国連は21世紀の課題に対応できるか

 

世界思想10月号を刊行しました。今号の特集は「創設から来年で75年 国連は21世紀の課題に対応できるか」
ここでは特集記事の一部「反家族的な人権政策」についてご紹介します。

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「反家族」的な人権政策 ~社会政策推進の背後に左翼系専門家・NGO の影~

 

 今年3月、国連の女子差別撤廃委員会が日本の皇位継承権について「男系男子の皇族だけにあるのは女子差別」と指摘し、皇室典範改正を求める見解を準備していたことが明らかになった。日本政府による抗議で最終見解案からは削除されたものの、わが国の皇位継承のあり方にまで干渉する国連に対し、少なからぬ国民が反感を抱いた。  

 

 過激なフェミニズムの影がちらつくこうした国連の動きは、今回だけに限らない。90年代に日本を席巻した「男女共同参画」「ジェンダーフリー」運動の背景にも、国連で採択された「女子差別撤廃条約」(1979)と、その遵守を監視する女子差別撤廃委員会による一連の勧告があった。

 最近では、国連の人権理事会や各種委員会が日本政府に対し、いわゆる「LGBT(性的少数者)」の人権状況の改善を相次いで勧告。具体的には、思想・信条の自由を侵害する恐れのある「差別禁止法」の制定や、一夫一婦の婚姻制度を相対化する「同性パートナー制度」の創設などを求めている。

 

 これらに共通するキーワードは「差別撤廃」であり「人権」だ。もとより差別は許されないし、人権も尊重されるべきだ。

 問題は、これらの勧告が「反家族」の左翼的イデオロギーの色彩を強く帯びていることであり、各国の伝統文化や家族制度への敬意をまったく欠いているところにある。

 

国連の人権システムの概要

 

 ここで人権をめぐる国連のシステムを概観しておこう。

 

 そもそも、国連が各国の人権問題に強い関心を抱くのは、ナチスによる大量虐殺を防げなかったことへの強い反省があるからだ。第2次大戦前までは、人権は各国政府によって保障、監督されるべき国内問題だった。しかし、選挙で選ばれた政府による自国民の大量虐殺という事実がその認識を変えた。国民の人権を十分に保障していない国家に対して、国際社会(国連)が調査、勧告を行い、是正を図る必要性が広く共有されるようになったのだ。

 1948年12月、第3回国連総会で、すべての国と人民が達成すべき基本的人権を謳う「世界人権宣言」が採択され、60年代以降、同宣言の精神に基づく各種人権条約が制定された。「女子差別撤廃条約」もその一つだ。さらに、こうした宣言や条約が遵守されているかどうか、調査、勧告を行うために、各種人権機関が設置された。上記、国連人権理事会や女子差別撤廃委員会などがそれにあたる。

 中国におけるウイグル問題など、深刻な人権侵害を行う国家が存在する以上、こうしたシステム自体は必要なものだ。

 しかし、現実には、国連の人権システムは、しばしば「反家族」の左翼イデオロギーを加盟国に押し付ける道具として利用されている。

 なぜ、このような事態が生まれたのだろうか。

 

「反家族」の左翼思想が侵入

 

家族の尊重は、「世界人権宣言」の原点。国連は今こそその原点に立ち返るべきである。

 本来、国連は反家族ではなかった。むしろ、「世界人権宣言」には、「社会の自然かつ基礎的な単位」である家族を保護すべきことが明確に規定されている(16条3項)。同宣言では個人の人権の尊重と共に、共同体にたいする個人の義務も明記され(29条1項)、極端な個人主義を明確に否定していた。

 

 しかし、その後、個人の人権と伝統的な家族制度を対立するものとしてとらえる左翼勢力が、国連の社会政策のかじ取りを担うようになってしまう。

 ちなみに初代事務総長トリグブ・リーは共産ソ連に強い共感を抱いていた。第2代事務総長ダグ・ハマーショルドもスウェーデンの左翼社会福祉主義者であり、過激な反家族主義者アルバ・ミュルダールを抜擢した。

 

 彼女は伝統的な家族を「病理学的」とみなしてその解体を主張し、スウェーデンにおける育児の主体を家族 から国家に移行させた人物である。親による躾(しつけ)すら不健全とみなし、子供たちに妊娠中絶を含む早期の性教育実施を主張。さらに「男女の自然な違いすら取り除くべき」という、のちの過激なフェミニズムを先取りした「進歩的」思想を持っていた。

 

 彼女は人権問題を扱う経済社会理事会で国連でのキャリアを開始。のちにユネスコに移り、国連社会科学部門のトップにまで上り詰めた。  

 

 こうして、国連システムを動かす中枢に左翼思想が侵入。反家族的人権政策が推進されるようになったのだ。  

 

 

 そこには「進歩的」と称される左翼系市民団体、NGO(非政府組織)の動きも影響している。国連の人権機関は、市民社会からの声を重視し、NGOなどからの意見聴取にも積極的だ。  

 

 しかし、そうしたNGOの大多数が左翼系であり、その風潮は更に加速する兆しを見せている。今年5月に新宿区で開催された「LGBT」イベントに登壇した大学の准教授は、日本政府に圧力をかけるため、今以上に「国連を利用すべき」と呼びかけた。

 

保守勢力は国連への関心を高めよ

 

 NGOや市民社会の声を吸い上げて、各国に人権状況改善を迫る国連システム自体が悪なのではない。

 社会の基本単位としての家族を軽視・敵視する思想が、国連システムを乗っ取っている現状が問題なのである。  

 

 一夫一婦の家族制度を安定させることは、家族の構成員たる女性や児童の人権を守ることにもつながる。

 家族の尊重は、「世界人権宣言」の原点に返り、国連システムの活動を本来の軌道に戻すためにも欠かせない。

 健全な結婚・家庭価値を擁護する保守勢力は、もっと国連に対する関心を高めるべきだ。具体的にはNGOを組織して発言権を確保するなど、各種人権機関での戦いに積極的に関与することが急務である。

 

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