〝強行可決〟LGBT法がもたらす不安と混乱

「世界思想」8月号から特集「〝強行可決〟LGBT法がもたらす不安と混乱」から総論部分をお届けします。

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 6月16日の参院本会議で「性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する国民の理解の増進に関する法律」、通称「LGBT理解増進法」が成立。1週間後の23日に施行された。
そもそもこの法案は、2021年5月に自民党内で推進派と保守派が激しく対立した末、棚上げとなっていた。当時、保守派が必死に抵抗した背景には、故・安倍元首相の働きが大きかったことも知られている。
この法案が蘇ったのが、今年2月だ。オフレコで、LGBTに関して「見るのも嫌だ」などと発言した荒井勝善・首相補佐官(当時)の発言が炎上。事態を重く見た岸田文雄首相は荒井氏を更迭、理解増進法成立に向けて舵を切った

「理解増進法案」をめぐる論点

  国会会期中の成立を目指して、急ピッチで調整が進む中、拙速な動きに懸念を示す声も高まった。2年前は一部保守派議員が世論から孤立した戦いを続けていたが、今回は多くの問題点が表面化し、産経、読売などの主要紙、インターネット上の多くの保守系チャンネルなどが反対の論陣を張り、各地でビラ配布や街頭演説も展開された。

一方で推進派は「反対しているのは宗教右派と、その影響を受けた自民党保守派だけ」との構図を浸透させようとしたが、「女性スペースを守る会」のような女性団体や当事者までもが懸念を表明するに至って、慎重派の裾野が想像以上に広いことが証明された。

主な論点は以下のようなものだ。

1つは、当初案にあった「差別は許されない」の文言の扱いだ。何が差別にあたるかが曖昧なままで「禁止」を謳うことには危険が伴う。当事者や活動家が不快と感じることがすべて差別とされ、訴訟の濫発や言論弾圧を招く恐れがあるからだ。最終的には「不当な差別はあってはならない」と修正され、安易な差別糾弾に一定の歯止めがかけられた。

2つ目は「性自認」問題である。これについて自民党保守派は「性同一性」に差し替えることにこだわった。
性同一性は「性同一性障害」との診断名になっているように、ある程度の客観性を伴う言葉だ。しかし、「性自認」は「自ら認める」という字面の如く、本人の主観という意味合いが強い。その結果、例えば、女子トイレ使用や女子スポーツへの参加を「自称女性」が求めるようになり、トラブルや犯罪を誘発する恐れが生じる
この問題については、保守派の懸念が反映され、自公提出案は「性同一性」で落ち着いていた。しかし、法案成立に向けた維新・国民民主との調整過程で、維新・国民案の「ジェンダーアイデンティティ(GI)」が採用されてしまった
これは大きな問題を孕む。GIは「性同一性」「性自認」、いずれにも訳される。つまり、解釈・運用の場面で「性自認」の意味合いが入り込む懸念が残ってしまったのだ。

3つ目は「民間の自発的な活動促進」。これについては啓発事業の助成金など、活動家の団体に公金が流れるのではないか、との疑念が示され、この文言は削除された。

4つ目が、政府に基本計画策定を義務づけ、自治体、企業、学校等にも、理解増進の努力義務を課す問題である。この法案は理念法と言いつつ、国民全体に影響を及ぼす内容になっている。特に問題となるのは学校教育だ。
LGBT教育は「性教育」でもある。性教育は子供の発達段階に配慮し、保護者等の理解を得て行うべきだが、現在、推進されているLGBT教育にはそうした配慮が欠けている
最終的な条文では、学校への努力義務自体は残す一方で、「家庭及び地域住民その他の関係者の協力を得つつ」との文言が付加された。今後は、この条文を根拠として、過激な教育に歯止めをかけるべきだろう。

最後に評価すべき点は、「全ての国民が安心して生活することができることとなるよう、留意」との条文が追加されたことだ。今後、政府の基本計画や自治体の施策の行き過ぎに歯止めをかける効果が期待される。
採決では自民党が党議拘束をかけ、保守派議員もほぼ賛成に回った。それでも採決に先立つ委員会質疑では山谷えり子議員や有村治子議員らが最後まで奮闘。提案者などから女性の権利擁護につながる発言を引き出し、議事録に残す戦略を取った

日本は本当に「遅れて」いるのか

  今回、推進派はG7サミット前の成立を強く主張していた。その理由は、主要先進国の中で日本が最も「遅れている」というものだった。
しかし、衆議院法制局が4月28日、自民党の会合で示したように、G7でLGBTだけに特化した差別禁止法を定める国はない。一般的な差別禁止法の中に「性的指向・性自認」の文言を含むケースがあるだけだ。

すでに日本は憲法で「法の下の平等」として包括的な差別禁止を謳っており、全国民に基本的人権を保障している。法務省の人権侵犯の救済手続き開始件数を見ても、性自認・性的指向に関するものは2020年度は7件。普遍的な法整備よりも、個別の丁寧な対応がふさわしい。

欧米であえて「性的指向・性自認」による差別禁止を求める声が高まったのは、これまで同性愛を犯罪化したり、性的少数者を弾圧してきた歴史があるからだ。逆に、日本には性的少数者に寛容な風土がある
実際に名古屋市の調査(2018年)では、7割が、女性のような男性(逆も)を見ても不快にならないと回答。同性愛にも3分の2が理解を示した。東京都の調査(20年)では、地域住民の無理解による差別・ハラスメントを受けた当事者はわずか1・9%。既に十分、理解は進んでいる。

さらに欧米では、急激に進む「差別禁止」に対して反動も起きている。
米国の当事者支援団体ヒューマン・ライツ・キャンペーンの報告書によると、全米で75以上の反LGBT法が成立したという。これには世論の揺り戻しも反映している。
例えば女子スポーツでは、トランスジェンダー女子選手(出生時男性)が優勝したり、記録を更新する事例が続出し、生まれながらの女子選手の権利が侵害されているとの危機感が広く共有されるようになった。
その結果、出生時の性別でのスポーツ参加を支持する割合は、米国62%(2021年、ギャラップ調査)、英国61%(22年、YOUGOV調査)にのぼる。22年6月には国際水連が、トランスジェンダー選手の女子競技参加を原則禁止。世界陸連と国際自転車連合も後に続いた。
手術を行っていないトランスジェンダー女性の女子トイレ使用についても、英国民の支持は29%にとどまり、反対は46%にのぼる。

子供の教育では、ニューヨークタイムズなどの調査で、米国民の70%が小学生に「性的指向・性自認」を教えることに反対。中学生でも54%が反対だ。フロリダ州では低学年にLGBTを教えることを禁止した。
未成年のホルモン療法についても北欧諸国が原則禁止に舵を切り、米国のこれらの揺り戻しには、それぞれ理由がある。スポーツの公平性を損なう事例に加え、性自認を悪用した犯罪の発生、性別適合治療がもたらす弊害など、欧米ではLGBTの権利拡大の負の側面が顕在化しているのだ。
その意味で、日本は決して「後進国」ではない。逆に、今回の拙速な法制化は、欧米諸国のような混乱状態を招く危険な一歩となり得る。歯止めとなる条文を踏まえて、過激な動きを食い止めなければならない

 

◆2023年8月号の世界思想 〝強行可決〟LGBT法がもたらす不安と混乱
Part 1 求めらる「性自認」への慎重な対応
Part 2 男女共同参画と理解増進法 背景に過激思想も
Part 3 理念先行で現場から不安の声
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