注目される「親になるための学び」 ―結婚・子育てへの前向きな態度を育てる―

 

世界思想4月号を刊行しました。今号の特集は「なぜ今、家庭教育支援が必要なのか」
ここでは特集記事の一部 注目される「親になるための学び」 ―結婚・子育てへの前向きな態度を育てる― についてご紹介します。

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 「親の学び」と並んで重要なのが「親になるための学び」です。先に述べたように、現代の子供たちは子育てについて体験的に学ぶ機会が圧倒的に不足しています。

 したがって「親になるための学び」において、まず重要になるのは知識教育よりも体験教育でありましょう

 

保育士体験と「赤ちゃん登校日」

 
 思春期における子育て体験の重要性は広く共有されつつあり、保育士体験を実施する学校も増えている。

 保育士体験には非常に高い教育効果があるからだ。

 

 九州の専門学校生を対象とした研究では、保育体験が、子育てに対するポジティブな態度を育てるだけでなく、参加者自身の自尊感情も高めることがわかった。さらには、地域コミュニティの一員として主体的に関わろうとする意識も芽生えたという(藤後・岡本・山本、2005年)。
 

 こうした研究結果は、子育て機会の喪失が、現代の若者たちの様々な課題に直結していることを示唆している。
 

 子育て体験は、自らの成育のために、親や家族、コミュニティが注いでくれた愛情やケアを追体験することだ。

 その経験は、周囲の人々に対する感謝の心を育み、自分や他人の生命の価値を深く認識することにもつながるだろう。保育体験の普及は、いじめや自殺のリスク軽減にも寄与するはずだ。
 

 保育体験は、結婚や家族形成に対する願望をも高めるため、少子化をもたらす「非婚・晩婚化」に歯止めをかける効果も期待できる。一方で、短期間の体験では、保育スキルを高めるまでには至らない。ただし、子育てに対する前向きな態度を育てることは、将来、親になった時の養育態度にも肯定的な影響を与えるだろう。
 

 

 ちなみに、保育士体験よりもさらに教育効果が高いと言われるのが「赤ちゃん登校日」など、地域の母親と赤ちゃんを学校に招いて、生徒たちとの交流を図る企画だ。乳児との交流に加え、その母親の経験や心情に触れることで、より「親心」に対する理解や感動が深まるという。
 

 言うまでもなく、これらの取り組みには、地域住民の理解や協力が欠かせない。条例制定とともに、「親になるための学び」の機会提供の重要性について、住民に啓発する努力も必要だろう。かつては地域の日常生活で得られた経験を、行政と住民が一体となって、意図的に作り出す必要があるのだ。

 

ライフデザイン教育の必要性

 
 最近は「人生100年時代」といわれ、長期的視野に立った「ライフデザイン(人生設計)」の必要性が強調されている。当然のことながらライフデザインの中心には結婚や子育てなど、家族形成に関わるイベントが置かれるべきだ。
 

 幸福度の研究をみても、金銭や地位・名誉といった社会的な成功よりも、身近な人間関係、特に家族との関係で得られる幸福の方に永続性があることが分かっている。
 

 しかしながら、これまで中高生に対する進路指導は、進学や就職などキャリア形成に関わるものが中心だった。

 その結果、若者たちの人生設計においてもキャリアの形成が優先され、結婚・育児を先延ばしにする傾向が強まっている。当然のことながら、受験勉強や就職活動に対する指導の充実に比べ、結婚・家族形成に対する教育はほとんど行われていない。
 

 「親になるための学び」の推進には、こうした従来の教育の偏りを是正する効果があるだろう。
 たとえば、妊娠・出産の適齢期について考えさせることも重要だ。平均寿命が延び、若々しい外見をもつ高齢者も増えたが、生殖に適した年齢は昔も今も変わらない。
 

 特に女性に関しては35歳を超えると不妊の確率も高まり、生まれてくる子供の染色体異常や、母体の負担など、年々リスクが高まっていく。実際に、不妊治療で苦労する夫婦の増加は深刻だ。

 

 仕事と家庭生活のバランス、結婚に適した時期を考えさせるためにも、保育体験と絡めたライフデザイン教育が有効だ。

 

赤ちゃんとの触れ合い体験をしている中学生たち。

 

 こうした「親になるための学び」は、「過激な性教育」を懸念する立場からも非常に重要だ。 

 昨年3月に足立区で実施された性教育の公開授業では、「生殖の性」を軽視し、快楽中心の「ふれあいの性」が強調された。「性の自己決定」という個人の権利を土台にした性教育では、互いの合意と避妊が前提であれば、中高生であっても性関係を結ぶことは自由だということになってしまう。
 

 本来、男女の性関係は、家族の形成と切り離して考えるべきではない。米国の研究では、結婚前に性関係を結んだ人数が多いほど、結婚後の夫婦関係の満足度が低く、離婚率も高いという結果が出ている。著名人の不倫に対する拒否反応を見てもわかるように、性道徳と一夫一婦の婚姻制度には密接な関係があるのだ。
 

 当然のことながら、男女の性関係は命を生み出す源でもある。生まれてくる子供の立場から見れば、両親の関係が一時的な感情や欲望に基づくものではなく、やがて生まれる命を見据えた誠実な関係であることを願うだろう。結婚や生殖を視野に入れることで、はじめて説得力ある性道徳教育が可能になるのだ。
 

 性犯罪の蔓まん延に歯止めをかけ、デートDVやリベンジ・ポルノなど軽率な恋愛に絡むトラブルを避けるためにも、性を真面目に考える機会を与えることは重要だ。

 

 ▶ あわせてお読み下さい。
都内性教育の「過激な実態」を憂う(上) 

 

(平和大使協議会「世界思想」4月号より)

 

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