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勝共運動による救国救世

台湾の新総統・蔡英文の就任式が5月20日に行われた。ご存知のように蔡氏は、独立志向の極めて強い人物である。…続きを読む

イスラム過激派組織の「イスラム国」に拘束された日本人2人のうち、1人が殺害されたという。…続きを読む

アジア太平洋経済協力(APEC)首脳会議が開催された北京で、約3年ぶりとなる日中首脳会談が行われた。…続きを読む

安倍政権が最重要課題と掲げる拉致被害者問題が思うように進んでいない。北朝鮮は7月、日本に対して拉致被害者の本格調査を約束した。…続きを読む

韓国内で、日本の植民地支配からの解放を記念する「光復節」(8月15日)に、朴槿恵大統領が演説を行った。…続きを読む

空席だった韓国の駐日大使に、朴槿恵大統領が柳興洙・韓日親善協会理事長(76)を内定した。正式な就任は8月中旬になる予定だ。…続きを読む

南シナ海で大変な事件が起きている。ベトナムの海上警察の巡視船に中国の大型監視船が体当たりし、高圧放水銃を発射している。…続きを読む

国際情勢

この記事は2016年5月27日に投稿されました。

蔡氏就任の台湾に迫る中国の脅威

日米台の連携強化せよ

台湾の新総統・蔡英文の就任式が5月20日に行われた。ご存知のように蔡氏は、独立志向の極めて強い人物である。就任演説がどのようなものになるか。注目したのは台湾国民以上に中国当局だっただろう。
 まずは参加者である。就任式には海外からの来賓が700人出席した。過去最多である。国別には、台湾と国交を結ぶ22か国を含む59か国からの参加となった。
 中でも米国は、特使団を5人派遣した。前米通商代表部代表のロン・カーク氏、初代国家情報長官のジョン・ネグロポンテ氏など、錚々たる顔ぶれである。就任式の4日前にはケリー国務長官が、中国の王毅外相と電話会談で「一つの中国の原則を堅持する」と話したが、実際には米台接近のサインを送ったのである。日本からは、衆議院議員の古屋圭司氏率いる日華議員懇談会の12議員をはじめ、252人の大祝賀団が参加した。

「92共識」の行方

就任式の最大の焦点は、蔡氏が「92共識(コンセンサス)」をどう語るかにあった。前任の馬政権は、これを両国交渉の基礎に位置付けた。当時の台湾国民に、現状維持を望む声が強かったという背景もある。馬政権はこれを武器に20以上の経済協定を締結し、経済発展を進めた。そして今や中国は、台湾の最大の貿易相手国である。特に輸出依存度が高い。
 しかし馬政権の末期になると、「恩恵は一部の富裕層しか受けていない」という不満が国民の間に高まってきた。中国観光客が大量に押し寄せ、「このままでは飲み込まれる」という中国脅威論も語られるようになった。これらが頂点に達したのが、昨年3月の「ヒマワリ学生運動」である。中国依存を深めても就職先は減り、賃金は上がらず、チャイナマネーの不動産投機で家も買えない。若者らの不満がついに爆発したのである。
 さらに昨年9月、中国ビジネスで急成長した食用油大手企業が廃材を再利用していたことが発覚し、これが馬政権にとっての決定打となった。馬政権は巻き返しに全力を傾けたが、国民党は今年1月の総統選挙で300万票の大差をつけて敗北した。
 蔡氏は「92共識」については、合意文書が存在しないこと、台湾の解釈を中国が認めないことなどを理由に、「存在しない」と主張している。この立場を就任演説でどう説明するのか。中国の強い反発を受けても台湾経済は持ちこたえられるのか。それとも民進党の主張を変えてしまうのか。それが注目されたのである。

バランス重視

蔡氏は就任演説で、「92共識」という言葉を一度も使わなかった。「92共識」は、「存在する」とも「存在しない」とも言わなかったのである。これは中国へ配慮をしつつ、民進党の立場をぎりぎり守ったことを意味する。しかしその会談は歴史的事実としてあった。それを基礎として今後も発展を推進させるというのである。
 内外の評価は上々である。たとえ蔡氏が中国への強硬姿勢を示し、独立を唱えても緊張状態を生むだけである。かといって馬政権に同化しては台湾の今後が危うい。国民からの支持も得られない。そこで馬政権時代に築いた経済関係は維持・発展しつつ、今後は「中華民国憲法」に基づき、自国の主権と領土を守るというのである。
 多くの台湾人が「台湾は台湾、中国とは違う」という理想をもっている。安全保障面ではなおさらだ。しかし今のところ特に経済面では、中国抜きに台湾は存在できない。理想と現実の間には大きなギャップがある。国民もそのことをよく知っている。蔡氏の演説は、それらのすべてに配慮した、バランス重視の演説だったといえるだろう。
 今後は日本、そして米国との連携が重要である。台湾独自で増強される中国の脅威に立ち向かうことは不可能だ。特に平和安全法制が制定された日本の役割は大きい。太平洋を自由と民主主義、法の支配による海とするために、お互いからの協力が重要である。

2016年5月27日

この記事は2015年1月27日に投稿されました。

「イスラム国」日本人拘束事件

安倍政権批判は的外れだ

イスラム過激派組織の「イスラム国」に拘束された日本人2人のうち、1人が殺害されたという。安倍総理は遺体の写真を含む映像について「信憑性が高い」と述べた。もう一人の拘束されている日本人については、ヨルダンに収監中のサジダ・リシャウィ死刑囚の釈放との交換を条件に解放するという。危険な地域に自ら乗り込んだ日本人の自己責任も当然問われるが、「イスラム国」の卑劣さには目に余るものがある。
 2人の日本人の解放のために「イスラム国」は当初、2億ドルという巨額の身代金を提示した。フランス人などの人質の解放には一人あたり600万ドル程度が支払われたといわれ、今回はその数十倍にもなる。国連の報告によれば、昨年一年間で「イスラム国」が得た身代金の総額は53億円で、その約4倍だ。あまりの高額さから考えると、本当に身代金目当てだったのかどうかはわからない。
 2億ドルは安倍総理が中東歴訪時にエジプトの首都カイロで明言した人道支援と同じ金額でもある。おそらく「イスラム国」はあえて同じ金額を示し、世界に存在感を誇示したかったのだろう。「イスラム国に逆らえば危険だ」というイメージが世界中に広まれば、今後も人質交渉で優位に立てるし、賛同者も増えるからだ。
 そもそも拘束された日本人2人は、「イスラム国」側がある目的のもとに誘拐したのではない。自ら危険地帯に飛び込み、そして拘束された。だから「イスラム国」側としては、それをどう活用するかはいくらでも考えられる。法外な金額を示して万一日本が支払えば巨額な資金になるし、それがだめなら他の要求をすればよい。日本の出方を探りながら最大の効果を得ようとしているのだ。
 いずれにせよ「イスラム国」にルールや常識は通用しない。そんな難しい交渉に日本政府は直面している。無事に人質が解放されることを願うが、テロとの闘いに屈すればさらに被害は拡大する。交渉は困難を極めている。

筋違いな安倍政権批判

そんな中、この事件の原因を安倍政権の積極的平和主義に求める極めて筋違いな報道がいくつか見られた。これまで日本は中東諸国から平和国家として認識されていたが、「積極的平和主義」などの政策が米国寄りと受け取られ、敵意を持たせてしまったというのだ。五十嵐仁氏(元法政大学大原社会問題研究所教授・所長)は自身のブログで、「安倍首相の『積極的平和主義』が引き起こした日本人人質への殺人予告」と題した論文を発表している。
 これは極めて筋違いだ。安倍政権が掲げる積極的平和主義は、特に中東においては米国とともに戦争に参加するというものではない。集団的自衛権の行使容認で議論されているのも、中東ではホルムズ海峡における機雷除去などに限られる。安倍総理がカイロで提示した2億ドルも人道支援だ。グローバル化する世界において、自国のみで安全を確保することはできなくなっている。一国平和主義を超えて世界の平和と安全のために積極的に役割を果たそうとしているのである。
 五十嵐氏は同じブログで、日本が積極的平和主義で「アメリカ寄りの姿勢を明確にした」というが、その批判は的外れである。
 そもそも「イスラム国」の拡張は、米国が「世界の警察」としての役割を十分に果たせていないことにも原因がある。不安定化する国際社会において、せめてアジアの安全保障に対しては日本が経済規模に見合った役割を積極的に果たしていくというのは当然だ。
 繰り返しになるが「イスラム国」の暴挙は安倍政権の積極的平和主義が引き起こしたのではない。「イスラム国」の卑劣さ、そして国際社会における安全保障体制が弱体化していることにある。それを克服するためにも、安倍政権には積極的平和主義をさらに充実してもらいたい。

2015年1月27日

この記事は2014年12月1日に投稿されました。

韓国に「圧力」をかけた日中首脳会談

アジア太平洋経済協力(APEC)首脳会議が開催された北京で、約3年ぶりとなる日中首脳会談が行われた。これまで中国の習近平国家主席は会談の条件として、「安倍総理が靖国参拝を行わないと明言」「尖閣諸島に領有権の争いがあると認める」ことなどを要求したが、安倍総理がこれに応じなかったため、長い間会談が行われてこなかったのである。
 ところが今回習氏は、日本側が二つの条件を譲らないままであるにも関わらず、会談に応じた。この背景には「ホスト国としてのメンツが潰れる」「中国の景気が悪化する中、これ以上日本からの投資を減らすわけにはいかない」などの理由があるといわれる。習氏の政治基盤がいまだ確立されていないことも伺える。
 さらに言えば今後中国は、二つの問題で日本を非難しづらくなるだろう。会談が行われたということは、中国国内では「日本が態度を変えたから実現した」と報道されているはずだ。それなのに非難を繰り返せば、矛盾してしまうからだ。
いずれにせよ日中首脳会談は行われた。このことが、日中関係のみならず東アジア情勢に大きな影響を与えることは間違いない。

韓国の変化

その劇的な変化は、まず7時間後に現れた。同じ日の歓迎夕食会で、朴槿恵大統領が隣の席に座った安倍総理と実に8ヶ月ぶりに話し合ったのである。二人が隣の席に座ったのは、国名のアルファベット順に席が配置されたためだった。まさに「サプライズディナー」(NewSphere11月12日)である。話し合いでは、慰安婦問題等を扱う外務省局長級協議の円滑な前進を促すことで一致し、北朝鮮問題や世界経済についても取り上げられた。
 そしてさらにその3日後のである。朴大統領は日中韓の首脳会談を「条件なし」で行うことを提案した。これまで朴政権は、いわゆる従軍慰安婦問題に日本が「誠意ある対応」を示さなければ会談はできないといってきた。これを覆すというのだから大転換である。もちろん安倍総理は、即座に「早期に実現したい」と応じた。
 これまで中国と韓国は、対日外交で連携してきた。両国ともに「歴史認識で日本が譲歩しない限り、対話は行わない」という立場をとってきたのである。しかし日中首脳会談が実現した今、韓国だけが日本との会談を拒めばむしろ韓国が孤立しかねない。安倍政権は「地球儀を俯瞰する外交」で、歴代政権で最多となる50か国を訪問した(歴代2位は小泉政権で5年5か月で48か国)。アベノミクス成功のためのトップセールスという狙いが強調されているが、安倍政権が掲げる積極的平和主義に対する支持を取り付け、中国包囲網を形成するという目的もあった。

長期的な視野が必要だ

韓国内では、今回の訪中期間に行われた韓国の対米、対中外交を比較し、朴槿恵政権が「中国傾斜」しているとの批判の声が上がった。「朴大統領は北朝鮮問題で危機が迫った場合、 中国と取引をして解決することができると考えている」(朝鮮日報11月13日)と話す与党幹部もいる。
 朴大統領が首脳会談を提案した背景には、こうした批判をかわす狙いがあったのだろう。経済界には、日本との関係改善で難局を打開すべきだとの意見も根強い。
 しかし韓国内では、依然として歴史認識問題に対する風当たりも強い。朴大統領が日韓首脳会談ではなく、あえて日中韓の首脳会談を提示したのは、もし歴史認識で日本の譲歩をまったく得られなければ、厳しい追及を受けると考えたからだ。
 両国ともに難しい国内事情を抱えているが、長期的に見れば日韓両国の関係改善が極めて重要なことは言うまでもない。政府には中国に続いて韓国との首脳会談を実現してもらいたい。そのためには韓国内の変化を細かく注視することが必要だ。

2014年12月1日

この記事は2014年10月4日に投稿されました。

動き出すか日韓-朴大統領国連総会演説の背景

安倍政権が最重要課題と掲げる拉致被害者問題が思うように進んでいない。北朝鮮は7月、日本に対して拉致被害者の本格調査を約束した。ところが第一回目の報告となる9月上旬には何ら音沙汰長なく、日本側が問い合わせると「現在はまだ初期段階にある。具体的な調査結果を報告できる段階にはない」「詳しくは平壌で特別調査委員会のメンバーに直接会って話を聞いてほしい」などとはぐらかされた。被害者の家族らからは「北朝鮮の思い通りだ」などの声もあがっている。
 ところが、安倍政権を悩ます日朝関係が思わぬ別の効果をもたらしている。韓国への影響である。

朴大統領発言の変化

朴槿恵大統領の支持率が過去最低を記録した。韓国の世論調査会社が発表した、9月の第3週の調査の結果である。支持率は前週より0.6ポイント下落し49.7%で3週連続の下落だった。不支持率は0.5ポイント上昇し、44.3%となった。主な要因は増税とセウォル号事件への対応問題という。
 これまでの韓国の大統領は、支持率が下がると反日的な発言で巻き返しを図るのが常だった。前任の李明博元大統領もそうだ。就任当時は日本との関係強化に努め、経済的にも大きなプラスを生んだ。ところが任期の末期に慰安婦問題に取り組まないことが違憲と判断されると、手のひらを返したように反日を訴え始めた。実兄の訴訟問題も絡んでいたという。
 同様に考えれば、過去最低の支持率を記録した朴大統領は、これまで以上に反日的になるはずだ。そして迎えたのが9月24日の国連総会での演説だった。いわゆる「告げ口外交」が展開すると多くの人が考えたのではないだろうか。
 しかし予想はいい意味で裏切られた。朴大統領は演説で、いわゆる従軍慰安婦問題には一切触れなかったのである。一般的な人権問題としての「戦時の女性・子供に対する暴力」については「時代や場所を問わず、人権と人道主義に反する行為だ」と非難したが、日本への直接批判はなかった。むしろ北朝鮮の人権状況に対して「強い懸念」を表明した。日本への配慮があったことは間違いない。この変化はいったいどうして生まれたのか。

韓国の変化は、国益で現状を判断した結果

その原因の一つを探るために、中央日報日本語版の8月25日の記事を紹介しよう。記事は、拉致問題について日朝交渉が進められている様子について、「朝日(=北朝鮮と日本)間の蜜月が続き、日本で根強かった反北感情が弱まり、その代わりに反韓感情が危険レベルに達している」と述べている。さらに、反日を掲げながらも交渉を進める北朝鮮に対して「外交だけは現実主義路線を歩む」と評価し、頑として会談に応じない韓国政府を非難した。また「(韓日の)両国間には過去の歴史のほかにも懸案が多い」とし、「両国外相が頻繁に会ってこそ、慰安婦問題の解決法を導き出し、朝日の密着にブレーキをかける動力も生じるのではないだろうか」と指摘、「対日感情外交の無益な延長は決して国益にならない」と断じた。
 つまり日韓関係が悪化する中、韓国に先んじて日本に接近する北朝鮮に対して、韓国世論に焦りが生まれているのだ。同様の現象は日中関係においてもみられる。 安倍首相は、アジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議のホストとして、習近平主席が日中首脳会談を断りにくいのを巧みに利用し、その実現へと動いている。日韓の外相が会談に応じたのは、韓国だけが取り残されることに焦ったからだという。集団的自衛権行使容認の閣議決定にしても、反対したのは韓国と中国だけで他の国はすべて歓迎か支持だ。その中国が日本に接近し、北朝鮮までもが歩み寄っているとすれば韓国だけが取り残されることになる。ここにきて韓国世論も「日本接近論」を容認するようになったのではないか。
 いずれにせよ世論を気にする朴大統領が日本に配慮したことは非常に興味深い。安倍政権は拉致問題を最重要課題として取り組んでいるが思わぬ副作用を生んだのではないか。来年は日韓の国交回復50周年だ。それまでには大きな転機が訪れることを期待したい。

2014年10月4日

この記事は2014年8月27日に投稿されました。

「光復説」・朴大統領演説に見る対日政策の変化

韓国内で、日本の植民地支配からの解放を記念する「光復節」(8月15日)に、朴槿恵大統領が演説を行った。昨年同様、日本のマスコミでは「慰安婦問題で日本に謝罪を要求」などとの見出しが並んだが、実際の演説内容は抑制的なものだった。
 朴大統領が演説で対日関係に言及したのは、セウォル号問題に関わる国内問題や、北朝鮮問題などを一通り話し終えた後の最後の部分だ。分量としてもさほど多くない。具体的には、「来年は韓日国交正常化50周年を迎える」「両国は新しい50年を眺めながら未来志向的な友好協力関係に進まなければならない」「来年は新しい未来に向けて共同で出発する元年になることを望む」などと述べている。
 もちろんそのためには「日本の政治指導者の知恵と決断を期待する」と、日本側の謝罪を要求しているが、これまでの演説に比べれば明らかにトーンダウンしている。たとえば今年の3.1独立記念日の演説の際には、「(日本は)歴史を否定するほどみすぼらしくなり、窮地に追い込まれる」「政治的な利害だけで考えれば孤立を自ら招く」などと厳しい対日批判を展開した。今回の演説は、これまでにない柔らかい表現になっているのだ。

現実を直視し始めた有識者らの発言

この背景には、韓国内で日本との関係改善を求める声が出始めていることがあげられる。代表的なものは、韓国国際政治学会のナムグンヨン会長の「安倍政権の歴史認識は問題だが、北東アジアで最も近い韓日両国が緊密に協力する部分は非常に多い」(韓国紙『中央日報』8月16日)、元外交部北東アジア局長で東西大学特任教授の趙世暎氏の「日本の態度の変化が前提だが、南北統一にとって日本は重要なパートナーだ」(同8月12日)などだ。韓国内の世論を意識して言葉は慎重に選んでいるが、いずれも関係改善をかなり強く主張している。これまでにはない現象だ。朴大統領は支持率が低迷し世論にかなり敏感になっているから、こうした変化も意識しているだろう。
 中国と北朝鮮は共産主義と人治・独裁国家だが、日韓両国は民主主義と法の支配という価値観をもつ。協力関係を強化することは、経済面でも安全保障面でも、さらには南北統一に対しても極めて重要なのはだれが考えても明らかだ。韓国は歴史的に中国との関係が深かったから今でも親中派が多いのは事実だが、中国当局者の「朝貢外交に戻るのはどうか」(韓国紙『朝鮮日報』5月18日)発言など、高圧的な態度が露わになる中、警戒感も高まっている。
 特に韓国は経済的に中国への存度が高い。安全保障面でも対北政策について中国との関係を切るわけにいかない。日本、米国との関係が薄れれば、中国に飲み込まれる可能性ががぜん高くなる。安倍政権が毅然とした態度をとり続け、日韓関係が悪化する中、ようやく韓国内でも現実を冷静に分析する発言が出てきたのだ。

国交回復50周年を契機にせよ

新しい駐日大使に任命された柳興洙氏が23日に来日した。知日派で関係改善を強く望む柳氏は、「今、韓日関係には雨が降っているが、今後関係は一層固くなると信じている。雨降って地固まるということわざは韓国にもある」(韓国紙『中央日報』8月21日)と話している。柳氏を送った朴大統領の本音を反映していることは間違いない。
 来年は両国の国交正常化50周年だ。民間のレベルでも多くの記念事業が開かれるに違いない。両国政府はこの貴重なタイミングを生かし、朴大統領が演説で述べたとおり「共同で出発する元年」にしてほしい。

2014年8月27日

この記事は2014年7月25日に投稿されました。

駐日大使に柳興洙氏内定、関係改善への期待が

空席だった韓国の駐日大使に、朴槿恵大統領が柳興洙・韓日親善協会理事長(76)を内定した。正式な就任は8月中旬になる予定だ。
 柳氏は警察官僚出身で、国会議員を4期つとめたベテランだ。韓国生まれだが日本で幼少期から小学5年生までを過ごし、日本語も堪能だ。現在は韓日親善協会の理事長でもある。議員落選時に、京都大学で1年研修を積んだという経緯もある。
 かつて安倍首相の父親とは親しい間柄で、死去した際には日本に弔問に訪れた。息子の安倍氏(現安倍首相)を慰めたともいう。日韓関係の改善を期待されての人事であることは間違いない。
 柳氏本人も、「両国は今冷え込んだ関係だが、正常な関係を復元することが急務」と話し、「年を取って引退した人に仕事をしろというのは、それだけ韓日関係の深刻性を政府が分かっているということ」と語っている。

朴槿恵大統領の本音

朴槿恵大統領が日本との関係をどのように考えているのかは、正直なところ誰にもわからない。父親(元朴正煕大統領)と母親(陸英修)が公務中に殺害された経緯をもちながら、自らも大統領になったほどの女性だ。よほど強い信念をもっていることは想像に難くない。その心の内を話すことはほぼないのだ。果たして日本との関係を改善したいと思っているのか。それとも中国との関係をより重視しようとしているのか。それは誰にもわからない。
 しかし彼女の人事を見れば、日本との関係改善を願っているだろうことが推察できる。昨年8月には、大統領府の秘書室長に金淇春氏を任命した。韓国は大統領制の国だから、秘書室長は大臣以上に重要なポストだ。金淇春氏と上述の柳興洙氏は、ソウル大法大16期の同窓であるとともに、韓日親善協会で柳氏が理事長、金氏が副会長という間柄だった。昨年1月にはともに来日している。つまり朴大統領は、自らの最側近に知日家を据えたのだ。また、金淇春氏と同時に任命された朴ジュン雨・大統領府政務首席秘書官も、外務省きっての日本通と言われた人物だ。

高まる中国依存

朴槿恵大統領が就任当時、国民から最も期待されたのは停滞した経済をいかに再生できるかだった。安倍政権がアベノミクスに対する期待から高い支持率を得たのと同じことだ。しかし韓国経済を立て直すことはなかなか容易ではない。国民全体の個人負債が1000兆ウォン(約94兆円)を超えるなど課題が重くのしかかっている。
 特に注目すべきなのは、貿易依存度が高いことだ。輸出依存度は日本の11.4%(対GDP比)に対して韓国は43.4%だ。 内需が強い日本とは構造が違う。その韓国で、輸出先の4分の1を中国が占めている。これでは中国に強い態度を示せるはずがない。中国は戦略的に日本を歴史認識で攻撃して孤立させる立場をとっているから、それをすべて無視することもできない。こうした韓国の国内事情を知れば、たとえ朴大統領が日本との関係を重視していたとしても、それを表に出せない事情が理解できる。
 安倍政権における集団的自衛権の閣議決定に対して、韓国国会が日本を非難する決議を採択した。しかし大統領制の韓国における国会の立場は、日本のそれとは異なる。政府は黙認を続けている。こうした情報に振り回されないことも大事だ。
 両国の首脳は共に日韓関係の重要性をよく理解しているはずだ。今回の駐日大使の人事がそれを明確に表している。問題は国民の意識だ。互いに相手国の国内事情を理解することは容易ではない。むしろセンセーショナルな報道に振り回されがちだ。しかしそれでは問題解決が遠のくだけだ。中国と北朝鮮の脅威を考えれば、日韓の関係改善が安全保障上きわめて重要であることは論を待たない。関係改善の道を慎重に探るべきだ。

2014年7月25日

この記事は2014年5月13日に投稿されました。

中越衝突事件の真相を見誤るな

南シナ海で大変な事件が起きている。ベトナムの海上警察の巡視船に中国の大型監視船が体当たりし、高圧放水銃を発射している。これまでに、5月の3日、4日、7日、そして9日と四日間にわたって事件は繰り返されている。ベトナム側の船は損傷し、9人の負傷者が出ている。現場の海域では今なお、中国側の船が80隻、ベトナム側の船が30隻にらみ合いを続けている。
 ベトナム政府は事件後、衝突された瞬間の映像を公開し、中国を非難している。一方中国側は、「この海域は中国の領域であり、ベトナム側が中国企業の活動を妨害することは絶対に受け入れられない」と述べている。

真の狙いは対米軍事計画の強化にある

今回の事件現場は、ベトナムの排他的経済水域にあたるが、中国も領有権を主張している。中国の国有企業が海底油田を掘削するための装置を5月3日に持ち込み、ベトナム側が激しく反発していた。
 では事件現場がどちらの国の領域なのかといえば、間違いなくベトナムの領域だ。事件現場周辺には多くの島があり、その島々は西沙諸島と呼ばれている。かつてはベトナム人が住む島も多く、漁業などを営んでいた。
 しかしベトナム戦争中の1974年、突如として中国の海軍が進出し、武力で実行支配した。その後、西沙諸島最大の島である永興島には滑走路が作られ、中国の軍事拠点になっている。1992年には領海法という法律を中国国内で制定し、この海域は中国の海であると一方的に規定した。今年の1月には、付近で漁業をしていたベトナム漁船が中国の監視船に襲撃され、漁船の漁具と収穫した5tの魚を没収された。
 実はこれらの問題は、ベトナムとの間にだけ起きているわけではない。フィリピンの領域であるスカーボロー礁やミスチーフ礁などでも同様の事件が起きている。ただし、フィリピンは米国と同盟関係を結んでいるためそれほど強硬ではない。ベトナムは米国と軍事協力関係を結んでいるが、同盟関係ではないため、その弱みに付け込まれているのだ。
 中国はなぜ南シナ海にこだわるのか。南シナ海に石油資源が埋蔵されているからだというのは表面的な見方だ。中国の真の狙いは、米国との軍事的な争いに勝ち、中国を中心とした国際秩序を形成することにあるからだ。
 中国は1982年、当時の最高指導者である鄧小平の意向で、第一列島線と第二列島線を軍事戦略として打ち出した。その目的は台湾の奪取にある。台湾の奪取は中国の歴史的悲願だが、もし本格的に奪取を始めれば米国が台湾を支援する。そこで中国は、米国が台湾を支援できないようにするために、2010年までに第一列島線の内側に米軍が侵入できないようにするという計画を立てた。2020年には第二列島線だ。この計画は多少遅れているが、現在、尖閣諸島沖には中国艦船の侵入が常態化し、南シナ海でも軍事拠点が次々と建設されている。第一列島線内を中国の海にするという計画は着実に進められている。

米国の出方を伺う中国

今回の事件の背景には、4月末に行われたオバマ大統領のアジア歴訪がある。オバマ大統領は、尖閣諸島は日米同盟の適用対象であると明言し、48年ぶりに訪問したマレーシアでも対中政策を共有した。フィリピンでは、22年ぶりに米軍が駐留することも決定した。オバマ大統領のアジア歴訪の大きな目的は、中国包囲網を形成することにあったのだ。
 これに危機感を抱いたのが中国だ。今回の事件の本質は、米国との関係がまだ弱いベトナムに強硬な態度に出ることによって、米国の出方を確かめようとしたことにある。米国は経済面で中国への依存が大きく、本音では、中国との対立はできるだけ避けたいと考えているからだ。オバマ大統領の内向き志向もある。実際米国は、今回の事件について中国を厳しく批判したが、対応に苦慮していることは間違いない。今後も米中間の神経戦は当面続くだろう。
 現在のアジア情勢は、まさに一触即発の状況だ。各国の利害が複雑に絡み合い、解決の糸口を見出すことは容易ではない。こうした状況の中日本は、「日本だけが平和であればいい」という一国平和主義をとってき。これはすでに限界だ。安倍政権が掲げる積極的平和主義、並びに現在議論されている集団的自衛権の行使容認、これらをぜひ推し進めてもらいたい。

2014年5月13日

この記事は2014年3月27日に投稿されました。

日米韓首脳会談実現、大局優先で前進を

安倍首相と朴槿恵大統領の初の会談が3月25日、オバマ大統領の仲立ちで初めて実現した。これとほぼ同時刻に北朝鮮は、日本を射程に収める中距離弾道ミサイル「ノドン」を発射した。北朝鮮が両国の会談に合わせて威嚇したことは間違いない。逆に言えば、日韓の協力を誰よりも恐れているのが他ならない北朝鮮であることがより明確になったといえよう。
 会談での安倍首相の、「朴大統領、お会いできてうれしいです」という韓国語の呼びかけに対し、朴大統領は終始厳しい表情を崩さなかった。会談がようやく実現したにもかかわらず、両国の関係改善は依然厳しいように見受けられる。しかし、そう単純に考えてはならない。朴大統領には、韓国国内の反日的世論に最大限配慮しなければならない政治的な事情があるからだ。同席した日本の政府関係者によれば、テレビに映らない場面で2人は、「握手し、笑顔で挨拶していた」(産経新聞3月27日)という。テレビに放映される場面では、歴史認識を問いたださずして笑顔を見せることはできなかったのだ。

民主主義国家の宿命

日本では、朴大統領のこうした態度に不快感を覚える人も多いだろう。「朴大統領は北朝鮮や中国の脅威を理解していないのではないか。日本側はそのことをよく理解しているがゆえに未来志向の関係を築こうとしているではないか」というわけだ。しかし同様の現象は、何も韓国に限ったことではない。むしろ日本でも日常茶飯事だ。
 たとえば昨年暮れに特定秘密保護法が制定されるまで、あるマスコミでは「安倍首相は日本を戦前に戻すつもりだ」などという現実には到底ありえない批判が連日繰り広げられた。秘密が際限なく増え、原発の問題なども秘密に指定されて市民に不都合なことはすべて隠されてしまうのではないかという意見もあった。しかし実際は、同法が成立しても新しい秘密が生じるわけではない。すでにある国家秘密に対して、公務員などの守秘義務を強化するのがこの法律の趣旨だ。さらに言えば同法の秘密は外交や安全保障の範囲に限られ、原発問題などは基本的には含まれない。
 一部マスコミや議員が感情論も含めた批判を並べ立てる中、安倍首相が毅然として立法措置を進められたのはアベノミクスの成功により高い支持率を維持できていたからだ。経済政策に失敗して支持率が低迷していたなら違っていただろう。今後は集団的自衛権の問題がとりあげられるだろうが、やはり同様に「安倍首相は軍国主義者だ」などという批判がまかり通るようになるだろう。まだ目に見えない未来のための準備よりも、過去を呼び起こして批判するほうが世論に訴えかけるには容易だからだ。
 現在の韓国の経済状況はあまり思わしくない。そんな中、朴政権が世論の動向に神経をとがらせている状況は理解できる。北朝鮮が強硬な態度を続ける中、日韓の協力が今まで以上に重要になっているが、それは両国の首脳同士がよく理解しているだろう。しかし両国がともに民主主義の国家であるがゆえに、世論を無視することはできない。支持率が低迷していればなおさらだ。それは民主主義国家の宿命ともいえる。

アジア全体の平和と安定を見据えよ

今回の会談で重要なのは、今までできなかった両国の首脳会談が初めて実現できたという点にある。両国の国内事情が劇的に変化しない限り、両国の厳しい関係は変わらないが、第一歩を踏み出せたことは大いに評価すべきだ。
 最も重要なのは、日韓関係がこじれれば、中国と北朝鮮の横暴を利することになることだ。特に両国が軍事情報をある程度共有できるようになれば、その効果は絶大だ。日本には諜報機関がないため、北朝鮮の内部情報の把握は韓国が格段に上だ。逆に哨戒機能は日本が世界有数のレベルにあり、過去に哨戒艦を撃沈された韓国よりもはるかに優れている。効果的に情報を共有できるようになれば、1+1の答えが3にも4にもなる。
 両国の関係改善はアジア全体の平和と安定にも資する問題だ。民主主義国家として、世論を政治に反映させつつ、民主主義を守るための国を超えた取り組みを国民に教育することも重要だ。両国の関係改善には、より大局を見据えた視点が必要になる。

2014年3月27日

この記事は2014年3月20日に投稿されました。

ウクライナ問題、あらわになった米国「国力」低下

プーチン大統領が18日、クリミア半島のロシア編入の方針を表明した。演説の後には、連邦入りを要請したクリミア側と「国家間条約」に調印した。
 一連の出来事で、ことさら際立っているのはロシアの横暴ぶりだけではない。むしろ米国のふがいなさだ。もし米国が今回の緊張を最小限に抑えるつもりだったなら、もっと早期にウクライナへの経済支援を行うべきだっただろう。そもそも事の発端は、7000億米ドルもの債務を抱えたヤヌコビッチ政権が、EUへの編入を視野に協定の締結に向かうのか、ロシアとの関係を強化するのかという二者択一を迫られていたことにあった。難しい選択だったことは間違いない。

ウクライナの国土は日本の二倍弱だが、経済規模は福岡県程度だ。いかに経済状況が厳しいかが理解できるだろう。ヤヌコビッチ氏の前任のユシチェンコ氏は親欧州派であり、ロシアと距離をおいて欧州に接近した。しかし欧米諸国からの投資は予想以上に伸びず、むしろロシアとの関係悪化による損失がそれを上回ってしまった。それまで格安でロシアから提供されていたガスの価格を国際水準並みに引き上げると通達されたのだ(2005年ロシア・ウクライナガス紛争)。
 ウクライナ側はこの提示を受け入れることができず、ロシアはガスの供給を停止した。ガスのパイプラインは、ウクライナからドイツやイタリアまで伸びており、ガスの停止は、欧州方面へのガス全体の30%削減となった。しかしウクライナは、従来通りのガス量を一方的に取得した。そのためドイツやイタリアではガス圧が下がり、ガスを受け取れなくなってしまった。結局この事件は、ロシアとウクライナ双方の主張の中間をとることによって決着したが、このときウクライナは、欧米に対する過信は禁物であることを痛いほどに学んだに違いない。また欧州各国も、ロシアとの関係悪化がいかに深刻であるかを悟っただろう。
 それに加えて2010年に大統領に就任したヤヌコビッチ氏は親ロシア派の人物である。従来の不信感に加え、ロシアからの圧力が加わることも容易に予想できたはずだ。結局ヤヌコビッチ氏は、EU編入よりもロシアとの接近を選択した。その後、親欧州派の住民がこれを不服として大統領府を占拠し、議会が大統領解任を決議した。国家的な大混乱に陥り、民主的な手続きだったとも言い切れない。
 米国はこの状況に至るまでに、地域の安定を図るための有効な対策をうつことはできなかったのか。ウクライナはEUとロシアの中間にあり、戦略的要所といってもいい。米国はそれを十分に考慮すべきだった。しかし米国からはウクライナの経済危機に対して何ら対策は打たれなかった。その結果が現在の状況である。オバマ大統領の内向き志向が、ウクライナをここまで追い詰めた最大の要因であるといっても過言ではない。
 その後米国は、ロシアによるクリミア編入の表明を受けて経済制裁を科したが、「欧米の制裁は弱すぎて無意味だ」(ロゴジン副首相:ロイターより)と嘲笑された。米国としては、国内経済への打撃を恐れて強硬な態度をとれないのだ。時すでに遅しである。

日本の防衛政策を根本から見直すべき時

米国の軍事力は依然として世界最強であり、その立場は揺らがない。しかしオバマ政権の内向き志向が各国から見透かされていることも間違いない。いかに強大な軍事力を保持していても、それを扱う政権が弱体化すれば、抑止力は著しく低下するのだ。
 日本はこのことをはっきりと理解すべきだ。クリミア半島は、面積にして北海道の3分の1程度でしかないが、この地域の今後の方向性が日本を含めた国際社会に大きな影響を与えることになる。このままロシアへの編入が進めば、「既成事実を積み重ねれば米国も手を出せない」というメッセージを世界に送ることになる。特に中国と北朝鮮はそう考えるだろう。日本としては、ロシアの暴挙を許さない政策を打ち出すとともに、今後のアジア情勢が不安定化する可能性を十分に考慮した安全保障体制の構築を急ぐべきだ。

2014年3月20日

この記事は2013年11月12日に投稿されました。

三中総会で中国は危機を脱するのか

中国共産党が中長期的な政策を検討する三中総会(第18期中央委員会第3回総会)が、11月9日から4日間の日程で行われている。
 中国では、総書記の就任期間5年間に主要な会議が7回開催されるが、その3回目の会議が三中総会だ。共産党員8500万人の中から選ばれた200人の中央委員と170人の中央委員候補、そしてトップに位置する25人の政治局員らが参加する。
 習政権では、1度目の会議にあたる1中総会が昨年11月に行われ、習氏以下7人の常務委員が党の最高幹部として選ばれた。習氏が総書記に就任したのもこのときだ。2回目の会議にあたる2中総会では習氏が国家主席に選出され、習氏の指導のもと、政府機構の統廃合などが行われた。そして今回が三中総会だ。
 かつて鄧小平の時代には、この三中総会で改革開放路線が明確に打ち出され、それまでの毛沢東路線と決別した。異論を抑え込み、政治基盤が強固なものとなった。それ以降、歴代の政権において、三中総会が政治的に持つ意味は非常に大きい。

暴動を極度に抑える共産党政権

三中総会の直前、天安門広場にウイグル族3人が乗る自動車が突っ込み、炎上した。山西省では共産党省委員会ビルの前で爆破テロが起きた。三中総会の直前という、政権にとって極めて敏感な時期、民衆による暴動事件が立て続けに起きた。習政権が大変な衝撃を受けたことは間違いない。
 そもそも習政権の政治基盤は、歴代の政権の中でも不安定だ。中国の重要な意思決定は、最高幹部である7人の常務委員によってなされるが、習氏はこの中で多数派を占めることができないからだ。
 習氏は総書記であり、中国共産党の序列第一位だが、序列第二位の李克強首相はエリート組織である共産主義青年団出身で、前総書記の胡錦濤氏のグループだ。このグループは団派と呼ばれる。序列第三、五、七位の人物は、その前の総書記である江沢民氏の強い影響を受けている。いわゆる上海閥だ。こうした面々の中で、習氏が自らの意向を推し進めるのは容易ではない。
 中国国内でどれだけ暴動が起きているかは公表されていないのでわからないが、一昨年の1年間では18万件だったというデータもある。1日あたりにすると500件だ。
 中国では政治家を選ぶ選挙がないから、民衆が不満を持てば陳情を申し立てるか暴動を起こす以外にない。この暴動が拡大すれば、政権の危機につながる。天安門事件では、学生運動が発端となって政権内に深刻な亀裂が生じた。民主主義では政治家は次の選挙を強く意識するが、中国では民衆の不満の度合いに神経をとがらせている。
 胡錦濤氏も、総書記の時代には民衆の不満をいかに抑えるかに腐心した。失業者を減らすために8%の経済成長を至上命題にし、格差を改善するための政策である和諧社会をスローガンとした。

習氏の中国はどこに向かうのか

習氏は総書記に就任するなり、民衆の押さえつけを強化した。胡氏は「宗教は弾圧するほど影響力が大きくなる」と言ったが、習氏は宗教団体への弾圧も強化した。キリスト教系の団体「全能神」に対しては、総書記に就任後2週間で弾圧を始め、1300人を拘束した。マスコミやメディアの取り締まり、人権活動化の拘束も相次いで起こっている。
 胡錦濤時代の経済発展は、汚職や腐敗により格差を拡大させた。その汚い金が、さらに中国の投資の投資にまわり、中国経済を支えている。格差はいよいよ拡大しているが、それを止めれば経済成長は落ち込み、かつ既得権益層が反発する。この負のスパイラルを止めるのは容易ではない。しかし誰かが止めなければ、いずれ中国は崩壊するだろう。
 習氏は三中総会で、どのような政策を発表するのか。そして、負のスパイラルを止められるのか。もし本格的にこの問題を解決しようとするなら、思い切った経済改革、政治改革が必要だ。政治基盤が弱い習氏にそれができるのか。見通しは明るくない。
 中国が崩壊する日は、そう遠くないのかもしれない。いずれにせよ、三中総会の結果には注目する必要がある。

2013年11月12日

この記事は2013年11月6日に投稿されました。

中国でまたも爆破事件、テロ事件の可能性濃厚

中国・山西省で今日6日の午前、共産党委員会の入り口前で連続爆発が発生した。死傷者もいるようだ。爆発音は7回あり、車20台が激しく損傷した。現場からは殺傷能力を高めるための小さな鉄球が見つかっており、テロの可能性が高い。「入り口付近の花壇の中で爆発が発生した」「車の中で爆発が起きた」など、いくつかの食い違う証言があり、情報が錯綜している。
 天安門広場での車両爆破事件はウイグル族によるものだったが、今回の爆破事件が起きた山西省はウイグル族など少数民族問題への関わりはない。一体中国では今、何が起きているのだろうか。

習政権のメンツを潰した天安門爆破事件

ウイグル族は、中国国内では人口約1100万人の少数民族だ。彼らは、中国が建国された1949年には東トルキスタン共和国という名の独立国家に居住しており、当然中国の配下にはなかった。
 しかし同年、毛沢東がウイグル侵攻を指示した。人民解放軍がこの地域を全面制圧し、年末までには完全に中国の配下に治めた。以来、中国はこの地域を新疆ウイグル自治区と定め、独立運動には徹底した弾圧を行ってきた。
 特に習近平政権になってからは、その激しさが増している。報道されているだけでも10人以上の死者を出す事件が3度も起こっている。4月には、公安が民家を襲撃し、15人が死亡、8人が拘束された。6月には、住民グループと警官隊が衝突、27人が死亡した。そして8月には、公安がウイグル族の集団を襲撃し、少なくとも15人を射殺した。ウイグル族は熱心なイスラム教徒であり、人種も漢民族とは全く異なる。彼らが独立を強く求めるのは当然だが、習政権はこれを強引に押さえつけてきた。
 その中での天安門の爆破事件である。この事件が習政権に与えた心理的ダメージは極めて大きい。11月9日から行われる重要会議である三中全会を目前に控え、かつ共産党政権の象徴である天安門広場前で起きたのだ。まさに、メンツ丸つぶれといったところだ。
 習政権が、今後さらにウイグル族への締め付けを強めることは間違いない。実際自治区内のトルファン地区では、ウイグル族計78人の写真付き手配書が出された。事件との関連は不明だ。

人権弾圧の強化は危機感の裏返し

民衆による抗議運動が中国全土で頻発している。習政権は、昨年11月の発足当時から、その抑え込みにやっきになってきた。国家予算の中でも、膨張し続ける軍事費よりも、治安維持費のほうがさらに大きい。
 習政権が出発してから約2週間後には、いきなりキリスト教系の新興宗教への弾圧を始め、関係者1300人以上を拘束した。メディアや言論に対しては、25万人の記者に対して免許証更新のために研修を受けることを必須とした。10月から始まったこの研修では、日本や米国などを厳しく非難するよう指示し、報道の自由や立憲政治を求めることは厳しく戒められた。研修の名前は「マルクス主義報道観」である。
 日本の東洋学園大の教授である朱建栄氏の拘束も記憶に新しい。朱氏は7月、上海市内で拘束され、その後の動静は不明だ。これ以降、中国政治について積極的に発信する学者はかなり減った。
 弾圧の強化は、習政権の足場がまだ固まりきれていないことへの裏返しでもある。国内で暴動などの問題が頻発すれば、習氏の敵対勢力からの批判が強まることは間違いない。三中全会は、歴代の指導者が政権基盤を盤石にするための重要な会議だ。その直前に爆破事件が連続で起きたことも、習政権にとって相当なダメージだ。
 今後の中国が安定に向かうのか。それともますます不安定化するのか。三中全会が大きなポイントになる。

2013年11月6日

この記事は2013年6月26日に投稿されました。

中国の「7月バブル崩壊説」は本当か

上海総合株価指数が24日、前週末の終値に比べ5.3%下落した。下落率としては2009年の6.74%以来約4年ぶりの大きさであり、中国市場には動揺が広がっている。
 実は中国では、2年前から「2013年7月バブル崩壊説」が警告されていた。国務院発展研究センターの李佐軍研究員が内部報告で提示したものである。その大まかな内容は、胡錦濤政権時代の経済政策のツケが2013年の習近平政権発足後、数カ月で噴出し、民間企業や銀行、地方政府が相次いで経営破綻に追い込まれるというものだ。

不動産バブルの崩壊と地方債務危機の同時発生

「7月バブル崩壊説」を予言した理由はどこにあるのだろうか。
世界的な経済危機をもたらした2008年のリーマンショックで、中国政府は4兆元の財政出動をすることによって見事にV字回復を成し遂げた。この4兆元のうちの約7割は地方財政から拠出されたものだ。しかし地方政府にそれだけの資金力があるはずがない。この資金は、地方政府が「影の銀行」から借りた資金だったのだ。
 「影の銀行」とは、中国で金融監督当局の規制を受けている銀行の融資以外の金融取引を指す。資金は地方政府の土地開発会社や経営不振企業に流れることが多い。個人投資家に対しても、年利10%前後の高利回りをうたった財テク商品を売っている。現在、「影の銀行」の総融資額は約24兆元(約383兆円)で、国内総生産(GDP)のほぼ半分に匹敵する。
 中国の地方政府の財政は主に、税収と土地開発事業によって成り立っている。農民から土地を強制的に取り上げ、「影の銀行」から資金を借りて土地を開発する。ところが「影の銀行」の取引は中央の監督外にあるから、無駄な公共事業に使われることも多く、回収できない巨額の債務を生み出している。
 リーマンショックからすでに5年が過ぎ、当時の融資の償還期が2011年下半期から始まっている。2013年の上半期末がそのピークだ。公共事業で利益をあげられない地方政府は、当然元金や利子を返すことができない。また、個人投資家向けの財テク商品も、6月末までに1.5兆元(24兆円)が償還期間を迎える。何の対処もなければ、資金がない「影の銀行」は次々と破たんするだろう。そうなれば、多くの地方政府や民間企業が債務危機に陥る可能性が高い。
 さらに中国では、土地を転がして値段をつりあげる不動産バブルの規模も圧倒的だ。資金が不足すればこの不動産バブルもはじける。中国は大金融危機に見舞われるのだ。
 「7月バブル崩壊説」を前に、実際中央政府は、リスクの高い「影の銀行」に資金が流入しないように金融引き締めを行った。銀行側は「人民銀行が助けてくれない」といったが、人民銀行は「野放図な融資を行ってきた銀行側が悪い」と言い返したのだ。結局中国金融市場には、「資金ショートで中小の銀行で連鎖破綻が起きる」といううわさが流れ、株価の急激な下落につながったのである。

習政権のかじ取りはいかに

習政権は、「7月バブル崩壊説」をどう乗り越えるのだろうか。
 たとえ習政権が金融市場を慎重にコントロールしても、いずれ経済危機は中国に確実にめぐってくる。そのときに経済危機が起きれば、その責任は習政権が問われることになるだろう。しかし今経済危機が起きれば、その責任は前政権(胡錦濤政権)にある。習政権は、早めにこの金融危機を起こしてしまい、やりすごそうとしているのではないか。
 また金融危機が起これば、マネーゲームにふける腐敗官僚を一掃できるという効果もある。もちろん一般市民の犠牲も大きいが、習氏としては、これを機会に政権運営を難しくしている既得権益層が消えてくれるのであれば望むところだ。
 習氏が、「中国夢」などの強硬路線を高らかに宣言し続けているのには、こうした国内事情があるのかもしれない。中国の金融危機はどうしても避けられない。もっと言えば中国政府には金融危機を避ける実力がない。どうせ起こるなら早いほうがいい。そのとき既得権益層は反発し、国内には多くの暴動が起こるだろう。彼らの視線を政権批判ではなく、覇権の拡大に向けさせればリスクはより少ないはずだ。こうして習氏は、覇権主義を露わに打ち出しているのである。
 しかし強硬路線は、対外的な摩擦を予想以上に産んでいる。習政権はいよいよ追い詰められているのだ。
 いずれにせよ中国の金融不安は、中国が本格的に民主化されない限りその本質は変えられない。中国がいよいよ崩壊する、そんなときが近づいているのではないだろうか。

2013年6月26日

この記事は2013年5月11日に投稿されました。

政権基盤の弱い朴大統領の発言に注意せよ

韓国の朴槿恵大統領は7日、オバマ米大統領と初めて会談した。
 北朝鮮問題に関しては、国際規範順守と非核化を粘り強く求めていくことで両者が一致した。会談後の記者会見で朴氏は、「北の脅迫と挑発を黙認することはない」とも述べた。
 朴氏は4月、北が開城工業団地を閉鎖したことで多額の損失が生じ、「非核化」抜きに対話に応じようとした経緯がある。日米が北に対して強い態度で臨んでいる中、事実上韓国だけが「根負け」し、対話に前のめりになったのだ。
 その後、米韓合同演習が終わり、北は日本海側に展開していた中距離弾道ミサイル「ムスダン」を撤去した。中国が初めて北に対して独自の経済制裁を行ったことも影響したと言う。北による脅威が減じられたことにより、朴氏が米国と歩調を合わせて強いメッセージを発信しやすくなったことは間違いない。

経済政策でぶれる朴政権

朴氏の韓国内における政権基盤は決して盤石ではない。
朴氏が大統領選で国民から最も求められたのは、行き詰った韓国経済を何としてでも打開してほしいということだった。そのために朴氏が大統領選で訴えたのは、「創造経済と経済民主化による経済復興」だ。財閥や大企業偏重の経済構造を変革しようとする朴氏を多くの国民が支持し、朴氏は大統領選に勝利した。
 韓国経済はここ数年、すでに成長の限界に直面している。これまで韓国は、日本などの先進経済国を政府が主導して追撃をすることによって飛躍してきた。しかし今や韓国は、より創造性を発揮して競争を勝ち抜かなければならない段階にきている。ところが実際は、経済発展の過程で財閥や大企業に経済力が集中しすぎたことによって、硬直してしまっているのだ。
 財閥グループは莫大な経済力によって政治的にも大きな力を得るようになった。現代やサムスンの会長が犯罪で起訴されたが、政府が「国家経済に貢献したことを勘案」して特別赦免になったのがいい例だ。
 市場は「均等な経済活動の場」であってこそ新たな創意と革新が生まれ、高い競争力を生み出していく。しかしこのような「傾いた経済活動の場」では、経済は躍動性を喪失する。
 だからこそ朴政権は、「経済民主化」のための政策を打ち出した。当然財界は猛反発し、「企業の経営活動を委縮させ、低迷した経済をさらに厳しくさせる」と批判した。
 そして韓国政府はその後3月に、「経済非常事態」を宣布した。消費と投資・輸出がすべて後退し、失業率も増え、今年の成長率予測値が大幅に下方修正されたのだ。「経済民主化」を訴えた大統領選当時の雰囲気は影をひそめ、政府が大々的に市場に介入せざるを得なくなってしまった。朴氏の「経済民主化」は失敗に終わったのだ。
 財界関係者は「政権スタート後に現実との乖離を悟ったようだ」と言い、「(政府の方針は)混乱を与えている」と批判している。

歴史問題を取り上げるのは歴代政権の繰り返しだ

思うように韓国経済を立ち直らせることができない朴政権は、政権基盤が弱く苦心している。そこへきて北の挑発である。経済再生の取り組みに冷や水を浴びせられた朴政権は、前述の「根負け」発言に至った。
 その後北の脅威が減じたため、朴氏はオバマ氏に北に対する共闘姿勢を示すことができたが、朴氏の政権基盤の不安定さは何も変わっていない。その象徴が首脳会談における日本批判だ。
 会談でオバマ氏が日米韓の協調の必要性に触れると、朴氏は「東北アジア地域の平和のためには、日本が正しい歴史認識を持たなければいけない」と述べた。米国は一貫して、「日韓の歴史認識戦争には一切関与しない」という立場をとり、かつ東アジアの安定のためには日韓が協力体制をとるべきだと主張している。朴氏がこのことを知らないはずがない。それでもなおこの発言をしたのは、韓国内の政権基盤がいかに弱体化しているかを物語っているといっていい。
 韓国では政権基盤が弱まると、大統領が反日的発言をする。それは朴政権においても何ら変わりはない。
東アジアの安全保障においては日韓の協力関係は不可欠である。日本側としては、こうした韓国内の情勢を踏まえつつ、注意深い対応が必要である。

2013年5月11日

この記事は2013年2月27日に投稿されました。

未来志向の日韓関係を築き、中国の野望を阻止せよ

麻生副総理は25日、韓国の朴槿恵大統領就任式に出席し、就任直後に朴大統領と会談した。北朝鮮の核・ミサイル開発などを念頭に、日韓両国が未来志向で緊密に協力していくことで一致した。
 日韓の懸案事項に関しては、朴氏が「歴史問題などで未来志向的な関係発展が妨げられていることは残念だ」と語ったが、いわゆる従軍慰安婦問題などの具体例をあげて日本側に厳しく詰め寄ることはなかった。
 李明博元大統領が政権末期に竹島に上陸し、さらには天皇陛下への謝罪要求発言まで行ったことを考えれば、十分想定内の発言だったともいえる。李氏はそもそも、韓国の歴代大統領の中でも最も親日的とされた大統領だった。昨年は日韓初の軍事協定となる「軍事情報包括保護協定(GSOMIA)」の締結にも熱心に取り組んだ。実際は締結直前で国内の反対にあって失敗したが、日韓の連携の重要性はよく理解していたのである。
 しかしその失敗が逆に李氏を追い詰めることになった。国内における求心力を失い、さらには親族の不正が取りざたさ、結局は安易な反日行動に出た。李氏の失態によって失われた日韓両国の国益は計り知れないが、それと同時に現在の韓国における対日政策がどれだけ敏感な問題なのかを伺い知ることもできるだろう。

難題が山積の韓国新政権

朴氏は日韓国交正常化を果たした朴正煕元大統領を父に持つことから、野党などの反対勢力はことあるごとに「親日派」として攻撃してきた。選挙結果を見ても、国民のほぼ半数は反対勢力である。さらに朴氏が大統領として第一に取り組まなければならない韓国経済の立て直しは難題が山積している。
 韓国では、カードローンなどで負債を抱える家庭が非常に多く、負債総額は1000兆ウォン(約86兆円)に迫っている。国内総生産(GDP)に対する家計負債は約81%で、世界で5番目に多い。
 急激なウォン高も韓国経済にとっては深刻な問題だ。対円のウォン相場は、日本の円安政策もあって20%も上昇した。韓国は貿易依存度が87.4%と高く(日本は25.1%)、特に中小企業に対するダメージは計り知れない。今は大企業ですら利益を出すのが困難な状況とも言われている。
 朴氏は大統領選で、「国民幸福」のための「増税なき福祉」を公約として掲げた。老人医療無償化や保育園無料化、大学授業料の軽減や家計負債の救済などである。しかし韓国経済の成長が低下している中、これらの政策を実現する財源の目途はいまだ立っていない。

中国の韓国抱き込み工作を阻止せよ

韓国新政権を虎視眈々と狙っているのが中国だ。習近平は、朴氏の就任式に劉延東国務委員という中国共産党内で最も地位の高い女性を送り、韓国重視の姿勢をアピールした。習指導部は、安倍総理が主導する「中国包囲網」から、韓国だけはなんとしても引きはがしたいという考えがある。さらに中国は尖閣を巡って対米関係も悪化しているから、韓国と反日路線で共闘体制を取れれば、日米VS中韓という構図を作りだすことで国際的孤立を防ぐこともできる。
 韓国においても、経済の立て直しのカギは中国が握っているという実情がある。韓国の対中貿易の額は、対米、対日を合計した額を上回っている。人的往来も同様だ。朴氏は中国特使の劉氏と会談し、「両国関係を充実させるためにさらに緊密に協力する」ことで一致した。
 韓国は歴史的に見ても中国からの影響が非常に強く、大陸志向の強い国だ。それは今なお韓国の民族感情としても残っている。しかし韓国が今大陸に向かえば、そこに待ち構えているのは北朝鮮と中国という共産主義国家である。韓国が、自由と民主主義という同じ価値観を共有するのは日本であり、米国だ。だから韓国は今後、海洋へと向かうべきなのだ。それが東アジアの安全保障にとっても非常に大きな意義をもつことになる。
 21世紀は海洋の時代でもある。韓国が今後大陸に向かうのか、海洋へと向かうのか。日本はここに注意深く、しかし積極的に関与するべきだ。両国の懸案事項を時間をかけて解決しながら、未来志向の日韓関係を構築する必要がある。

2013年2月27日

この記事は2012年12月26日に投稿されました。

米国は「財政の崖」突入で破たんするのか

米国の財政が危機に直面している。いわゆる米国の「財政の崖」問題である。
 「財政の崖」とは、減税の廃止や歳出の自動削減など多くの要因が重なっておこる、米国の急激な緊縮財政を言う。連邦準備制度理事会(FRB)のバーナンキ議長が、2月の議会証言で「財政の崖」と表現し、この名がついた。
 日経新聞では、米国の財政の緊縮要因として以下の8つの項目をあげている。

 所得税や不動産関連税など、いわゆる「ブッシュ減税」の失効:
 2210億ドル
 給与税減税の期限切れ:950億ドル
 その他の税制優遇措置の打ち切り:650億ドル
 オバマケアに盛り込まれた増税措置:180億ドル
 連邦予算の強制削減措置の開始:650億ドル
 緊急失業給付の期限切れ:260億ドル
 高齢者向け医療保険の医師向け診療報酬削減:110億ドル
 その他の措置の執行など:1050億ドル

「財政の崖」が避けられなければ、「実質的増税」と「強制的な歳出削減」のダブルパンチで、米国は6070億ドルの緊縮財政となる。まさに崖から落下するような急激な財政の引き締めである。

民主党と共和党が合意できず

「財政の崖」問題をめぐる協議で、民主党と共和党の議論が紛糾している。
 オバマ大統領は「財政の崖」を避けるため、「中間層の減税は延長し、富裕層の税率を上げる」と主張している。しかし保守的な共和党は「小さな政府」を主張しており、「増税は一切やめて財政の緊縮を」と譲らない。オバマ大統領と上院の過半数は民主党だが、下院の過半数は共和党が占めている。いわゆる「ねじれ国会」によって議論が平行線をたどっているのだ。
 共和党のベイナー下院議長は、国民の反感を招く「財政の崖」を回避し、かつ共和党も同意できる案として、「プランB」を提示した。「増税は絶対に反対」という立場から、年収100万ドル(8400万円)以上の世帯なら増税を認めるという立場に変わったのだ。
 オバマ大統領は当初、年収25万ドル(2100万円)以上の世帯の増税を主張していた。それを40万ドル(3400万円)にまで妥協した。ベイナー議長は、「プランB」でさらにこれを妥協させようとしたのである。
 しかしベイナー下院議長の「プランB」は、共和党内での支持が得られずに破たんした。共和党内の保守強硬派は、「富裕層の増税は断固反対」なのである。共和党内は、11月の大統領選の敗北以降、強硬路線と妥協路線の分裂が露わになっている。

日本への影響はあるのか

ニューヨーク外国為替市場では、「財政の崖」協議をめぐる不透明感を背景にドル高が進んだ。日本では、安倍総裁の総理就任を見越して円が売られ、対ドルで1年8カ月ぶりの安値をつけた。
 では、年内の残り数日で合意が形成されず、財政が「崖」から転落すればどうなるのだろうか。当然、米国の財政は劇的に縮小し、その余波は日本にもやってくる。
 米国で消費、投資が冷え込めば、日本でも米国向け輸出が打撃を受け、生産や企業収益が冷え込むことになる。来年度の日本の輸出は2%以上マイナスとなり、GDPも1%弱押し下げられる見込みだ。円高も進み、貿易赤字も拡大するだろう。
 さらに1月から10年間で1兆2000億ドル規模の強制削減が開始されることになるが、この中心は国防費の削減であり、アジアの安全保障にも「破壊的な影響を与える」(米政府)ことになってしまう。
 果たして「財政の崖」は避けられるのか。
 専門家の間では、「最終的には合意するというシナリオは変わらない」という意見も多い。しかしいずれにせよ、今後の米国の大国としての地位は非常に不安定だ。これはアジアの安全保障体制にとっても重要な問題である。
 日本は日米同盟を基軸としてこそ成り立つ国家である。早急に国内の議論をまとめ、TPPの交渉にできる限り早く参加するべきである。日米が強い協力関係を結びながら両国の難局を打開する必要がある。
 さらに言えば、日本独自の防衛力も強化する必要がある。日本の自衛隊には報復力が一切ない。自衛隊は、報復力をもつ米軍と一体となって初めて防衛の機能を果たしている。日本独自の防衛力を充実させるための議論が必要な時期にきている。
 米国との関係を強化すること、そして同時に日本独自で日本の安全保障体制を充実させること、この双方に日本は早急に取り組む必要がある。

2012年12月26日

この記事は2012年8月24日に投稿されました。

政府は竹島問題に毅然として向き合え

韓国の李明博大統領が竹島に上陸したことに端を発し、日韓関係は今や「負の連鎖」に入り始めている。しかし日韓両国において、お互いが経済的にも安全保障上でも非常に重要な隣国であることは間違いない。日本政府は、未来志向の日韓関係を築いていくための有効な取り組みを検討すべきだ。
 日韓両国に深い溝をつくってしまった韓国大統領の軽率な行動は極めて遺憾だが、同時に日本の政府が竹島の問題に対してこれまで毅然とした態度をとってこなかったことにもその原因はある。政府はこれまで、「日韓関係の大局に立つ」ために、曖昧な態度をとってきたのだ。しかし日韓関係の未来を考えればこそ、政府は毅然として日本の立場を主張し、竹島問題の解決に向けて粘り強く交渉しなければならなかった。
 具体的には、ICJ(国際司法裁判所)への共同提訴か、第三国(主に米国)による解決のいずれかしか方法はない。そして結論が出れば、両国ともにそれを冷静に受け入れ、そのうえで未来志向の関係を築いていけばいいのだ。

ICJによる判断を仰げ

ICJでは、紛争当事者の双方の合意がなければ裁判が開かれないが、もし韓国による合意が得られればどのような判断が下されることになるのだろうか。
 竹島の領土問題における争点には、主に以下の三点がある。

① 誰が最初に発見し、実効支配をしたか(領土の権原)
② 1905年の日本による竹島編入は有効だったのか
③ 戦後のGHQによる竹島処分の解釈は
(GHQの覚書では、日本の領土や日本漁船の活動範囲から竹島は除外するとある。ただし「日本の領土を確定する最終的なものではない」との断り書きもある。)

 これらの争点に関する日韓双方の主張を以下に簡潔にまとめよう。
 韓国の主張では、①韓国最古の文献「三国史記」(1145年)に于山島の記述があるが、これが現在の獨島であり、最初に発見したのは韓国である。②1905年の日本政府による竹島編入は法的に不十分な手続きであり、秘密裏に行われたので非合法である。③カイロ宣言(1943年)では、「日本が暴力及び貪欲により略取した他の一切の地域」の排除を謳っている、などといっている。
 これに対して日本の主張では、①韓国側の文献に現れる「于山島」には「86人の住民が生活している」とあるが、竹島には水がなく人の定住は困難で、他の島の可能性が高い。日本では、1618年に徳川幕府から出された「竹島渡海免許」の文書が残っている。②1905年の島根県への編入は国際法に則った適法な手続きがなされたものであり、新聞などでも報道されているので秘密裏に行われたとの指摘は当たらない。 ③竹島は、カイロ宣言の「略取した」地域にあたらない(それまでに韓国の領土だったという証拠がない)。韓国の主張は、覚書の断り書きを無視していて不合理であり、GHQ覚書1033号で除外された小笠原諸島、奄美大島、沖縄は後に日本に返還された、などといっている。
 実際これまでのICJの判例を見れば、領土権を主張する根拠は、「国家権能が平穏かつ継続した表示」を基準に判定される場合が多い。ただし現在の韓国の軍事占領は、「平穏」には該当しない。また「国家権能の表示」に関して、「中世の根拠は近代的な他の根拠に置き換えられるべき」であり、歴史文書以上に、近代における国際法に基づく処置をより強い根拠としている。
 日本政府は1905年、竹島であしか漁を営む国民個人からの領土編入貸下願を契機に、閣議決定をもって島根県への編入を決定した。
 韓国では、この編入を「1910年から始まる日帝植民地支配の始まり」として抗議しているが、それまでに韓国が竹島を実効支配していたという記録はなく、「植民地支配」との指摘はあたらない。日本では、当時の資料に関して国有地台帳への登載、あしか漁業許可、 国有地使用料の継続徴収など国家占有の行為に関する記録が残っており、「近代的な根拠」として十分である。
 それでは、竹島に対する米国の立場はどうなのか。李承晩ラインを1952年に設定し、竹島を1953年に実効支配した韓国は、米国に対してその領有権を繰り返し主張してきた。しかし米国は、1954年のヴァン・フリート特命報告書で次のように竹島に対する態度を明確にした。

A)一方的な領海宣言(李承晩ライン)は違法
B)米国政府はサンフランシスコ講和条約において竹島は日本領土であると結論している
C)この領土問題は国際司法裁判所を通じて解決されることが望まれる。
この匿名報告書は、非公式に韓国側にも伝えられた。
 ICJへの共同提訴が不可能であれば、第三国である米国による調停に取り組むという選択肢も当然考えられるのである。

未来志向の日韓関係に取り組め

日本はこれまで竹島問題へのICJへの提訴は韓国への配慮のために見送ってきたが、この態度が完全に裏目に出てしまっている。今こそ未来志向の日韓関係の構築のために、竹島問題の解決に粛々と取り組むべきである。
 特に中国や北朝鮮の脅威が叫ばれる今、日本式の「配慮外交」は通用しない。今こそ政府は竹島問題に正面から向き合うべきである。

2012年8月24日

この記事は2012年1月26日に投稿されました。

中国の台湾統一工作を見抜け

馬氏勝利を喜ぶ中国

台湾の総統選挙で1月14日、馬英九総統(国民党主席)が再選を果たした。得票数に関して言えば、馬総統が689万票、民進党の蔡英文主席が609万票で、その差は80万票という圧勝だった。実はこの圧勝の背後には、中国による対台湾工作が大きな影響を及ぼしていた。
 現在、中国で生活する台湾人は、台湾人ビジネスマンやその家族などで約100万人。馬政権下で中台の経済交流が活性化したおかげだ。その在中国台湾人に対して、中国政府は次のようなメッセージを伝えていた。
 「馬氏が負ければ中台関係は不安定になりますよ。そうなれば、多くの企業が中国から撤退することになりますね」
 さらに、中国政府はこの間、航空便を増発させて台湾人が帰省しやすいようにした。実際、選挙のために帰省した台湾人は20万人とも言われる。その大半が、国民党を支持したことは間違いないだろう。

最大の争点は両岸関係

今回の選挙で最大の争点になったのは、二人の候補者の対中姿勢の違いだ。中国と台湾との関係は、両国が台湾海峡の両岸にあることから「両岸関係」と呼ばれている。馬総統は、2008年に総統に就任して以来、この両岸関係の改善、すなわち雪解けに努めてきた。馬政権が出発すると、中台直行便が就航し、中国人の観光客は台湾の隅々まで押し寄せることになった。また、中国が送り込んだ農産物の買い付け団は、台湾の農業に大きな活気を与えた。現在では、中台直行便は週500往復を超えている。
 さらに一昨年の6月には、ECFA(両岸経済協力枠組協定)が台中間で締結された。この協定は、FTA(自由貿易協定)にあたるもので、この締結によって多くの台湾企業が中国に工場を進出させることになった。その結果、中国の急速な経済成長は台湾に取り込まれ、経済産業界に大きな恩恵をもたらしたのである。
 こうして台湾は、中国への依存度を大きく高めることになった。

両岸関係の危機

馬氏が関係改善に取り組む以前に目を移すと、両岸関係は一触即発の危機的状況にあったと言える。
 台湾の総統が初めて直接選挙で選ばれたのは、1996年である。この選挙で、台湾の独立を強く主張する現総統・李登輝氏(国民党)の優勢が強まってくると、中国は軍事力を用いてこの選挙に圧力をかけた。人民解放軍が、台湾沿岸にミサイルを撃ち込み、威嚇行為を行なったのである。台湾国内では、この威嚇行為に対して激しい反発が巻き起こり、李氏は結局地滑り的勝利を収めたのだった。
 李氏勝利の4年後、2000年の総統選を制したのは、民進党の陳水扁氏だった。陳氏は、東西ドイツの統一をモデルとして、中国からの独立を繰り返し訴えた。
 国際的な呼称も、それまでの「中国、中華 (China) 」から「台湾 (Taiwan) 」に置き換えられた。経済的にも、中国への依存度を下げるために、台湾企業に対して東南アジア諸国へ投資するよう要望した。
 これに対して中国は、「反国家分裂法」を成立させ、「台湾が独立を宣言した場合、台湾独立派分子に対する『非平和的手段』を取る」とし、軍事力の行使も合法化した。こうして両岸関係の緊張は、その頂点に達し、いつ戦争が起きてもおかしくない状況にまでなっていたのである。

中国の路線変更

この緊張関係を一変させたのが、2008年に就任した馬総統だった。馬総統は、経済を中心にした融和路線へと大きくかじを切り、世界が不況にあえぐ中、両国に大きな恩恵をもたらしたのである。
 では、中国は今、台湾に対して何を望んでいるのか。結論から言えば、中国の狙いは、「台湾の統一」である。台湾沿岸にミサイルを撃ち込んだ時も、そして経済交流を盛んに推し進める現在も、中国の台湾統一工作の目的はまったく変わっていないのである。
 中国の現在の戦略は、「先経後政」路線である。経済交流を推し進め、台湾が中国依存から抜け出せないようになってから、その後に政治戦略を推し進める計画なのだ。
 中国国内では、今年の秋に共産党大会が開かれる。そこでは、党総書記が胡錦濤氏から習近平氏に交代することが決まっている。それまでに胡錦濤総書記が、何らかの形で台湾に働きかけることは間違いないだろう。逆に働きかけが何もなければ、胡錦濤総書記は党内や軍部の過激派から大きな突き上げを食らうことになる。
 今や経済的に大きく依存する中国の意向を、馬政権ははねのけることができるのだろうか。台湾に照準を合わせた弾道ミサイルを、国内に1400発超配備している中国の統一工作に、毅然と立ち向かうことはできるのだろうか。
 上海万国博覧会があった2010年までは、中国も国際社会の反応を気にしていたが、今やそのブレーキもなくなった。加えて米国では、今年の11月に大統領選を控えており、今はこれ以上の不安定要因を抱えたくないというのが本音でもある。昨年の9月に、米国が台湾への武器売却を見送ったのも、こうした理由で中国に配慮したからに他ならない。
 日本の周辺には緊迫した状況が広がっている。いつまでも憲法前文にある通り、「諸国民の公正と信義に信頼し」続けていてもいいのだろうか。最悪の事態に備え、「想定外」をなくさなければ、日本が国家としての形態を備えているとは到底言うことはできない。有事に備え、緊急事態に備える覚悟と体制が、今の日本には必要である。

2012年1月26日

この記事は2011年2月25日に投稿されました。

投機マネーを規制し食料・原油価格の高騰を防げ

食糧や原油価格の高騰が止まらない。穀物の国際価格は最高値になりつつある。中東の「ジャスミン革命」が原油産地を直撃し、とりわけリビアで生産が半減したことで2008年の高騰時の価格に迫っている。貧困層ほどその影響を受け、インドを始め世界各地で抗議デモが起こっている。グローバル経済システムの問題点を浮き彫りにしていると言えよう。

天候・需要・バイオ・投資の4つの要因

世界銀行は2月15日、高騰する食料品価格の監視報告書を発表した。それによると今年1月には昨年同月比に比較して29%高騰した。これは事態が深刻化し暴動が起こった2008年6月の水準に迫るものだ。シカゴ市場では2月、国際価格が上昇し始めた2010年6月比でトウモロコシ2・1倍、小麦1・9倍、大豆1・4倍など軒並み高騰している。これに伴って世界的なインフレ傾向となり、低所得者ほど苦しくなっている。これが中東の政情不安を引き起こし、政治・経済の大きなリスク要因になっているのだ。原因は①生産国の天候不順②新興国の需要拡大③バイオエタノールの拡大④投資資金の流入の4つである。
まず天候不順。高騰の引き金となったのはロシアが昨年8月、干ばつで穀物輸出を停止したことだ。さらに今年に入って小麦の一大産地であるオーストラリアが干ばつと洪水被害、中国が干ばつに見舞われ、食糧価格を押し上げた。それでなくても世界では土壌劣化で耕作面積が1981年をピークに減り続けている。塩害や砂漠化によって世界の大地の17%に相当する20億ヘクタールの肥沃な大地が失われた。今後、「世界の食糧庫」の北米や豪州が厳しくなる可能性がある。異常気象による気候・降雨パターンの変化で、食糧庫になっている中緯度の大陸内の農業地帯で干ばつが頻繁に起こっているからだ。今年の干ばつは一過性に終わらないと見ておかねばならない。
 新興国の需要拡大で最も大きな影響を及ぼしているのは中国だ。1990年代半ばから輸入量が拡大し、2010年は99年比で5倍以上にもなった。中国当局は食糧不足に陥るのを恐れて在庫増に動き、現在、世界のトウモロコシの約45%、コメの約50%を中国国内に溜め込んでいる。これが食糧価格の押し上げ要因となった。またインド、ブラジル、ロシアなどの経済成長国でも需要が急増し、輸入増に走って価格を押し上げた。米国ではトウモロコシ生産量が11年は91年比で約60%増加しているが、在庫率は約20%から5・5%へと激減している。ブッシュ前米大統領が06年1月に環境対策として「バイオ燃料宣言」を行い、2020年までのエタノール生産目標を360億ガロン(06年生産能力の7・5倍)に設定したからだ。これを受け米農家が小麦や大豆栽培からトウモロコシ増産に転換を図り、世界の穀物生産量の4・7%(1億トン)がバイオ燃料のトウモロコシ栽培に移行、これが食糧価格高騰の一因となった。その影響が今も続いている。一方、投資資金はシカゴ市場で昨年末には約160億ドル(約1兆3000億円)に達し、過去最高水準となっている。この4つの要因で有効な手立てが打たれない限り、混乱は避けられそうにない。

原油高騰が食料価格をさらに押し上げる悪循環に

2008年には食料価格が高騰し、世界各地で暴動が起きた。サブプライム・ショックとバイオ燃料拡大を背景に投機マネーが穀物市場に流れ込んだからだ。04年のデータでは、世界の穀物生産量は19億5600万トンで、これに対する消費量は19億8800万トン、差し引き3000万トン以上も不足している。国連食糧農業機関(FAO)によると、世界の飢餓人口は07年推計で9億2300万人だが、03~05年比で約7500万人増えたという。国連は2015年までに飢餓人口を半減させるとしたが、半減どころか増えているのが実態である。世界では毎年、人口が1億人ほど増加するのに対して食糧生産が追いついていないのだ。それで食料価格の上昇が続き、加えて今回の価格高騰だ。世界銀行のゼーリング総裁は「のんびり構えている暇はない。世界の食料品価格は危険水準に達している」と警告している。最も深刻なのは、エンゲル係数(家計に占める食料費の割合)が40%以上の中央アジアだ。昨年末で食糧価格は54%も上昇しており、2008年の食糧暴動の域に達しつつある。今回の食糧高騰によって最貧困層は世界全体で4400万人増加したと見られているのだ。
 原油価格の高騰も深刻だ。ニューヨーク原油先物市場では2月24日、国際指標となるテキサス産軽質油(WTI、4月渡し)が約2年5カ月ぶりに1バレル=103ドル台をつけた(読売新聞2月25日付)。産油国リビアで油田の生産中止の動きが出ているのと世界的な金融緩和であふれた資金が原油市場に流れ込み、価格上昇をもたらしている。中東の混乱が産油国にさらに広がれば、08年7月のリーマン・ショック前の史上最高値の1バレル=147ドルの水準まで高騰する恐れがある。ちなみに中東情勢の悪化を受けて投資家は株を売って債券を買うなどのリスク回避に動いており、ニューヨークや東京などで株安を招き、経済成長の足を引っ張っている。原油価格の高騰は農業コストも上昇させる。すでにここ数年で肥料価格は3倍近く値上がりしており、食料価格のさらなる上昇は避けられず、貧困層であればあるほど打撃を受けることになる。08年の食糧危機では世界食糧計画(WFP)のシーラン事務局長は、食糧危機を国境に関係なく押し寄せる「静かなツナミ」と表現した。まさに今、その「静かなツナミ」が貧困国を襲おうとしているのだ。こうした悪循環を何としても断ち切らねばならない。

数10ドル規模の投機マネーが徘徊している

悪しき投機主義を世界から一掃しなければならない。このままでは世界がカジノにされてしまう。投資ファンドやヘッジファンドに集まった何10兆ドルもの巨額な資金や新興国マネー(外貨準備)が富を求めて世界中を駆け巡っている。それも財やサービスを生産する実体経済にではなく、投機的な運用によって1ドルでも多くの金を生み出す金融経済に投入され、食料・原油価格の高騰をもたらしているのだ。この現実を直視せざるを得ない。
 投機マネーは世界の株式市場には70兆ドル(5740兆円)、債券市場には50兆ドル(4100兆円)という巨額が投入されており、株安・ドル安に嫌気をさし食糧や原油に向いている。日本政府の「エネルギー白書」(07年度)によれば、当時の原油高の3分の1が投機マネーによってもたらされていると結論づけている。原油などの1次産品に投資する「商品インデックスファンド」の投資残高1800億ドル(15兆円)の3分の1の約500億ドル(4兆円)が原油取引に回っているからだ。その結果、先物相場の指標となるテキサス産軽質油(WTT)の07年1~12月の平均価格1バレル=90ドルのうち30~40ドル分が投機マネーで押し上げられたという。これを日本のガソリン価格でみると、08年6月時点で1リッター約170円という高値をつけたが、投機マネーが入らなければ100円前後にとどまっていたはずだとしている。
 これら資金は原油だけでなく金、資源などの先物市場にも流れ込んだ。米国の原油先物市場の規模は1400億ドル(11兆円)規模。金の産出総額は4兆ドル強(330兆円)で、その先物市場は400億ドル(3兆円強)規模だ。そこに数10兆ドル規模の巨額マネーが流れ込めば、たちどころに原油高や金高騰を招くのは自明のことだ。中東混乱のゆえに原油高を招いているが、皮肉なことにこれによって巨額の資金が中東などの産油国に入る(ロシアは高笑いだ)。日本は原油輸入の9割を中東産油国に依存しており、1年間で約6兆5000億円を支払っている。高騰していけば、10兆円に迫り、消費税の税額に匹敵する巨額資金を中東産油国に支払うことになる。産油国はこうした資金を政府系投資ファンドに回し(2・5兆ドル=200兆円と目される)、それが再び、原油の先物市場に投資されて原油高へと導く。金が金を生み出す錬金術だ。マネーゲームがある限り、原油価格は上がり続ける仕組みなのである。

新たな投機マネー規制の仕組み作りが急がれる

これに加えて年金資金だ。これも巨額で、世界では17兆ドル(約1400兆円)にのぼると見られ、これらを機関投資家が運用している。さらに中国やインドなどの新興国マネー(外貨準備)がある。これはヘッジファンドなどに回されており、ざっと2兆ドル(約160兆円)は下らないとされる。ヘッジファンドは投機的行動が目立ち、1992年秋の欧州通貨危機の一因を作った。これらの10兆ドル規模の投機マネーが“金のなる木”を探して世界を徘徊しているのだ。原油の需要は新興国で急速に伸び今後、さらなる需要拡大が望める。それでここ数年、じわりじわりと価格上昇を続け、上がることはあっても下がらないという「右肩上がり神話」が成り立ち、これが投機マネーの絶好のターゲットとなっている。その矛先が食糧にも向けられているのだ。こうした投機マネーを規制する新たな仕組みを作らない限り、原油・食糧価格の高騰は避けられない。

2011年2月25日

この記事は2011年2月21日に投稿されました。

米国の新たな「国家軍事戦略」をどう読むか

米統合参謀本部は2月8日、「国防戦略」と「国家安全保障戦略」を具体的に遂行する指導文書「国家軍事戦略」を改定し公表した。改定は2004年以来7年ぶりで、昨年2月に定めた米軍の基本方針「4年ごとの国防政策見直し」(QDR)を具体化するものである。同戦略はアジア太平洋地域を重視するとともに、わが国に対しては自衛隊による域外活動の拡大や日韓の軍事協力強化を促しているのが特徴である。言うまでもなくわが国は日米同盟を自衛力とともに安全保障の柱に据えているから、米国の軍事戦略の改定は即、日本の軍事戦略に影響を与える。民主党政権下で初めて作られた新「防衛大綱」はあまりにもお粗末すぎる。そのことを改めて感じさせる米軍事戦略である。

アジア太平洋を重視し、積極的関与を表明した

「国家軍事戦略」は、4年前の従来のものと比較するとイラク・アフガニスタンの2戦争への比重が下がり、それに代わって米国の国益においてアジア太平洋地域の比重が高まっているとし、同時にサイバー戦など新たな事態を重視、さらに同盟関係の強化を強調しているのが特徴である。同戦略は従来の3大構想(「国家防衛」「突然の攻撃への防備」「相手に勝利」)に限定せず、より一層の戦略的高度化を目指し、「極端な情況下では米軍は自由に行動することが可能だが、通常の情況下では他国軍との連合および同盟を引き続き追求する」として同盟強化を打ち出している。それには北大西洋条約機構(NATO)との協力を主軸に、アフリカ連合(AU)、東南アジア諸国連合(ASEAN)、その他の国家連合との軍事協力を開拓するとし、従来型の政府外交、軍事外交、非政府組織外交など多くのチャンネルや枠組みを結合した新たな外交モデルを形成しなければならないと、積極的関与を表明している。これは歓迎してよい。米国が金融危機から内向きになり、国際的孤立主義(新モンロー主義)に陥りはしないか、懸念されていたからだ。

自衛隊に海外活動能力向上と日韓軍事協力うながす

アジア太平洋地域を重視するのは言うまでもなく、中国の覇権主義的軍拡路線に対抗するためだ。同戦略は中国の意図が不透明な軍拡や南シナ海・東シナ海などでの「自己主張」の強まりに「懸念を持ち続けている」と牽制し、米軍の強固な軍事的プレゼンスが「今後数10年間維持されることを期待する」と強調した。そのため同盟国のフィリピンやタイに加え、ベトナム、マレーシア、インドネシアといった東南アジアの主要国との軍事交流や演習を強化するとし、多国間軍事演習の拡充方針を明記、さらにインドとも核不拡散やテロ対策などで関係を強化するとしている。
 日本に対しては「自衛隊の域外運用能力向上に協力する」とし、日本が積極的に対外関与するよう促している。これを日本の一部マスコミは「具体的内容には触れていないが、平和維持活動、海賊対策、災害・人道支援などが念頭にあるものと見られる」(朝日新聞2月9日付夕刊)としているが、これは偏った見方だ。米国はそうした「人道上」だけでなく、安全保障自体への日本の関与を強く求めているのだ。戦後体制の“呪縛”からの解放を促していると言ってよい。同戦略は日本と対比するように韓国を取り上げ「韓国は世界で米国が取り組む安全保障の努力を支援する確固たる同盟国であることを証明してきた」と記述している。逆に言えば、日本は確固たる同盟国であることを証明してこなかったのだ。この米国の苛立ちを見誤ってはならない。同戦略は「日本と韓国の防衛協力を後押しする」としており、米韓日の軍事同盟化を示唆していることも想起しておくべきである。

中国を念頭に初めてサイバー戦の脅威を取り上げる

米軍事戦略は「サイバー戦の脅威」を強調しているのも特徴だ。宇宙やサイバー空間も含めた「地球規模の公共財(グローバルコモンズ)」へのアクセスや利用を妨げる国の行動に対しては「我々の意思を証明する用意がある」と、名指しにこそしなかったが中国に警告を発した。さらに「サイバー攻撃の潜在的脅威が増しており、一部の国はサイバー攻撃を実行または黙認している。これは世界的なサイバー危機が増加し続けることを予告するものだ。国際的規制の不備、攻撃発信源特定の難しさ、攻撃への防御の不備によって、サイバー上の脅威は拡大、悪化し続けている」とし、個別の軍事戦略として初めて「サイバー上の脅威への対応」を挙げた。米国防総省はすでに2月4日、中国の衛星攻撃能力を念頭に初の「国家安全保障宇宙戦略」を発表している(「今日の視点」2月9日付参照)。

太平洋から中東にいたる「不安定な弧」を重視

ところで同軍事戦略の基礎となっている「4年ごとの国防政策見直し」(QDR)報告書は昨年2月に発表されている。QDRは国家安全保障戦略(NSS)に基づくもので、20年後を視野に入れた米国防総省の中長期的な戦略文書である。ブッシュ前政権は01年のQDRで「2正面作戦」から脱却し米本土防衛を重点に中東から東アジアに至る地域を新たに「不安定な弧」と名付け米軍再編に着手。02年9月に「ブッシュ・ドクトリン」(国家安全保障戦略)を打ち出し、国際テロと中国の軍拡への対応を柱にアジアでは太平洋重視の米軍再編案を示し、日米同盟をより一層重視した。昨年のQDRはこうした軍事戦略の基本路線を踏襲し、それを深化させているのが特徴で、「不確実」な事態への柔軟対応の確立を目指すとした。中でも中国やロシアなど「戦略的岐路にある国家群」の不確実性に備えるとし、これら諸国が軍事的な敵対の道に向かわないための誘導戦略とともに、万一の事態にも機敏に対応する態勢作りを急ぐとした。今回の国家軍事戦略はその一歩とするものだ。
 オバマ政権はブッシュ前政権と同様に「不安定な弧」への対応を最も重視していることを忘れてはならない。「不安定の弧」は韓半島から東シナ海、台湾、南シナ海(すなわち西太平洋)、そしてマラッカ海峡を越えてインド洋、中東、中央アジア、バルカン半島に至る地域で、アラブもイラン、アフガンも含む、まさに「世界の火薬庫」である。ここに中国、インド、ロシアが深く関わっており、紛争がいつ大国間戦争に発展しても不思議ではない。20年後を見据えれば、今以上に重要な戦略的要衝になるのは明白である。QDRは太平洋での艦隊のプレゼンスを増やすとし、海軍は世界で11群の空母攻撃群を展開する方針だが、このうち最低6個群を太平洋に配置し、さらに潜水艦の60%を太平洋に集中させるとした。これは米国が太平洋守護宣言と言ってよい。

沖縄の在日米軍基地の役割は一層高まる

とくに太平洋における同盟国として「日本、オーストラリア、韓国」と日本を真っ先に挙げ、日本を「米国の力のよりどころの一つである同盟国」と位置付けた。それゆえに在日米軍基地とりわけ沖縄米軍基地はこれまで以上に重要になるのだ。これに対して民主党政権は普天間問題で明らかなように、まったく動こうとしないばかりか、新たな「防衛大綱」では「動的防衛力」という意味不明な概念で事実上の防衛力削減策を打ち出した。これで太平洋アジアを守れない。その苛立ちが軍事戦略に現われていると見ておかねばならない。

2011年2月21日

この記事は2011年2月6日に投稿されました。

幻のブッシュ「中東民主化構想」を再考する

9・11同時多発後のブッシュ米政権に「中東民主化構想」があった。いまや幻の構想である。だが、チュニジアの「ジャスミン革命」がアラブ全域に波及し、エジプトを揺るがしている現在、あらためてこの構想に注目したい。中東に民主化は必要なのか、必要ならどんなプログラムが望ましいのか、ブッシュ構想は再考されてよい。

世界の通商地図から抜け落ちた中東

10年前の2001年の9・11以降、ブッシュ米政権は次のように考えた。
―アラブの独裁政権が富を独占し、貧富の格差が広がり若者には雇用の機会もない。独裁政権は彼らの不満のはけ口として「反ユダヤ」「反米」を煽っている。その拠点となっているのが独裁政権の援助によって成立しているモスクや宗教指導者で、そこから「ビンラディン」(国際テロ組織アルカイダの指導者)が登場した。9・11のハイジャック犯はサウジアラビアとエジプト出身者だ。ビンラディン主義が「円循環」して再生産されるシステム、それがアラブの独裁政権によって作られている。ゆえに、中東を民主化し民衆をビンラディン主義から解放しなければならない―
 21世紀初頭、イスラム・アラブ圏は世界経済の発展から取り残されていた。当時、総人口13億人のイスラム諸国(約60カ国)全体への投資額は136億ドル(約1兆5000億円)にすぎず、スウェーデン(900万人)1国への投資とほぼ等しかった。中東アラブ諸国(22カ国)の輸出合計の世界シェアは1980年の13・3%から2001年には4・3%にまで低下していた。米・進歩的政策研究所のグレッサー部長は「アラブの民は今、世界の通商地図から抜け落ち、経済成長からも取り残されている」(日本経済新聞03年4月11日付)と指摘した。中東諸国全体のGDP(国内総生産)はスペイン1国よりも小さい。
 なぜこれほどまで経済成長に後れをとったのか。国連開発計画(UNDP)の報告書は、その理由を①自由が十分でなく②女性の権利が認められず③良質の教育が行われていない―としている。同報告は「1980年代から90年代初頭まで、ラテンアメリカと東アジアの大部分は政治体制を一変させた民主主義の波がアラブ国家には届かなかった。自由がないために人間的発展が遅れてしまう。市民としての自由、政治的権利、国民の発言権、メディアの独立性、政府の説明責任が世界の7大地域の中でアラブ地域の自由度が最も低い」と嘆いた。こういう状況を米国のリベラリストたちは大いに憂いた(ブッシュ政権側の人間だけではない)。たとえばニューヨーク・タイムズの名コラムニスト、トーマス・フリードマンは「これがビンラディン主義を生み出した社会経済的環境」と断じている(『グラウンド・ゼロ』)。

能力と機会の貧困からいかに脱却するか

アラブ諸国は2020年には人口が4億人以上になる。「すでに都市は人口過密で増大する世代が怒りとも貧しさとも無縁で成長しようとすれば、アラブ世界はまず貧困を克服しなければならない。それは経済的貧困ではない。能力と機会の貧困だ」とフリードマンは言う。UNDP報告もこう言った、「アラブ世界は今、岐路に立っている。無気力と無能力という名の道をだらだらと歩み続けるか、それとも人間として発展し、アラブ・ルネッサンスを実現しようという希望を追い求めるか。根本的には、どちらかを選ぶことだ」
 イスラム教が本来の価値を見いだし、現代にしっかりと対応できるようにするには、聖典の解釈の自由などイスラム教指導者が決断しなければならない課題が多い、という指摘も少なくない。シャリフ(イスラム法)の徹底施行を強要し反イスラム・反政府情報を締め出し続けると、イスラム教しか知らず、世界や他宗教を知るチャンスも情報もなく、自由な発想もできずに自由経済から脱落していく。サウジアラビアのキング・サウド大学のリーマ・ジャルフ教授は、サウジの小学4年から高校3年までの歴史教科書の記述内容を分析しているが、それによるとサウジを含めた中東イスラムの記述が全体の98・5%を占め、それ以外は1・5%にすぎない。同教授は“偏狭な歴史観”がテロの背景になっているとして教科書改革を求めている。

「米国の価値」でなくアラブ流の民主化を模索する

以上のような背景からブッシュ政権は「中東民主化構想」を描いた。そのロードマップは①第1段階=アラブ諸国はテロ・暴力組織への支援停止・テロ摘発。パレスチナ自治政府構築に協力。イラク復興への人道的、財政的支援②第2段階=先進国はアラブ諸国の輸入製品関税率をゼロにして経済支援し自由貿易協定(FTA)を締結。アラブ諸国は市民的自由、政治的権利、メディアの独立性、政府の説明責任など社会的経済的環境改善策を講ずる③第3段階=中東自由貿易圏を構築する―というもので、2012年までにこれら構想を実現したいと考えた。ブッシュ大統領は「中東地域の苦しみは米国のテロ被害につながるため、同地域で自由と平和を促進し、経済繁栄を実現することが重要である」と強調した。むろん、米国がアラブ諸国に関与すればするほど、イスラムの価値と衝突する可能性も高い。だから米国の著名な保守派ジャーナリスト、ボルシュグラーブは「文明の衝突に配慮せよ」と促した。だが、アラブの貧困を見逃せば、フリードマンが述べたようにビンラディン主義が再生され続ける。米国はこのジレンマに立たされた。中東民主化は「米国の価値」を押し付けるのではなく、いかに中東地域の繁栄を助けるのかに主眼を置くべきだ、西洋的な「民主主義国家」でなくともアラブ流の民主化があってもよい。そんな模索を続けることになったが、米国は2003年のイラク戦争によってイラクに釘付けにされ、それ以降はイラク民主化に集中し、アラブ全体の課題は二の次になった。オバマ政権はアフガニスタン戦争に意識を移した。そして今、チュニジア、エジプトの民主化の波がアラブの独裁政権を揺るがすようになったのである。

今こそ「アラブの覚醒」で新地平を拓け

米国の「中東民主化構想」から7年が経って、アラブ世界は変わっただろうか。答えはノーだ。確かに為政者たちには変化が見られる。それは石油依存体質から脱却しようとしていることだ。かつてサウジのヤマニ石油相は「いくら石油の埋蔵量があっても、新たなエネルギーが登場すれば、一瞬にして石油は見捨てられる」として、石油依存への危険性を述べたことがある。その石油埋蔵量もおそらく2040年には枯渇するだろう。そうなれば、もはやオイルマネーに依存できない。だから石油枯渇後にいかに備えるか、脱石油をいかに果たすか、それがアラブ産油国の最大の課題なのだ。それでドバイのように金融・リゾート都市国家を目指し、カタールやオマーンもそれに続いた。次なる時代を見据え、原子力発電所の建設も始める。そんな成長一辺倒策はバブル経済を引き起こし、そして2009年にドバイのバブルは破裂した。為政者たちは新たな模索を余儀なくされている。
 だが、前述のUNDP報告が指摘した問題点は何ひとつ克服されていない。相変わらずオイルマネーの恩恵に依存し、働かない社会的雰囲気に満ちている。人口増加率はきわめて高く、若年層(15~29歳)はアラブ全体の人口の3分の1以上を占めているのに、彼らの失業率は21・7%に及んでいる。これは成人の失業率(5・5%)の実に4倍だ。大学などの高等教育進学率も低いままだ(大半の国が20%以下)。民間企業の活動も弱く、雇用が喪失されない。それでいて為政者(独裁政権)に連なる一部の特権階級だけがオイルマネーの恩恵を独り占めし優雅な生活を送っている。これではアラブは遠からず、立ち行かなくなる。
 かつてイスラムは商人の代名詞でもあった。ブハーリーなど歴史上の大学者と呼ばれたウラマー(法学者)も商業を営むことで経済基盤を築いた。インドネシアなど東南アジアをイスラム化したのは海上貿易に携わるイスラム商人だった。イスラムにはキリスト教的な教会組織があるわけでもなく、聖と俗の区別があるわけでもない。それはイスラム教の成立時からそうであり、預言者ムハンマド自身が商人であった。そうしたイスラムの原点に立ち戻るときではないか。今こそ「イスラムの覚醒」「アラブの覚醒」によって新地平を拓くべきときだ。イスラムの「ウンマ」と呼ばれる伝統的な共同体を国家へと昇華させ、新たな国民共同体を創る。そうした道を歩まない限り、アラブも世界も幸福になれない。

2011年2月6日

この記事は2011年2月3日に投稿されました。

エジプトが震源地となる「アラブ・ショック」

アラブが揺れ動いている。チュニジアの「ジャスミン革命」に続き、エジプトで反ムバラク100万人デモが巻き起こり、政権側との軋轢が頂点に達しようとしている。まさにアラブ・ショックだ。独裁国家が民衆によって倒されるのは心地よい風景かもしれない。だが、アラブ情勢はそんな単純なものではない。アラブの大国かつ親米国であり、中東和平の立役者でもあったエジプト・ムバラク政権が崩壊し、周辺諸国に波及するドミノ現象へと発展すれば、中東は大混乱に陥る。情勢の行方を我々は慎重に見守らねばならない。

チュニジアの「ジャスミン革命」が波及

アラブ・ショックの引き金となったチュニジアは人口1000万人で、年3~6%の経済成長率を続け、1人当たり国内総生産(GDP)は過去10年で倍増し現在は約4100ドル。北アフリカの優等生と呼ばれてきた。昨年12月には前原外相や大畠経済産業相(当時)らが首都チュニスを訪れ、太陽熱発電など約30の新規事業に合意したばかりだった。その一方で、国内では不満のマグマがたまり続けてきた。経済成長とは裏腹に失業率が高く、とりわけ国民の半数を占める30歳未満の失業率が高く、大卒者ですら20%を越えており、若者の不満がつのっていたのだ。政権はそうした不満を顧みなかった。1987年にクーデターによって政権を握ったベンアリ大統領が5期23年にわたって強権をふるってきたからだ。軍情報部出身のベンアリ大統領は秘密警察を全土に張り巡らせ、政治活動を制限、メディアを握り厳しく言論を統制し、報道の自由度ランキングは世界178カ国中164位(「国境なき記者団」調べ)という低さだった。
 独裁には腐敗がつきものだ。ベンアリ政権も例外でなく、国有企業が民営化されると親族がそれを私物化し、それを末端役人も見習い、腐敗は全土に及んでいた。そうした中で民衆革命の引き金となったのは昨年12月、チュニジア中部のシディブジドで役人の腐敗に絶望した26歳の男性が抗議の焼身自殺をしたことだった。政権に厳しく監視されるメディアは一切報じないが、インターネットを通じて情報が若者に広がり、抗議デモが始まった。政権側はそうした情報も封印しようとしたが、ネット普及率の高さが「情報の障壁」を打ち破った。とくにフェイスブックやツイッターなど個人と個人を結ぶソーシャルメディアがデモ行進やそれを弾圧する治安当局の動きを動画で発信し続けた。かくして情報は拡散し、ついに全土を揺るがす抗議デモへと発展。ベンアリ大統領は1月14日、海外脱出するにいたったのである。フェイスブックやツイッターといった個人ツールが独裁政権をひっくり返し、国花から「ジャスミン革命」と名づけられた。ジャスミン革命はまだ途上だが、周辺のアラブ諸国へと波及、とりわけ最大の親米国エジプトを揺るがしている。

親米・親イスラエルのエジプト崩壊の脅威

エジプトは人口8300万人でアラブ最大だ。ナーセル元大統領の汎アラブ主義はアラブ全体に大きな影響を与え、イスラエルとの間でスエズ戦争(56年、第2次中東戦争で勝利)、6日戦争(67年、第3次中東戦争で惨敗)を戦った。だが、後継のサダト元大統領は77年、長年の仇敵だったイスラエルとの対話を決意し、劇的なエルサレム訪問を行って、イスラエルのベギン首相と和平交渉を開始。親米路線に舵を切り78年に米国の仲介でキャンプデービッド合意にこぎつけた。そこから中東和平が始まった。ムバラク大統領がこの路線を継承してきたことを想起しておかねばならない。こうしたエジプトが作った大河の中で、武装闘争に明け暮れていたパレスチナ側もイスラエルとの対話に応じ、91年10月のマドリード会議、オスロ合意を経て93年9月、パレスチナの暫定自治を認める宣言に至り、さらに2003年、イスラエルとパレスチナが共存する「パレスチナ和平ロードマップ」が作られるに至った。ロードマップは一進一退だが、曲がりなりにも和平への道筋ができたのはエジプトがイスラエルとの共存路線を採り、親米国として存在したからだ。だからムバラク政権が崩壊した場合、どんな政権が登場するかによってパレスチナ和平、そしてアラブ全体の将来を決すると言っても過言ではない。
 エジプトではサダト前大統領が暗殺されて以降、約30年にわたり非常事態令が発令されたままで、ムバラク大統領体制が29年間続いてきた。内実はチュニジアと似ている。ムバラク大統領の側近勢力が政権の恩恵にあずかり、人口の約4割が1日2ドル以下という貧富の格差が激しい。昨年11月のエジプト人民議会(国会=公選議席508)選挙ではムバラク大統領の与党、国民民主党(NDP)が圧勝し、最大野党勢力であるムスリム同胞団は数議席に激減した(選挙前は2割の議席保持)。これには不正疑惑が浮上し、ムバラク体制への不満が高まっていた。問題はムバラク政権が倒れた際、どういう勢力が台頭するかである。軍主導やムバラク系が政権を握れば問題ないが、反イスラエルのイスラム原理主義組織、ムスリム同胞団が政権入りすれば、反イスラエル色が強まるとともに国内でイスラム原理主義が台頭、反米路線へと転換する可能性が出てくる。そうなれば、アラブ・ショックはかなりの深刻度で中東全域に波及するだろう。ムスリム同胞団の最高幹部、ラシャド・バイユーミ氏(カイロ大学教授)はムバラク大統領退陣後の政権で主導権を握ることに強い意欲を示している(2月2日・カイロ時事)。

イスラム原理主義・アルカイダの台頭も

アラブの長期独裁政権は、リビア(1969年以降、カダフィ独裁=自由度ランキング133位)、シリア(40年間、アサド父子の独裁=173位)、ヨルダン(立憲君主制だが事実上のアブドラ国王体制=120位)、サウジアラビア(1932年の建国以来、絶対君主制=157位)、オマーン(1970年以来、カブース国王=124位)、イエメン(1990年以来、サレハ大統領=170位)といった具合に自由度が低い。しかも、これらアラブ諸国はすべて若者の国である。アラブ全体で2020年には4億人を超すと見られるが、その6割以上が若者となる。彼らの失業率が高く、不満が渦巻いている。9・11同時多発テロの実行犯19人のうち実に15人がサウジ出身者だったことを忘れてはならない(アルカイダの温床だ)。加えて長期独裁で若者の失業率が高く、自由度の低い国は中央アジアへと連なっている。エジプトの行方は実にアラブのみならず、世界情勢を揺るがす。注視しておこう。

2011年2月3日

この記事は2011年1月27日に投稿されました。

オバマ一般教書「スプートニク・ショック」の意義

バラク・オバマ大統領は名弁士である。1月25日、オバマ大統領は「未来を勝ち取る(Win the Future)」をキーワードとする一般教書演説を行ったが、米国民の夢に訴える大演説だったといってよい。昨年の初の一般教書演説では「米国が2位になることは認めない」だったが、金融危機から約2年が過ぎ「株式市場は再び活性化した」と宣言し、「雇用や雇用がもたらす生活の質」という視点に立つことを求め、中国など新興国の台頭に対して米国が将来も世界的指導力を発揮できるよう経済競争力の強化を訴えた。その演説の中で飛び出したのが「スプートニク・ショック」だった。現在の状況を「我々の世代にとってスプートニクの瞬間だ」と強調し、チャレンジ精神の発揮を国民に訴えたのである。米国には精神的革命が何よりも必要とされているのだ。

「第2の真珠湾奇襲」となったソ連の宇宙開発

「スプートニク・ショック」とは何だったのか。これは1957年10月4日、「アメリカの食らった『第2の真珠湾奇襲』」と呼ばれたものである。この日、ソ連は米国を出し抜いて史上初の人工衛星スプートニク1号の打ち上げに成功したからだ。ロシア語で衛星あるいは同伴者を意味するスプートニクは直径83・6キログラムのアルミニウム製の球体である。周囲の密度と温度を測定する計測器を積んでいるシンプルな人工衛星だが、これを宇宙に送り出すには「第1宇宙速度」で飛ばさねばならない。この速度は高度200キローメートル以上で水平方向に毎秒7・9キロメートルの速度を与えれば地球の軌道に乗るというもので、これ以下なら物体は地上に落下する。これだけの力を出せるロケットがあれば、「第1宇宙速度」の壁を破り人工衛星が生まれる。スプートニク1号は人類で始めてこれをやり遂げたのだった。米国にとってこれが「スプートニク・ショック」である。その直前にソ連はICBM(大陸間弾道弾)の開発に成功しており、それに続く人工衛星は真珠湾以来の衝撃を米国社会に与えたのだった。
 当時、上院議員で後にケネディ大統領のもとで副大統領になるリンドン・ジョンソンは次のように述べている。「ローマ帝国が世界を支配したのは道路を建設する力があったからだ。その後、海の時代となって大英帝国が世界に君臨したのは船を持っていたからだ。次に空の時代となり、我々が力を得た。ところが今、共産主義者が宇宙の時代の足場を築いたのだ」。しかもこのショックの覚めやらない1ヵ月後の1957年11月、ソ連はライカ犬を搭載したスプートニク2号の打ち上げにも成功した。焦ったアイゼンハワー大統領は1957年12月、屈辱挽回をこめてロケット打ち上げを敢行するが、重量がスプートニクのたった50分の1(1・6キログラム)の軽量にもかかわらず、わずか6インチあがっただけで墜落した(あがらなかった)。翌1958年1月にようやく打ち上げに成功したものの、「宇宙に浮かぶアメリカ・オレンジ」とフルシチョフに冷笑されるほどの小さな衛星だった。そこで米国は1958年10月にNASA(国家航空宇宙局)を創設し巻き返しを狙った。

アポロ計画成功は「勝共」の精神だった

だが、1961年4月に「ガガーリン・ショック」に見舞われることになる。4月12日にソ連が米国に再び不意打ちを食らわしたのだ。人類初の宇宙飛行の栄冠は、ヴォストーク1号のユーリ・ガガーリン少佐に輝いたのである。彼は宇宙から「地球は青かった。宇宙には神はいなかった」とのメッセージを全世界に送った。これは唯物論の勝利宣言ともいえた。「努力を怠れば我々は置き去りになる。そして『赤い月』が出現する」と、第35代米国大統領に就任したばかりのジョン・F・ケネディ大統領は危機感を深めた。そこでケネディ大統領は同年5月25日、「我々は月に行く」と宣言し、アポロ計画を全世界の人々に向かって発表したのである。「困難だから挑む。我々のすべてが働かなければならない」との訴えは、宇宙競争でソ連を追撃する米国の決意が秘められていた。以後、米国は威信をかけ国家事業としてアポロ計画を推進した。費用は240億ドル(約8兆円)、最終的には2万の企業と40万人が動員された。とりわけ「無数の宇宙工学的課題」の解決のために巨大な研究開発機構が形成され、アポロの前段階であるジェミニ計画などが進められた。
 これら計画はケネディ、ジョンソン、ニクソンへ受け継がれ、1968年12月に初の有人月旅行(月の軌道に乗る)がアポロ8号によってなされた。「神がいなかった」とのガガーリンに対して、ボーマン船長は地球へのメッセージとして聖書の創世記を朗読した、「太古に神は天と地とを創造された。地は形なく、むなしく、やみが淵をおもてにあり、神の霊が水のおもてをおおっていた。神は『光あれ』と言われた。すると光があった」と。この成功のもと1969年7月20日、ついにソ連に先駆けてアポロ11号からニール・アームストロング船長らが月に着陸した。アームストロング船長が述べた言葉、「これは1人の人間にとっては小さな1歩だが、人類にとっては偉大な1歩である」は、こうした長い歩みの感激がこもっていた。まさに唯物論・ソ連との戦いを勝ち抜いた「勝共」の精神だったといってよい。

レーガンのSDI構想に引き継がれソ連終焉へ

こうした宇宙開発競争を継承したのは1980年に第40代大統領に就いたロナルド・レーガンだった。西側諸国はオイルショックによって経済的に打ちひしがれており「悪の帝国」(すなわちソ連=レーガン大統領)だけが勢いづいており、宇宙でも「サリュート」で宇宙ステーション計画を推進し、1歩も2歩も進んでいた。だがレーガン大統領はひるまずに「宇宙フロンティアの開拓」を訴え、1981年4月にスペース・シャトル「コロンビア」の打ち上げに成功、そして1983年にSDI構想(戦略防衛構想)を発表した。これは「スターウォーズ計画」と呼ばれたように、宇宙空間からレーザー光線やキラー衛星を使って敵の核兵器や核施設、軍事衛星を破壊しようというもので、当時、ソ連の人工衛星が7割を占めていた軍事衛星やICBMを大気圏で抹殺してしもおうという壮大なプランだった。当時、米国には「宇宙にまで戦争を拡大する」「膨大な経済的損出だ」といった批判が絶えなかったが、レーガン大統領は退かず、保守系マスコミとりわけワシントンタイムズ(文鮮明師創設)がSDI推進キャンペーンを張って計画推進を図った。ソ連はこのSDIに驚愕した。当時の状況を後にカルーギン元KGB(国家保安委員会)少将は「アンドロポフKGB議長(後の書記長)は80年代初め、SDI構想を察知してソ連国内と海外のすべての拠点に至急電報を密かに送った」(産経新聞94年10月6日付)と証言している。結局、ゴルバチョフ書記長は米国との軍拡競争に耐えられないと判断してペレストロイカを決断した。ゴルバチョフ政権時代のベススメルトヌイフ外相は93年2月、米プリンストン大学で「冷戦の終わり」をテーマに講演し「SDIが冷戦を終結させた」と明言している。「赤い月」の出現を許さないとするケネディの決意、そしてそのアポロの精神を引き継ぎ「悪の帝国」の解体をめざしたレーガンの確固たる信念によって冷戦は終焉に導かれたのである。

日本にも共産中国に打ち勝つ責任がある

そのレーガン大統領の1984年の一般教書は「米国はよみがえった」との高らかな宣言だった。そして今日、オバマ大統領は「未来を勝ち取る(Win the Future)」と米国民に訴えた。米国は確固たる信念、建国の精神、神への信仰を取り戻さければならない。そうでなければ未来は勝ち取れない。単なる経済的、物質的利欲をもってしてはチャレンジが続かないからである。
 2009年1月20日のオバマ氏の大統領就任演説を今一度、想起してみよう。オバマ大統領は経済危機について「一部の強欲で無責任な人々のせいだけでなく、皆が困難な道を選び、次の世代に備えることができなかった結果、経済的困難にあえいでいる。この危機は本物であり、短期的で安易な解決方法はない」と警鐘を鳴らし、その上で「我々自身に、国に、世界に、喜んで義務を持つという認識、困難な任務に身をささげるほど精神を満足させるものはないとしっかりと認識することだ」と語り、「新しい責任の時代が来た」と訴え、さらにこう述べた。
 「我々の共通の防衛については、安全と理想とを天秤にかけるという誤りを拒否する。我々がほとんど想像できないような危機に直面した建国の父たちは、法の支配と人々の権利を保障する憲章を起草した。何世代もの血によって拡充された憲章だ。今日でもこれらの理想は世界を照らしており、その時々の都合で手放すことはない。…先の世代は、ファシズムや共産主義に対し、ミサイルや戦車だけでなく、強固な同盟と強い信念を持って立ち向かったことを思い出して欲しい」
 この精神を全米国民が取り戻すときに、米国の復活と繁栄があり、未来が勝ち取れる。このことはわが国を含め自由主義諸国の人々にとっても等しくいえることである。なぜならそれは共産中国に打ち勝つことを意味しているからだ。我々日本もまた責任を果たさねばならない。

2011年1月27日

この記事は2011年1月25日に投稿されました。

ベトナム共産党 ドイモイの影で軍・公安が台頭

ベトナム共産党は1月19日、グエン・フー・チョン新書記長(67)ら最高指導部の政治局員14人の新人事を発表した。党大会は5年ぶりで、一党独裁を堅持しながら市場経済化を図る「ドイモイ(刷新)」政策を継続し、政治報告では中国をにらんだ海洋の防衛などを盛り込んでいる。メディアは「ドイモイ路線堅持」(日本経済新聞1月19日付)ともっぱら経済政策に着目しているが、こういう視点は中国の経済だけをみて党独裁や軍事拡張から目を逸らすのと同じ間違いを犯しかねない。ベトナム共産党人事を正しく捉えておく必要がある。

東南アジア、南シナ海の戦略的位相

ベトナムは共産国であるが、対中戦略で考えれば、わが陣営に取り込んでいく必要がある。ベトナムの面する南シナ海は中東と北東アジアを結ぶ海上交通路であり、ここで中国はその全域を自国の領海と主張し、海軍力の強化を背景に威圧的な実効支配を進めており、日本のシーレーンも危ういからだ。米国は「航行の自由」を守る立場から同海域での米海軍艦船のプレゼンスを高めようとしているが、ここでベトナムが重要な役割を果たす。クリントン米国務長官は昨年7月、ハノイで開催されたASEAN(東南アジア諸国連合)地域フォーラムで「米国は南シナ海での航行の自由に国益を有する」と言明し、米国が今後、同海域への関与を強め、中国海軍の威圧的行動に苦慮するASEAN諸国を支援する姿勢を強調した。そして昨年8月中旬に米国とベトナム両海軍がダナン沖の南シナ海上で初めて「合同軍事演習」を展開した。表向きは「米越国交正常化15周年の記念行事の一環」とされたが、演習は本格的なものだった。米軍は最新級のイージス艦「ジョン・S・マケイン」を参加させ、公式参加ではないが訓練海域には原子力空母「ジョージ・ワシントン」を派遣、訓練最終日にはベトナム政府高官を同空母艦内の視察に招待した。米クリスチャン・サイエンス・モニター(8月12日付)は「これほどの驚きはない。憎しみをむき出しに1960~70年代のベトナム戦争を戦った両国が合同軍事演習を実施するとは」と書いたほどだ。
 ベトナムは地勢的に中国の影響を受け抗争を繰り返し、1979年には中越戦争も行い、中国への警戒心が強い。それだけに中国の東南アジア進出、南シナ海支配への対抗勢力としてわが国も関係を強化していきたいところである。経済的には日本の新幹線方式を採用した南北高速鉄道が決まっているほか、日本の衛星技術を活用したハイテクパークの建設、原子力発電所建設プロジェクトやレアアース(希土類)開発など日越経済関係も促進されている。

インフレ・汚職蔓延で保守派の苛立ち

だが、ベトナムが共産党の一党独裁国であることを忘れてはならない。確かにドイモイ政策の採用は1986年と古く、経済開放路線には歴史がある。しかし、経済をいくら開放しても国民の自由は認めず、独裁政治に固執し続けている。今回のベトナム共産党大会で何があったのか。それは中国の現況と極めて似ている。すなわち経済成長のひずみが噴出していることだ。インフレ率は10%を超え、対外債務が急増し、通貨を切り下げたものの、国内では貧富の格差が一段と広がり、共産党の汚職が蔓延している。国民の不満は中国と同様に軍事・治安力で抑えているが、このままインフレや格差が広がれば、不満は膨れあがる。そういう状況で5年ぶりにベトナム共産党大会が開催された。焦点は人事である。
 最高指導部の政治局員は15人から1減の14人となり、3分の1が交代した。序列1位の最高指導者だったノン・ドク・マイン書記長(70)と同2位のグエン・ミン・チェット国家主席(68)が引退。新たにグエン・フー・チョン新書記長(68)が就き、チュオン・タン・サン氏(61)が7月招集の国会で国家主席に就くと見られている。新任の政治局員に選出された5人のうち、最年少局員となったチャン・ダイ・クアン氏(55、中将)は公安省次官(公安警察統括)、ディン・テー・フイン氏は党機関紙「ニャンザン」編集長、ゴ・バン・ズ氏は党中央委書記(監察総監)である。これらの人物はいずれも軍・公安に関わる保守派で、実務派が増えたとはいい難い人事なのである(他の新任2人はファム・クアン・ギー・ハノイ市党委書記とトン・ティ・フォン国会副議長=女性)。
 つまり、今回の人事は党による規律の引き締めを図る保守派の巻き返しと捉えてよい。これは中国が共青同(共産主義青年同盟=改革思考が強いとされる)派を抑えて軍部・江沢民派の習近平が次期指導者になるのと似ている。党トップのグエン・フー・チョン新書記長は党中央理論評議会議長などを経て国会議長に就任した理論畑で「保守穏健派」ということになっているが、政治局員中67歳と最高齢であることから、要は実務派のノン・ドク・マイン前書記長の引退に伴い保守派が影響力を行使しやすい古参幹部を看板に就けたという印象が強い。しかもテクノクラート派の代表格で知日派のファム・ザー・キエム現副首相兼外相は66歳と比較的に高齢とはいえ、党中央委員にも落選するという想定外の事態があった(従って、今回政治局員からも外れた)。同氏は今年中の国会で副首相兼外相から外れるとはみられていたが、中央委員にも落選するというのは異例である。

ベトナムもラオスもテクノクラート派が後退した

このベトナム共産党の人事は昨年12月のラオスのブアソン首相の突然の辞任劇と共通性があるように思われる。ラオスでは党序列1位のチュンマリ書記長(大統領=74)が政治局では序列7位で若手のブアソン氏(56)を実質的に罷免し、変わりに序列3位で比較的に高齢のトンシン前国会議長(66)を首相に就けた(政府の公式発表ではブアソン氏は「家庭の事情」で辞任したとしている)。5年ごとの党大会までまだ半年残した時点での人事で、しかも序列上位で高齢の国会議長を首相に「異動」するというのは異例の人事だ。ブアソン氏は海外投資の受け入れ拡大と市場経済の導入促進などで国際社会からは一定の評価を受けていたテクノクラート・タイプの実務派だった。それだけに“罷免”が注目された。
 つまり、ラオスもベトナムもより「革命世代」に近い高齢者で、しかも実質的には党の思想を堅持しかつ軍・公安と意思の疎通がとれそうなバランス型の人物をトップ(ラオスの場合は首相)に就けたといえるだろう。ラオスの首相もベトナムの書記長も前任者が就任した4~5年前と比べると、グローバル経済の伸張で国内への海外からの投資額も格段に増え市場経済化も進んだ。こうした状況に党内の保守派や軍・公安が共産党一党独裁体制の維持に危機感を抱いており、革命政党としての共産党の結党理念に最も年齢的に近い長老格を首相や書記長として就けた。政治局の長老だけに、経済改革・発展のスピードに懸念を抱く保守派や軍・公安が行政府の実務派・テクノクラート派の行き過ぎを牽制するバランス役になれるということだろう(トンシン新首相もグエン・フー・チョン新書記長も決してカリスマ性のある指導者とはいえず、軍・公安が利用しやすい古参幹部という色彩が強い)。

社会主義市場経済の矛盾に動揺する共産党

インドシナの共産党はこの4~5年で先進国からの資本の流入などが共産党独裁の社会に対して及ぼす影響の大きさに内心動揺するとともに、その影響を図りかねている側面もあり、経済発展を抑制する可能性も考えた上でとりあえず党の布陣を立て直したということではあるまいか。そもそも社会主義市場経済なるもの自体が根本的な矛盾を孕んでおり、その矛盾が表面化する徴候にこれらの党が危機感を抱いているのだ。このことを踏まえて共産国と付き合っていくべきだろう。

2011年1月25日

この記事は2007年4月15日に投稿されました。

「軍拡」へ思惑が一致/米に対抗、欧日牽制

大陸同盟の色彩濃厚に

米国がイラクに手こずっている間に中露の戦略的関係を強化し「パックスアメリカーナ」を切り崩して日欧にも圧力をかける…、そんな本音が聞こえてきそうな中露首脳会談だった。中国の胡錦濤国家主席は3月26日、モスクワを訪れプーチン露大統領と会談、軍事やエネルギー分野の協力強化などをうたった中露共同声明に調印した。戦略的関係強化の狙いは何か…。

 ロシア政府は今年を「中国年」としており、その開幕式典に出席するため胡主席はモスクワを訪問、それに合わせて中露首脳会談が開かれた。昨年は中国で「ロシア年」があり、これらは中露の蜜月を象徴している。
 むろん、中露はお互いを利用し合う戦略的関係にすぎないが、米欧日の民主主義陣営に対抗する点では思惑は完全に一致しており、大陸同盟的色彩を濃くしている。 胡主席とプーチン大統領が調印した共同声明は、①主権・領土保全問題の協力②エネルギー企業間の共同事業の推進③不法移民対策の協議④国連改革での認識共有⑤イラン核問題の平和的解決⑥北朝鮮核問題の外交的解決⑦上海協力機構(SCO)による中央アジア諸国との協力強化⑧中露印3カ国の協力拡大―などだ。
 首脳会談で注目されるのは軍事協力の強化である。会談後、プーチン大統領は「中露が結束して中央アジア、アジア太平洋地域の安全保障強化に貢献する」と強調、胡主席は「パートナーシップの強化と安全保障面で協力することで合意した」と述べ、両首脳とも安保協力前進を誇示した。

中国、露製兵器で軍ハイテク化

中国の狙いは明白で、ロシアからハイテク武器とエネルギーを手に入れるところにある。ソ連崩壊後、ロシアは外貨獲得のため武器輸出に走ったが、その一環で中国は92年、最新戦闘機SU27(フランカー)を買いつけて露製ハイテク技術を取得、90年代に飛躍的近代化を遂げてSU27と同30のライセンス生産に入れた。
 そして今年1月、独自の最新戦闘機「■10」の大量配備を発表した。「■10」は米国の主流戦闘機F16と同等かそれ以上の能力を有する。このため米軍は急きょ、沖縄・嘉手納基地に最新鋭機F22を配備したほどだ。
 中国はロシアから飛行制御技術や電子戦闘能力、ステルス機、艦船搭載機などを可能にするハイテク軍事技術のほか、大量の爆弾・核ミサイル搭載可能の超音速爆撃機ツポレフ(Tu)22Mバックファイアーを手に入れたがっている。
 またステルス戦闘機「■14」の開発を進めている。同機は米軍のF22に対抗するもので、これら最新鋭機導入が実現すれば、台湾海峡から東太平洋の軍事バランスが大きく崩れ、中国優位の構図が生じるとされる。
 中国海軍もロシアのキロ級潜水艦(93年)、ソブレメンヌイ級ミサイル駆逐艦(96年)の購入を足場にハイテク技術を取得、04年からは独自の“イージス艦”を配備するに至った。
 そして今年3月、海軍幹部が2010年までに空母を完成させると言明(文■報3月7日付)。温家宝首相は全人代の政府活動報告で「軍のハイテク化」を強調したが、その調達源はロシアにほかならないのだ。

中露共同で火星探査も

中露は09年に共同で火星探査を実施することにも合意しており、大型宇宙プロジェクトを通じて中国は宇宙技術の取得にも乗り出す。今年1月に中国は衛星破壊ミサイル実験を行なったが、宇宙軍拡に拍車が掛かるのは必至だ。
 エネルギーも中国はロシアからの大量輸入を目指す。原油輸入は昨年、前年比20%増の約1600万トン(全輸入量の11%)になったが、さらなる増加を期している。
 昨春の首脳会談で合意している東西シベリアからの天然ガスパイプライン建設を速め2011年頃から供給を開始し、日本と競合する東シベリアからの石油パイプラインについては中国への支線建設の優先、極東サハリンでの天然ガスの共同開発を胡主席はプーチン大統領に要請した。

露は武器輸出の戦略的外交

一方、ロシアは中国への武器・エネルギー輸出によって外貨が獲得でき、同時に米欧を牽制する中国カードを切れる一石二鳥の利点がある。
昨年の武器輸出は65億ドル(約7900億円)と過去最高額となったが、その62%は中国とインドだ。これは05年度の74%から下がっているが、輸出量そのものは減っていない。反米チャベス政権のベネズエラへ戦闘機などを輸出するなど南米や中東への武器輸出が増加したからだ。
 プーチン大統領は3月にサウジアラビアなど中東諸国を歴訪、ここでも米製から露製武器への転換を求める「武器輸出外交」を展開した。旧ソ連は武器輸出を契機に軍顧問団を送り、その国を東側陣営に取り込んでいくのを常套手段としたが、プーチン大統領はそれを踏襲、「米国一国支配」を切り崩そうとしている。
 むろん、中国へのハイテク武器輸出もそうだ。中露首脳会談では合同軍事訓練の実施にも合意した。前回の05年8月の合同訓練は中国で行なったが、今年7月にはロシアで実施、中露だけでなく上海協力機構に加わる中央アジア諸国にも参加を求めている。

INF条約の破棄も目論む

ロシアはEUの東方拡大に不快感を抱き、とりわけ旧東欧諸国が米主軸のNATO(北大西洋条約機構)に加わることを極度に警戒している。
 米国はイランが2015年までに米本土を射程に入れる大陸間弾道ミサイル(ICBM)を配置すると見越し、ポーランドに地上配備の長距離迎撃ミサイル(GBI)10基を配備する発射基地、チェコにそのためのレーダー施設を建設することで両国と合意している。
 これに対してロシアは、対イランは偽装でロシアのミサイル迎撃が本当の狙いだとして猛反発、配備反対を声高に叫んでいる。だが、ロシアのICBMは北極海から米本土に向かうので東欧配備の米迎撃ミサイル配備は何ら影響を及ぼさない。これを口実にロシアは中距離核戦力(INF)全廃条約からの脱退を目論んでいるのだ。
 ロシアの軍事アナリスト、パーベル・フェリゲンガウエル氏は「今日のロシア空軍は弱い。INF条約から脱退すれば、空軍力を補完するため今年から配備が始まる新型ミサイル『イスカンデルM』(射程300~500キロ)の射程を延ばし、ミサイル部隊の能力を飛躍的に伸ばすことができる」(毎日新聞3月1日付)と指摘している。
 こうした米欧対決にもロシアは中国の後ろ盾が不可欠なのだ。中露の戦略的関係は限りなく同盟関係化へと進んでいくことになると見られ、さらなる警戒が必要だ。

2007年4月15日

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