世界思想 9月号 (平和大使協議会発行) を刊行しました。今号の特集は「2019参院選 民意はどう示されたか」です。
参議院選挙で改憲派が3分の2に4議席届かなかったが・・・
一般的に改憲勢力は与党(自民・公明)および日本維新の会とされている。
今回、維新は10議席(選挙区5、比例5)を獲得し、非改選を合わせて16議席となった。したがって改憲勢力は与党141議席に維新と無所属(非改選)の3人を加えて160議席。
3分の2である164議席には4議席足りなかった。これを得票数・率でみると次のようになる。
改憲をめぐる立場は三つに分類すべきだ
だが実際には、こうした改憲・護憲勢力の分け方は現実的ではない。
公明党は積極的改憲勢力ではないし、逆に国民民主党も単純に護憲勢力とは言い難い。
同党は公約では「現行憲法の基本的理念と立憲主義を維持し、未来志向の憲法を議論する」としており、少なくとも公明レベルの論憲勢力と言うべきだ。
選挙後のテレビ番組でも、玉木雄一郎代表は「憲法議論は積極的にやる立場だ。自民党の4項目の改憲案の中身はともかく、議論の中で問題点を指摘したい」と述べている。
そこで各党をあらためて積極改憲・中間派・護憲の3つの立場に振り分けると、得票数・率および選挙後の議席数は下の図のように変わる。
ちなみに「NHKから国民を守る党」の立花孝志代表も改憲の発議には賛成しているため、中間勢力に分類した。
この図から読み取れるのは、イデオロギー的に現憲法に固執する左翼勢力は約3割にとどまるということだ。
残る大半の国民は、現実をふまえて憲法のあり方を議論すること自体は否定していない。改憲論議は大いに進めるべきなのだ。
安倍政権が実際に改憲を実現しようとすれば、まず積極改憲派を固めたうえで、さらに中間の論憲勢力を説得する努力が必要となる。
一方、思想的に「平和憲法信者」である3割の左翼勢力は、国民投票の最後まで改憲に反対するだろう。
公明党が改憲の足枷となる可能性
イタリアの経済学者によると、組織には、2割がけん引し、6割が追従あるいは傍観、残る2割が足を引っ張るという「2―6―2」の原則(パレートの法則)があるという。
自民・維新の議員の中にも改憲に消極的な議員が少なからず存在することを考えれば、憲法問題でも、この2―6―2が当てはまるかも知れない。
その場合、安倍首相にとっての第一の課題は、改憲をけん引する2割の勢力を強固にすることだ。
そうすれば、おのずと中間勢力がなびき、改憲賛成8割を目標に設定することができる。
国民投票では過半数で改憲が可能だが、国民世論を分断せず、国民の総意としての改憲を果たそうとすれば、すくなくとも左翼勢力を除く7割を盤石に固めなければならない。
果たして自公連立政権の枠組みでこの課題を克服できるだろうか。
これまで自民党は、連立維持のため公明党に配慮した妥協政治を強いられてきた。公明党は自民党に対する「ブレーキ役」を自任しているが、政権が必要な施策を推進する際の足枷になってきた側面も否めない。
外交政策では、公明党は対中融和姿勢が目立ち、何かにつけて「中国への配慮」を要求。
消費増税についても、公明党が強く主張した軽減税率の導入を自民党が丸呑み。今年秋の増税時には、わかりづらい仕組みが混乱をもたらすとも予想されている。
憲法についても9条維持の立場を鮮明にして、自民党とは一線を画している。
06年に成立した改正教育基本法では、公明党が「愛国心」の文言を入れることに抵抗。結局は「国と郷土を愛する」という曖昧な文言で決着した。
国民の負託に応え憲法論議を前に進めよ
しかし、今や北朝鮮の核保有や中国の台頭により、東アジアの安全保障環境は激変。
トランプ大統領の米国も、日本に集団的自衛権の行使を求め、周辺地域やホルムズ海峡などで応分の役割を果たすことを期待している。
こうした変化に対応するには9条改正にくわえ、さらなる防衛力の増強が不可欠だ。
「戦後レジーム」に決別し、自分の国は自分で守る、普通の国家に改革しなければならないのである。
政権与党の一角を担う公明党も、そろそろシビアな現実を直視し、観念的平和主義を克服すべきだ。
近年、公明党が自民党に迎合しすぎるとの不満が、支持母体である創価学会内で高まっているという。
しかし、9条改正を含む改憲論議は、自民党への迎合ではなく、時代の要請であり、国民の負託なのだ。
選挙後に実施された読売新聞の緊急世論調査でも、憲法に関する議論が活発化することを期待する声が66%に達した。
内外の国難に対して、この国のあり方を真剣に考えるべきというのが大半の国民の願いである。
安倍政権の継続を選択し、論憲勢力を含めて7割に迫る得票を与えた民意を、政権与党である自公は軽視すべきではない。
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