北「核放棄」以外の選択肢はない(思想新聞7月15日号)

思想新聞7月15日号に掲載されている主張を紹介する。

   暗黙の了解というべき「レッドライン」を北朝鮮が越えた。7月4日、大陸間弾道ミサイル(ICBM)の試射を成功させたのだ。今年の1月1日、金正恩委員長は年頭の辞で「ICBMの試射準備の最終段階に入った」と述べ、即座にトランプ米大統領は「そんなことにはならない」と返していた。今後、朝鮮半島の緊張は極限まで高まるだろう。

 北朝鮮は4日午前、同国西北部から弾道ミサイル1発を発射し、釣40分間の「ロフテッド軌道」を飛行させ、約900キロ隔てた日本の排他的経済水域(EEZ)に落下させたのである(わが国のEEZ内は5回目)。

「凍結対凍結」はもういい

   北朝鮮の朝鮮中央テレビは4日午後、「特別室大報道」として、「大陸間弾道ミサイル『火星14』の試射にはじめて成功」と報じ、さらに「歴史に特記すべき大慶事」「ICBMを保有した堂々たる『核強国』として米国の核戦争威嚇を根源的に終息」させると強調した。

   なぜ「今」なのか。狙いは複数あると思われる。①7月4日は米国独立記念日であり、そこにぶつけて衝撃を与えようとした②米国が6月末から、中国に圧力を加えて北朝鮮を制裁する「セカンダリー・サンクション(二次的制裁)」に踏み切ったことに対する牽制③20カ国・地域(G20)首脳会合の直前であることから、より大きな政治的効果を上げることができると考えた―等である。

   米国の本気度は国連安全保障理事会緊急会合(5日)での米国大使発言でも明らかだ。ニッキー・ヘイリー国連大使は「我々の能力の一つには相当規模の軍事力がある。やむを得なければ、それを使うが、その方向には進みたはくない」と述べた。さらに国連決議に違反するかたちで北朝鮮と貿易を続ける国々との貿易を停止することも可能だと明言している。

 一方、中国・習近平国家主席とロシアのプーチン大統領とが4日、モスクワで会談し、北朝鮮の危機について、北朝鮮の核・ミサイル開発と米韓軍事演習を共に中止するよう求める考えで一致している。米国がこの考えを受け入れることはない。

 米韓軍事演習の中止と北朝鮮の核・ミサイル開発の中止、いわば「凍結対凍結」を条件とする対話には応じないことを、マクマスター米大統領補佐官(国家安全保障問題担当)は繰り返し発言してきたのだ。「核放棄」を前提にしないいかなる対話にも応じないという決意である。

 米国は劫年以上北朝鮮に振り回されてきた。クリントン政権下で1994年、北朝鮮はウランとプルトニユウムを用いた核開発を凍結すると約束し、その見返りとして重油を提供し軽水炉型原子炉建設を請け負う「枠組み合意」がなされた。しかし、北朝鮮は合意を破って水面下でウラン濃縮を試みていた。

 その結果、ブッシュ米大紋領は2002年、北朝鮮への支援を打ち切った。金正日総書記は合意を放棄して核拡散防止条約(NPT)からの離脱を表明。プルトニユウム生産のために原子炉を再稼働させたのである。

 05年9月、「6カ国合意」がなされた。しかし同月、米財務省がバンコ・デルタ・アジア(BDA)を「(北朝鮮の)資金洗浄に関与した疑いの強い金融機関」に指定したことに北朝鮮が反発し合意履行は中断した。マカオ当局は混乱回避のため、北朝鮮の関連盟口座から2500万ドルを凍結し、金正日総書記の台所を直撃したのだ。

試される日米韓の一致

   その後07年1月、ベルリンでの米朝協議を経て、6カ国協議は再開され、北朝鮮核施設の60日以内の稼働停止・封印を含む合意に達した。北朝鮮は口座凍結が解除されない限り、停止・封印に応じないとの態度に固執。結局、米政府は3月19日、米朝間でBDA北朝鮮関連資金の全面返還に合意してしまう。「6カ国合意」を前に動かすために迫られた結果であった。さらに米国は08年10月11日、「テロ支援国家」リストから指定解除している。

   ところが、1年もしないうちに、北朝鮮は査察協定への調印を拒み、ブッシュ米大統領が任期を終えるとともに合意は崩壊してしまったのである。

 オバマ米大統領は「金正日が対話に応じるつもりなら、手を差し伸べる」と明言してホワイトハウスに入った。しかしその数カ月後、(09年)北朝鮮は長距離ミサイルと核実験を実施した。

 さらに米国は2012年2月29日、北朝鮮との合意は①北朝鮮は長距離弾道ミサイルと核兵器の実験を凍結、寧辺の核施設におけるウラン濃縮を一時停止②北朝鮮は寧辺の核施設に対する国際原子力機関(IAEA)の査察を受け入れ③米国は24万トンの栄養補助食品及び追加的食程支援を努力するに達したと発表した。

 しかし1年後の2月、北朝鮮は3回目の核実験を行った。「凍結対凍結」の合意は全く意味がないのだ。

 これから朝鮮半島は、「動乱」以後、最高の緊張状態へと進むことは間違いない。日米韓は北朝鮮の「核放棄」で一致して進まなければならない。

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