歪んだ「物語」と中国問題

 

「世界思想」2月号から特集「地球環境問題 求められる大局的視点」の一部「歪んだ『物語』と中国問題」をお届けします。

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 環境運動を歪ゆがめる要素は、イデオロギー以外にもある。複雑に絡み合う政治的な思惑や経済的な利害関係だ。

 あらゆる運動や政策には、リスクと共に、政治的、経済的な利益が伴う。純粋な問題解決の動機を持った人々だけでなく、権益を動機とした人々、政党や企業が群がってくるのだ。彼らが「環境問題」を政敵や競争相手に勝つための武器として用いるようになると、そこに歪みが生じてくる。

 自分たちの「物語」のプロパガンダにとって都合の悪い事実を隠蔽、無視するだけでなく、前項で述べた左翼イデオロギーと絡み合って、異論や反論を提起する人々を「反動勢力」として執拗に攻撃、排除するようになるのだ。その結果、科学的なエビデンスやファクトが歪められ、政策の妥当性や経済的合理性すらも無視した政策が推し進められるようになる。

 

映画『不都合な真実』に見る物語とファクトの乖離

映画「不都合な真実」

  歪められた物語の好例がアル・ゴア元米副大統領の語りによる2006年の映画、『不都合な真実』だ。この映画は世界に衝撃を与え、気候変動が脚光を浴びる契機となった。

 この直後に環境ビジネスを後押しする「グリーン・ニューディール」政策が登場。オバマ路線を踏襲したバイデン現政権では「最重要イシュー」に昇格した。映画はアカデミー賞を受賞し、環境問題啓発に貢献したとして、ゴア氏はノーベル平和賞も受賞した。

 だが実は、この映画にはロンドン高等法院が「9つの事実誤認」があると認定し、学校教育では「政治的見解の不均衡の助長」を防ぐため、必ず政府の指導要領と併用するよう義務付ける判決を下した。事実上、偏った政治的主張があると認定した形だ。

 事実誤認の内容は、例えば次のようなものである。映画では、極地の氷の融解によって海面が「近い将来」6メートル上昇するとされたが、これは「国連気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」報告の6センチの予測を100倍に誇張している。ハリケーンの頻発も警告されたが、台風やハリケーンの発生頻度は増えていない。氷の減少で死んでいくと言われたシロクマも、個体数は逆に増えている。

 IPCC報告書の作成にも関わった杉山大志氏(キャノン・グローバル戦略研究所主任研究員)は、地球温暖化の「ファクト(事実)」と物語を区別すべきだと訴えている。

 実際に気候変動についても、日本の場合、台風は大型化しておらず、数も増えていない。「ゲリラ豪雨」は増えているが、その原因は、温暖化よりも都市部の「ヒートアイランド現象」であるとの見方が有力だ。その場合、家庭や企業からの排熱、緑地の減少、アスファルトなど舗装面の増加などが原因であり、CO2の問題ではない。

 また、短期的なファクトとしては「地球は温暖化している」が、長期的には寒冷化に向かうとの予測もある。その場合は小氷河期による食料危機の方が深刻な課題となるだろう。

 ファクトと物語を区別するべき理由は、診断が間違えば治療に失敗するように、誤った物語による政策は問題解決につながらないからだ。

誤った現状認識が政策の失敗を招く

 歪められた物語に基づく政策を進めた代表的な国がドイツだ。同国では環境問題が国是のようになり、「脱炭素」「脱原発」を推し進めてきた。しかし、現在、ウクライナ戦争で天然ガスの安定供給が揺らぎ、再生エネルギー頼みの限界が露呈している。

 ドイツ在住の作家川口マーン惠美氏は杉山氏との対談で、2022年11月末に起きた深刻だが喜劇的な出来事を紹介した。その日は曇りで風もなく、3万基の風力は完全に止まり、太陽光の発電量も300万キロワットにとどまった。そこでピーク時に必要な7600万キロワットのうち6000万キロワットを原子力と化石燃料に頼り、残りは外国からの電力購入で賄ったと言うのである。あれだけ悪者呼ばわりした原子力と化石燃料にドイツ国民は救われたのだ。

 ドイツは2030年までに再エネ比率を80%に引き上げる計画だが、太陽光や風力は気象条件に左右されるため、原子力や火力などの安定電源の維持が欠かせない。その結果、ドイツでは発電能力が需要量の2・5倍と過剰になり、発電設備の稼働率低下など電力会社の採算悪化を招いている。

 ちなみに現実の電力危機を受けて、22年末までの原発停止の公約は撤回、23年4月15日までの延命が決定した。 人権問題で批判してきたカタールの液化天然ガス(LNG)も米企業経由で輸入する。石炭火力の強化も打ち出されたが、迷走する政策で振り回されるのはエネルギー企業や産業界だ。さらに褐炭採掘をめぐっては環境活動家と警察との衝突事件まで起きている。

 こうした混乱は、かねてから予想されていた。しかし、CO2や原発が悪者であり、再生エネルギーこそが解決であるとの物語に熱狂し、政策妥当性や経済合理性を無視して突き進んだ結果、電気代の高騰や、自国産業の苦境を招いてしまった。

 翻ってわが国でも、環境問題を「再エネ」「電気自動車(EV)シフト」に矮小化した物語が通説になっている。しかし、これらは電力の安定供給に影を落とし、自動車産業を苦境に追いやる側面も持っている。

 さらに、こうした動きの背景には中国の影もちらつく。太陽光パネルの製造過程のシェアは中国が8割、風力メーカーも世界トップ10のうち6社が中国企業だ。EV市場でも中国企業の躍進が目立つ。CO2排出量を野放図に増加させつつ、脱炭素の物語で最大の利益を得ているのは中国であり、先進国弱体化を図る「超限戦」だとの指摘もある。

 現状の再エネ推進は、安全保障上の脅威である中国への依存度を高める。こうした「不都合な真実」にも、しっかりと目を向けるべきだろう。(「世界思想」2月号より)

◆2023年2月号の世界思想 地球環境問題 求められる大局的視点
Part1 環境にシフトする共産主義者の欺瞞
Part2 歪んだ「物語」と中国問題
Part3 真の人類益に基づいた科学的英知の結集を
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思想新聞号外ビラ – 共産党批判ビラ「日本共産党100年の欺瞞」

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