「対韓輸出管理強化」報復、禁輸ではなく管理強化 

 

日本政府は7月4日、韓国に対する輸出管理の強化に踏み切った。対象は3品目。いずれも半導体製造に欠かせない材料で、日本が世界シェアのほぼ100%を占めるものである。日韓の主要メディアは、「実質的な禁輸措置」「対韓輸出規制の発動」「報復」「元徴用工訴訟に関連する事実上の対抗措置」などと論評した。韓国の文在寅大統領は8日午後、日本政府に対して措置の撤回と誠意ある協議を求めるとの見解を発表。日本による輸出管理強化後、初めての発言だった。誤解に基づく批判合戦の様相もあり、事実に基づいた建設的な議論が求められている。

対韓輸出管理強化

 

 日本政府の発表内容は、管理強化の方針を明らかにするものだった。2段階になっている。

 まだ第1段階としてリスト品目管理強化を7月4日から開始するというもの。対象品目は3品目で、フッ化ポリイミド(ディスプレーに使用)、レジスト(基盤に塗る感光材)そしてフッ化水素(半導体の洗浄に使う)である。

 

 このいずれもが、日本が世界で高いシェアを占め、軍用品に使われる可能性があり厳格な管理が要求され、政府が輸出量などを管理している。リストアップされた3品目は「包括輸出許可制」(優遇制度 輸出手続きの簡略化)に基づいて管理されていたが、今後は個別に輸出許可申請を求めることとなる。申請後の審査には90日ほどかかるという。

 個別許可とは、韓国に輸出したい企業が申請書に製品名や販売先、数量などを記入し、契約書など必要書類を添付したうえで、経産省に提出する。審査は、製品が輸出先で適切に扱われ、管理されているか否か、安全を脅かす恐れがないかなどの確認である。3品目について、韓国企業側の在庫は1カ月分程度という。しかし完成品を合わせれば3~4カ月分の在庫はあるという。

 

 第2段階は、「ホワイト国」から除外措置だ。

 ホワイト国指定というのは、安全保障を理由とした輸出管理制度であり、米国など27カ国に与えている優遇措置のこと。原則3年間は個別の輸出ごとの申請を不要とする。しかし除外されれば、集積回路など安全保障にかかわる製品の輸出について、個別申請が必要になる。日本政府は、意見公募を経て8月中に政令で改定する計画である。

 

元徴用工判決問題管理強化の一背景

 

 日本政府がこの度の措置を行った理由と背景について述べてみる。まず、元徴用工問題は今回の措置の背景ではあるが直接的な理由ではない

 

 世耕弘成経済産業大臣は7月2日、記者会見で「韓国との信頼関係のもとに輸出管理に取り組むことが困難になっていることに加え、韓国に関連する輸出管理をめぐる不適切な事案が発生した」と述べた。

 さらに「輸出管理の運用上の対応であり、これに対する(韓国側の)報復は基本的にあるべきではない」と付け加えた。

 

 理由として2点が強調されている。

 ①韓国との信頼関係のもとに輸出管理に取り組むことが困難になっていること

 ②韓国に関連する輸出管理をめぐる不適切な事案が発生した

 ということである。

 

 まず前者に関して、軍事転用の恐れがある部材の輸出入については、部材の進化や国際情勢の変化を踏まえ、2年に一度は協議する必要がある。しかし近年では2016年に一度行われたがそれ以来ない。文在寅政権になってからは一度もないのである。

 

 後者に関しては、韓国による対北朝鮮への制裁のがれではないかと疑われる海上での瀬取りや、北朝鮮への物資の横流し情報・噂に触れることが多くなっている。

 「輸出管理上の不適切な事案」があったとすると、個別案件にかかわるので公表できない可能性があるのだ。さらに、韓国から中国への「物資」の流れも懸念されている。

 この状況では、韓国をこれまでと変わらず「ホワイト国」に指定し「包括許可」を継続していること自体が問題となりかねない。

 

 今回の措置は、あくまでも適正な輸出管理を行うためである

 日本政府の措置は、厳密な禁輸ではなく、協定で認められている範囲内での運用をすると繰り返し述べている。

 

日本製品不買運動旅行中止は反発も

 

 国の反応は厳しい。ともに民主党・李仁栄院内代表は2日、「通商規定を恣意的に動かしている」とし、自由貿易の原則が確認された20カ国・地域(G20)首脳会議を引き合いに、「日本はわずか3日で自らその精神をひっくり返した」と批判した。毎日経済新聞は「経済戦争が始まった」との見出しを使った(2日)。

記事の続きを読む


 韓国の康京和外相は3日、国会での説明で「(いわゆる徴用工問題に対する)不合理で常識に反する報復措置だ」と主張し、「非常に遺憾である」と語った。今後、発動の撤回を求めていくとの考えを示している。

 

 韓国大統領府は4日、国家安全保障会議常任委員会開催し、日本政府による輸出規制強化について「世界貿易機関(WTO)の規範や国際法に明白に違反した報復」であるとの認識を公表。「報復」と断定した理由は安倍晋三首相の発言にあるとした。

 

 安倍氏は3日、参院選の党首討論会で「相手が約束を守らないなかで優遇策はとれない。禁輸措置ではなく優遇措置の撤回でWTO違反ではない」と述べている。ここから「報復」との認識に至ったというのは理解できない。

 

 韓国側は、規制の撤回を求めている。そしてWTOへの提訴を検討しているとも述べている。しかし、WTOの協定では安全保障上の理由がある場合、各国に輸出管理の裁量を認めているのだ。そして何よりも裁定までに時間がかかりすぎる。

 

 韓国政府はまた、内製化を進める方針を明確にした。7月3日、政府と革新系与党・ともに民主党が協議し、材料や製造装置の国産化支援に毎年1兆ウォン(約930億円)の予算を充てる構想を明らかにしたのである。

 韓国のネットも興奮している。日本企業のリストを掲載し、日本製品の不買運動の呼びかけが拡散している。そして日本旅行の中止を促す書き込みもでているが、さほどの広がりはない。

日本素材業界は政府の判断支持

 

 日本の経済界、素材メーカーは冷静に対応している。日本商工会議所会頭・三村明夫氏は4日、記者会見し、日本の規制強化案について「中身を正確に理解した方がいい。過剰反応している」と指摘。レジストのメーカー東京応化工業やフッ化水素のステラケミファなど各社とも、対象品目の出荷が滞っても業績への影響は軽微とみている。日本政府の措置は、「実質的な禁輸措置」「対韓輸出規制の発動」「報復」「元徴用工訴訟に関連する事実上の対抗措置」などではない。2003年の管理基準に戻るだけだ。

 

 欧州連合(EU)も韓国を「ホワイト国」指定に入れていない。安全保障上の戦略を共有するインドやインドネシアなども日本の「ホワイト国」ではない。信頼できる両国協議が行えない日韓の現状、文在寅政権の問題なのだ。

最後までお読み頂きありがとうございました!

思想新聞 対韓輸出管理強化「ホワイト国」除外措置へ 7月15日号より(掲載のニュースは本紙にて)

7月15日号 報復、禁輸ではなく管理強化 / 三重県で安保セミナー開催/ 主張「トランプ発言を改憲の奇貨とせよ」

機関紙「思想新聞」へのお問い合わせ・購読はこちらへ

この記事が気に入ったら
いいね ! しよう

Twitter で

「いいね」と思ったらシェア!