北朝鮮は金正恩体制が本格的に出発した。しかし、「祝砲」は上がらなかった。金正日総書記の遺訓としての金日成主席誕生100年と、金正恩体制出発の「祝砲」である「人工衛星」(弾道ミサイル)が4月13日午前7時39分に発射された。しかし2分ほどで爆発。海上に落下して失敗に終わった。
韓国は発射直後に確認。わが国は米国の早期警戒衛星からの情報を得ておりながら、日米の情報をダブルチェックしている内に発表まで時間がかかり、発射から40分後の確認となった。国民に大きな不安を与える結果となってしまったのである。森本敏氏(拓殖大学教授)は「日韓の情報交換システムもなく韓国がいち早く入手した情報を共有できていない。日米韓の連携は口先だけでなく本気でやらなければならない」と警告する。
失敗の原因は、ミサイルの1段目での燃料漏れであるとみられている。北朝鮮の自信は大きく傷ついた。
国連安保理は、対北朝鮮議長声明を16日に採択。その内容は、発射の強行を強く非難し、安保理決議への「重大な違反」と認定するものとなっている。北朝鮮が一層、孤立することは避けられない。新体制は出発とともに国内外の厳しい状況を抱え込むこととなった。
朝鮮労働党全国代表者会(党大会に代わるもの)が4月11日に開かれ、党規約が改正された。金正日氏を「総書記として永遠に戴く」こととし、新設の「第1書記」(政治局常務委員も兼ねる)として金正恩氏が就き、さらに党中央軍事委員会委員長も兼任することとなった。さらに規約序文には「金日成・金正日主義」という言葉が4回にわたって登場し、党の最終目的は、全社会の「金日成・金正日主義化」であるとしている。
党人事も断行され、注目すべき幹部人事として崔竜海(チェ・リョンヘ)書記が政治局常務委員、中央軍事委員会副委員長に、金慶喜(キム・キョンヒ)党軽工業部長が書記、張成沢(チャン・ソンテク)国防委員会副委員長が党政治局員、金正覚人民武力相が政治局員に就いている。
翌12日には第12期最高人民会議第5回会議が開催され、決議によって金正日氏が「永遠の国防委員長」として位置づけられ、国防委員会の首位として新たに「国防委員会第1委員長」の職が設けられ、後継者となった金正恩氏が「推戴」された。「国家主権の最高軍事指導機関」(共和国憲法)である国防委員会の顔ぶれは、委員長として故金正日氏、第1委員長・金正恩氏となり、新たに国防委員として崔竜海軍総政治局長、金元弘(キム・ウォンホ)国家安全保衛部長、李明秀(リ・ミョンス)人民保安部長らが入り金正恩氏を支える要となっている。
新人事において注目されるのが崔竜海氏である。政治局常務委員、次帥、国防委員となり、軍、党、国家の三権で金正恩氏を補佐する役割を担う「最側近」となった。金正恩氏が後継者としてデビューした2010年9月の党代表者会で党政治局員候補や書記に選ばれたが、今回は政治局員を飛び越えて最高指導部の政治局常務委員になっている。青年組織「朝鮮社会主義労働青年同盟」(現在の「金日成社会主義青年同盟」)や党での勤務が長く、張成沢党行政部長に近い人物である。父親は抗日パルチザンの故・崔賢・元人民武力相である。軍に睨みが効く。一連の人事の絵は張成沢氏が描いたものと見られている。
金正恩第1書記は15日、平壌・金日成広場で演説を行った。およそ20分だった。軍事優先路線を受け継ぐ考えを表明し、「敵が原爆で我々を威嚇した時代は過ぎ去った」と自国の核保有を示唆した。また、「我が人民が二度とベルトを締め付けないようにし、社会主義の栄華を享受させることが党の確固たる決心だ」と述べ、経済建設が思うように進んでいないことをうかがわせる内容となっている。また、今年「強盛大国の大門を開く」と国民に約束してきたが、この日の演説では「強盛大国」という言葉を使わずに「強盛国家」としたうえ、「開いた」ことを示す言葉はなかったのである。
北朝鮮の最終目的は、米国に対する核抑止力をもった先にある「北主導の半島統一」であることは間違いない。米国との平和協定締結(「休戦協定=韓国代表は署名していない」をかえて)は、不可欠なステップであり、それ故に米朝交渉を最優先とする。核保有の狙いが体制維持にとどまるはずはないのだ。核・ミサイル開発は米国との交渉力をあげることであり、この度の失敗に過敏に反応し、急いで交渉力の回復に動けば、再度のミサイル発射あるいは核実験の可能性も出てくるのである。繰り返される恫喝は空虚なものではないだろう。
北朝鮮はわが国の直接的脅威である。日本の安全保障の実質的な鍵は同盟国・米国との政策、軍事面での連携強化であるが、米政府高官が繰り返す指摘がある。「米国が今、東アジアの安全保障で切望するのは日本と韓国の連携強化だ。ここが弱いと、日米、米韓の同盟があっても、三カ国の連携は盤石にならない」というものだ。日本はこれまで中国とロシアに標的を絞り、北朝鮮に厳しい対応をとるよう外交攻勢をかけてきたが「限界」は明かだ。本質的利害(価値観)が一致しないのである。「中国の手法は、北朝鮮の行動の根本的変化を導いていない」(オバマ米大統領)のであり、「北朝鮮は中国の忠告に耳を傾ける振りは示すが、ほとんど聞くことはない」(中朝関係筋)のが実情なのだ。口先だけではない日韓米の結束(森本敏氏)に踏み出すべきである。わが国の集団的自衛権行使、日韓防衛協力の強化(軍事情報包括保護協定など)は必須要件である。

