「平和を作り出す者」となろう

 激動する世界の中にあって今、思い浮かべるのは米国の政治学者、故ジョセフ・ナイ氏の次なる忠告である。「バランス・オブ・パワー(勢力均衡)や安全保障上の考慮など時代錯誤だと考える向きは、安全保障が酸素のようなものだということを想起する必要がある。それが希少になるまでは当然のものとみなしていても、いざなくなると大変である」(『国際紛争 理論と歴史』有斐閣)。

ジョセフ・ナイ

 今まさに原油をめぐって「大変である」と少なからず日本人は実感しているであろう。希少となるまでは当然のものとみなしてきたからだ。安全保障もまた然り。半世紀ほど前の昭和時代にイザヤ・ベンダサン(山本七平氏)が「日本人は水と安全をただと思っている」と戒めたが、令和の日本人はどうだろうか。

 左翼政治家やオールドメディアィアなどは相変わらず「ただ」だと盛んに宣伝しているが、こういう人々は「憲法経典」を墓場にまでもっていく狂信的エセ平和主義者であって、まともな日本人なら決して真に受けてはならない相手である。

戦争を防ぐのは脅威への対応力

 想起すべきは、戦争は人類歴史の始まりともに存在していることである。歴史学者によれば、ギリシアの詩人ホメロス(BC8世紀頃)や中国の殷の時代から3500年間に、戦争の記録がないのはたった200年余だけであるという。実際、戦争は21世紀の現在も飽くことなく続けられている。現在もなおウクライナ戦争、パレスチナ・ガザ戦争、さらに米イスラエル・イラン戦争が継続中だ。

 赤十字国際委員会などによれば、2025年は大小130以上の武力紛争が続いた。この数は15年前の2倍、30年前の4倍に当たり、死者は約24万人に上る(世界日報4月4日付「山田寛の国際レーダー」)。26年も戦争は増える一方だという。これでは人間はまるで「戦争を作り出す者」ではないか。

 それならば、絶えることのない戦争を防ぎ「平和を作り出す」にはどうすればよいのか。それは戦争をさせない。戦争を防ぐ。戦争を仕掛けられれば、それを阻止(防衛)する。すなわち脅威への対応力を保持することであろう。
脅威とは「意思と能力の総和」とされるが、これを読み間違えれば、戦争を招くのである。ジョセフ・ナイ氏によれば、その典型が「危機の20年」(両大戦間の1919~39年=英歴史学者エドワード・H・カー)と呼ばれた時代のナチス・ドイツに対する欧州諸国の対応だったという。

 ヒトラーは社会主義と民族主義を融合させた「国家社会主義ドイツ労働党」(ナチス)を結成し1932年に政権を獲得、「第三帝国」(神聖ローマ帝国、ドイツ帝国を継ぐ)を掲げ、35年に再軍備を宣言し、ベルリン五輪の36年にライン非武装地帯に進駐した。

 ところが、37年に英国の首相に就いたチェンバレンはヒトラーの拡張政策を黙認し、38年に英仏独伊4カ国でミュンヘン協定を結んだのである。チェンバレンは戦後日本に見受けられる平和主義者だった。彼は「ヨーロッパでの大戦争の再現を何としても避けることが私の主要な義務」と考え融和政策を採ったのである。融和すれば、それでヒトラーは矛を収めると単純に思い込み、自らの軍事力整備を怠った。

 しかし、ヒトラーは侵略の「意図」を明確にもっていた。さらに、けたたましい勢いで「能力」(軍事力)も形成していた(今の共産中国がそっくりだ)。チェンバレンの融和政策を英国が大陸に干渉しないメッセージと受けとり、39年にポーランドに侵攻し、第2次世界大戦の火ぶたを切って落としたのである。わが国にはチェンバレンのように中国や北朝鮮、ロシアに対して融和政策を説く者がいるが、独裁国家の「意図」と「能力」を見誤ってはならない。

ミュンヘン会談。右端が英国のチェンバレン

改憲こそ真に平和構築の道

 この教訓を想起すれば、「平和を作り出す」のもまた、「意図と能力の総和」であると知れる。すなわち「断じて戦争を許さない」との強い意思を持ち、「戦争を防ぐ」「戦争を招き入れない」(相手に侵略の意図を失わせる)能力を保持すること。すなわち抑止力だ。高市早苗内閣が取り組む防衛力の増強、防衛装備品の輸出拡大、インテリジェンス機能の拡充、スパイ防止法の制定などは言うまでもなく抑止力の保持・向上であり、「平和を作り出す」ことに寄与するものである。

 国民は戦争を仕掛けられれば、「祖国や国民を守るためなら、自分の命を危険にさらす覚悟」を保持することが重要だ。火急の事態に陥れば、軍事力をはじめとする国力、国民の力を総結集してそれを阻止する。それこそが平和を作り出すのだ。

 世界大戦をもたらしたのは独裁国の「意図」を読み違え、その「能力」を軽んじたからだ。その誤りを体現するのが「平和を愛する諸国民の公正と信義」を空想し、自衛力に縛りをかける現行憲法にほかならない。国防義務と国防軍を明示する真に独立国に相応しい憲法に改めてこそ「平和を作り出す」ことができる。戦後体制からの脱却=平和を作り出す。このことを改めて心に刻みたい。

【思想新聞 4月15日号】辺野古沖転覆事故 共産党は説明責任を果たせ/真・日本共産党実録/連載「文化マルクス主義の群像」/朝鮮半島コンフィデンシャル

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