ベネディクト16世の「遺訓」に学ぶ

 前ローマ教皇ベネディクト16世が昨年末に逝去された。前教皇は伝統的なカトリックの価値観を重視し、欧米で広がる世俗化を戒め同性愛や中絶・避妊を否定し、伝統的な家族観を強調した偉大なる宗教指導者であった。心から哀悼の意を表したい。

 ベネディクト16世の信仰心はその前任のヨハネ・パウロ2世の葬儀での演説(2005年4月)に最も顕れていると米保守論壇のマーク・ティーセン氏は指摘している(世界日報1月3日付)。

 それは「相対主義を信奉する独裁体制は、いかなる絶対的な存在も認めず、その最終目標はエゴと欲望に満ちている」と警告し、我々は「流行や目新しいもの」の波にもてあそばれる子供のようであってはならないと訴え、深い「キリストとの親交」を追求することで「すべての善なるものへとつながり、真実と虚偽、欺瞞と真実を峻別できる基準を維持できる」と力説したものである。「キリストとの親交」を神仏と読み替えれば、すべての宗教に通じるように思われる。

ベネディクト16世の葬儀

文化共産主義を真っ向から否定

 前教皇が懸念した欧米諸国の世俗化を煽動しているのは「文化共産主義」にほかならない。それは100年前の1920年代にロシア革命とソ連体制に失望した西欧のマルクス主義者が宗教や家庭を崩壊させる「文化革命の共産主義」を唱えたのが始まりである。ハンガリー共産党のルカーチが同年代に過激な性教育を学校教育に持ち込み、イタリア共産党のグラムシはメディアを通じて「文化革命」を標榜したのがそれである。

 第2次世界大戦後、文化共産主義は欧州においてユーロコミュニズムとも連動して社会に浸透していった。同性婚を認めるオランダやベルギー、シビル・ユニオン(市民契約=同性カップルの法的平等)を採るフランスや英国、北欧諸国などで見られるように文化共産主義の影響を受けて伝統的な結婚観や家族観が崩れていったのである。

 フランスではマルクス主義フェミニズムのクリスティーヌ・デルフィらが80年代のミッテラン社会党政権下で女性抑圧の物質的基盤を破壊するための政策を立案・実施した。

 彼女らは物質的基盤とは「男らしさ・女らしさ」の背景となる文化伝統や慣行(これをジェンダーと呼ぶ)と定義づけ、それを破壊するジェンダーフリー政策を政府に採らせ、専業主婦の否定や伝統的な宗教文化、家族制度の破壊を試み、婚外子が新生児の40%を超えるに至った。

 一方、米国では革命によって性器・性欲優位の確立をめざすとする「性器的人間像」(ライヒ)や自由なエロスの実現をめざす「エロス的文明論」(マルクーゼ)の影響を受けて、60年代後半からフェミニズムやウーマンリブが吹き荒れ、宗教的伝統や家庭破壊が著しく進んだ。  これに対して80年代のレーガン、父ブッシュ両政権は「ファミリー・バリュー(家庭の価値)」を復権させ、家庭破壊を防ぐために力を注いだが、その後、リベラル勢力が巻き返し、今日の「分裂する米国」がもたらされるようになった。

 わが国もその波にさらされ、「LGBT」が性的少数者の権利を守れと唱えて闊歩している。すなわちレズビアン(女性同性愛者)、ゲイ(男性同性愛者)、バイセクシュアル(両性愛者)、トランスジェンダー(心と出生時の性別不一致)である。

 このうち個人内の問題であるTを除いてLGBは性愛の問題である。これを伝統的なキリスト教社会では「不自然な肉欲」とし、ソドミズム(旧約聖書の淫乱の町ソドムに由来)として禁じてきた。仏教も在家信者に邪淫(よこしまな性関係を結ぶこと)を禁じ、破れば焦熱地獄に堕ちると諭してきたのである。

 むろん、今日の時代にあっては憲法で保障される基本的人権は守られるべきであるが、そうした諭しや倫理観までもが「差別」として指弾され、文化共産主義者によって倒すべき対象と位置付けられ、文化大革命の様相を呈している。前教皇はそれを厳しく戒めてこられたのである。その意味で文化共産主義と戦ってきた第一人者と言えよう。

ベネディクト16世

ヨハネ・パウロ2世は東欧民主化をもたらす

 翻ってヨハネ・パウロ2世は「体制共産主義」と戦ってこられた第一人者であられた。ポーランド出身だった教皇は共産主義の宗教弾圧や独裁を厳しく批判し、79年6月に母国を訪問した際には「恐れることはない」と励まされた。

 これに意を強くした人々は自主管理労組「連帯」を中心に粘り強く民主化運動に取り組んだ。教皇は81年1月に「連帯」のワレサ委員長らと接見し、民主化運動の支持を表明した。

 こうした動きにソ連は恐れをなし、KGB(ソ連国家保安委員会)がトルコ人青年を使って同年5月に教皇暗殺を企てた。教皇は銃撃され重傷を負った。だが、東欧民主化運動は止められず、89年11月に「ベルリンの壁」が崩壊したのである。

 このように共産主義と果敢に戦ったヨハネ・パウロ2世とベネディクト16世の「遺訓」に学び、勝共運動に邁進していこうと決意する。

【思想新聞2月1日号】「米欧日の結束でプーチンを追い出せ」/新連載「真・日本共産党実録」

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