視界不良の3期・習近平政権

「世界思想」11月号から特集「視界不良の3期・習近平政権」の一部と、党大会後に発表された中国共産党の人事について、その狙いをご紹介します。

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矛盾する2つの路線

 中国政権内部の「矛盾」が露呈しつつある。今夏の8月16日、中国国営テレビで約半月ぶりに習氏の動静が伝えられた。東北部の遼寧省錦州市で「中国式の現代化とは、全人民の『共同富裕』の現代化だ。少数の人々だけが豊かになるのではなく、全人民が共同富裕(の状態)になり、皆で大いに喜ぶべきだ」と「共同富裕」論を力説した。その一方で、同日、李克強首相は鄧小平が打ち出した「改革開放」の推進を強調したのだ。理念的には「共同富裕」政策に反する。

 習氏は、2期目となる第19期共産党大会(2017年)で、「中国の夢」を実現する行ロードマップ程表を明らかにした。「3段階戦略」といわれ、第1段階は、2021年の「中国共産党の創設100年」に目標年を置く。その前年にはゆとりある小康社会(「20年小康社会実現」)を実現する。第2段階は、中間目標とする35年に社会主義現代化を実現する。社会主義現代化とは「共同富裕」(豊かさの平等)の実現だ。

 第3段階は、2つ目の奮闘目標とする2049年の「建国100年」であり、「社会主義現代化強国」にのし上がるという。社会主義現代化強国とは総合力において米国を超えるということである。

 しかしここにきて肝心の中国経済が成長できなくなり、「中国の夢」が霞みつつある

 これには4つの要因がある。まず、習氏が強調するイデオロギー的要因だ。毛沢東は、社会主義のイデオロギーを重視した。それは「共同富裕」の実現である。しかし、生産力の低さなど、必要な基礎的経済条件がそろっておらず大失敗。その後、鄧小平とその後継者は逆の道を選んだ。「改革開放」路線である。その結果、中国は驚異的な経済成長を実現することとなる。

 習近平総書記が13年の「三中全会」で打ち出した改革で、当初は経済好調の新時代が到来すると期待された。しかし、2期目に入った習氏は、無秩序な資本の拡張防止を打ち出し、不動産会社・恒大集団やアリババ集団など、成長する民間企業に様々な圧力をかけ始めた。ゲームの制限や義務教育段階での学習塾禁止もうち出され、関連する事業は大混乱に陥った

 これら一連の施策は、習氏が主導する「共同富裕」が絡んでいる。鄧小平路線からの大転換となり、経済成長路線にブレーキをかけることになった。

第20回中国共産党大会

安硬直的な経済・金融政策

 次に習政権の「硬直的経済政策」がある。中国経済の最も深刻な問題は、住宅バブルの崩壊だ。習氏が「住宅は住むためのもので、投機の対象ではない」と訴え、融資政策などが激変したのがきっかけだ。中国で民間住宅市場が誕生してから信じられてきた「住宅は必ず値上がりする」という神話は崩れつつあり、高額の融資を受けて住宅を買った人々は、当てにしていた莫大な「転売益」を得られない。

 対応策としては痛みを伴う抜本的措置、金融政策が不可欠だ。しかし肝心の金融政策が極めて硬直的で、中国経済が立ち直るメドは立っていない。

 カネの創出と流れを支配して実権を握るのは共産党中央である。人民元資金を大量発行し、国有商業銀行や地方政府の不動産融資機関に投入し、住宅市場をテコ入れすることはやろうとすればできるはずだ。しかしそれができない。中国人民銀行は手元の外貨資産に応じて人民元資金を発行しているからである。外貨資産が増えない限り、資金発行は制限されるというのが中国特有の金融制度なのである。外貨すなわちドルの裏付けがないと人民元の通貨価値が失われ、高インフレを招きかねないとの懸念が党中央にあるのだ。

 根拠となっているのは、中国共産党の歴史において最大の危機となった1989年6月の天安門事件だ。民衆の不満の背景には高インフレがあったとの認識があり、それを引き起こした元凶が、外貨資産を無視した人民元増発だったと見ているのである。

 経済停滞の3番目の理由は「ゼロコロナ」政策。9月上旬の民間調査では、その時点で中国の総人口の2割前後が都市封鎖や移動制限の対象になっているという。ゼロコロナ政策を「社会主義制度の優位性を示す」と強調してきたため、転換ができないのだ。

 最後に、これまで経済成長をけん引してきたグローバル化の恩恵を受けられなくなっている点が挙げられる。

 習政権は「中華民族の偉大な復興」に執着しており、鄧小平以来の「韜光養晦」とは対照的に、強硬な中国外交政策を行っている。いわゆる「戦狼外交」だ。米国との貿易・技術戦争をあおり、ロシアとの「無制限のパートナーシップ」を生み出した。そのロシアは9月に入り、ウクライナにおける劣勢が明らかになってきている。

 このままでは、中国はロシアとともに国際社会からの孤立がさらに進む事態になっていく。「時間は中露に味方しない」ことが明らかになりつつある。「台湾海峡危機」がロシアによる日本の北方での動きと連動しながら勃発する可能性も高まっている。しかしこれらのすべてが、中国が、他のどの国よりも長く恩恵を受けてきたグローバル化の巻き戻しとなることを知らねばならない。

 中国経済は、この1年で急減速しており、「中国が米国を抜いて世界最大の経済大国になるのは時間の問題」との従来予想を見直す動きがある。結局、「米国超え」はないのではという懐疑論も浮上しているという。視界不良の中で習近平体制の3期目が出帆する。
(「世界思想」11月号より)

驚きの⼈事は早期の台湾奪回狙いか

 党⼤会後の10⽉23⽇、第1回中央委員会総会(1中総会)で新たな体制が発表されたが、最⾼指導部政治局常務委員7⼈は習⽒とその側近らで固められ、後継候補は置かれなかった
権⼒の極端な集中は、内外への強硬路線が加速する可能性を孕む。台湾危機は近いといわねばならない。

 党指導部を構成する政治局員24⼈と、その中から選ばれる政治局常務委員7⼈、軍指導機関の党中央軍事委員会7⼈が選出され、習⽒は引き続き軍事委員会主席も務めることとなった。

 公表された最⾼幹部常務委員の序列は、①習近平(69)②李強(63)③趙楽際(65)④王滬寧(67)⑤蔡奇(66)⑥丁薛祥(60)⑦李希(66)。

 驚くべきことは李克強⽒と汪洋⽒が外れたことだ。4⼈が退任し、代わって昇格したのは、いずれも習⽒の地⽅勤務時代からの腹⼼や忠誠⼼が厚いとされる幹部だった。

 来春の全⼈代で李克強⽒に代わって⾸相につくのは李強⽒とみられるが、ゼロコロナ政策による上海市のロックダウンで混乱を招いており、⼿腕を疑問視する声もある。

 さらなる衝撃は、退任した李克強⽒に近い胡春華副⾸相(59)が政治局員から外れたことである。胡錦涛前総書記や李克強⽒の政治基盤だった共産主義⻘年団(共⻘団)につらなる勢⼒の「排除」が⼀気に進んだ。

 王毅外相(69)が政治局員に昇格し、台湾問題に直結する中央軍事委委員会では制服組トップの副主席に張⼜侠⽒(72)が留任。何衛東⽒(65)が副主席に昇格した。みな習⽒との近さが特徴である。この新体制は「台湾早期奪還体制」というべきだ

◆2022年11月号の世界思想 視界不良の3期・習近平政権
Part1 習政権の新体制を占う
Part2 最優先される「政治安全」
Part2 台湾有事と危機の沖縄
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