戦後体制が招いた地下鉄サリン事件

 地下鉄サリン事件から3月20日に30年を迎え、改めてテロ対策が問われている。その教訓は何だったのか、今一度、我々は振り返り二度とテロを許さない態勢を構築しなければならない。

 地下鉄サリン事件では死者12人、負傷者6000人以上という途方もない被害者を出した。そればかりか弁護士一家らの殺害事件なども加えると、「オウム真理教」が関与した事件の死者は29人に上る。一連の事件は「国家転覆」を図った重大な治安事件である。国家としては国内にテロ集団やローン・ウルフ(個人テロリスト)、外国の謀略組織がさまざまな口実を設けてテロを仕掛けてくる危険性を排除してはならないのである。

国家転覆テロに無策の治安態勢

地下鉄サリン事件

 事件の経緯を振り返っておこう。教団代表の麻原彰晃こと松本智津夫は1984年にヨガ道場「オウム神仙の会」を創設後、87年に「オウム真理教」に改称。88年に死亡信者を焼却、脱会信者を殺害したほか、89年には坂本堤弁護士一家を殺害。90年総選挙で「真理党」で出馬するも全員落選したことから「ヴァジラヤーナ(殺人を肯定する教義)」を宣言、殺人(ポア)も許されるとし宗教を隠れ蓑にテロ集団へと変貌していった。

 94年には「97年に私は日本の王になる。真理に仇なす者はできるだけ早く殺さねばならない」と説法し、国家転覆=オウム国家建設を意図し武装化に着手。自動小銃の製造や猛毒のボツリヌス菌などの細菌兵器、化学兵器の開発を進め、猛毒神経ガス「サリン」を製造し70トンのサリンを撒いて首都壊滅を企図し、同年6月に松本サリン事件、95年3月に地下鉄サリン事件を引き起こしたのである。

 ここから明らかなように教団は国家転覆を狙うテロ集団である。それが地下鉄サリン事件を起こすまで数年ありながら凶悪犯罪を許してしまった。

 第1に、テロを未然に防ぐために不可欠なインテリジェンス(情報)活動があまりにもお粗末だったということである。正確な情報とその分析、そして迅速かつ的確な行動があってこそテロを未然に防げる。

 海外ではCIA(米国中央情報局)やMI6(英国情報局秘密情報部)など、どの国も諜報機関を設置し情報収集している。そうした情報(インフォメーション)を確度の高い情報(インテリジェンス)へと高め、テロを防止する。ところが、わが国は本格的な諜報機関を持たない。テロ対策(安全保障全般に言えるが)にとって致命傷である。

 第2に、治安態勢がなってなかったことである。都道府県警の連携がうまくいかず、各地の事件情報の共有が進まず警察の総力を結集した体制が組めなかった。それは当時、地域の警察が初動から犯人逮捕まで担っていたからで、これは連合国軍総司令部(GHQ)の弱体化政策による市町村警察の名残である。96年に警察法が改正され連携捜査が可能となった。

 第3に、化学テロ対策の治安部隊を整備してこなかったことである。陸上自衛隊には化学防護隊(現中央特殊武器防護隊)があったが、戦前の731部隊の再来などと左翼から批判され日陰者扱いにされNBC(核・生物・化学)テロ対策が手薄となっていた。サリン事件後、警察にNBCテロ対応専門部隊が創設され、自衛隊の化学部隊も拡充されたが、それで十分ではない。例えばNBC攻撃に備えるシェルターは皆無である。

 第4に、テロ組織を撲滅する徹底した施策がないことである。国際社会ではテロ集団は組織的に壊滅し再発防止に厳格に臨むのが常識だ。大半の国は教団を「国際テロ集団」と規定し組織的活動を完全に禁止し入国などに目を光らせている。

 ところが、わが国は当事国なのに左翼が主張する「加害側の人権」「言論の自由」に惑わされ誤った対応をした。それを象徴するのが破壊活動防止法(破防法)の未適用である。本来、同教団には破防法を適用し団体を解散させて組織的活動を完全に封じるべきだった。それがないので現在もオウム後継3団体(アレフ・山田らの集団・ひかりの輪)が活動しており、地域住民に不安視されている。

非常事態条項なき平和ボケ戦後憲法

 破防法は文字通り、破壊活動を行って国家転覆を図り国民の生命と財産を奪おうとする集団に適用し、その集団を解散させ活動を封じ込めるためのものだ。適用条件は破壊活動の組織性、政治性、将来の危険性の3点で、いずれも教団に該当した。

 ところが、当時の政権は社会党の村山富一首相の自社連立で、公安当局は破防法を適用しようと公安審査委員会に請求したが、左翼人権派に侵された同委が請求を棄却。それで別途に団体規制法(無差別大量殺人行為を行った団体の規制に関する法律)を作った。

 同法には団体解散の規定はなく公安調査官や警察官の立ち入り検査や3カ月ごとの構成員・資産報告を義務づけるだけで違反者への罰則も微罪。教団施設の一斉に立ち入り検査で、テロ再発を防げる保障はない。

 何よりも憲法に非常事態条項を設けず、平和ボケに終始している戦後日本である。この克服こそ最大の課題である。

【思想新聞 4月1日号】トランプの平和戦略 国連「破綻」の現実踏まえるリアリズム/真・日本共産党実録/連載「文化マルクス主義の群像」/共産主義定点観測

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