韓国総選挙 「コロナ」で与党圧勝。今後の展開を予想する

進む親北・親中、「社会主義」化。日米連携で北・中変動に備えよ。

韓国第21代総選挙(一院制、議席300=選挙区253、比例47)が4月15日、実施された。一般的には、文在寅政権の「中間評価」であり次の大統領選挙の前哨戦と位置付けられている。結果は「共に民主党」など進歩派が190議席を獲得して圧勝。「未来統合党」など保守派は110議席と大敗した。与党はあらゆる法案、政策を思い通りにできる「力」を得た。しかし政権にとって現実は極めて深刻だ。コロナ禍にあって経済は危機的状況、外交面では対米、対日関係の改善は見通せない。さらに北朝鮮の「異変」が、南北協力事業推進策の不透明感を増している。この圧勝は今後の失敗責任を他に転嫁できないことを意味する。

新型コロナ対策の厳戒態勢で行われた総選挙・投票所の様子。

 

韓国総選挙与党圧勝

 

 各政党の獲得議席を確認しておこう。

 進歩派は「共に民主党」が163議席、「共に市民党」17、「開かれた民主党」3、「正義党」6、無所属1で、合計190議席

 一方、保守派は「未来統合党」が84、「未来韓国党」19、「国民の党」3、無所属4で、合計110議席となった。

 

与党連合全体で総議席300議席中180議席を獲得。過半数を超えて、「歴代最大のスーパー与党」(ソウル新聞、4月16日)が誕生した。

 

 「共に民主党」「共に市民党」の与党勢力が過半数を大きく上回る180議席を獲得し、1987年の民主化以降で、現政権・与党勢力は単一政治勢力としては最多議席を得た。

 政界地図が与党と進歩陣営中心へと完全に傾いた「形」となり、与党はあらゆる法案、政策を思い通りにできるパワーを得たことになる。

 

「コロナ」対応一色失政が争点にならず

 

 文在寅大統領は、「新型コロナ」事態を最大限活用した。官民挙げて「世界が韓国の新型コロナウイルス対策を称賛」など、「愛国ムード」を演出。文大統領の支持率は60%まで上がった。 

 「韓国が提供している検査キットは国際的に高い評価」と訴え、支援策として「国民の7割に100万ウォン(約8万8000円)支援=緊急災害支援金」や日雇い労働者などの社会的弱者20万人に2カ月、月額50万ウォン(約4万4000円)支給する生活安定化支援金策を打ち出し、「高齢者や社会的弱者」への配慮を強調した。

 

 さらに、1日1万人以上のPCR検査数も、「韓国の診断技術は国際的に高い評価を受けている」とするキャンペーンの材料となった。だが、この検査体制は、朴槿恵パククネ前政権が2015年に韓国で死者36人を出したMARS(中東呼吸器症候群=コロナウイルスの一種で致死率40%)流行時の対策で整備したもの

 民間を含めて全国570カ所で検査が可能になっていたのだ。文政権は前政権の功績には触れることはない。

 

 一方野党は、コロナ以前の政権スキャンダルや失政を争点に「政権に審判を!」と訴えた。しかし、よくやっている政権の足を引っ張っているとの印象を与えてしまったのだ。

 

進む社会主義的政策焦点となる検察改革

 

 韓国の国内政治は10年ごとに保守と革新・進歩の政権が入れ替わってきた。このパターンでいけば8年後、再び保守政権が誕生することとなる。

 

 文政権はそれを危惧し、20年間にわたって革新政権を持続させて後戻りできないようにしようとしている

 

 このような「独裁的」政治改革を進めているといわざるを得ない左派政権に対して支持があつまる背景は、かつて民主政治家や左派政治家の力で軍人出身の「右翼独裁政権」を倒したという歴史から「左派=民主勢力」という幻想が生まれたのが主因である。

 

 文政権の2年間を振り返ってみよう。

 内政面では左派「愛国主義」を打ち出しながら社会主義国家の建設に突き進んできたといわざるを得ない。政府部門、言論を支配下に置き、反対勢力を無力化することに成功しつつある。行政、立法、司法の人事や制度改革を断行しつつ、政権の主要幹部は学生運動出身者や親北人士が占め、言論は幹部人事や労働組合を通じて影響力を行使し続けている。

 

 司法改革の中心は検察改革だ。昨年末、「高位公職者犯罪捜査処」設置法案を成立させ、大統領をはじめ長官などの高位公職者に対する捜査権を検察から奪い、政権幹部に対する捜査が今、事実上ストップしている。

 

 経済面では、企業の自由な活動を支援するより労働者の地位を高めることに力を注いだ。最低賃金の大幅な引き上げによる格差是正を目指す所得主導経済成長政策は、韓国経済の体力を奪う。これまで企業内の労組がなかったサムソンにも労組が結成された。韓国企業の経営陣は、文政権の経済政策に反対であっても、抵抗できなくなっている。

 政権が進めてきた所得分配を中心にした経済政策の失敗で韓国経済は極度に悪化したにもかかわらず、世界中が新型コロナで経済が大混乱する中で文政権の失敗がみえなくなってしまったのである。

 

 外交面も限界が来ていた。文政権の基本的な考え方は「日米の意見に左右されるのは恥」であり「中国とは運命共同体」というものだ。

 日米を離れて中朝に接近しようとする。北朝鮮は同一民族であり関係を深めなければならないとの姿勢をもち、米国を中心とした戦略から一線を画し、わが道を行くようになった。

 日韓軍事情報包括保護協定(GSOMIA)破棄通告(のちに無効化)や北朝鮮との軍事境界線である38度線沿いの偵察飛行を中止するなど、日米を含む安全保障体制を脆弱(ぜいじゃく)化させているのである。

 

進む「反日積弊清算」日韓、米韓関係の危機

 

 今後の展開を予想する。内政面では、曺国前法相を追い詰めた尹錫悦ユンソンヨル(検事総長への圧力が懸念される。昨年末に成立した「高位公職者犯罪捜査処」設置法に基づき、7月に既存の検察当局とは別に、「第二の検察」である「高位公職者犯罪捜査処」(公捜処)が発足することとなる。標的は尹検察総長であるとの指摘がある。また、さらなる保守層への報復捜査もあり得る。

 

 経済の悪化は避けられない

 大衆迎合的政策による財政「破綻」と財閥への厳しい政策による成長の鈍化、雇用の減少、輸出の14カ月連続マイナス、投資の2年連続マイナスなど、ひどい「基底疾患」があった。その上、コロナ禍が急襲したのだ。約20年前のアジア通貨危機当時は、世界経済が好調ゆえにすぐにV字回復ができた。全世界同時コロナ禍にあって、その期待はできない。

 

 日韓、米韓関係のさらなる悪化も懸念される。

 「徴用工」訴訟に基づく差し押さえ資産の現金化が迫る。対韓輸出管理の厳格化により日本が優遇対象から韓国を除外(昨年8月)、日本製品の不買運動は長期化する。GSOMIAを韓国が破棄通告(昨年8月)後、通告の「効力停止」を伝達(同11月)したが、再燃の可能性もある。在韓米軍の駐留経費をめぐってトランプ米大統領が4月20日、韓国側の提案を拒否したことを明らかにした。北朝鮮国内の「異変」情報が錯綜する中、同盟関係が揺れている。

 

 国難を背景にした「圧勝」は、真の強い政権基盤に結びつくことはまれだ。失策を他に責任転嫁できない。つかんだ民心が離れるときは早い。

 

 

▶ 5月3日の憲法記念日にちなんで、あわせてお読み下さい。
 勝共連合の「憲法改正」についての見解 

 

 

 思想新聞 進歩派「コロナ」禍が追い風 日米連携で北・中変動に備えよ 5月1日号より(掲載のニュースは本紙にて)

5月1日号 進歩派「コロナ」禍が追い風 日米連携で北・中変動に備えよ  / 5・3
憲法改正特集 緊急事態に即応できる憲法を / 主張 「永久平和」の敵、中国と戦おう

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