わが国の平和と安全を守るためにスパイ防止法を早急に制定すべきである―。この声は与野党を超えて朝野に広がっている。今年7月の参院議員選挙で同法制定を訴えたのは自民党、日本維新の会、国民民主党、参政党、保守党で、これら政党の得票率(参院比例区)は約60%を占めるに至った。
これに対して反国家・反スパイ防止法姿勢を露わにするのが日本共産党、社会民主党の共産主義政党であるが、両党合わせても僅か7%。これに容共の立憲民主党、れいわ新選組、公明党を加えても少数勢力にとどまる。反対勢力の中心は共産党とこれに同調する朝日新聞や毎日新聞などの確信犯的左翼紙であることを我々は銘記しておかねばならない。したがってスパイ防止を制定させるか否かの「国家存亡の戦い」は、まさに共産主義との闘いとなるのである。
共産主義=スパイ活動の歴史を学べ
共産主義の創始者の一人、エンゲルスは「(支配)階級は、国家を通じて、政治的にも支配する階級となり、こうして、非抑圧階級を抑制し搾取するための新しい手段を獲得する」(エンゲルス『家族、私有財産および国家の起源』)と国家を抑圧機関と断じ、マルクスは「共産主義者は、これまでのいっさいの社会秩序(国家)を暴力的に転覆することによってのみ自己の目的を達成することを公然と宣言」(『共産党宣言』)した。
すなわち国家を支配階級の暴力的抑圧機関と捉え、それを打倒するには暴力的手段をもってするしかないと断じ、「暴力革命」「暴力的国家転覆」(武力侵略)を正当化し、ウラジーミル・レーニンは1917年のロシア革命で成就させたのである。
ロシア革命の悲惨さを象徴するのは、ロシア最後の皇帝ニコライ2世一家7人の末路であろう。革命後の1918年7月、ロシア中部のエカテリンブルクの元商家の地下室で銃殺され、遺体は硫酸を使って跡形もなく消されて身元も隠蔽されたのであった。貴族らの多くも同じ運命を辿った。わが国がその憂き目に遭っていれば背筋が凍る歴史を辿ったであろう。
レーニンはロシア革命が成るや、秘密警察「チェー・カー」を創設し、スターリンはそれを「GPU(ゲーペーウー)」に改組し、共産党という「新しい階級」(ミロヴァン・ジラス元ユーゴスラヴィア副大統領)を形成し、国内では粛清をもって独裁基盤を固める一方、世界を舞台に謀略スパイ活動を展開するようになった。わが国のゾルゲ事件はその一つにすぎない。
スターリンが死ぬと(53年)、恐怖政治のイメージチェンジを図るためにGPUを廃止して54年にソ連国家保安委員会(KGB)を新設してバージョンアップし、暗殺や謀略などの非公然活動を止めることなく繰り返した。国内では恐るべき監視体制を構築し、国外では国家転覆や要人暗殺、スパイ活動等々あらゆる非合法活動を展開した。ソ連は崩壊しても、その夢を追い求めているのがKGBの遺伝子を継ぐウラジーミル・プーチンにほかならない。
中国もそうである。元来、中国ではスパイ(諜報)活動は戦争の一形態とされ、中国春夏時代の兵法家、孫子は間諜(スパイ)を大いに推奨した。毛沢東は共産主義軍事論をエンゲルスやレーニン、トロツキーから学んだが、それに中国古来の軍事学(孫子の兵法)を採り入れ、独自の「人民戦争論」を構築し、今日では輿論戦、心理戦、法律戦の3つの戦術を「三戦」と呼び、これを非対称戦と位置づけてスパイ工作を世界中で繰り広げている。
これに対して高市政権は「国益を守り、国民の安全を確保するためには、インテリジェンスに関する国家機能の強化が急務」(木原稔官房長官)としているが、それは共産主義の脅威(国内からの暴力革命と国外からの武力侵略)から日本を守るために必須のものと言わねばならない。
高市首相の「情報.保全制度」は正論
高市早苗首相は「情報保全制度」について、米国では「合衆国法典第18編(刑法・刑事訴訟法)で、「外国政府を援助する目的での国防に関する情報の外国政府関係者への漏洩」「暗号および通信諜報に関する機密情報の漏洩」「機密文書の権限なき持ち去り」などについて厳しい法定刑があるほか、英国では「公務秘密法」で「国の安全又は利益を損なう目的での敵を利する情報の収集、伝達」などについて法定刑、ドイツでは「刑法」で「国家秘密の外国勢力への漏洩」などについて法定刑、フランスでは「刑法」で「国民の基本的利益を損なうおそれがある情報の外国政府や外交企業への漏洩」などについて法定刑があると指摘している。
その上で高市首相はわが国には「包括的にスパイ活動を禁止する法律」が存在せず、現行の関連法令の法定刑が他国に比べて必ずしも十分でないばかりか、諸外国では認められている捜査手法が使えないことが課題と強調、さらに外国からの影響力工作などに対応する「外国代理人登録法」の導入などを提唱している(『月刊WILL』2025年11月号)
スパイ防止法が存在しない故に北朝鮮の工作員が暗躍し、日本人拉致を繰り返した教訓を忘れてはならない。直ちにスパイ防止法を制定せよ。
【思想新聞 11月15日号】米中首脳会談・米国の弱点を突いた習近平/真・日本共産党実録/文化マルクス主義の群像/朝鮮半島コンフィデンシャル