国会での憲法論議が遅々として進まない。僅かばかり進んでも末梢ばかりに捉われて本質的な憲法論議に至らない。これでは「戦後レジームからの脱却」は夢のまた夢に終わってしまう。そして亡国の道を転がり落ちる。こういう危機感を我々は抱いている。
憲法とは何ぞや。元立教大学総長の松下正寿先生はこう述べている。―憲法とは国の根本的あり方を規定した原則である。成文、非成文は第二義的である。憲法の母国であるイギリスには成分はない。「憲法」と称する文書はない。慣習が憲法である。それには宗教や道徳も暗黙のうちに含まれている。慣習のうち、法は裁判所による認識の対象になるから判例として存在し、イギリス人はそれを「憲法の法」と称する―(『聖徳太子 政治家として』ライフ出版、1982年刊)。
家族の守護こそ最大の人権擁護
言うまでもなく、法は社会秩序を維持するための外面的な規範であり、強制力を伴う。これに対して道徳は個人の内面的な意識や善悪の判断に基づく自発的な規律であり、たぶんに宗教的価値観に裏付けられている。すなわち法は道徳に立脚しなければ成り立たない。だから憲法は歴史や伝統から乖離してはならないのである。
英国の保守政治思想家エドモンド・バークは「変更のための手段をもたない国家は、自己を保存する手段をもたない」(『フランス革命についての省察』)と述べ、大胆な改革もときに必要だとするが、祖先から相続してきた法(コモン・ロー)や世代を超えて生命を得ている習慣・習俗については「ある世代が自分たちの勝手な思い込みや薄っぺらな考えで改変することは許されない」と指摘している。それが「民主主義の母国」とされる英国の憲法観と言ってよい。
わが国の現在の憲法論議で忘れ去られているのは「世代を超えて生命を得ている習慣・習俗」とりわけ「家族」についてである。このことを改めて想起したい。
1948年の国連第3回総会で採択された「世界人権宣言」は16条に「家庭は、社会の自然かつ基礎的な集団単位であって、社会及び国の保護を受ける権利を有する」と明記している。66年に採択された国際人権規約も「できる限り広範な保護及び援助が、社会の自然かつ基礎的な単位である家族に対し、…与えられるべきである」(人権A規約10条1項)と定めている。世界人権宣言も国際人権規約も、個人が尊重され人権を守るために家庭、家族が守られ援助されなくてはならないとしているのだ。つまり家族の守護を「個人の尊重」の前提としている。
なぜ家庭は「社会の自然かつ基礎的な集団単位」なのか。それは、人は母の胎から生まれ、家庭・家族に育まれ、成人となるからである(ちなみに「家族」とは夫婦や親子、兄弟姉妹といった人々の集まりを言い、その家族の生活の場を「家庭」と言う)。
そうであるから海外では少なからず憲法に家族守護条項を設けている。左翼憲法学者が人権憲法として評価するワイマール憲法(ドイツ憲法=1919年制定)は「家族の清潔を保持し、これを健全にし、これを社会的に助長することは、国家および市町村の任務である」(119条2項)とし、戦後のドイツ基本法(憲法)もこの精神を継承し、「婚姻および家族は、国家秩序の特別の保護を受ける」と規定し、「子供の育成および教育は、両親の自然的権利であり、かつ、何よりもまず両親に課せられている義務である。この義務の実行については、国家共同体がこれを監視する」(6条)と謳っている。
イタリアの戦後憲法も「共和国は婚姻に基づく自然共同体としての家族の権利を認める」(29条)と家族条項を定め、「子供を育て、教え、学ばせることは両親の義務であり、権利である」(30条)、「共和国は、経済的および他の措置により、家族の形成およびそれに必要な任務の遂行を、助ける。大家族に対しては特別の配慮を行う」(31条)としている。
翻って我が国の憲法は「すべて国民は、個人として尊重される」(13条)とするのみで家族守護条項を設けていない。それで共産主義勢力は「個人」ばかりを言い募る。それは唯物史観に由来するもので、最初の階級社会を家族とし(人の内面性、すなわち愛を否定した陳腐な人間観だ)、家族を封建的な存在と規定し家族を破壊することを進歩的とした。それで彼らは家族を壊そうとするのだ。
超少子化の国難は家族再生で克服を
思い出してもらいたい、厚生労働省が先に公表した2025年の人口動態統計概数を。国内で生まれた日本人の子供は67万余人にとどまり、合計特殊出生率は1・14と過去最低になった。人々は結婚せず、家庭をもたず個人で甘んじている。このままだと日本はどんどん縮まる。これこそ国難だ。その克服は「家族の価値」の復権である。少なくともわが国が成文憲法をもって「憲法」とするなら条文に家族条項を明記すべきだ。もとより国民の価値観が変わらなければ国難を克服できない。家族復権を目指す根本的改憲論議が今、必要な所以である。
【思想新聞 6月15日号】韓国統一地方選挙 与党勝利もソウルは「国民の力」/真・日本共産党実録/文化マルクス主義の群像/朝鮮半島コンフィデンシャル