展望2025 不確実性増す世界と日本

 

「世界思想」1月号特集【展望2025 不確実性増す世界と日本】から総論をお届けします。

▶ 月刊誌「世界思想」のお問い合わせ・購読はこちらへ 

 2024年は「選挙の年」だった。台湾総統選から始まり米国大統領選まで、選挙結果に心が奪われた一年だった。

 結果として、台湾総統選挙をのぞくほとんどが政権与党の苦戦、敗北が目立った。この数年、コロナ禍への対応で、殆どの政府は巨額の財政支出で国民の生活を支えたのである。その結果、インフレ圧力が襲い、国民生活を直撃することとなり、欧米では不法移民の増大の社会問題化と相まって殆どの政権与党が批判にさらされたのである。

欧米にみる保守の台頭

 米大統領選挙ではトランプ氏が再選した。第2期政権は1期目とは「別次元」なものになるだろう。安倍晋三氏の第2期政権もそうだった。死線をこえた人物は強く知恵に満ちるのだ。特にトランプ氏は、ペンシルベニア州バトラーの奇跡をへて「神の守り」を確信し「神から与えられた使命感」に満ちているという。トランプ家の証言である。

 確実に今、世界で保守主義が動き出している。最強の国・米国が動き出したが、ヨーロッパでもその兆候はすでに明確なのだ。

 ヨーロッパにおける保守主義の動きは、反グローバリズム、ナショナリズム、反移民姿勢、反気候変動政策などを掲げる勢力の増加現象を指す。

 イタリアは今、ジョルジャ・メローニ首相が率いている。右派政党である「イタリアの同胞」党首であり、2022年9月25 日の総選挙で勝利し、イタリア初の女性首相となったのである。

 昨年6月15日から17日、イタリア・プーリアで開催されたG7サミットの議長役を立派にこなした。特に、ウクライナ軍事侵攻に対する制裁で凍結したロシアの資産の積極活用の合意を実現している。

 オランダでも7月2日、右派の流れをくむ「自由党」など4党の連立政権が発足。一昨年11月の下院選で第1党となった自由党や中道右派「自由民主党」など4党が連立政権の樹立で合意している。

 フランスもそうだ。マクロン大統領は右派政党の攻勢を受けて苦悶している。6月の欧州連合(EU)欧州議会選挙において与党連合が、極右政党「国民連合」(RN)に大敗したことを受けて、起死回生のために敢行した賭けとして解散総選挙に打って出たのだ。

 6月30日の国民議会(下院)総選挙の第1回投票では、与党連合が再び大敗。7月7日の決選投票(小選挙区において過半数の得票を誰も得られなかった場合行われる)への対応として、左派連合「新人民戦線」などと連携し、極右政党「国民連合」(RN)による過半数の議席獲得を阻んだ。難産の上に誕生したミシェル・バルニエ内閣だったが、昨年12月4日、総辞職に追い込まれてしまった。

 そして、イギリスである。7月4日、英下院(定数650)総選挙が行われた。支持率低迷に悩んでいたスナク前首相は5月22日に解散を表明した。

 最大野党労働党は地滑り的勝利をおさめ、14年ぶりに政権奪還となったが、スターマー党首は路線転換としての「脱左派」をはかっている。

 リズ・トラス元英国首相は11月16日、WSJ(ウォール・ストリート・ジャーナル)への寄稿で「トランプは欧州を救える」と主張した。欧州の保守主義の流れは、トランプ再選によって定着段階に入るだろう。

アリゾナ州で開催された「アリゾナ・フォー・トランプ」集会で参加者と話すトランプ次期米国大統領

「共産勢力」と全力で戦う

 トランプ氏が打ち出す政策は、「米国ファースト」である。これを「米国さえよければいいという考え方」と解釈するのは間違っている。
米国は米国らしくあり、他国もまたそれぞれの国らしくあれ。そして自国を自分たちで守ろうとする国であってほしいし、そのような国々が連携しあう同盟が真の同盟であるというものだ。これが新しく始まる新保守主義の潮流となるだろう。

 米国民は「キリスト教の価値観」を共有している。第2次大戦後の冷戦下で、共産主義陣営との軍事的緊張関係のみが強調されてきたが、もう1つのマルクス主義(共産主義)の革命工作が急速度に浸透したのである。
 それが、マルクスの再解釈を提示した「フランクフルト学派」を中心とする文化闘争である。彼らは、「マルクスの予言が外れた」ことを前提にしつつも、マルクス主義の本質を明確にして継承し、「共産党宣言」(1848年)に記されている「一切の社会秩序を暴力的に転覆すること」を実行に移していた。

 彼らの闘いは「ブルジョア的家族の廃止」(「共産党宣言」)に焦点を絞る。そのためにフロイトの「精神分析」を取り入れながら、キリスト教的価値観と家族観を徹底的に攻撃した。キリスト教の文化は、「権威主義的パーソナリティ」を生み出す「仕組み」であると断罪し、その破壊をめざしたのである。これが今日の米国分断の原因である。彼らが見出した「プロレタリアート」が人種、性別、性的少数者などの、キリスト教文化によって「抑圧」されてきたとされる人々である。

 彼らはこれまで米国の「常識」をことごとく破壊してきた。その武器は「批判理論」であり、常識の協調は、支配する側にとっての搾取・抑圧の方法とみる。トランプ氏は今、「常識」を取り戻すと宣言している。 国際連合はその機能を完全に失った。ロシアによるウクライナ軍事侵攻が最後のとどめだった。拒否権を持つ常任理事国が国連憲章を破ったのだ。国連が崩壊に向かって転げ落ちるのを誰も止められない。

 国連は「力による平和」を1つの柱にしていた。もちろん力だけで平和は維持できないが、戦争を抑止する効果はある。それが集団安全保障体制であり、「国連軍」の存在だった。かつて一度、機能したことがあった。それが朝鮮動乱時だった。

 現実として、戦争を抑止できるのは「力」である。侵略戦争に対応する「国連軍」を組織できないのであれが、代わりが必要である。それが、ある意味で「米国」だった。しかし大統領にその意思がなければ機能しない。バイデン政権下の世界がそうだった。

 トランプ氏とその政策立案グループは「休戦案」を持っているという。それは米国の力を前提に、ロシア、ウクライナ両国から譲歩を引き出すものにならざるを得ない。トランプ氏が実効性の保証となっている。

 トランプ氏は「共産主義」との戦いに全力を投入しようとしている。米国での「常識」回帰であり、対中国への力の結集である。

尹氏、非常戒厳発令の理由

 尹錫悦大統領の「非常戒厳」発令は驚いた。そして韓国内の「冷戦」の厳しさに対する無知を恥じた。尹氏は、他国とは異なる質と力をもつ左派勢力と闘っていた。

 尹氏は12月12日、テレビで演説し、非常戒厳を宣布したことの正当性を訴えた。それは民主主義の「崩壊を防ぎ」、野党による「国会の独裁」に対抗するための合法的な判断だったと主張し、同時に辞任する考えがないことも示した。

 野党や国民らからは、尹氏の辞任や弾劾を求める声が高まっているが、尹氏は「弾劾されようが、捜査されようが、私は断固として対抗する」、「最後まで闘う」と述べた。

 14日午後、韓国国会で尹大統領弾劾訴追案は可決成立した。尹氏は法律家だ。憲法裁判所による審議に出席すること明言した。自分の土俵で命を懸けて戦うことを選んだのだろう。他に策はなかったのだろう。そう信じたい。

 第50回総選挙により与党(自民党と公明党)は惨敗、過半数を獲得することができなくなった。自民は比例区表で前回(3年前)より約533万票減らし、公明は115万票減らしたのだ。特に自民は若者層の票を大きく減らしている。

 しかしその票は、最大野党で今回50議席も増やした立憲民主党に移ったわけではない。立民は3年前に比較して6万票増えただけなのだ。自民が減らした票は他の保守的政党、すなわち国民民主党や参政党、日本新党などに向かったとみられている。

 これは何を物語るのか。「自民は保守の自覚を失っている」と支持者から見られたということだ。安倍晋三氏が増やした若者層と保守の岩盤支持層が離れてしまったのだ。

 人格主義、家庭の価値、家庭の拡大としての国家観など、この保守の自覚をもつ人々が確かに存在しており、強い自民党を支えてきたということが立証されたのである。

 歴史、文化、伝統の前に謙虚であり、そこに人間の生き方の真実をみて自助、共助、公助で生きる。これが保守の真髄である。世界は今、保守主義の良さに目覚めつつある。深まる混乱は新たな保守主義が台頭する現象なのである。

◆2025年1月号の世界思想 特集・展望2025 不確実性増す世界と日本
Part1 米国 トランプ次期政権 左派的政策を抜本的見直しへ
Part2 中国 トランプ復帰で体制立て直し迫られる中国
Part3 日本「もはや戦後ではない」真の自主路線こそ政治課題だ

▶ 月刊誌「世界思想」のお問い合わせ・購読はこちらへ

 


この記事が気に入ったら
いいね ! しよう

Twitter で