自民党は石破茂総裁のもとで二度も国政選挙に敗北した。ちょうど立党70年の節目の年に当たるが、この敗北は何を意味するのか。果たして国民の信に応え続けることができるのか。党の存在そのものが問われていることを想起すべきだ。
自民党は参院選を総括する報告文書を公表した(9月2日)。それには「(自民党には)全国津々浦々に、地域に根差した強固な組織と先人が築き上げてきた保守政治の伝統がある」とし、「保守の思想を体現する党」として国民に存在意義を示し、「わが党は党を一から作り直す覚悟で解党的出直しに取り組む」とある。
総括は「保守政治の伝統」とか、「保守の思想を体現する党」とか、やたらと保守を強調しているが、自民党が敗北した最大の原因はその「保守」を蔑ろにしてリベラル(左翼)に傾斜したところにあったことを忘れてはならない。自民党に真に必要なのは「解党的出直し」といった言葉遊びではなく「立党の原点」たる真の保守政党に立ち返ることである。
自主憲法制定と共産撲滅が党是
自民党は1955年11月に創設されたが、保守党たるものは本来、52年4月28日、すなわちサンフランシスコ講和条約が発効し日本が主権を回復した日に立ち上げるべきであった。敗戦の45年から独立国家となったその日までの7年間は主権の有さない占領下という「戦時下」にあったからである。戦時体制(もとより日本国憲法も)すべてを白紙にもどし、独立後に改めて国家体制を構築すべきで、それを担う政党が必要だった。
そもそも国際法(ハーグ条約=1907年)は占領地の現行法規を尊重する義務があるとしている。フランス共和国憲法は「いかなる改正手続きも、領土の保全に侵害が加えられている時には開始されない。また続行されない」とし、敗戦国でもドイツ(西ドイツ)は占領下で憲法を制定せず、暫定的にボン基本法を作り「(同法は)ドイツ国民が自由な決定によって議決した憲法が効力を発する日において、その効力を失う」と規定した。これが国家の矜持である。
4半世紀前の2000年11月に衆議院に憲法調査会が設置され、参考人聴取が持たれた際、石原慎太郎氏(当時、東京都知事)は「今、国会ですべきことは、歴史を踏まえて国家の自立性を再確認しながら、この憲法を歴史的に否定することだ。決して私たちが望んだ形で作られていないことを確認して国会で否定すればよい」と語った。
最古参国会議員である立憲民主党の小沢一郎氏はかつて持論をこう述べている。「占領下に制定された憲法が独立国家になっても機能しているのは異常である…サンフランシスコ講和条約が締結され国際的に独立国として承認されたことを契機に、占領下に制定された憲法は無効であると宣言し、もう一度、大日本帝国憲法に戻って、それから新しい憲法を制定すべきであった」(「日本国憲法改正試案」=文藝春秋1999年9月号)
それを担う政党が必要だったにもかかわらず、当時の保守政治家は離合集散を繰り返し分裂ばかりしていた。その結果、55年2月の総選挙では社会党(左右両派)が162議席を獲得し、憲法改正を阻止できる3分の1(当時156議席)以上を占めるに至った。そして左右両派が統一し護憲を掲げる容共・日本社会党を創ったのである。
これでは戦時下(占領下)の日本が続き、真の独立に至らない(すなわち今に続く戦後体制である)。この事態を最も危惧したのは自由党(当時)の政治家・三木武吉で、彼が恐れたのは「一つは保守勢力の分断確執によって失わずともすむ議席を失い、それがため憲法改正の機会を永久に失う恐れである。今一つは社会党発展に内包する容共勢力の進出」(御手洗辰雄著『三木武吉伝』)である。それで三木らの呼びかけで保守合同すなわち自由民主党が誕生したのだ。
55年11月の自由民主党結党大会では「占領以来の諸制度の改定と独立自衛」を目指す党綱領、「現行憲法の自主改正」を掲げる党政綱を採択し、立党宣言では「議会政治の大道を歩み、暴力と破壊、革命と独裁を政治手段とするすべての勢力または思想を排撃し、個人の自由と人格の尊厳を社会秩序の基本条件となす」と、共産主義と闘う姿勢を明確にした。
リベラルからの解党的出直しを
また政綱では「正しい民主主義と祖国愛を高揚する国民道義を確立する」ことを自民党の主要任務の一つに据えた。すなわち立党の原点は、自主憲法を制定して日本らしい国柄を取り戻し、独立国家に相応しい国家体制を構築し、国民道義を確立して内外に誇れる国を創るところにあった。
それが「全国津々浦々に、地域に根差した強固な組織と先人が築き上げてきた保守政治の伝統」であり「保守の思想を体現する党」として国民の支持を受けてきた所以である。自民党は「解党的出直し」を言うなら、「リベラル(容共)解党」をすべきで、保守解党であっては断じてならない。自民党は立党の原点、すなわち自主憲法制定と共産主義(文化共産主義はもとより)撲滅を誓って再出発すべきである。
【思想新聞 9月15日号】抗日戦勝80周年行事 新兵器登場の軍事パレードも高揚感なし/真・日本共産党実録/文化マルクス主義の群像/朝鮮半島コンフィデンシャル