揺らぐ米国のリーダーシップ

「世界思想」「世界思想」8月号を刊行しました。今号の特集は「揺らぐ米国のリーダーシップ」です。
ここでは特集記事の一部をご紹介します

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 世界秩序が揺れている。米国主導の秩序が崩れつつあるといってもいい。この変化を冷静に分析し、何をなすべきかを明確にする必要がある。

 3月2日、国連総会でロシアに対する非難決議が採択された。賛成141、反対5、その他は棄権だった。その後、徐々に状況は変わっていった。国連の人権理事会からロシアを追放する4月7日の国連決議では、棄権・反対・無投票が100カ国にのぼり、賛成93カ国を上回った。英誌「エコノミスト」の調査部門によれば、ロシアのウクライナ侵略を非難したり、制裁したりしている国々は、世界人口の36%に留まるという(3月30日付分析)。32%はインドやブラジル、南アフリカのように中立的立場をとる国々であり、残る32%はロシアの主張を理解するか、支持する中国やイラン、北朝鮮などだった。

中露連携で影響力を拡大

 現状は、G7、NATOなどが世界に対して強いリーダーシップを発揮しているとは言えない。それを思い知らされたのが、6月10~12日にシンガポールで開かれたアジア安全保障会議だった。日豪などがロシアの侵略を非難したが、東南アジアや南太平洋の国々の反応は意外と冷たかった。インドネシア国防相は「ロシアは極めて良好な友人であり、よい関係を築いている」と発言。マレーシア国防相も中立の姿勢を示し、フィジー国防相は「中国も含め、あらゆる国々との関係から恩恵を受けていく」と述べている。

 対露制裁の効果がまだ見えていないことも一因だろう。しかし、ロシア、中国が持つ影響力も無視できない。ストックホルム国際平和研究所によれば、2000~21年、ロシアは東南アジアに約109億ドル(約1兆4700億円)の兵器を輸出。米国を抜いて第1位である。特に輸入が多いベトナム、マレーシア、インドネシアなどは、兵器部品を絶たれたら軍の運用に支障が出るのだ。

 他方、中国は軍事的圧力だけでなく、援助や投資などをちらつかせて途上国の取り込みを活発化させている。それもロシアのウクライナ侵攻とほぼ同時に、である。中国政府は4月19日、南太平洋の島国ソロモン諸島との間で基本合意していた安全保障協定を正式に締結したと発表した。さらに中国の王毅外相は5月30日、訪問先のフィジーで南太平洋島嶼しょ諸国と外相会議をオンライン形式で開催。中国は会議で、安全保障面での連携強化をうたう協定の締結を提案したが、合意には至らなかった。とん挫はしたものの、協定を足掛かりに本格的な太平洋進出を図っていたのだ。

 フィジーのバイニマラマ首相は会議後、「地域協定における議論においては、意見の一致を優先する」と述べ、一部参加国から異論が出たことを示唆した。その背景には、中国の動きを警戒する米国やオーストラリア、ニュージーランドの働きかけがあった。

 中露は明らかに連携し、従来の欧米中心の世界秩序に挑戦している。全般的危機が進行しているといわなければならない。

アジア安全保障会議で発言する米国のオースティン長官

急速に弱まる米国のリーダーシップ

 米国がリーダーシップを次第に失っていく契機は10年前から、との指摘がある。2012年8月、オバマ米大統領(当時)はシリアのアサド政権に、化学兵器使用は「レッドライン(許容できない一線)」だと警告した。しかし13年に同兵器が使用されても、米軍は介入しなかった。そして、オバマ氏は「米国はもはや世界の警察官ではない」と宣言したのだ。続く14年3月のロシアによるクリミア半島併合時にも介入せず、中国が南シナ海に軍事拠点を設けても介入しなかった。

 トランプ米政権は、「アメリカ・ファースト」を掲げたが、米国と世界の脅威に対しては効果的に力を示した。2017年4月6日には、訪米中の習近平国家主席との会食中に、シリア空軍基地への空爆を行った。化学兵器使用の確かな情報を踏まえての判断と実行だった。トランプ氏はNATO諸国に対しても、防衛費GDP2%の約束を守っていないと批判。同盟の前提条件となる各国の防衛力強化を促した。

 バイデン政権は逆に、トランプ政権が進めたサウジアラビアとの友好関係を捨て、中露と関係が深いイランとの核合意復帰に向けた動きを開始。

 2021年8月末には、大混乱の中でアフガニスタンから軍を撤退させ、同盟国、友好国に決定的な不安と不信感を与えてしまった。バイデン政権は、ウクライナでもロシアの侵略がわかっていながら抑止することができなかった。

アフガン撤退を表明するバイデン米大統領(2021年4月)

内政でも苦しむバイデン政権

 米最高裁は6月24日、衝撃的な判決を言い渡した。中絶自体を禁止したわけではないが、米国民は「憲法上、中絶の権利が保障されているわけではない」と明示し、中絶に関する規制は各州の立法に委ねられるとの判断を下したのである。米国最高裁は1973年、国家から個人の行動が制約を受けない「プライバシー権」に、「中絶を選ぶかどうかの選択」が含まれるとした。「ロー対ウェード判決」と呼ばれるものだ。共和党を支持する多くの米国保守派にとって、「ロー対ウェード判決」の無効化は悲願だった。

 バイデン大統領は今回の判決を批判しつつ、中絶の権利を確保するための連邦法の成立が必要だと強調し、中間選挙の争点になると明言。「生命の尊厳」や「婚姻・家族制度」という社会の根幹に関わる問題で米国内には深い分断がある。

 国内に矛盾を抱え、対外的な影響力を弱める米国のリーダーシップの揺らぎは明らかだ。各国の目は今、日本に向かっている。6月末のG7サミット、およびNATOサミットで日本は大きな注目を浴びた。「パックス・アメリカーナ(米国による平和)」が終焉に向かう現在、日本が今後の世界にあって、どのようなビジョンを持ち、いかなる責任を果たすのか、世界中が熱い視線を送っている。

(「世界思想」8月号より )

◆2022年月号の世界思想 揺らぐ米国のリーダーシップ
Part1 軍事的空白に乗じる中華覇権主義の野望
Part2 G7と新興国を隔てる価値観の壁
Part3 米国の衰退を補う日本の役割
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