがえって今はどうか。日米同盟が揺らぎ、民主党政権初の新防衛大綱は北海道の自衛隊部隊を削減しようとしている。その弱腰を見てロシアは極東軍の軍拡に乗り出しているのである。この現実を国民は直視し、菅内閣に防衛力増強を迫らねばならない。
2011年1月5日
「軍拡」へ思惑が一致/米に対抗、欧日牽制
米国がイラクに手こずっている間に中露の戦略的関係を強化し「パックスアメリカーナ」を切り崩して日欧にも圧力をかける…、そんな本音が聞こえてきそうな中露首脳会談だった。中国の胡錦濤国家主席は3月26日、モスクワを訪れプーチン露大統領と会談、軍事やエネルギー分野の協力強化などをうたった中露共同声明に調印した。戦略的関係強化の狙いは何か…。
ロシア政府は今年を「中国年」としており、その開幕式典に出席するため胡主席はモスクワを訪問、それに合わせて中露首脳会談が開かれた。昨年は中国で「ロシア年」があり、これらは中露の蜜月を象徴している。
むろん、中露はお互いを利用し合う戦略的関係にすぎないが、米欧日の民主主義陣営に対抗する点では思惑は完全に一致しており、大陸同盟的色彩を濃くしている。
胡主席とプーチン大統領が調印した共同声明は、①主権・領土保全問題の協力②エネルギー企業間の共同事業の推進③不法移民対策の協議④国連改革での認識共有⑤イラン核問題の平和的解決⑥北朝鮮核問題の外交的解決⑦上海協力機構(SCO)による中央アジア諸国との協力強化⑧中露印3カ国の協力拡大―などだ。
首脳会談で注目されるのは軍事協力の強化である。会談後、プーチン大統領は「中露が結束して中央アジア、アジア太平洋地域の安全保障強化に貢献する」と強調、胡主席は「パートナーシップの強化と安全保障面で協力することで合意した」と述べ、両首脳とも安保協力前進を誇示した。
中国の狙いは明白で、ロシアからハイテク武器とエネルギーを手に入れるところにある。ソ連崩壊後、ロシアは外貨獲得のため武器輸出に走ったが、その一環で中国は92年、最新戦闘機SU27(フランカー)を買いつけて露製ハイテク技術を取得、90年代に飛躍的近代化を遂げてSU27と同30のライセンス生産に入れた。
そして今年1月、独自の最新戦闘機「■10」の大量配備を発表した。「■10」は米国の主流戦闘機F16と同等かそれ以上の能力を有する。このため米軍は急きょ、沖縄・嘉手納基地に最新鋭機F22を配備したほどだ。
中国はロシアから飛行制御技術や電子戦闘能力、ステルス機、艦船搭載機などを可能にするハイテク軍事技術のほか、大量の爆弾・核ミサイル搭載可能の超音速爆撃機ツポレフ(Tu)22Mバックファイアーを手に入れたがっている。
またステルス戦闘機「■14」の開発を進めている。同機は米軍のF22に対抗するもので、これら最新鋭機導入が実現すれば、台湾海峡から東太平洋の軍事バランスが大きく崩れ、中国優位の構図が生じるとされる。
中国海軍もロシアのキロ級潜水艦(93年)、ソブレメンヌイ級ミサイル駆逐艦(96年)の購入を足場にハイテク技術を取得、04年からは独自の“イージス艦”を配備するに至った。
そして今年3月、海軍幹部が2010年までに空母を完成させると言明(文■報3月7日付)。温家宝首相は全人代の政府活動報告で「軍のハイテク化」を強調したが、その調達源はロシアにほかならないのだ。
中露は09年に共同で火星探査を実施することにも合意しており、大型宇宙プロジェクトを通じて中国は宇宙技術の取得にも乗り出す。今年1月に中国は衛星破壊ミサイル実験を行なったが、宇宙軍拡に拍車が掛かるのは必至だ。
エネルギーも中国はロシアからの大量輸入を目指す。原油輸入は昨年、前年比20%増の約1600万トン(全輸入量の11%)になったが、さらなる増加を期している。
昨春の首脳会談で合意している東西シベリアからの天然ガスパイプライン建設を速め2011年頃から供給を開始し、日本と競合する東シベリアからの石油パイプラインについては中国への支線建設の優先、極東サハリンでの天然ガスの共同開発を胡主席はプーチン大統領に要請した。
一方、ロシアは中国への武器・エネルギー輸出によって外貨が獲得でき、同時に米欧を牽制する中国カードを切れる一石二鳥の利点がある。
昨年の武器輸出は65億ドル(約7900億円)と過去最高額となったが、その62%は中国とインドだ。これは05年度の74%から下がっているが、輸出量そのものは減っていない。反米チャベス政権のベネズエラへ戦闘機などを輸出するなど南米や中東への武器輸出が増加したからだ。
プーチン大統領は3月にサウジアラビアなど中東諸国を歴訪、ここでも米製から露製武器への転換を求める「武器輸出外交」を展開した。旧ソ連は武器輸出を契機に軍顧問団を送り、その国を東側陣営に取り込んでいくのを常套手段としたが、プーチン大統領はそれを踏襲、「米国一国支配」を切り崩そうとしている。
むろん、中国へのハイテク武器輸出もそうだ。中露首脳会談では合同軍事訓練の実施にも合意した。前回の05年8月の合同訓練は中国で行なったが、今年7月にはロシアで実施、中露だけでなく上海協力機構に加わる中央アジア諸国にも参加を求めている。
ロシアはEUの東方拡大に不快感を抱き、とりわけ旧東欧諸国が米主軸のNATO(北大西洋条約機構)に加わることを極度に警戒している。
米国はイランが2015年までに米本土を射程に入れる大陸間弾道ミサイル(ICBM)を配置すると見越し、ポーランドに地上配備の長距離迎撃ミサイル(GBI)10基を配備する発射基地、チェコにそのためのレーダー施設を建設することで両国と合意している。
これに対してロシアは、対イランは偽装でロシアのミサイル迎撃が本当の狙いだとして猛反発、配備反対を声高に叫んでいる。だが、ロシアのICBMは北極海から米本土に向かうので東欧配備の米迎撃ミサイル配備は何ら影響を及ぼさない。これを口実にロシアは中距離核戦力(INF)全廃条約からの脱退を目論んでいるのだ。
ロシアの軍事アナリスト、パーベル・フェリゲンガウエル氏は「今日のロシア空軍は弱い。INF条約から脱退すれば、空軍力を補完するため今年から配備が始まる新型ミサイル『イスカンデルM』(射程300~500キロ)の射程を延ばし、ミサイル部隊の能力を飛躍的に伸ばすことができる」(毎日新聞3月1日付)と指摘している。
こうした米欧対決にもロシアは中国の後ろ盾が不可欠なのだ。中露の戦略的関係は限りなく同盟関係化へと進んでいくことになると見られ、さらなる警戒が必要だ。
2007年4月15日

