「大きな政府」が奪う米国の強み

世界思想7月号を刊行しました。今号の特集は「バイデン米新政権の100日」です。
ここでは特集記事の一部 【 「大きな政府」が奪う米国の強み 】 についてご紹介します。

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「家族支援」と「家族の弱体化」

 

 4月28日の施政方針演説では、成長戦略として約200兆円規模の「米国家族計画」が打ち出された。

「家族」という、保守派も好む単語を冠してはいるが、実質は富裕層への増税で貧困層への支援、減税を行う、典型的な「福祉国家」「大きな政府」の発想である。

 共和党系のシンクタンク『ヘリテージ財団』が同計画に反対するレポートを発表。家族支援を掲げる同計画が、逆に家族の弱体化を招くと警告した。
 
 納税者の家庭からは増税によって自由と機会を奪い、政府がより多くの資金を管理する。一方、分配された福祉に依存する家庭は自立への意欲を削がれる。その結果、米国の家庭と国力の衰退を招くとの主張だ。「自由」と「平等」の対立構図は変わらない。 

 

迷走する移民政策

 

 新政権の寛容政策を期待して、多数の中米人が米・メキシコ国境に集結。危機的な状況が生まれた。特に保護者が同伴していない未成年の入国希望者が殺到。3月には、これまでの最多1万2000人(19年5月)を大きく上回る1万9000人が押し寄せた。収容施設は許容量を超え、劣悪な生活環境が問題となった。

 その結果、3月16日にはバイデン氏がABCのインタビューで移民に対し「来ないでほしい」と訴えている。このように同政権の移民政策は迷走気味であり、世論の支持も決して高くない。

これに対し、トランプ前アメリカ大統領は「バイデン政権が不法移民に寛容な姿勢を示し犯罪者や違法薬物の流入を許している」と述べた。 また、米税関・国境取締局によると、3月以降メキシコとの国境で拘束された不法移民の数は過去20年間で最多水準となっている。

「平等法」により左右の分断が激化

 

 就任早々に連発された大統領令の中に性的少数者の人権に関するものがあった。そこでは、トランスジェンダーの生徒たちについて、自分自身の性自認に基づくトイレや更衣室の使用、スポーツ競技への参加を認めることなどが謳われた。

 この政策に対しては保守派のみならず、リベラルなフェミニストからも「女性の権利を危険にさらす」と非難が殺到した。特に女子スポーツへの元男性の参加については、同性愛者のアスリートからも懸念の声が上がったほどだ

 

 

 民主党主導の議会では、さらにリベラルな法案が下院を通過している。

 通称「平等法」と呼ばれるこの法案は、「人種、性別、出身国」による差別を禁じた公民権法(1964年)を修正し、新たに「性的指向、性自認」による差別禁止を加えようとするものだ。特に問題視されているのは、これが一切の宗教的例外を認めないことだ。

 これまで、キリスト教徒が性的少数者への「差別」で訴えられた際には、憲法修正第一条で認められる「宗教の自由」を盾にして戦ってきた。しかし、その最後の武器すら否定されようとしている。保守派の抵抗はすさまじい。

 

社会の変化で繫栄持続は不透明

 

 米国では4月26日に発表された統計で、歴史上はじめて白人人口が減少に転じた。キリスト教会の礼拝参加人数も減少の一途をたどる。
白人、プロテスタントが圧倒的優位を誇った時代には、伝統的な米国社会への「同化」を謳うことが可能だったが、今後は彼らも多様な人種・文化の一構成要素に過ぎなくなり、「統合」の対象となっていくだろう。

 バイデン政権の社会政策は、米国社会の変化を反映している。しかし、それは同時に従来の米国の強みを失わせるリスクを孕む

 この方向性が米国の持続的な繁栄をもたらすかは不透明だ。

 

 

(「世界思想」7月号より )

◆2021年7月号の世界思想 特集【バイデン米新政権の100日】
Part1 「対中強硬」路線継続も 対北、中東平和は不透明
Part2 過大な財政出動で経済弱体化の懸念
Part3 「大きな政府」が奪う米国の強み

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