座間事件の徹底究明を急げ(12月1日号)

 

 思想新聞12月1日号の主張「座間事件の徹底究明を急げ」を掲載します。非道な快楽殺人の背後に何があったのか。また、再発防止のポイントとは。同事件には「酒鬼薔薇聖斗」神戸事件との類似性が指摘されています。


 

 神奈川県座間市のアパートの自室から若い女性8人と男性1人の計9人のバラバラ遺体が発見された座間連続殺人事件は戦後犯罪史上においても例を見ない悪辣非道な猟奇殺人事件、史上最悪の快楽殺人と言ってよい。死体遺棄・殺人容疑で警視庁に逮捕された白石隆浩容疑者(27)はネット上で「自殺願望」の女性らと交流し、巧みに自室に誘い出して凶行に及んでいた。

 

取り締まりが甘いネットが犯罪の温床に

 なぜ、やすやすと大量殺人を許したのか、何が容疑者をして凶行に走らせたのか、捜査当局は動機や手口などを徹底究明し、事件の再発を防止しなければならない。

 第一に、同事件は「ネット犯罪」であることを想起すべきである。報道によると、白石容疑者は今年初め頃から、インターネットから自殺や殺害などの知識を得たのち、コミュニティサイトであるツイッターなどを利用して自殺願望を持つ女性たちと交流を始め、女性たちを誘い出すために「一緒に死のう」と呼びかけた。

 その一方で遺体の切断方法などの情報をスマホで入手し、解体用のノコギリなどの道具を購入。8月下旬に座間市のアパートに入居すると、ツイッターで女性を巧みに自室に誘い出し、睡眠薬や酒を飲ませて後に殺害した。こうした経緯からネットが大量殺人の「幇助(ほうじょ)」すなわち犯罪に事実上加担していることは明白である。

 

 ネット犯罪で想起されるのは10年前の2007年8月に名古屋市の路上で女性が拉致・殺害された「闇サイト」事件である。ネットの闇サイトである「闇の職業安定所」で仲間を募り、知り合った男3人が「金を奪うなら弱い女性がいい」と、通り魔のように一面識もない女性を拉致、殺害して遺体を山林に遺棄した。

 当時、ネット上には「闇の職安」や「裏の求人情報」といった闇サイトが徘徊していた。事件後も殺人や誘拐請負などの有害情報が「殺○、誘○」といった巧妙な表現で温存され、携帯電話から簡単にアクセスできることから社会問題化した。

 同事件を通じて闇サイトなどの摘発が強化されるようになったが、「表現の自由」を盾に取り締まりは甘すぎる。現在も白石容疑者が利用していたツイッターなどコミュニティサイトには「危険情報」があふれている。

 

 警察庁によると、今年上半期(1~6月)にコミュニティサイトで被害に遭った児童は過去最多の919人にのぼっている。このうちツイッターでの被害は327人で、全被害児童の3分の1強を占める。08年に出会い系サイト規制法が改正され、事業者による年齢確認や書き込み内容の確認が強化されたが、それでも被害は絶えない。

 今年7月から9月まで集中的に行われたサイバーパトロールでは、不適切な書き込みの発見と事業者への通報は約1万6000件にのぼっている。集中パトロールがない期間はどれほどの無法地帯になっているか、推して知るべしである。

 座間事件を受けて政府は自殺に関する不適切なサイトや書き込みへの対策を年内にもまとめる方針だが、サイバーパトロールの強化と悪質なネットの規制策を打ち出さなければ、第2、第3の座間事件が起こりかねない。

 

 第2に、白石容疑者の犯罪動機と背景の徹底究明が不可欠である。報道によれば、白石容疑者は両親、妹と4人家族だったが、事件発覚の数年前に母親、妹が別居。両親の離婚が引き金となって性への異常執着を見せるようになり、風俗店への女性派遣などに関わり、今年2月には茨城県警に職業安定法違反の疑いで逮捕、執行猶予付きの有罪判決が確定している。

 

 精神科医の片田珠美氏は20年前の1997年に神戸市で起こった児童連続殺傷事件の14歳加害少年「酒鬼薔薇聖斗」と今回の事件の類似性を指摘している(『週刊新潮』11月23日号)。

 片田氏は、「海外でも、愛するものを失った結果、糸が切れたように攻撃衝動を爆発させ、犯行に及んだ連続殺人犯はすくなくない」とし、酒鬼薔薇聖斗は「祖母を亡くした」こと、白石容疑者は「両親の離婚」が影響しているとしている。

 神戸事件の加害少年は母親との関係が悪く、小学5年時に母親の厳しいしつけから庇ってくれていた祖母が亡くなり精神状態が不安定化、猫を解剖したり、ホラービデオを見続けたりし殺人妄想を高めた。判決では犯行に至る最大の要因を母子関係の歪み(愛情不足)とされた。

 

 憲法を改正し家族守護条項を設けよ

 白石容疑者はどうなのか、家庭環境、家族関係の解明が欠かせない。家庭裁判所調査官ら少年事件に対応する専門家が15の少年凶悪事件を分析した『重大少年事件の実証的研究』(01年、司法協会)によると、加害少年の両親の「夫婦間の葛藤」(仲が悪い)や愛情不足が子供たちを蝕み、凶悪犯罪に至らせた。家族の歪みが凶悪事件を呼び起こし、家族の絆がそれを防ぐ。座間事件では被害者側にも人との「絆」の希薄さが指摘されている。このことは憲法に家族守護条項を盛り込む必要性を浮き彫りにしている。座間事件の徹底究明を急ぐべきだ。

 

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12月1日号 巻頭特集「第四次安倍内閣 改憲に向け加速」 / NEWS「北海道で日韓トンネル推進大会」 / コーナー「朝日新聞と東大のコラボ調査を注視する」 etc

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