世界思想1月号を刊行しました。今号の特集は「偉大な米国は蘇るか」です。
アメリカの次期大統領選挙を占う中間選挙が行われた。2016年大統領選挙ではトランプ氏の当選を予測し、日米内外から賞讃を勝ち得た敏腕アナリストが、現地での反応を踏まえたホットな報告を語り尽くす。[後編](文責 編集部)
パシフィック・アライアンス総研所長・国際アナリスト
渡 瀬 裕 哉 氏
対中国では超党派で戦うコンセンサスができた
ートランプ政権の対外政策はどうなるか?
日本の報道では、ねじれ国会で成果を挙げられなくなるので、対外的な軍事行動で成果を挙げようとするとの分析がある。
しかし米軍は、オバマ時代にあまりにも痛めつけすぎた。かなり稼働率が落ちている。たとえばイラク戦争では空母が6隻出動したが、今は2~3隻しか稼動していない。対外軍事行動で成果を挙げるというのはかなり難しくなっている。外国に対する過激な発言は続くと思うが、それで軍事行動までいけるかというと現実的に難しいと思う。
そうは言っても対中国については、政権内だけでなく、共和党にも民主党にも戦うというコンセンサスが出来ている。特に技術覇権。知的財産権をめぐるハイテク技術の取り合いは安全保障問題と考えている。そういう意味では今やっているような企業買収の阻止、産業スパイの追放、サイバー攻撃への反撃、ZTE(中興通訊)など国有企業への制裁は続くはずだ。
しかし関税戦争については必ずしも国内でのコンセンサスがない。もしかしたら中国との交渉の中で柔軟に使うことがあるのではないか。技術覇権の防御は確実にするが、関税は相手の譲歩のために使うのではないか。いわゆる二正面作戦だ。
知的財産権問題には二つの意味合いがある。まず、戦争はすでにハイテク化している。米国議会で軍事の議論をすると、その内容はほとんどがハイテク技術だ。
ハイテク技術を理解しない軍人は戦えない。米国では軍の高官がその議論ができないといけない。議員もそのことをわかっている。安保問題なので、ハイテク分野については一歩も引く気がない。もう一つは貿易の面。米国の対外収支でモノは当然に赤字だが、サービスで黒字化しているのもいくつかしかない。旅行と金融と知財の輸出ぐらい。この知財の中国への輸出が伸びているので、貿易政策としても重要になっている。米国にとっての死活問題になっている。
北朝鮮核ミサイル問題で中国との対決が決定的に
ー中国に対抗し始めたきっかけはどんなものか?
毎年米国に行って各界の要人と話をしているが、数年前までは共和党員であっても東アジアに関心はなかった。だいたいは中東、欧州、ロシア。決定的に変わったと思うのは、昨年に北朝鮮問題が勃発してから。中国に協力を求めたが全く動かなかった。その時に初めて中国は敵であるというコンセンサスができた。それまでも一部の安全保障関連の人たちは中国を問題視していたが、あくまでも安全保障のコミュニティの中での話だった。その枠を出たのは昨年から。
私も向こう(米国)で人と会うと、「日本から来たなら一緒に中国と闘うんだろう?」と言われることが突然増えた。認識がガラッと変わった。
東アジアに目を向けてみたら、中国は貿易でせっかく育ててやったのに、民主化もしないし北朝鮮問題にも協力もしない。軍事挑発もするし知的財産は盗む。いろいろなことを思い出したような感じだ。
イヴァンカ大統領補佐官の夫ジャレド・クシュナー氏(元大統領上級顧問)は中国大手財閥との関係が深かったが、その財閥トップが習近平政権下で捕まり、関係が複雑になった。子供が中国語のポエムを作り、動画サイトに投稿するぐらいの親中派だが、いったん中国方面からは引いているのではないか。むしろクシュナー氏は中東の方を担当させられている。
トランプ氏の中国人脈というと「ブラックストーン・グループ」という投資グループがある。その会長がトランプ氏の私的経済諮問会議のトップだった(18年退職)。彼が習氏ととても仲がよかった。
また、駐中国大使はアイオワ州知事だったテリー・ブランスタッドという人物で、この人も習氏と30年来の付き合いがある。個人的なパイプは重視する人事になっている。一見もめているように見えるが、最終的にはトップ同士の会談で解決する構図になっている。
ートランプは北朝鮮に対してどう考えているのか?
実質は中国問題。北朝鮮そのものは重視していない。米国に届くミサイルを持たず、核実験を行わないのであれば、それで及第点のはず。対中政策の変数にならなければよい。
トランプ氏は米朝首脳会談の1カ月ほど前、19年のノーベル平和賞候補者に推薦されている。推薦したのは18人の共和党の議員で、とりまとめをしたのがルーク・メッサーというインディアナ州の下院議員。下院の政策委員会の委員長をしている。ペンス副大統領の地盤を継いだ議員でもある。
だから、共和党保守派全体の意向を受けてノーベル平和賞推薦に動いたと見るべきだ。そう考えると、北朝鮮とは穏便に話をまとめていくという方向だと思う。封じ込めて妥協させていく戦略で間違いないのではないか。北朝鮮が応じるかどうはまた別の話だが。
日本は頼れる同盟国だが農業問題で厳しい要求も
ー今後の日本への対応はどうなるのか?
厳しく出てくると思う。なぜかというと、2年後には大統領選と上下両院の選挙がある。上院では3分の1を改選するが、今年と違って4年前に共和党が大勝したときの改選にあたる。「農業州」で大勝したので、上院の共和党の現職議員は農業州の人たちが多い。だから、日本に対しては農業の市場開放を求めるはず。選挙戦を見据えれば必然的な流れだ。
自動車では、先日の会談で実質的に米国内での生産を増やす文言が入った。そのような形で最終的に妥結していくのだろう。あとはインフラ投資が必要だが、ここに日本のお金を使うような話になるのではないか。おそらくは強い姿勢で来るとは思うが、妥結できないような話ではないだろう。
米国から見ると、日本は頼れる同盟国だ。カナダ、ドイツ、フランスなど、他の友好国はフラフラしている。日本は安定して米国側にいてくれる。相対的問題だがさらに揉めるのはないと思う。少なくとも東アジアでは安定したパートナーであることは間違いない。
日中の接近が18年初めから急に見られるようになったが、保守系の一部識者に反発が出てきている。政権としてまだ反応できていないだけであって、認知が進むと必ず問題が発生するはずだ。なぜ中国に助け舟を出すのか、と。
「サイバー戦争」への対処が日本の喫緊の課題
ー最後に、日本はどうすべきかについて一言を。
日本はサイバー対策を進めるべき。優秀なハッカーを集める。最近になって、防衛省がサイバーセキュリティの責任者をやっと高給で雇い始めた。まともな動きがスタートしたのだと思う。米国のセキュリティ企業NORSE社のサイトを見ると、世界で起きているサイバー攻撃の様子がリアルタイムで見れる。世界はそんな状況になっている。
問題は、日本のサイバーセキュリティに関する認識が低いことだ。自国製品だけでサイバーセキュリティに関する部品を供給できる体制を整備し、専門家人材を揃えていく必要がある。欧米や中国では当たり前に行われていくことを当たり前にやるべきだ。
サイバー空間ではすでに戦争が行われている。最終的な軍事行使は、もはや戦争ではなくなっていると思う。日本は高額な戦闘機を買うのもよいが、サイバーセキュリティに投資すべきではないか。
【わたせ・ゆうや】パシフィック・アライアンス総研所長、早稲田大学公共政策研究所招聘研究員。早稲田大学大学院公共経営研究科修了。トランプ大統領当選を世論調査・現地調査などを通じて的中させ、日系・外資系ファンド30社以上にトランプ政権の動向に関するポリティカル・アナリシスを提供する国際情勢アナリストとして活躍。ワシントンDCで実施される完全非公開・招待制の全米共和党保守派のミーティングである水曜会出席者であり、テキサス州ダラスで行われた数万人規模の保守派集会FREEPACに日本人唯一の来賓として招かれる。著書に『トランプの黒幕 共和党保守派の正体』(祥伝社)、『日本人の知らないトランプ再選のシナリオ』(産学社)。テレビ朝日「ワイド!スクランブル」などにコメンテーターとして出演。雑誌『プレジデント』などに寄稿多数。
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