日本国民に問われる国を守る「覚悟」

 岸田文雄首相は今年4月、米国の上下両院で「未来のためのグローバル・パートナー」と題して議会演説を行い、「今の私たちは、平和には『理解』以上のものが必要だということを知っている。『覚悟』が必要なのである」と、「覚悟」を語った
日米首脳会談では日米同盟をさらなる「高み」へ導くために、自衛隊と米軍をより一体的に運用できるように「指揮統制」のあり方を見直す方針を決めた。厳しい国際情勢下で当然の見直しである。問題は岸田首相が言う「理解以上のもの」、すなわち「覚悟」の方である。このことに日本国民は思いを致さねばならない。

 覚悟とは「迷いを去り、道理をさとること」(広辞苑)を言うが、その道理とは「予想される良くない事態や結果に対し、それをそのまま受けとめようと心を決めること。観念すること」(明鏡国語辞典)と指す。端的に言って犠牲も厭わず、である。その覚悟が岸田首相はもとより日本国民にありや。このことが問われているのである。

強固な「意思」が国家を守る基礎だ

米連邦議会上下両院合同会議で演説する岸田首相(4月11日)

 しばしば脅威は「意図×能力」で表される。これに対応する守りもまた「意図×能力」で量られる。日米共同声明ではもっぱら「能力」が遡上に上った。前述の「指揮統制」のほか、「情報収集、警戒監視能力の強化」「ミサイルなど防衛装備品の共同開発・生産を促進する定期協議」等々である。むろん必要な能力の数々であろう。ならば「意図」はどうなのか。国民自らが国家を守ろうという意思のことだ。それこそ覚悟である。能力はそのための手段である。

 ウクライナを見てみよう。ロシアの圧倒的な極悪の軍事力に抗しているのは、武器を持っているだけでなく、国土・国民を守ろうとする「意思」の強さにほかならない。意思が強いほど、防衛も磐石になるのはいうまでもないことだ。その意思が教育勅語にある「危急の際の義勇心」である。それがなければ国を守ることなど到底できない。

 それはウクライナに限った話ではない。普遍的真理だ。古来、他者のために殉じる人を英雄と呼ぶが、そういう英雄がいなければ国は容易く滅ぼされるのである。ならば、その心情は何処から湧いてくるのか。それは国や郷土を愛するところから始まる。国家を父母や祖父母、先祖から引き継いできた運命共同体として共有し、愛する家族や友人、人々を守る。そのためなら自らの「肉体の生命」を投げ出すことも厭わない。そういう思いから覚悟が生まれ、英雄が出現してくる。だからこそ歴史や文化を共有する、日本人としてのアイデンティティが必要となるのである

 いずれの国も国家のために生命を捧げた人はその国の英雄として尊敬され、国はその功を顕彰している。各国の元首らが外国を公式訪問する際、その国の無名戦士の墓を訪問し、献花するのはそれへの敬意を示すことで、国家的友情を促進するのである。

 わが国では靖国神社がその役割を担っている。靖国神社は明治維新以降、今日に至るまで国家の平安のために殉じた人々を祀ってきた。生前の身分や階級、宗教、性別、年齢などを問わず、等しく戦死者や殉職者を合祀し、現在は247万柱の御霊が祀られている。

 ところが、戦後左翼教育はこれを封建時代の遺物や軍国主義の象徴のように主張し、総理大臣の公式参拝も許さないのである。こうした英雄への非礼な態度こそ、国を守る気概、すなわち覚悟を奪い去る最大の要因であることを国民は知らねばならない

 戦後教育は日本の歴史を歪曲し、戦前の日本はすべて悪のように教え、道徳教育をないがしろにし、個人それも肉体の生命を至上とし、国を守るどころか、人間としての基本的な気概すら奪ってきた。そうした唯物論教育によって戦後日本人は骨抜きにされてきたのである。

国防義務のない骨抜き日本の恥

 そもそも世界各国の憲法には、それぞれの国民が自分たちの祖国を守る義務を定めているのが普通である。例えばドイツ基本法(憲法)は「男子に対しては、満18歳から軍隊、連邦国境警備隊または民間防衛団における役務を義務として課すことができる」と国防義務を明記し、永世中立国のスイスは「すべてのスイス人男性は、兵役に従事する義務を負う。法律は、非軍事の代替役務について定める」とする。女子に対しても相応の義務を課す。

 ところが、日本には国防義務がないばかりか、憲法前文は「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した」と、自ら平和を作り出す意思がまるでないかのように他力依存の姿勢を露わにする。

 だから、世界数十カ国の大学・研究機関の研究グループが参加する「世界価値観調査」で、「もし戦争が起こったら国のために戦うか」とのアンケートに対する日本人のイエスの回答は世界最低の13・2%にすぎなかった。2番目に低い国が30%台だったから日本は恥ずべき断トツの低さだ。覚悟がないのも同然だ。日本人は国防意識すなわち覚悟を喪失してきた。この克服こそ焦眉の急だ

【思想新聞 5月1日号】 韓国総選挙 与党惨敗、東アジア「同時危機」を招くのか/真・日本共産党実録/文化マルクス主義の群像/共産主義定点観測

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