「世界思想」2月号を刊行しました。今号の特集は「中国・習政権の焦りと限界」です。
ここでは特集記事の一部【彭帥事件と北京五輪「外交的ボイコット」】をご紹介します。
WTAが中国での全ての大会の中止
女子プロテニス4大大会ダブルスで2度の優勝経験をもつ中国の彭帥選手が、SNSの微博(ウェイボー)で、張高麗元副首相に望まない性的関係を強要されたと告発。間もなく消息不明となるも、目前に北京五輪を控えた国際オリンピック委員会(IOC)のバッハ会長が、テレビ電話で彭帥選手本人と会話した写真を公開。ところが音声と動画は非公表で、軟禁など当局の監視下にある懸念は拭えなかった。
一方、女子テニス協会(WTA)は、選手の身の安全を保証できないとして中国での全ての大会の中止を決定。その後、上海でシンガポール有力紙のインタビューに応じた彭帥選手が告発自体を否定したが、WTAの決定は覆っていない。
張高麗氏は政治局常務委員でもあった元最高幹部の1人で、江沢民・曽慶紅派に属すとされる。その意味で彭帥事件は習近平指導部と江沢民派との「権力闘争」と見る向きもあるが、アスリートをめぐる騒動は、北京五輪ボイコットが話題の渦中では火に油を注ぐ事態となる。
WTAの決定の背景にあるのは、共産党独裁体制に対する非難というよりも、最高幹部が地位を利用して女子アスリートに性関係を強要する「女性蔑視文化」に対する嫌悪である。 ここで想起されるのは、東京五輪直前の昨年2月、大会組織委員会の森喜朗会長の発言が「女性蔑視」とされて炎上、辞任に追い込まれた事件だ。森発言に「女性蔑視・差別」と青筋を立てた人々は、なぜか彭帥事件には沈黙している。
米政権の対中強硬策と「外交的ボイコット」
中国の五輪開催国としての資格を問う声が高まっている。その焦点は、新疆ウイグルの問題であり、批判の先頭に立つのは米国だ。
香港での民主派弾圧、新疆ウイグルでの強制労働や強制不妊施術、台湾への「武力統一」の意思を隠さない姿勢を受けて、トランプ前米政権は台湾との関係強化に動き、中国共産党による「ジェノサイド」を公式に非難した。バイデン現政権も対中強硬路線を踏襲。奴隷的強制労働に関わる全ての取引を全面禁止するウイグル製品輸入禁止法を成立させた。
北京五輪に対しては12月7日、選手は派遣するが政府要人は参席しない「外交的ボイコット」を発表。この米国の動きに豪州、英国、カナダといった国々が続いた。日本の岸田文雄政権は「独自の判断」を模索。12月24日に至って、ようやく閣僚など政府要人の派遣を見送ることを表明した。
国際政治に翻弄されてきた民主と平和の祭典たる五輪
ギリシャ発祥の古代オリンピア競技は最高神ゼウスの宗教的権威の下に千年以上も続き、身分に関わらず戦争すらも休止する、文字通り「民主と平和の祭典」だった。この精神を19世紀末に蘇らせたのが、近代五輪の父と呼ばれたピエール・ド・クーベルタン。彼は五輪精神について「健全な民主主義、平和を愛する懸命な国際主義が、無私と名誉の精神を育む」と述べている。
しかしながら、五輪は単なる「スポーツ祭典」とはならず、国際政治と直に関わってきたのも事実である。内政においては政権への求心力や愛国心を高め、対外的には国際的地位の向上を図る絶好の機会だからだ。中国自身も五輪誘致にあたって政治的意図がなかったはずがない。
一部専門家が指摘するのは、ソチ五輪後にロシアがクリミア併合を強行したように、冬季北京五輪直後に中国が台湾「武力統一」を強行する可能性である。一方で「人道に対する罪」に関わるボイコット論議で想起されるのはヒトラー政権下でのベルリン五輪だ。この時は米英などの開催国返上やボイコット議論を受けて、ヒトラーは開催期間のユダヤ人迫害政策の緩和を約束。差別的発言を抑制するなど、一定の政治的効果をもたらした。冬季北京五輪が国際政治の転換点であることは間違いない。
(「世界思想」2月号より )
◆2022年2月号の世界思想 中国・習政権の焦りと限界
Part1 彭帥事件と北京五輪「外交ボイコット」
Part2 波乱含みの歴史決議
Part3 周辺諸国の包囲網の重要性と日本の役割
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