「世界思想」9月号から2024年7月13日 勝共大会 梶栗正義会長 記念講演〔要旨〕をお届けします。
今日私たちは、日本を愛する思いを改めて皆様と確認するためにこの場所に集まった。そして私たちの勝共運動を貫徹する思いは一つ。昨年の国際勝共連合創設55周年の大会講演で私が雄叫びを上げ、この1年の間に多くの仲間が、全国津々浦々で、国を愛し歴史を紡ぎ、またこの日本を世界に誇るために声を上げ続け、今日はその代表が会場に詰めかけてくれた。この時間、日本各地、全世界から多くの仲間たちが共にしている、そのような熱い思い、応援の声と魂に支えられ、「日本の針路と勝共運動の使命」と題し話したい。
2017年秋、安倍晋三総理大臣(当時)が、「国難突破解散総選挙」と銘打って選挙を戦った時に言われたのが、まさに「内憂外患」の国難。内に日本の社会のあり方を変えてしまう少子高齢化。さらに「外患」として、安全保障環境が急激に変化しても、日本では法整備も国民の意識すらも立ち遅れ「国難」と言うしかない状況。今、この日本を見た時に「最大の国難」は、安倍晋三元総理がいないことかもしれない。この国難を突破すべく、一体何が国を難しくしているのか考えてみたい。
今年1月、国際政治学者イアン・ブレマー氏が「2024年の10大リスク」の第一に挙げたのが「米国の敵は米国」。大統領選挙で「誰が勝っても、どちらが勝っても、分断と機能不全は変わらずより一層深刻化する」という。更に、「ならず者の枢軸」問題。この2つを、「内憂外患」になぞらえ、そのリスクに対しどう対峙すべきか考えたい。
米国分断の背景に「新しいマルクス主義」
米シンクタンク「ピュー・リサーチ・センター」によれば、冷戦崩壊直後、共和・民主両党の政治的な傾向が凡そ中道に収まり、左右に大差がない状況だった。ところが近年は、保守(コンサバ)と革新(リベラル)が、左右に分極化し、対立構造が激化してきていると。このアメリカの「分断」の背景に何があるのか。
2021年、FOXニュースで有名なマーク・レヴィン氏の『アメリカンマルキシズム』(邦題:『アメリカを蝕む共産主義の正体』)によれば、米国の分断の背景に、「新しいマルクス主義」の存在があるという。これは資本主義を否定し、過剰なまでに「反差別」を煽あおり、米国の統治システムや歴史、そして宗教的価値観や伝統などを根本から覆そうとし、現代の政治家ばかりか歴史上の人物も攻撃対象にしていると。もはやこれは既存の価値観を全否定する米国版「文化大革命」と分析する学者も現れた。
伝統を破壊する革命
さて、この分断は、「ポリティカル・コレクトネス」「アイデンティティ・ポリティクス」「キャンセルカルチャー」を煽り、融和より対立を促進する事で、米国の弱体化を進めている。「クリティカル・レイス・セオリー」(批判的人種理論)は、白人は生まれながら「特権的有利な立場」だから、生まれながらに「レイシスト」(人種差別の元凶)だと言うもの。
ここで、今アメリカの公教育、歴史教科書にも展開され、推進されている「1619プロジェクト」を紹介したい。1776年の独立宣言で米国が建国されたと学んだが、これを1619年に米大陸に初めて黒人が奴隷として連行されたことをもって「米国の起源」という。米国の歴史を「黒人迫害の歴史」と位置付け、人種を分断する歴史教育が推進されるなど、アイデンティティ・クライシスが進行している。
この米国に蔓はびこ延り社会の分断を進める思想は、日本にとり「対岸の火事」ではなく、私たちの足元に忍び寄ってきている。昨年成立した「LGBT理解増進法」は元来、「2020東京五輪」の前に議論が進められたが、自民党内に「慎重に判断を」との声で法案提出は見送られた。だが、性急に物事が進み同法が成立。こうして私たちの眼前に、「ステルス共産主義」とも言うべき、文化的な変化の波が押し寄せてきている。
米国に渡る「文化の革命」
ボリシェヴィキ革命でソビエト連邦がなり東欧が共産化されても、西側はそうならなかった。イタリア共産党の創設者グラムシは、暴力革命ではなく精神・文化の革命を企図。さらに、ホルクハイマーとアドルノら「フランクフルト学派」が西欧で文化に浸透した共産主義を推進し、「ユーロコミュニズム」と称した。ナチスに追われた彼らは米国に亡命し、コロンビア大学が文化共産主義を広げる拠点に。ここで活躍したのがH・マルクーゼら文化マルクス主義者。時にベトナム反戦運動で米国の伝統・社会・国家観を否定し、青年らにヒッピー・イッピーの運動として広がり、伝統的精神が揺らいでいった。
「アメリカよ、神に帰れ」
「アメリカが建国精神を失い、神から離れつつある」ーーとの危機を察知した文鮮明総裁は渡米し、1973年10月1日のカーネギーホール講演を皮切りに、全米53カ都市での「希望の日講演会」で、「米国が病気になったから、私は医者として米国に来た。米国が火事になったから、私は消防士として米国に来た」「アメリカよ、神へ帰れ。建国精神に立ち返ろう」と、米国の若者たちに訴えた。
「ウォーターゲート事件」で米国論が二分しニクソン大統領が辞任を余儀なくされると、文先生はまた立ち上がる。マディソン・スクエア・ガーデン、ニューヨーク・ヤンキー・スタジアム、さらにはワシントン・モニュメント前に30万人を集め、「許せ、愛せ、団結せよ!強い米国を取り戻そう!」と訴えた。この運動に米社会が反応し、『ニューズウィーク』誌が、文師にインタビューした表紙が「The MoonMovement」。
そしてレーガン政権が成立した頃、ワシントンには保守の新聞がなかった。そこで文先生は1982年、ワシントン・タイムズ社を創設、レーガン大統領の政策を後押しした。大統領がホワイトハウスで朝起きて最初に見る新聞が「ワシントン・タイムズ」との噂が飛び交った。
こうした運動を文先生は日本でも推進。勝共愛国運動で青年の心に火をつけ、国を愛する気持ちを湧き上がらせ、国のため国を愛し切る戦いを、全身全霊で日本全国で展開することを指導された。
国を愛する運動を貫徹
国を愛することは「国難を克服する運動をする」こと。勝共では50年の歴史にあって様々な取り組みをしてきた。
1980年代当時、「レフチェンコ事件」「宮永スパイ事件」などスパイ事件が露呈、スパイを取り締まる法律で「スパイ天国」の汚名を返上すべしとの声が沸き上がり、85年の「自由新報」(注:自民党機関紙)にも「一刻も早く﹃秘密法﹄の制定を」とある。そして同年6月6日、通常国会に同法案提出。ところが反対の主張が巻き返し、特に反対したのが「日弁連︵日本弁護士連合会︶」で、成立を見なかった。それでも27県議会はじめ最終的には1800を超える地方議会で、スパイ防止法の早期制定を求める意見書が採択。当時の朝日新聞は、朝刊見開きで「勝共連合がその活動を支えている」と名指しで批判。悪口のようだが、私たちこそ愛国運動を貫徹していた証左だ。
100年に一度の大変動
文化だけではなく、共産主義を奉ずる中国の勢いも大変なものだ。2020年7月、M・ポンペオ国務長官(当時)がニクソン記念図書館で演説、「共産中国から自由を守ることが今日に生きる私たちの使命」と中華覇権主義に警鐘を鳴らした。それを裏付けるように23年、習近平国家主席はプーチン露大統領に「100年に一度の大変動を我々が促進」と「米国主導の世界秩序」への挑戦を明言。「内憂外患」の「外患」の部分だが、このような危機に対峙して克服するために、これら「体制共産主義」の間違い、そして、文化に浸透した共産主義の脅威を世に示し、私たちの現実の生活が晒さらされ、脅かされている事を多くの国民に知ってもらわなくてはならない。
日本のリーダーシップ
安倍元総理がこうした中国との対峙を踏まえ「自由で開かれたインド太平洋構想」を訴えインドとの信頼関係を育てた。インドが盟主を自認するグローバルサウス諸国には、「反宗主国感情」が根強いが、キング牧師やマンデラ大統領、ガンジーらの犠牲によって導かれ、人類の普遍的な価値として自由と民主主義の価値観を享受している。
文総裁を継いで運動を指導される韓総裁は、人類普遍の価値を創出する新しい平和文明を、日米韓を基軸にしたインド太平洋圏が推進する「太平洋文明圏時代」を強調された。文総裁・韓総裁は「日本の国のためを超え、日本の国のためにも、世界のために生き切る日本人として世界の人々から愛される日本に」と激励された。
救国救世・愛国運動
「国難」をいかに突破すべきか、「日本の針路」とはどうあるべきか、結論として二つの内容を強調したい。
一つは、日米韓を基軸としたアジア太平洋地域の平和と繁栄を、日本が先頭に立ち積極的に貢献する国家像こそが日本の行くべき針路であり、西欧と非西欧を結び自由と民主主義の価値を人類普遍の価値として、このアジア太平洋圏を端緒とし地球全体に平和文明を定着させる使命が日本の国にある。
もう一つは、人格の成熟と完成の基地、愛の学校、社会道徳の訓練場として、家庭とその絆を守る運動を展開し、この国のあり方を守ることこそが愛国運動である。
迫り来る危機の本質の中に、文化に浸透した共産主義、あるいは専制主義的な体制を主導する体制共産主義があること、勝共運動によってこれら共産主義を克服することこそが、日本の国難を突破することであり、真の救国救世・愛国運動ではないか。
◆2024年9月号の世界思想 特集・日本の針路と勝共運動の使命
勝共運動が日本に残した足跡とこれから
スピーチ文コンテスト 建国記念の日を迎えるにあたり