世界思想9月号を刊行しました。今号の特集は「2020 米国の選択」。
ここでは特集記事の一部 「共産中国にどう対峙するか 求められる米国のリーダーシップ」 についてご紹介します。
米国大統領選挙(2020年11月3日実施)は米中対立の行方にも大きな影響を与える。世界が直面する最大の危機の一つは、言うまでもなく共産党一党独裁の中国の台頭だ。トランプ政権は中国の脅威に対し、覇権拡大を許さない厳しい姿勢をとっている。
この方向性が堅持されるかどうかで、5年、10年後の世界、特にアジア・太平洋地域の様相は大きく変わるだろう。その重大な選択を前に、米中関係をめぐる現状について整理しておこう。
「皇帝」となった習近平と30年先を見据えた長期戦略
現在の激しい米中対立について、メディアではトランプ大統領と習近平国家主席との「チキンレース」などと揶揄する声もあるが、その指摘は完全に的外れだ。
両者の対立はメンツやプライドといった、一時的、短絡的な感情に基づくものではない。
習氏は長期的な覇権拡大戦略を実に狡猾に進めている。
トランプ政権はその狙いを熟知し、世界の自由主義を守るための戦いに果敢に挑んでいるのである。
日本のメディアは、トランプ政権の狙いを必死に矮小化する。4年前の大統領選挙で「トランプ大敗」を予想し、「トランプを支持する者など誰もいない」と堂々と語っていたころから何も変わっていない。
習氏は2017年の第19回党大会で「中国の3段階戦略」を発表した。大まかに言えば、建国100周年にあたる49年までに、中国が世界秩序の頂点に立つというものだ。
そして習氏はその翌年、憲法を改正し、国家主席の任期を撤廃した。習氏は退任の必要がなくなり、事実上、中国の「皇帝」となったのである。
習氏にはもはや、自らの政治生命の延長や人気取りのための一時的な戦略をとる必要がない。
日本にいると分かりづらいが、中国が共産主義国家である事実とともにこの点を見逃すと、中国の本質は理解できない。
中国は常に30年後(2050年)を見据えており、世界秩序の頂点に立とうとしている。皇帝になることも帝国主義になることも、中国では時代遅れではない。
汚職、環境汚染の「一帯一路」WTO利用し世界の富を搾取
トランプ政権は5月、「中国に対する米国の戦略的アプローチ」と題する報告書を発表した。国防権限法(19年)に基づき、国防上の課題についてホワイトハウスが議会に提出する定例のレポートだ。
報告書は第1に、中国経済について分析。中国は01年に世界貿易機関(WTO)に加盟し、市場志向型政策を採用すると世界に約束した。しかし実際には、競争原理を取り込まないどころか、むしろWTOを利用し、世界の富を吸い上げた。
国際ルール違反は知的財産分野において顕著であり、世界の模造品の63 %が中国由来だ。
「一帯一路」構想も、質が低い上に汚職や環境汚染をもたらし、プロジェクト実施国の統治・財政に害悪をもたらしている。以上がトランプ政権の分析である。
トランプ政権はこれらの暴挙に対応するため、司法省や連邦捜査局(FBI)主導で、中国の産業スパイ対策を実施。また1月15日に米中貿易協定を締結し、2000億ドル以上の米国製品・サービスの購入を中国に合意させた。これらトランプ政権の対中戦略は、議会の承認のもと、省庁の壁を超えた国家的、長期的な取り組みだ。
中国本土化で「アジア金融ハブ」としての地位失う香港
香港国家安全維持法の成立を受け、トランプ氏は7月14日、香港に対する優遇措置を廃止する大統領令に署名した。
結論から言えば、これで「香港は今後、中国大陸と同様に扱われる」(トランプ氏)ことになる。
香港・米国間の貿易では、特別に低率の関税が適用され、米国民は香港に査証なく渡航できる。さらに香港の通貨は中国本土の人民元とは異なる香港ドルだ。こうして香港ではこれまで、米国との間で人・モノ・カネの移動がほぼ自由に行われてきた。これらが、香港が世界的な金融ハブとしての地位を保ってきた最大の理由である。
しかし、今回のトランプ氏の署名によって、これらの優遇措置がすべて消滅する可能性がある。これで両国間の年間数百億ドル規模の貿易は壊滅するかもしれない。米国以外の国でも、「香港ビジネスはリスクが高い」とのイメージが広がれば、シンガポールなどに移転する動きも出るだろう。
またトランプ政権は7月9日、中国・新疆ウイグル自治区の人権侵害に関与した中国の高官らを制裁対象にしたと発表した。同地区では100万人以上のイスラム教徒が信仰を理由に強制収容され、女性には不妊手術が強制されているという。今回の制裁で、同自治区トップ4人の米国内資産を凍結し、家族の米国への入国も禁止した。
トランプ政権の対中政策は決して一時的なものではない。
その最大の理由は、中国との対決の本質が、「自由VS共産」の闘いであることをトランプ政権が熟知しているからだ。
7月23日、リチャード・ニクソン図書館で演説したポンペオ国務長官は、「国内では独裁色を強め、対外的には自由への敵意を攻撃的に表す」中国が「マルクス・レーニン主義」の体制であると明確に指摘。その上で「中国共産党から自由を守ることは我々の時代の使命であり、米国はそれをリードすべき立場にある」と中国の覇権阻止に向けた強い決意を示した。
ポンペオ演説の通り、まさに自由を守る戦いは正念場を迎えている。
30年先を見据える中国に対して、自由世界も長期的戦略で立ち向かわなければならない。
米国の揺るぎないリーダーシップを世界は必要としているのだ。
(「世界思想」9月号から抜粋)
Leaflet – 日本の憲法を考える。