思想新聞7月1日号の【共産主義の脅威 シリーズ】「米の人権理事会離脱と政治的公平性」を掲載します。
左翼人権団体の主張を代弁する国連人権委員会。米国は脱退したが、日本はどうするのか。
6月19日、米国のトランプ政権は国連人権理事会(本部=スイス・ジュネーブ)から離脱すると発表し、マイク・ポンペオ国務長官とニッキー・ヘイリー国連大使が記者会見を行った。
ポンペオ氏は中国、キューバ、ベネズエラなど「忌まわしい人権状況の独裁的な政権が理事会メンバーになっている」と名指しで批判。ヘイリー大使は「イスラエルを非難する決議は、北朝鮮やイラン、シリアを併せたものより多く、これは人権理事会が人権ではなく、政治的偏見で動いている明白な証拠だ。(人権理事会の)名に値しない、むしろ人権をあざ笑う偽善で利己的な組織だ」と痛烈に非難した。
国連人権理事会は、安全保障・経済社会と並ぶ国連活動の「三本柱」、「人権問題」を担う最高機関として2006年、「人権委員会」を改組・発展させる形で国連総会で採択された決議により発足。選挙で選ばれた47の理事国で構成され、米国は理事国を務めていた。そもそも米国は同理事会発足時から「『人権侵害国』でも理事国になれる」「強制力を伴う権限が付与されていない」とし、理事会創設の議決で反対し、理事国にも立候補しなかったが、オバマ政権で理事国に復帰。
これに対し、国連のアントニオ・グテーレス事務総長は「米国にはできれば人権理事会に留まってほしい」と米国の離脱に遺憾の意を表明した。人権理事会ではパレスチナへの攻撃でイスラエルへの非難決議を度々、採択。今年5月には、米大使館のエルサレム移転に抗議した市民へのイスラエル軍の銃撃などを巡り、「理事会は独立した調査団を派遣する」旨の決議を可決。議題には「パレスチナなど占領地の人権状況」が常時挙げられており、現在の人権高等弁務官はヨルダン王族出身のザイド・フセイン氏で、イスラエルによるデモ鎮圧など武力行使を批判してきた。
トランプ政権は昨年10月、ユネスコ(国連教育科学文化機関)が「反イスラエル的」として今年末での脱退を発表した際にも、ヘイリー大使は次のようにユネスコを批判。「ユネスコが『世界遺産』の名の下に、ユダヤの聖地をもパレスチナだけの聖地だと認定したことは、政治的な扇動だ」「ユネスコ傘下の人権委員会にシリアを加盟させたことは自国内の平和的な運動参加者を大量に殺害するアサド政権に『人権擁護』の名を与える愚かな行為だ」
5月14日、米国はイスラエル大使館をエルサレムに移転、パレスチナ人抗議デモとイスラエル軍部隊が衝突し死者も出ている。そもそも国連の人権理事会とユネスコが絡んだ背景は、ユネスコのパレスチナ側の「世界遺産」登録問題だ。ユネスコは昨年、パレスチナ自治区の「ヘブロン旧市街」を世界遺産に登録。結果的にイスラエルが同市街をユダヤの聖地とし「神殿の丘」と呼ぶ事実を無視。ヘイリー氏は世界遺産決定を「反イスラエルの政治的な扇動」と非難したのだ。
その一方、米国の離脱は中国の影響力が強まり、北朝鮮の拉致問題やシリア内戦での人権問題など解決が遠のくと懸念し、EU(欧州連合)も「民主主義の強力な支援者たる米国を失う危機だ」との声明を出した。日本国内のニュースではほとんど「イスラエル問題の偏向」が米国離脱の原因、とか読売新聞も「人権でも自国優先」といった趣旨で伝えている。だが、これはTPP離脱とは異なる。
産経新聞ワシントン支局長だった古森義久氏は厳しく「国連幻想を棄てよ」と左翼ジャーナリズムによらずに国連組織を客観的な視点で米国に対し公平に論じている(Japan in Deapth)。中国のチベット・ウイグルの民族弾圧問題が議論されずに、人権報告者が左翼人権団体と連携し日本の教科書やメディアへの「権力介入」、日韓合意した「慰安婦問題」も議題にされ政治的に公平とは言えない。
国連分担金を払い続ける日本も離脱も視野に入れることも必要ではないか。もっとも日米が抜ければ中露の影響力が支配的になる。その意味で国家戦略的な対応が日本には必要で、国連改革を本気で狙うチャンスであるとも言える。
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