日本国民は目覚めねばならない。自由と民主主義の破壊を企てる「悪の枢軸」すなわち中国・ロシア・北朝鮮が「見えない侵略」(間接侵略)をすでに仕掛けている。それにも関らず日本にはこれを防ぐ手立て(スパイ防止法)がない。これは我々が再三警告しているように国家として致命的欠陥である。
諜報活動は古来非対称戦だった
スパイ(諜報)活動は古来、戦争の一形態とされた。中国春夏時代の兵法家、孫子は間諜(スパイ)を5つ挙げている。すなわち「郷間」(敵国の住民をスパイにする)「内間」(敵国の軍人・役人をスパイにする)「反間」(二重スパイ)「死間」(敵国に故意に捕まり偽情報を流す)「生間」(敵国に侵入し生きて情報を持ち帰る)で、これによって敵国の情報を取得し、あるいは攪乱して滅亡へと追い込む。いわゆる非対称戦である。
共産党政権は2003年に「人民解放軍政治工作条例」を作成し、輿論戦、心理戦、法律戦の3つの戦術を「三戦」と呼び、これを非対称戦と位置づけた。輿論戦では自国内の敢闘精神を高め国際世論を味方につける。心理戦では宣伝・威嚇・欺瞞・離間の認知操作で敵の士気をくじき、法律戦では国際法と国内法を駆使して中国の軍事行動を容認させ、覇権拡大を目指す。そういう魂胆から「間諜」を世界で(むろん日本でも)繰り広げているのである。
スパイ防止は国際法(国連憲章51条)で認められた自衛権すなわち国家の固有の権利とされており、どの国も刑法や国家機密法に「スパイ罪」を設けているのである。
スウェーデン王国を見てみよう。世界で最初に情報公開法を設けた国だが、刑法典第19章「王国の安全に対する罪」の第5条において次のように規定している。
「外国を援助するために無権限に、防衛施設、武器、物資、輸入、輸出、生産手段、交渉、決定又はその他その外国への開示が防衛の全体又は王国の安全にとり苦痛をもたらすような状況に関する情報を獲得し、送付し、提供し又は漏洩する者は、その情報が正当であるか否かに関係なく『スパイ罪』として6年以下の拘禁に処する」
さらに第6条においては「第5条に述べる罪が重大であると解すべき場合は、『重スパイ罪』として4年以上10年以下の有期拘禁又は終身拘禁に処する」と規定している。重大なスパイには最高刑の終身拘禁で臨むのである。それが世界の常識なのである。
米国は連邦法典794条、英国は国家機密法1条にスパイ罪を設け、いずれも最も重いケースは最高刑を処する。すなわち米国は死刑、英国は拘禁刑である。フランスは無期懲役(刑法72・73条)、ロシアは死刑(刑法典64条)、中国も死刑(反革命処罰条例)、北朝鮮も死刑である(刑法65条)。
ところが、わが国にはスパイ防止法が存在しない。スパイ行為を取り締まる法律そのものがないのである。それで海外ではスパイ事件であっても日本では外為法違反事件や窃盗事件、自衛隊法(守秘義務違反)違反事件となり、いずれも軽い刑で済ませてしまう。
法整備ない故に拉致事件が頻発
1980年に宮永幸久元陸将補がソ連に自衛隊の機密を流していた事件が発覚したが、自衛隊法違反でわずか懲役1年の微罪で終わった(2001年の自衛隊法改正で最高刑10年となったが、それでもスパイ行為でなく防衛漏洩行為について処罰しているだけだ)。
北朝鮮のスパイ工作員を逮捕できるのは密入国した際の出入国管理法違反、本国に無線連絡した際の電波法違反といった容疑に限られていた。いずれも重罪ではなく、初犯なら執行猶予が付く軽犯罪扱いである。
例えば、山形県温海町の北朝鮮スパイ潜入事件(1973年8月5日)で工作員2人を逮捕したものの、山形地裁が下した判決は出入国管理令・外国人登録法違反で懲役1年・執行猶予3年。工作員は押収された無線機などのスパイ用具を「金日成閣下のものだから返せ」と主張し、裁判所はこれを認めたので「万景峰号」に乗せて新潟港から堂々と帰国した。
長年、警察で北の対日工作の捜査に携わった故佐々淳行・元内閣安全保障室長は2002年9月の日朝首脳会談後に拉致事件についてこう述べている。「我々は精一杯、北朝鮮をはじめとする共産圏スパイと闘い、摘発などを日夜やってきたのです。でも、いくら北朝鮮を始めとするスパイを逮捕・起訴しても、せいぜい懲役一年、しかも執行猶予がついて、裁判終了後には堂々と大手をふって出国していくのが実体でした。なぜ、刑罰がそんなに軽いのか―。どこの国でも制定されているスパイ防止法がこの国には与えられていなかったからです」(月刊誌『諸君』02年12月号)
佐々氏は、「もしあの時、ちゃんとしたスパイ防止法が制定されていれば、今回のような悲惨な拉致事件も起こらずにすんだのではないか」と悔しがっておられた。それでも左翼メディア、野党はスパイ防止法制定に反対するのか。そうなら彼らはもはや「三戦」に操られる「間諜」と言うほかないのである。
【思想新聞 10月15日号】高市早苗氏 第29代・初の女性総裁に/2025安保フォーラム役員会/朝鮮半島コンフィデンシャル