「思想新聞」5月1日号から【共産主義定点観測】の記事を紹介します。
発足から半年を迎えた高市早苗政権では、自民と維新の連立に際し合意文書でも政府のインテリジェンス(情報収集・分析)機能強化としてその司令塔となる「国家情報局」の創設を掲げてきたが、4月23日に「内閣情報調査室」を「国家情報局」に格上げする法案が衆議院を通過した。
「スパイ防止法があれば日本人拉致問題は起こらずに済んだ」
日本経済新聞の報道によると、高市政権は厳しい国際環境を踏まえ、2段階で情報収集や分析能力を高める段取りを描いており、政府のインテリジェンス情報力強化の第1段階として国家情報局創設法案を位置付けるとしている。
具体的には国家情報局に各省庁から情報を吸い上げる権限を付与し、SNSを含む外国勢力の工作活動の調査も担うという。
日経の同じ報道では、木原稔官房長官へのインタビューで、木原氏は「効率的に情報の収集ができるという意味で意義がある」と強調。高市政権のインテリジェンス強化内容のポイントを、①司令塔の「国家情報局」を創設②外国勢力への「スパイ防止法」の制定③独立した対外情報機関の設置④専門人材の育成化──としている。
このうち第2段階として見据えるのが、外国勢力からの干渉・工作を防ぐ「スパイ防止法」の制定や、「対外情報庁」の創設だ。さらに、情報機関における専門人材の確保や、個人情報など国民の権利との関係の整理が求められる。
「スパイ防止法があれば日本人拉致問題は起こらずに済んだ」(『諸君』2002年12月号)と生前語った佐々淳行・初代内閣安全保障室長は、日本版CIAの創設によるインテリジェンス機能強化を自著で唱えていた。
政策にフィードバックする体制を
日本はインテリジェンスに関し他国に比べ脆弱だと指摘されてきた。英語圏5カ国(米英加豪ニュージーランド)のインテリジェンス同盟であるいわゆる「ファイブ・アイズ」に日本の参画を求める議論も出るなど、実際に連携強化もされ、日本への存在感や期待感が膨らむ一方、インテリジェンス体制の脆弱さが指摘された。
日経の同日付報道では「通信や信号を傍受するシグナル・インテリジェンス(シギント)などの分野で比較的強みがある一方、ヒューミント(人的情報活動)に弱みがあった」とするように、わが国のインテリジェンス体制は、米国やイスラエルの情報機関に比較すれば遥かに及ばないと言わざるを得ない。ただ、インテリジェンス同盟による情報共有があっても、現在のイラン情勢などでは、米英の安全保障政策における足並みの悪さ、NATOの連携の危機が露呈している。
日本では外務省ルートを通じイランに拘束された邦人の解放や、4月8日に高市首相はイランのペゼシュキアン大統領と約25分間の電話での首脳会談を行って、停戦合意への動きを歓迎し「ホルムズ海峡は国際公共財」で自由航行を訴えたものの、時局の大勢に影響は与えられたのか甚だ疑問だった。つまり、アラグチ外相やペゼシュキアン大統領はイラン政府要人と言っても、イランの現体制において決定権を持っていないからだ。「ホルムズ海峡の開放」を主張したアラグチ氏に対し、最高指導者モジタバ師の下にあって実質的決定権を委ねられたとされる革命防衛隊(IRG)が痛烈に批判した。
ここでトランプ米政権とイランとの停戦交渉を仲介したのが、パキスタン政府、特に軍トップであるムニール陸軍元帥である。パキスタンは中国と関係が深いとされるが、実は米国との関係も歴史的に浅くない。
インテリジェンスに詳しいジャーナリストの山田敏弘氏は、特にイラン戦争の停戦交渉でシャリフ首相より断然存在感を示しているムニール氏が、IRGとも交流があり、インテリジェンス機関のトップを務めていたことや日本の自衛隊で研鑽を積んだ経歴を紹介し、印パ停戦を仲介したトランプ氏との人脈を持つことからも、日本もこの自衛隊人脈を活かしてイラン情勢に関わる余地があると提言(「スパイチャンネル」)。
こうした貴重な分析からも、わが国はより堅固な安全保障体制を築き、国際的な信頼を得るためにも、インテリジェンス機能を高め、それを迅速に政策にフィードバックする体制を整えるのは焦眉の急である。

