震災の「天啓」を顧み国難に備えよ

 令和7(2025)年は歴史を刻む年である。昭和100年、戦後80年、1月は阪神・淡路大震災30年、3月は地下鉄サリン事件30年である。歴史を振り返り、そこから何を心に刻むべきか。まさに本年は「内省の年」と言うべきだ。

 まずは阪神・淡路大震災の教訓を噛みしめたい。中国では古代、異変は「陰陽五行」の不調和によるとされ人々はそこから「天啓」を感じ取った。日蓮は正嘉元(1257)年の鎌倉地震から「外敵」(元寇)の危機を見抜き、『立正安国論』を説いた。ポルトガルではカトリックの祭日「万聖節」にリスボン大地震(1755年)が発生し、これを契機に「慈悲なる神」の存在をめぐる一大論争が巻き起こり、「啓蒙の時代」のヨーロッパに思想的津波をもたらした。

政界と経済界の混迷が危機招く

阪神・淡路大震災で倒壊した高速道路

 国民よ、1万円札の渋沢栄一の肖像画を見よ。100年前の関東大震災(1923年)に際して彼はこう嘆じた。「近来、政治界は犬猫の争闘場に落ち、経済界もまた商道が地に落ち、風教の退廃は有島事件(作家・有島武郎の情死事件)のごときを讃美するに至ったから、この大災は決して偶然でない」(『万朝報』)

 これにキリスト者、内村鑑三は同意し、地震は地質学の自然現象だから、それ自体に正義も道徳もないけれども、人はそこに天罰や「天啓」を感じとるとし、「私どもはその犠牲となりし無辜幾万の為に泣きます」と、「主婦の友」誌に寄稿した(月本昭雄・立教大学教授=読売2011年4月18日付「いにしえとの対話」)。

 我々も渋沢・内村に同意する。第一に政治の退廃である。30年前、政治界は「犬猫の争闘場」に堕ちていた。すなわち時の政権は自社さ(自民党・社会党・新党さきがけ)連立政権だ。1993年に下野した自民党は94年、こともあろうに戦後日本を共産主義へと誘導し続けてきた社会党の委員長・村山富市氏を首班に担いで政権を奪還した。これが災いの元だ。

 当時、災害は自治体―国土庁(現国土交通省)経由で首相官邸に伝えられることになっていたため首相官邸の村山首相に第1報が届いたのは発生から2時間後。平和ボケの権化である村山首相が官邸に対策本部を置いたのは発生4時間後、自衛隊が本格的に現地に入ったのは発生40時間後、首相を本部長とする緊急対策本部がつくられたのは発生から2日後という呆れるばかりの遅さであった。初動態勢の躓きが尾を引き、多数の犠牲者を出すに至った。

 震災直後に読売新聞社は憲法問題に関する全国調査を行い、その中で「大災害などの緊急時に首相が素早く対応できるような規定を憲法に設けるべきか」との設問を設け賛否を問うた。結果は90・2%が賛成し、反対はわずか6・4%にすぎなかった(同紙95年4月6日付)。しかし、喉元過ぎれば熱さを忘れるで、こうした改憲論議はその後、泡のごとく消えた。

 ちなみに2011年の東日本大震災の時も、政治界は「犬猫の争闘場」に堕ちていた。時の政権は民主党の菅直人氏を首班とする民主党、社会民主党、国民新党の民社国連立の「悪夢の民主党政権」であった。内村が言う如く、地震は地質学の自然現象だが、政治が弱体化しているときに大震災が起こるのは何ゆえか、我々は「天啓」に耳を澄まさねばならない。今日の少数与党の体たらく、その与党追及に明け暮れる野党の体たらくに「犬猫の争闘場」の姿が蘇る。

 第二に商道の退廃である。30年前、経済界はバブル崩壊と景気後退で利益獲得に汲々とし、商業上の道徳は軽視され、90年代初めには小規模金融機関、97年には北日本最大の銀行(北海道拓殖銀行)、98年には大手の日本長期信用などが破綻するなどして、「失われた20年」に至った。

性倫理の逸脱が亡国の道と知れ

 江戸期に鈴木正三は「商業も正業である、仏法・世法に他ならず」と、働くことの仕合わせ(幸福)を教えたが、そうした「日本的プロテスタンティズム」(山本七平氏)は忘れ去られ、今日においては日々のゼニ勘定にうつつを抜かしている。

 第三に風教の退廃である。性倫理の退廃は作家1人の情死事件どころではない。社会全般に広がりLGBTが闊歩し保守の自民党がそれを推進する。まさに世も末だ。

 国民よ、思い起こしてほしい。伝統的なキリスト教社会では「不自然な肉欲」とりわけ同性愛をソドミズムと呼んで禁じたことを。あるいは古代ユダヤの預言者モーセの十戒(紀元前13世紀)は「姦淫をしてはならない」(プロテスタント訳)「隣人の妻を欲してはならない」(カトリック訳)「配偶者以外と性行為をしてはならない」(ウェストミンスターレーニングラード写本訳)と戒めていることを。

 仏教でも在家信者が保つべき「5戒」の徳目の中に邪淫(よこしまな性関係を結ぶこと)禁止があり、破れば焦熱地獄に堕ちるとした。古今東西、淫乱は厳しく誡められてきたのである。これは時代を超えた普遍的な道徳観である。それが今日、蔑ろにされている。

 国民よ、畏れよ。阪神・淡路大震災30年で先人が感じた「天啓」を顧み、国難に備えよ。

【思想新聞 2月1日号】第2次トランプ政権 内外「共産主義」との最終決戦へ/真・日本共産党実録/連載「文化マルクス主義の群像」/共産主義定点観測

 

機関紙「思想新聞」へのお問い合わせ・購読はこちらへ

 


この記事が気に入ったら
いいね ! しよう

Twitter で