野田政権は、先送り政治、決断できない政治から脱却するという。「社会保障と税の一体改革」である。しかしさらに重要なことは、安全保障問題である。
東日本大震災から1年となり復興庁も設置されるが、連日のように巨大地震発生の可能性が報じられている。日本列島とその周辺地盤は明らかに活性期に入っているのだ。緊急事態(戦争や災害など国家の平和と独立を脅かす事態)においていかに国民をまもり秩序の回復を図るかは、「先送り」が許されない最重要課題といえよう。わが国の憲法には緊急事態条項がなく、一般法(災害対策基本法など)との間を埋める基本法もない。有事等に対処する国民保護法も緊急事態下における私権制限に於いて不十分と言わざるを得ない。万全の体制を整えることが政治の責任であり、これまでの悲しい多くの犠牲に報いることである。
わが国を取り巻く安全保障環境が激変している。台湾総統選挙の結果を受けて新華社(中国)は、中台関係の今後にとって「新しいチャンス」が到来したと評論(2012年1月15日)した。再選された馬英九総統は、関係改善を掲げて4年前の総統選に初当選し、定期直行便を運行し、中国からの観光客受け入れを解禁し、一昨年6月には自由貿易圏を目指す経済協力枠組み協定を結んだ。その直後から北京による政治対話への働きかけが激しさを増している。「こちらから求めないが、中国側から誘いがあれば会う」と再選後の記者会見で「トップ会談」の可能性に言及している。政治統一に向けて拍車がかかることは間違いない。両岸安定の影で中国の第一列島線(日本列島、台湾、フィリピン、ボルネオ島…)支配は大きく前進したのである。
北朝鮮では金正恩体制固めを急ぎ、内部の混乱は伝わってこない。しかし事実上の集団指導体制下で、正恩氏が強い指導力を発揮できるかどうかは不透明である。金正日総書記死去(昨年12月17日)後の動向で最も驚いたのは、後見役・張成沢国防委員会副委員長が軍服姿(肩章は四つ星=大将)で登場したことである。
この事実に関連して伊豆見元氏(静岡県立大教授)は、これまで軍歴が伝えられなかった張成沢氏が数日の間に「大将」の地位を与えられたことは、当面は軍が主導する軍事評議会のような集団指導体制になるということであるが、本来の軍人たちがどのように受け入れるかとの疑念が残る、と指摘する。
さらに12月30日に政治局会議で金正恩氏を軍の最高司令官に決定したと報じられたが、党中央委員会総会ではなかったことに注目しなければならない。呉克烈氏ら軍の実力者たちが参加しない政治局会議での決定を軍がどのように受け止めているのかを注目する必要がある。
中国の影が大きくなつている。総書記死亡報道の日、即座に北朝鮮に弔電を送っている。北朝鮮人民が「金正恩同志の指導の下で社会主義強盛国家を建設し、朝鮮半島の永続的な平和に向かって進み続けると信じている」と金正恩体制への支持を表明した。北朝鮮の中国支配が進むと言うことである。
昨年10月以降、オバマ米政権は「アジア回帰」「アジア・太平洋重視」を強調し、1月5日には「国防戦略見直し結果」報告書を公表し、「二正面戦略からアジア・太平洋重視へ」の転換を強調した。背景にあるのは中国の台頭である。
ほぼ同時期に複数の米シンクタンクが報告量目を公表しているが、その一つに米ランド研究所による「中国との衝突」(11年10月10日)がある。日中軍事衝突の可能性を明記した分析報告であり、東シナ海での領有権争いが端緒の洋上事件遭遇により、日中の主張がエスカレートして起こりうることを指摘する。米中軍事衝突を回避するため同盟国との連携強化を促すものになっているが、尖閣諸島を巡る日中衝突の可能性に言及している点に注目しなければならない。
中国は今、対米「A2/AD=接近阻止領域拒否」能力確保に突き進んでいる。狙いはまず第一列島線支配である。第五世代・ステルス戦闘機「殲20」、対艦弾道ミサイル(ASBM)DF21Dの生産配備、空母ワリャーグの配備であり、それらすべてをコンピューター通信ネットワークでつなぐ衛星測位システム(GPS)「コンパス」の開発である。試験運用は昨年12月27日に開始された。測位衛星「北朝鮮斗」は現在10機打ち上げられているが、30年頃までに35機に増やすという。中国共産党系「環球時報」(11年10月29日社説)は「アジアの海で中国と領有権争いをしている関係諸国が、米国を後ろ盾に中国を屈服させようとしている」「反撃に出ざるを得ない」「軍事衝突が近づいている」と述べている。中国による武力行使のハードルは驚くほど低いことを肝に銘ずるべきである。
日本の防衛態勢が整っていない。DF21Dはパトリオットミサイルでは迎撃できない。日米共同開発のSM3ブロック2Aに期待がかかっているが、開発は14年までとなつており、その後実験を経て配備となる。殲20に対しては次期戦隊機F35でなければ対応できない。その配備実施は早くて16年、遅れが予想されている。空母ワリャーグの実戦配備は間近で
あり、対応できる日本の兵力はない。
今可能な選択肢は多くはない。盾(国内防衛態勢)の充実と矛(在日米軍)との連携強化である。緊急事態に備える法整備であり、統合作戦を充実させる集団的自衛権行使である。国防は公共の福祉、基本的人権保障の大前提である。先送り政治、決断できない政治からの脱却はここから始めるのが筋である。

