世界思想7月号を刊行しました。今号の特集は「コロナ禍で露呈した中国の限界」。
ここでは特集記事の一部 「国連支配を強める中国 〜 自由世界は主導権を奪還できるか 〜」についてご紹介します。
新型コロナは、国連掌握に向けた中国の野心を白日の下にさらした。
特にテドロス・アダノムWHO事務局長の中国寄りの言動は、国連機関の中立性に対する深刻な疑念を引き起こした。彼は、隠ぺい工作が疑われる中国の初動を批判するどころか賞賛し、パンデミック宣言の遅れによって、世界的な感染拡大を招いたと批判されている。
テドロス事務局長ばかりではない。現在、15の国連専門機関のうち、4つで中国人がトップを務めている。複数の機関トップを輩出している国が他にないことを見ても、この数字は突出している。各機関への拠出額で2位、3位を占めるわが国が、1つのポストも得ていないのとは対照的だ。
しかも、中国は今年3月に行われた世界知的所有権機関(WIPO)事務局長選挙にも候補者を擁立していた。さすがに知財権侵害の常習犯である中国が同機関を掌握することには米国が危機感を募らせ、結果的には米国が支持するシンガポール特許庁長官ダレン・タンが当選した。
一部には、中国の国連での影響力拡大を、トランプ米大統領の国連軽視の姿勢と絡める論調も出てきている。
しかし、中国のこうした動きはトランプ以前から一貫して続いているものだ。
中国人がはじめて国連専門機関トップに就任したのは、ブッシュ(子)政権末期の2007年。その後のオバマ政権時代にも、中国は次々に国際機関の要職を手に入れてきた。
果たして、その意図はどこにあるのだろうか?
それは米国主導で築かれた「自由、民主主義、法の秩序」といった普遍的価値を基調とする従来の国際秩序を覆し、中国、もっといえば中国共産党の一党独裁体制にとって都合の良い世界に作り替えることである。
中国人職員の使命は「国際機関ではなく中国共産党への忠誠」
当然のことながら、国連を頂点とする国際機関の職員は、加盟国全体の利益に奉仕する中立性が要求される。
しかし、そうした中立性を中国出身の国際公務員に期待するのは難しい。彼らに求められているのは、国際機関ではなく中国共産党への忠誠だからだ。
18年9月、国際刑事警察機構(ICPO)トップの孟宏偉総裁が、中国に一時帰国した後、突如、失踪した。2週間後、孟氏は国家監察委員会に拘束されて取り調べを受けていることが判明。孟氏は拘束されたまま、ICPOに辞意を伝達した。
彼の逮捕容疑は「収賄」とされたが、本当の理由を当局が明かすことはない。いずれにせよ、この事件が他の国際機関トップを務める中国出身者への強い警告となったことは間違いない。
彼らが中国共産党の指示と国際公務員としての義務を秤にかけた時、どちらに傾くかは明らかである。
党方針に反することは、すなわち逮捕であり、すべての地位のはく奪を意味するからだ。
実際に、国際機関の中国人トップによる国益優先の姿勢は顕著である。前任者が香港出身だったWHOに加え、中国人の柳芳女史が事務局長を務める国際民間航空機関(ICAO)でも、台湾は国際会議への参加を拒否されている。
国際電気通信連合(ITU)の趙厚麟事務局長は、米中対立が激化していた19年4月、「ファーウェイ(華為)の5G設備の安全性をめぐる訴訟には根拠がない」と述べ、同社擁護の姿勢を明確にした。
国連事務次長の劉振民氏も「中国が推進する一帯一路イニシアチブ(BRI)は国連の持続的開発目標(SDGs)の目的にかなう」と繰り返し発言しており、中国の国家戦略に国連のお墨付きを与えている。
言うまでもなくユーラシア大陸の覇権掌握を目的とする中国の一帯一路と国連のSDGsには何の関係もなく「我田引水」の極みである。
このほかにも、中国は台湾の主権を認めない「一つの中国」原則支持を加盟国に強要するなど独善的な姿勢が目立つが、こうした姿勢を表立って非難する国は少ない。
多くの国が中国の経済的な影響力を恐れ、かつ依存しているからだ。
中国主導で歪んでいく国連。日本はどうするべきなのか。
皮肉なことに、人権分野でも中国の動きは積極的だ。
もちろん、自国内の人権侵害についての批判を封じ込めるためである。
世界ウイグル会議のドルクン・エイサ総裁は「国連・先住民問題に関する常設フォーラム」から締め出され、発言の機会を奪われている。
さらに今年4月には国連人権理事会の諮問グループ地域代表に中国代表の蒋端氏が任命された。このポストは諸国の人権問題を調査する人権調査官の審査、選定に影響力を持っており、人権団体からは「放火魔が町の消防署長に就くようなもの」(ヒレル・ノイアーUNウオッチ事務局長)との痛烈な批判が浴びせられた。
また中国は07年以降、国連安保理決議に9回の拒否権を行使しているが、いずれもベネズエラ、シリアなど抑圧的な政府を国連制裁から保護するためのものだった。
これでは国連は加盟国の人権侵害に何らの影響力も発揮できなくなるだろう。
新型コロナ問題では、WHOと中国のあからさまな蜜月関係が欧米に危機感を与え、組織改革と台湾のオブザーバー参加を求める動きにつながった。
さらに5月29日にはトランプ米大統領がWHOとの関係解消を表明。
英国は次世代通信の分野で、民主主義国家に限定した「D10」の枠組みを模索するなど、既存の国際機関に見切りをつける動きも出ている。
日本はいかなる選択をすべきだろうか?
英米などと新しい国際機関の枠組みを作るのか、中国リスクに目覚め始めたEU諸国と共に国連内の主導権回復を目指すのか。
いずれにせよ、中国の主導権を覆すのは容易ではない。
加盟国数がものを言う国際機関で鍵を握るのは、アジア、アフリカ諸国である。
日本をはじめとする先進諸国が普遍的価値に基づく国際秩序を守り抜こうとすれば、これらの国々との連携が欠かせない。
ウイグル問題についてもっと知る:「民族浄化」行う共産中国は「人類の敵」だ ー 東京で「自由インド太平洋連盟」結成
(「世界思想」7月号から抜粋)
Leaflet – 日本の憲法を考える。