兵庫県知事選は「パワハラ疑惑」で失職して泡沫候補とさえ言われた斎藤元彦前知事が「SNS旋風」を巻き起こし再選された。各党と大手メディアは「パワハラ、おねだり知事」のレッテルを貼って反斎藤キャンペーンを張ったが、インターネット上のコミュニケーションサイト(すなわちソーシャルネットワーキングサービス=SNS)がこれを吹き飛ばしたのである。今年7月の東京都知事選での「石丸現象」、先の総選挙での「国民民主党ブーム(玉木現象)」に続く「斎藤現象」である。いずれもSNSの賜物とされる。
これを何と解すべきか。ネット上の「情報」が公正な選挙に影響を与えたとの見方がある。都知事選でも公職選挙法のあり方が問われた。その一方で大手メディアの報道姿勢もまた問われた。
大手のメディアもSNSも問題あり
先の総選挙での選挙報道について安藤馨・一橋大教授は朝日新聞紙上で「ジャーナリストが、事実に基づかない感情的反発などの情動に働きかけようと笛を吹く活動家」であってはならないとし、「野党議員の不記載には『裏金』という情動的ラベルを貼らず、与党議員のみを『裏金議員』と呼ぶようなやり方は、事実認識に基づかない評価をもたらそうとするものであり、民主政にとって有害ですらある」と断じている(同紙11月14日付)。
朝日新聞がその最たるものである。我々も安倍晋三元首相の銃撃事件後、大手メディアによる不当な情動的ラベリングにさらされた。共産党系の左翼弁護士集団が作り出した偽情報を一方的に垂れ流し、「正確で公正な記事と責任ある論評」(新聞倫理綱領)を放棄し「笛を吹く活動家」と化したのが大手メディアである。
斎藤元彦知事に対するメディアのレッテル貼りが正しいか否かは我々の知るところではないが、少なくとも選挙結果を見る限り県民は大手メディアに「ノー」を突き付けたのである。この事実は重い。メディアが「真実の報道」に立ち返らない限り、日本の将来は危ういと言わねばならない。
では、SNSはどうか。これもまた兵庫県知事選での情報の正否は知れないが、ひとつ言えることは「情報社会」が異次元に入ったということだ。この事態を軽視すべきではない。なぜならSNSが「闇バイト」犯罪の温床になっているばかりか、「悪の枢軸」の間接侵略に使われ、このまま放置すれば亡国への道を転がり落ちかねないからである。その意味で「SNS現象」の教訓は、早急にスパイ防止法を制定し本格的な諜報機関を創設しなければならないということに尽きる。
米国の事例をみておこう。米政府は今年9月、ロシア政府がメディアなどを使って大統領選に介入しようとしているとして、ロシア国営メディアの複数幹部を制裁対象に加え、クレムリン(ロシア大統領府)とつながりのある報道機関関係者らのビザ発給を制限すると発表した(英BBSニュース9月5日付)。
それによると、ロシア国営メディア「RT」は米テネシー州の企業に1000万ドル(約14億3400万円)を支払い、ロシア政府のメッセージが隠れたコンテンツを作成し、アメリカの視聴者に配信。治安当局は米国内の特定の層や地域を標的にソーシャルメディア上にAI(人工知能)が生成した偽りの話をひそかに広めるために使用された32のインターネット・ドメイン名を差し押さえたという。
デニス・ブレア元米国家情報長官によれば、ロシアは2016年の米大統領選以降、執拗に選挙に介入している。今年の大統領選では、ロシアだけではなく中国が選挙に影響を及ぼそうとしたという。ブレア氏は「彼らは、単なる誤情報ではなく、米国の分断をさらにあおるような情報を流してくる」と述べている(読売新聞11月9日付)。
カウンターインテリジェンスで世界有数の能力をもつ米国に対してすら露中はメディアを買収したりSNSを利用したりして選挙に介入しているのである。ましてやスパイ防止法もなく、ネットの通信傍受も禁じられている丸裸かつ手足を縛られた日本に選挙介入が仕掛けていないと誰が断言できようか。
スパイ活動阻止の行政傍受を認めよ
現在、特定の犯罪については通信傍受が認められているが、それは犯罪が起こってからの「司法傍受」(裁判所の令状を得てから実施)に限られており、犯罪が起きる前に警察等の治安当局が行う「行政傍受」は一切認められていない。左翼メディアが人権侵害につながりかねないと騒ぎ立てているからである。それで「闇バイト」が跋扈している。外国スパイは跋扈しているのも分からないほど暗に隠れて工作しているのである。
何よりも問題なのは、わが国に「スパイ罪」が存在しないことだ。こんな惚けた国は世界に存在しない。民主国家は罪刑法定主義が基本で、あらかじめ犯罪の構成要件や刑罰を定めておかなければ、いかなる犯罪も取り締まれない。スパイ罪がなければスパイ活動は〝合法〟と見なされ、行政傍受もできない。直ちにスパイ罪を設け間接侵略を阻止すべきである。
【思想新聞 12月1日号】ウクライナ侵略1000日 有利な条件獲得を争うプーチンとゼレンスキー/真・日本共産党実録/連載「文化マルクス主義の群像」/共産主義定点観測