(前編) 国際アナリスト 渡瀬裕哉氏 「米中間選挙、本当はどうだったのか」

世界思想1月号を刊行しました。今号の特集は「偉大な米国は蘇るか」です。

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アメリカの次期大統領選挙を占う中間選挙が行われた。2016年大統領選挙ではトランプ氏の当選を予測し、日米内外から賞讃を勝ち得た敏腕アナリストが、現地での反応を踏まえたホットな報告を語り尽くす。[前編](文責 編集部)

 

パシフィック・アライアンス総研所長・国際アナリスト
渡 瀬   裕 哉 氏

アメリカの中間選挙の結果をどのように考えるか?

 

 結果としては想定内だったと言える。共和党が上院で議席を少し伸ばし、下院で過半数を割るというのは、事前の予測どおり。順当な結果だった。
 

 ドナルド・トランプ大統領は「勝利宣言」を行ったが、そういう側面もあるし、実際はそうでない側面もある。

 

 まずは勝利したという側面。下院では15議席ぐらいマイナスだが、上院では、集計が終わっていないフロリダを共和党がとると51議席から53議席になる(結果的にフロリダ州の上院はリック・スコット州前知事が勝利し53議席が確定)。これは極めて大きかった。

 なぜかというと、51議席のうちの2人、リーサ・マーカウスキー議員とスーザン・コリンズ議員は、党内で「名ばかり共和党員」と呼ばれているからだ。

 実際には民主党と同じような投票行動をする。ブレット・カバノー最高裁判事のときも(米議会上院本会議で10月6日、承認)、この2人が抵抗してなかなか決められなかった。

 つまり53議席になると、この人たちを無視して話を進めることができる。長官人事など、新しい人事のときに2人を気にせずやれるようになるという意味では勝利といえる。

 

下院を民主党が獲りトランプ政権に好都合な理由

 

 下院についていうと、ちょっと負けたほうがいい。なぜかというと、複数の意味合いがある。

 

 一つは、米国の景気が今、かなりいい。景気の循環も含め、好景気の最高潮の段階に達している。これから横ばいか、徐々に下っていくという段階になる。このときに上下両院共和党が過半数でいると、他人のせいにできなくなる。だから、民主党が下院で過半数をとっていると、そのせいで政策が実行できないという理由になるからだ。

 

 それと、2020年の大統領選挙を見据えると、守る選挙はやりづらい。要は逆転を狙う選挙のほうが支持者が盛り上がる。この微妙な負けというのがいい。

 なおかつ下院は少し負けたほうが、実はトランプ氏の残った政策が進めやすいという面がある。どういうことかというと、下院の共和党の議員は財政出動をとても嫌っている。

 

 一方、トランプ氏は公約で巨額のインフラ投資をすると言っていて、共和党がずっと反対していた。共和党が過半数を割ると、民主党は賛成しているので、逆にやりやすくなるのだ。

 

 トランプ氏は中間選挙が終わった直後に「民主党とは協力ができる。医療改革とインフラ投資だ」と言った。頭の中の切り替えがすでにできているということだ。

 今までは共和党にべったりだったが、今までできなかった政策がむしろできるようになった。

 

大統領選勝利の象徴ラストベルトで敗北の共和党

 

 その一方では、逆に悪かった点もある。

 

 いわゆる「ラストベルト」(錆び付いた工業地帯)という、トランプ氏が大統領選で勝ったエリアがある。だがここで、オハイオ州の知事選でしか勝てなかった。大統領選では半分ぐらい勝たないといけないところ。実質は惨敗だった。極めて問題な点だと言える。
 

 そもそも、トランプ氏は決して選挙が強い大統領ではない。大統領選で勝てた理由は、つまるところヒラリー・クリントン元国務長官が弱すぎたから。彼女がラストベルトではオバマ氏より得票率を激減させた。ここで有色人種がヒラリーを嫌悪し、投票に行かなかったということ。他の人たちもヒラリー氏には余り好感を持っていない。共和党側が勝ったのではなく、民主党側の票が減っただけだった。

 中間選挙ではある程度の質の候補者同士が戦う。ラストベルトはもともと民主党の支持基盤だ。だから同レベルのまともな候補者同士だと勝てないということだ。

 

 今後の共和党の課題としては、肝心のラストベルトで勝たないといけないということになる。今までやってきた政策ではなく、例えばラストベルトにインフラ投資を集中させるなど、逆転の策を作っていかないといけないというのが、今回の選挙の総括だと思う。

 

米大統領選の的確な分析で定評がある渡瀬氏の著書

 

 

 

 

オバマケアの制度的恩恵が浸透し構造的にも変化も

 

 ーラストベルトでの共和党の敗北と景気との関係はどうか?

 
 ラストベルトの人たちもトランプ政権の政策で恩恵は受けている。鉄鋼とアルミの産業では工場が再稼動したりしている。後はエネルギー関連。石炭などの分野でオバマ前大統領は徹底的にたたいた。これを全部規制緩和して、もう一度復活させた。経済的に恩恵を受けている人が多い。

 

 しかし、中間選挙の一つの特徴は、実は景気がよくても得票にあまり影響しない。大統領選挙ではリンクする。

 

 景気がいいから共和党に投票すると皆さんは思うかもしれない。だが、景気がいいと面倒だから投票に行かなくていいという人も増える。地元の候補者に投票するから、その候補者の好き嫌いのほうが先にきてしまう。全国の状況が余り反映されない。実際にトランプ政権の経済政策が問われるのは、2020年大統領選の時の経済状況になるだろう

 

 基本的に米国の高齢者は意外と小さな政府を目指している。「オバマケア」(オバマ政権下での医療保険制度改革)には反対の人が多い。特に共和党支持者はそうだ。

 しかしオバマケア、ヘルスケアの仕組みが浸透してきているので、その恩恵を受け取り始めた人たちは考えが変わり始めている。その辺りの構造の変化が、静かにではあるが起きている。

 

「議会両院のねじれ」が日本と違う米国の状況

 

 ー日本だと「ねじれ国会」は大変だったが……。

 

 日本だと、党議拘束があり、議員の投票行動は政党に拘束される。だから日本ではねじれが生じると政権にとって危機的な状況になる。

 しかし米国では各議員が議案に応じて投票する。党議拘束はない。あっても言うことを聞かなくていい。必ずしもねじれイコール政権の危機ということにはならない。

 

 さらに、民主党が下院で過半数を獲っても、そのうち30~40人ぐらいの議員は、「ブルードッグ・コアリション」と呼ばれる中道右派の人たち。直訳すると「青犬連盟」。共和党の現職を破って当選してきた人たちで、少し保守的。必ずしもねじれたからといって説得できないわけではない。この人たちのうち半分ぐらいが賛成すると可決できる。そういう意味で、米国ではねじれは絶対ではない。

 なおかつ、トランプ氏と共和党はこの2年間でやりたい政策はすべてやってしまった。新しい政策が通らなくてもそれほど問題がない。やってきたことを民主党が戻そうとしても上院で否決されるので、戻ることもない。

 

 現状維持でも共和党としては勝った状態にある。いざという時は中道右派の人たちに頼めばよい。大統領令もある。そういう意味で、ねじれ国会は日本のようなイメージではない。

 

トランプ氏の「ロシア疑惑」の今後の行方はどうなる?

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 実はロシア疑惑は、どこまでやれば決定的な疑惑となるのかがはっきりしていない。特別捜査官の捜査結果でよほどの新事実が出れば別だろうが、そうでなければ話は進まないと思う。

 なぜなら、先ほどの民主党の中の30~40人の中道右派の人たちは、そもそもトランプ氏の弾劾に賛成していない。この人たちを説得できる事実が出てこないと弾劾はできない。

 

 民主党は中間選挙の前、いろいろな人を証言者として呼ぼうとした。しかし共和党が反対して阻止した。これからはこれができるようになるので、日本の「モリカケ問題」のようになるだろう。小さなスキャンダルのような話が出てくるが、決定的なものは出てこない。そういう嫌がらせ状態のようなものがしばらく継続するのではないか。

 

 ジェフ・セッションズ司法長官の更迭については、彼はロシア疑惑に対する対応が鈍かった。トランプ氏がそれを嫌っていたという理由もあるだろう。しかし、トランプ氏を大統領選の初期から押していた人たちはみんなクビになっている。彼もその一環としてクビになったのではないか。

 

 スティーブン・バノン(元首席戦略官兼上級顧問)やマイケル・フリン(元安全保障担当大統領補佐官)もクビになったが、この人たちは正直、共和党の中では浮いている。あまり主流でない。政権が2年経ち安定してきたので、徐々にオーソドックスな政権になってきた。それでセッションズ氏を残す必要がなくなったのだろう。一番最初にトランプ氏支持を表明した上院議員で論功行賞で採用した意味合いが強いが、その時期が終わったからではないか。

 

 日本ではスタッフが次々とクビになってホワイトハウスが混乱しているように報道されているが、実際は徐々に落ち着いてきていると見るべきだろう。

 

 

トランプ応援の「演出力」の陰で苦戦したテキサス

 

 ートランプ氏が入った23州の結果は?

 トランプ氏が入り効果があったかというと、それほどではなかった。勝つべきところでは勝ち、負けるべきところでは負けた。僕が重要だと思っていたのはウィスコンシン州の知事選。ここは負けられないところだった。しかし応援に行ったが負けてしまった。
 
 トランプ氏は「自分のおかげで共和党が勝った」と見せる演出力が極めて高い。それで「共和党がトランプ化した」といわれる。実際、今回の選挙でもトランプ氏に近い議員は当選し、遠い議員は落ちた。

 

 ではトランプ氏のおかげで選挙に勝てたのかというと、実はそういうわけでもない。テキサス州ではテッド・クルーズ氏が当選したが、そもそも苦戦するわけがない選挙区。しかしトランプ政権の関税政策への反発が強く、もともとの支持基盤の人たちがあまり動かず、僅差になってしまった。見方によってはトランプ氏が最後に応援に入って勝ったといえるが、そもそも苦戦したのはなぜかということ。

 

 トランプ氏は味方も鼓舞するが敵も鼓舞してしまう。良し悪しがある。世論調査でも、民主党側で投票に行った人の理由は「トランプを倒すため」というのが多かった。共和党側では「トランプ氏だから」という理由で投票に行った人はそこまで多くなかった。民主党の政策、たとえば妊娠中絶容認に反対だから行った、という人が多い。ここは重要なところだと思っている。

 

 

再選目指すトランプ共和党に比べ人材難の民主党

 

 ー次回の大統領選の見込みはどうか?

 テキサス州でべト・オルーク氏という民主党の候補者がいて、オバマ再来とも言われたが、中間選挙で負けたので大統領選の候補者にはならない。

 

 実は今、民主党側は大統領選のタマがない。サンダース氏、ブルームバーグ氏は高齢過ぎる。ヒラリー氏がもう一度出るとかオバマ夫人が出るという話もある。人材難だ。共和党側は豊富。トランプは、もう一度ヒラリー氏のような弱い相手が出てくれば勝てるだろう。相手次第というところだろう。

 

 民主党支持層で社会主義的な傾向が強まっているという話がある。特に若い人。実際は、米国での大学の学費が高すぎることがある。日本の何倍もする。社会主義化しているというより、「学費を税負担する」という主張に切実に共感しているということ。

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【わたせ・ゆうや】パシフィック・アライアンス総研所長、早稲田大学公共政策研究所招聘研究員。早稲田大学大学院公共経営研究科修了。トランプ大統領当選を世論調査・現地調査などを通じて的中させ、日系・外資系ファンド30社以上にトランプ政権の動向に関するポリティカル・アナリシスを提供する国際情勢アナリストとして活躍。ワシントンDCで実施される完全非公開・招待制の全米共和党保守派のミーティングである水曜会出席者であり、テキサス州ダラスで行われた数万人規模の保守派集会FREEPACに日本人唯一の来賓として招かれる。著書に『トランプの黒幕 共和党保守派の正体』(祥伝社)、『日本人の知らないトランプ再選のシナリオ』(産学社)。テレビ朝日「ワイド!スクランブル」などにコメンテーターとして出演。雑誌『プレジデント』などに寄稿多数。

 

 


 

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