国際ハイウェイ・日韓トンネルが拓く平和と繁栄の地平

 

「世界思想」11月号の特集「国際ハイウェイ・日韓トンネルが拓く平和と繁栄の地平」から総論部分をお届けします。

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 “私は、1つの提案をしたいと思います。それは中国から韓国を通り日本に至る「アジア大ハイウェイ」を建設し、ゆくゆくは全世界に通じる「自由圏大ハイウェイ」を建設することです。これは中国大陸から韓半島(朝鮮半島)を縦断し、トンネルあるいは鉄橋で日本列島と連結して日本を縦断する一大国際ハイウェイで、ここでは自由が保障されるのです”  

 1981年11月10日、韓国ソウルで開かれた「科学の統一に関する国際会議」(ICUS)で基調講演を行った文鮮明総裁は上記のように語り、「国際ハイウェイ構想」を提唱した。同構想の理想は、冷戦真っ只中の当時の国際情勢からは実現が程遠いものに思われたが、同会議に参加したノーベル賞受賞者を含む著名な学者ら700人あまりが総裁の提案に賛意を示した。

 日本・韓国・中国を結び、南アジア、中近東からロシア、欧州へと連結される同構想は、単に道路や鉄道などのインフラを建設するためのプロジェクトではない。文総裁のビジョンは、プロジェクトが実現されれば、経済、文化の交流が促され、地域に一大経済圏、アジア共同体が実現し、北朝鮮の平和的解放への道が開かれること、さらには東洋と西洋が結合された新しいアジア太平洋文明が具現されるというものだ。

 かつて駐韓大使を務めた故金山政英氏は、国際ハイウェイの可能性についてこう述べている。

 「争いを脱却するためには互いに協力し調和するための共通の善を見出さなければならない。国際ハイウェイ構想は冷静に考えてみれば特に共産圏にとって経済的後進性から脱却するための絶好の手段である。核兵器戦争によって滅亡する人類の運命を救い得る代案は、相互理解と協調協力の精神をもって平和のために建設する世界ハイウェイという巨大な土木工事であるという予言は突飛なことのようであるが、人類の運命を救うためにはこのような発想の転換が必要であろう」

 金山氏は文総裁のこうしたビジョンを、「宗教家としての予言的卓見」とも表現しているが、まさに人類の幸福と平和の実現を人間の心と生活から追い求める宗教と、それを物質の解明から追究しようとする科学が、統一された一つの価値観として提示される方法について議論を積み重ねてきたICUSの席上でこのような提唱がなされていることに大きな意味がある。

自由と平和のピースロードプロジェクトへ

 国際ハイウェイ構想はその後も拡大を見せる。ベルリンの壁が崩壊して冷戦が終結した1990年代以降、新しい世界秩序をどう構築するかを国連のリーダーシップのもとで模索していた時代、文総裁は国連が国益を闘わせる場ではなく、人類益を中心とした真の平和機構にならなければならないと強調し、国連改革をテーマに取り組みを進めてきた。

 そうした中で2005年に創設されたのが国連NGOであるUPF(ユニバーサル・ピース・フェデレーション)だ。

 同年9月12日に行われたUPF創設大会で、文総裁はあらためて国際ハイウェイ構想に言及。北米大陸とユーラシア大陸を分けているベーリング海峡をトンネルか橋で連結することで、アフリカ大陸南端の喜望峰から南米チリのサンティアゴまで、そして英ロンドンから米ニューヨークまで、全世界を自由に駆け巡る世界超高速道路をつくって世界一日生活圏をめざすという「ベーリング海峡プロジェクト」を新たに提唱した。

 さらに2018年1月、UPF共同創設者である韓鶴子総裁がアフリカ・セネガルで開催されたUPF主催の「ワールドサミットアフリカ2018」において、あらためて国際ハイウェイ建設を進めることを表明。故文鮮明総裁の遺志を継ぎ、「自由、平等、平和、統一の幸福な世界の成就をめざす」との決意を明らかにした。その際、韓総裁は国際ハイウェイを「ピースロード」と呼び、すでに全世界の若者が中心となって展開されていた自転車・バイクによる平和活動「ピースロードプロジェクト」のビジョンと連結された。

国益超えた共栄圏づくりへ その理念に専門家らが共鳴

 この国際ハイウェイ実現の成否を左右するのが、日韓トンネルプロジェクトだ。

 実は日本と大陸を結ぶという構想自体は、文総裁の提唱以前にも日本においていくつか存在していた。

 ただ、これらの構想は軍事、物流、土木技術発展などインフラ構築を目的としたものであって、文総裁が提唱した日韓トンネルとは、その目的が大きく異なっている。

 前述したように、日韓トンネルの目的はあくまでも平和の実現にある。当事者である日本と韓国のみならず東アジアからアジア全域、世界の平和を保障する共栄圏と文明の統合を目指した実践的な構想であることが他とは一線画すものだ。日韓トンネルは単に構想に終わらず、実際にトンネル掘削工事に進展している点がその証左であろう。

 日韓トンネル具体化の立役者として2人の日本人の名を挙げなけれならない。西堀榮三郎氏と佐々保雄氏だ

 西堀氏は京都大学助教授から東芝技術本部長を務めたエンジニアであり、日本山岳会会長も務めた登山家でもあった。西堀氏は韓国で81年のICUSに出席し、文総裁の日韓トンネル提唱の講演を聞いた際の心境についてこう述べている。

 「私としては、文先生にお目にかかってお話をうかがったことが非常に大きなエポックだったわけです。ショックとでも言ったほうがいいかもしれません」

 西堀氏は帰国後、すぐにこのプロジェクトを推進すべく活動を開始した。西堀氏が日韓トンネルプロジェクト始動にあたり、そのリーダーとして白羽の矢を立てたのが佐々保雄氏だった。同じ山男として81年に行われた日本山岳会の会合で、佐々氏は西堀氏から構想について聞かされ、協力を依頼された。

 「今や日本は従来の自国本位の利益追求から脱却し、その資本力と技術力を他国との共栄のために奉仕する時が来ている。そこに共栄圏が築かれるならば、その牽引力として、奉仕者として、日本は親愛と尊敬を受けることになろう」。西堀氏は後にこのように語っているが、文総裁のビジョンに共鳴した2人の専門家のもとにその後、多くの協力者が集まってくるようになり、提唱から半年足らずで建設工事を受け持つ「国際ハイウェイ建設事業団」が、翌年には調査研究を行なう「日韓トンネル研究会」が設立され、日韓トンネルの想定ルート上にある九州佐賀県の唐津、長崎県の壱岐、対馬における共同調査が始まった。

日韓トンネル建設事業について話し合う佐々保雄・日韓トンネル研究会会長(左端)と西堀榮三郎・同顧問(右端)。中央は国際ハイウェイ建設事業団の梶栗玄太郎理事長夫妻(長崎・対馬の事務所で=1985年7月)

世界平和のモデルとしての日韓トンネル

 調査作業によって集められた膨大な資料を解析し、ルート候補や工法が決定された。その上で、第1段階である調査斜坑の掘削が佐賀県唐津の名護屋で 86年10月の起工式をもってスタート。現在、540mまで掘削が進められている。

 調査研究と具体的な調査斜坑工事の一方で、日韓トンネル実現にとって不可欠なのが日韓両国の関係と国民理解の醸成だ

 政治的側面においては過去、両国の首脳らが日韓トンネルに言及してきた。2008年4月の日韓首脳会談では、当時の李明博大統領と福田康夫首相が『日韓新時代共同研究プロジェクト』を開始することで合意。両国を代表する研究者によるレポートの中にある「日韓新時代アジェンダ21」には、両国が取り組むべき21項目の1つとして「日韓海底トンネル推進」が掲げられた

 レポートの発表を受け、日韓両政府の合意形成にむけて世論を動かす国民運動として、日韓トンネル推進のための都道府県民会議を全国で設立する動きが始まり、17年11月には「日韓トンネル推進全国会議」が設立されたほか、18年には全都道府県で「都道府県民会議」がつくられた

 日韓トンネルプロジェクトの提唱から42年。冷え込んだ日韓関係に改善の兆しが見え始めた今、両国が不幸な歴史を克服し、日韓トンネルによる交流促進をもって世界平和のモデルを構築できるか。そのために、両国の官民がこぞって日韓トンネルを歓迎する環境をどうつくるか。PART1~3では、技術面、次世代人材、そして韓国側の動きからその可能性を紹介したい。

◆2023年11月号の世界思想 国際ハイウェイ・日韓トンネルが拓く平和と繁栄の地平
Part 1 現在の技術でも建設可能 今後の掘削技術向上にも期待
Part 2 日韓トンネル実現担う次世代人材
Part 3 日韓は地球村時代の真の隣国 韓日海底トンネルが道しるべの役割を

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