年金2000万円問題 :「自助」こそ自由社会の要諦だ

 

 「95歳まで生きるには約2000万円必要」とする金融庁の報告書を巡って野党は参院選の争点にしようと批判を強めている

 野党の主張は「『100年安心』はうそだったのか。国民は、自分で2000万円ためろとはどういうことかと憤っている」(蓮舫・立憲民主党副代表)といったものだが、稚拙な政府批判と言わざるを得ない。これに対して麻生太郎金融担当相は「政府の政策スタンスと異なっている」として報告書の受け取りを拒否した。その是非はともあれ、あまりにも歪な政治論争で時間の浪費である。

 金融庁の報告書は、人生100年時代に向け老後に必要な蓄えである「資産寿命」の延ばし方の指針をまとめたもので、公的年金を老後の収入の柱とするが、それだけでは十分でないので、若いうちから資産形成などによる「自助」を勧めている。その議論の過程では、年金の限界を十分説明しない政府の姿勢に疑問も出されたという(朝日新聞6月4日付)。

誤解を招く金融庁2000万円貯蓄

そもそも年金だけでは豊かに暮らせない事は知っていたこと。人間の尊重である自由の中での「自助」が重要である。 

 

 常日頃から政府批判に余念のない朝日の報道からも明らかなように取り立てて問題にする必要のない報告書である。

 年金だけに頼らず「自助」を求める報告書の方向性は大筋で間違っていない。

 

 ただ「貯蓄2000万円」の想定があらぬ誤解をもたらした。その根拠は総務省の家計調査に基づき、平均的な無職の高齢者(夫65歳、妻60歳以上)の収入が年金などで約21万円、支出が約26・3万円で、月約5万円不足し、その「赤字」を貯蓄で賄うとすれば、95歳まで30年間生きるには貯蓄2000万円必要との試算である。

 

 

 ◆第1に、想定されている高齢者世帯が非現実的である。夫は前期高齢者になったばかりの65歳、妻はそれ以下で、高齢者というには若すぎる世帯である。

 ◆第2に、その支出を95歳まで継続し続けるという想定が非現実きわまりない。

 支出の中身を見ると、食費6・4万円、住居費1・3万円、光熱水道費1・9万円、交通・通信2・7万円、教養娯楽費2・5万円、その他の消費支出(諸雑費・交際費など)5・4万円などで、住居費が低いが、その他は勤労世帯並みである。こうした支出を95歳まで続けるわけがない。

 

 ◆第3に、収入も多くの国民からかけ離れた想定である。年金の収入も暮らしの仕方も人さまざまで、それを平均値ですべて論じるのは土台無理な話である。少なからず国民は収入に応じた暮らしに心掛け、節約にも余念がない。収入21万円は厚生年金を前提としており、自営業に多い国民年金だけなら平均支給額は5万5千円(夫婦で11万円=平成29年度実績)である。

 「100年安心」というのは年金制度を破綻させないとの意味合いで、年金だけで生活すべてが安心というものではなく、国民もそのことは心得ている。現に高齢者は少なからず貯蓄している。

 60歳以上の2人以上の世帯の平均貯蓄額は約2300万円。これは平均値(額の平均)で、中央値(下から数えての中央)でも約1500万円。500万円以下の世帯は2割あるものの、高齢者イコール経済的弱者ではない(総務省家計調査)。野党のいう「自分で2000万円ためろとはどういうことかと憤っている」はまったくの筋違いである。

 

 

 ◆第4に、報告書は高齢者世帯を「横」(夫婦のみ)だけで見て、子供や孫など「縦」を一切見ない、これもまた非現実的かつ個人主義的な想定である。

 実際の高齢者(とりわけ後期高齢者)は子供世帯と同居したり、援助を受けたりする「家族関係」の中で生きている。それをまったく無視して高齢者を個人バラバラに捉えるのは愚の骨頂である。

 

 さて、以上のことから我々は社会保障の何たるかを改めて確認しておこう。日本の福祉の先駆者である山高しげりが「わが幸さちはわが手で」と述べているように本来、幸福は人さまに頂くものではなく、自分自身で手にするものである。自由にこそ人間の尊厳があるからである。

 

 それ故に社会福祉の基本原則は「自助」で、それは一人でという意味でなく、社会の最小単位である「家庭」に依るものである。

 

 

野党の年金観は共産主義的発想

 

 憲法は「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」(25条)を保障しているが、その権利は国民の不断の努力によって保持し、濫用してはならず、また常に公共の福祉のためにこれを利用する責任を負う(12条)。

 社会保障は疾病や失業、老齢などによって個人の自助努力だけでは対応できない場合、人々の生活を社会全体で支えるセーフティネットを作ることで、それには共助(医療、年金、介護などの保険によるリスク分散)と公助(扶助=生活保護等)によって対応するのが、自由社会の在り様である。

 

 ところが、野党は自由の価値を顧みず、すべて国が面倒を見るといった社会主義(つまるところ共産主義)的発想を持っている。

 それで自助に噛みついた。いみじくもその正体を露見させたのが「貯蓄2000万円」批判といってよい。自由を軽んじる野党の詭弁きべんこそ糾弾されるべきである。

 

 

思想新聞主張「体制共産主義に警戒を」7月1日号より(掲載のニュースは本紙にて)

7月1日号 「中国の夢」破る香港デモ /東京・渋谷で天安門事件30周年追悼集会/ 主張「自助」こそ自由社会の要諦 etc

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