2022中間選挙 米政権の動向と国際社会

「世界思想」1月号から特集「2022中間選挙 米政権の動向と国際社会」の一部をお届けします。

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 米国・中間選挙の結果が2022年12月7日、ようやく出そろった。上院の改選議席は35(100議席中)。下院は435議席すべてが改選。州知事選挙は35州(全米50州)で行われた。

 政権1期目の中間選挙は、与党に厳しい結果が出るのが通例で、大方の予想は共和党の圧勝だった。民主党は、バイデン大統領の不人気で苦戦するとの予測だったが、主因はインフレだった。消費者物価指数は今年3月以来、前年同月比8%超の記録的な上昇が続き、ロシアのウクライナ軍事侵攻を受けたガソリンなどエネルギー価格高騰が尾を引いている。

 バイデン氏は人工妊娠中絶問題の焦点化を図り、中絶の権利を明記した法案制定を公約した。一方、共和党は、終盤戦に入って治安悪化に焦点を当てた。ギャラップの世論調査では、犯罪を非常に心配していると答えた人は2020年の42%から、22年には53%に増えている。

 結果は、共和党が下院で222議席を獲得し過半数(218議席)を超えたが、上院は民主党が51議席となり過半数を維持。バイデン氏は辛うじて「死に体」を回避したといえよう。

トランプ支援候補は上院激戦州で苦戦

 この度の選挙を通じて注目を集めたのはトランプ前大統領だった。トランプ氏が支援した候補者の当落が同氏の今後の求心力に直結し、次期大統領選の在り方に大きな影響を与えることになるからだ。

 「激戦州」(大統領選の行方を左右してきた州)でトランプ氏が推薦した野党・共和党候補は苦戦、無党派を取り込んだ民主候補に敗れるケースが相次いだ。アリゾナ州は民主党の候補者が当選。ジョージア州は僅差のため決選投票が12月6日に行われ、民主が勝利。ネバダ州も民主、ニューハンプシャー州も民主、ペンシルベニア州も民主となり、ウィスコンシン州のみ共和党候補者が勝利した。

 トランプ氏に距離を置いていた共和党のビル・カシディ上院議員は11月13日、米NBCテレビのインタビューで、「前大統領と緊密に連携した候補が期待を下回った」と述べた。

 米政治サイトの「リアル・クリア・ポリティクス(RCP)」が中間選挙の直前に明かした分析によれば、上院選は8州で与野党の候補が拮抗していた。そのうち6州でトランプ氏が推薦した共和候補が出馬し、勝利したのは現職が再選された既述のウィスコンシン州だけだったのだ。

 しかし、全体としてみた場合はトランプ氏が支持した候補者の勝率は高い。米選挙分析サイト「バロットペディア」のデータや出口調査によれば、共和党から出馬したトランプ氏の推薦候補は13日時点で、結果が判明した上院23人のうち17人が当選を確実にし、下院では同じく157人のうち145人が当確になったとしている。その時点でトランプ氏が推した候補の勝率は9割。仮に7人全員が敗れても勝率は86 %である。これだけ高い勝率でも、共和党内でトランプ氏の責任を問う声が上がった。指摘した上院激戦州での勝率が低いからである。

 トランプ氏が推した候補が敗れた激戦州は過去の大統領選での勝敗も左右してきた。共和党内にトランプ氏を立てて臨んでも勝てないという雰囲気が広がっているのだ。

中間選挙後に演説するトランプ前大統領

共和党下院奪還の影響

  米議会は「ねじれ」た。予算案や法案は共和党の賛成がなければ成立しなくなる。バイデン政権の優先課題のうち、気候変動対策や銃規制など党派色の強い政策は実現が難しくなるだろう。インフレ対応など経済政策を巡っても、財政規律を重視する共和党の影響を受けるのは確実となっている。

 そして今後、攻守は入れ替わる。民主党は、昨年1月の米議会占拠事件を巡る特別調査委員会でトランプ氏を厳しく追及してきたが、共和党が主導権を握ることで同委は解散する見通しだ。

 代わりに共和党は、バイデン氏の家族が手掛ける海外ビジネスを巡る疑惑を取り上げ、政権を追い込む構えを見せる。特に、大統領の次男ハンター・バイデン氏が関わる事件に追求は絞られる様子だ。

 ハンター氏は、父親が副大統領就任中に、ウクライナや中国の腐敗企業と不透明な関係を結び、巨額の報酬を不当に得たとされる疑惑がかけられてきた。同大統領は不正を否定するが、すでに検察当局の一部が刑事事件捜査を始めており、「事件」と呼ぶのが自然である。

「ハンター事件」の概要

 「ハンター事件」はこれまでも政争の具にされてきたが、最初に公式に提起されたのは前回の大統領選直前の2020年9月だった。当時、共和党が多数を制していた上院の財政委員会などが特別調査報告として疑惑の詳細を公表している。報告によれば以下の3点である。

 ①ハンター氏は14年5月、ウクライナのガス企業「ブリスマ」の取締役となり、月額5万ドル(約692万円)を受け取り始めた。同社の創業者ミコラ・ズロチェフスキー氏はウクライナ内外での不正活動を糾弾され、英国から在英資産を押収された。

 ②父親のバイデン氏はその時期、オバマ政権の副大統領としてウクライナへの軍事援助を扱っていた。ハンター氏の米側のビジネスパートナーともホワイトハウスで面会し、その対ウクライナ取引を支援した疑いがある。

 ③ハンター氏は13年12月、バイデン副大統領の中国訪問に同行し、投資企業「中国華信能源公司」の代表、葉簡明氏との関係を得た。ハンター氏は後に華信能源公司から総額480万ドル(約6億6500万円)の「相談料」を受領した。葉氏はまもなく汚職容疑で収監された。

 資金の流れには「証拠」があったとされる。20年10月には、疑惑の取引の全容を明かすようなハンター氏のノートパソコンが、デラウェア州の自宅近くのコンピューター修理店で発見されたと報じられた。パソコンには数千通の電子メールがあったという。

 民主党側はワシントン・ポストなど主要メディアを含め、このパソコン自体を「ロシアの虚偽工作」として排除したが、最近になって、このパソコンがハンター氏所有の本物と判明している。共和党側は当然、下院における追求の有力材料とするだろう。

 分断された「アメリカ」は続く。米国内の価値観戦争はさらに過激度を増すだろう。分断の本質は、キリスト教・聖書的価値観と非キリスト教的価値観の闘いだ。その背景には、革命行動の重点を暴力革命路線から文化革命路線に転換した「マルクス主義者」の長期的な戦略がある。

 2024年の大統領選にむかって民主党、共和党は共に戦略の立て直しが必要になっている。最も重要なことは「結束」だ。バイデン、トランプ両氏の動向が勝敗を左右するだろうが、時期というより、結果としてその人のもとに結束できる候補者を立てられるか否かにすべてがかかっている。今後、最も危険な時期に世界は突入する。米国次期大統領に対する関心と期待はかつてなく大きい。(「世界思想」1月号より)

◆2023年1月号の世界思想 2022中間選挙 米政権の動向と国際社会
Part1 固定化された社会分断と求められるリーダーの出現
Part2 米中間選挙後の外交安全保障
Part3 「文化戦争」の帰趨決する大統領選
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