動乱 日本政治の明日

「世界思想」10月号の特集「動乱 日本政治の明日」から総論部分をお届けします。

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 「自民が自民でなくなる」、「日本が日本でなくなる」かもしれない。

 2021年9月の自民党総裁選はそれを暗示するものだった。結果は、岸田文雄氏が河野太郎氏に「決選投票」で圧勝。岸田氏が第27代総裁となったが、総裁選全体を通して、自民党内の深刻な課題が浮き彫りとなった。それは自民の左翼リベラル化である。

21年総裁選岸田総裁誕生の背景

 総裁選直前までの各種世論調査では河野氏が支持率トップを走り続けた。日本経済新聞の本社世論調査(2021年9月23~25日)では、「事実上の次の首相となる自民総裁にふさわしい人」との設問で、河野太郎氏が46%、岸田文雄氏17%、高市早苗氏14%、野田聖子氏5%、自民支持層に絞ると河野氏が51%、高市氏19%、岸田氏18%、野田氏2%となっていた。

 河野氏の政治理念はまさに「左翼」リベラルだ。選択的夫婦別姓、同性婚合法化に賛成し、女系天皇を容認。立憲民主党の公約かと錯覚するほどだ。

 この事態に危機感を抱いたのが安倍晋三元首相である。安倍氏は、自民結党の精神を継承し、党が目指すべきものを明確に訴えることができる政治家として、高市早苗氏を支持。積極的に賛同を呼び掛けた。

 結果は河野氏の完敗だった。理由は、河野氏の誤算と「メッキ剥」といえるだろう。当時の、安倍・麻生太郎両氏の影響力が強い党内状況で、「孤立」する石破茂氏の支援を受けたことが裏目に出た。これが誤算だった。

 さらに掲げた政策も摩擦を引き起こした。国家観に直結するもの以外に、核燃料サイクルの見直しに触れて推進派を刺激。年金の最低額保障を主張するも財源の曖昧さが批判された。

 安全保障政策での曖昧さも目立った。弾道ミサイルを相手国領域内で阻止する敵基地攻撃能力(反撃能力)の保有に関しては、「昭和の時代の概念だ」「ピント外れ」「敵基地ナントカ能力」と揶揄した。その上で、「日米同盟で如何に抑止力を高めていくかだ」と述べるだけで具体策を欠いた。

 そして終盤、河野家のファミリー企業「日本端子」が中国で事業を展開しており、実弟が社長で河野氏自身も株主であることから、対中政策への影響が強く懸念された。質問に対して、「私の政治活動に影響を与えることは全くない」と言い切るのみで、説得力に欠けていた

 決選投票では岸田氏が幅広い支持を集め、河野氏を大差で破った。その背景には、河野氏の政治姿勢に疑問を抱く安倍氏と、河野氏が所属する麻生派会長の麻生氏らが主導して、水面下で行った激しい多数派工作があった。

 安倍氏は総裁選で、高市早苗氏を勝利させるために「本腰」を入れたが、同時に決選投票となった場合の2位、3位連合を見据えながら闘っていた。

 高市早苗氏自身の善戦も目を見張るものがあった。十分に準備された自民らしい政策(憲法改正、安保体制強化、男系天皇の堅持、選択的夫婦別姓や同性婚合法化の否定など)が、ぶれることなく打ち出されたのだ。

 今の日本が抱える最大の課題は、「日本が日本でなくなる」ことだ。内外で深刻な危機が迫っている。内には左翼リベラルの浸透、外からは中国、北朝鮮、ロシアなどの「力による現状変更勢力」の覇権的行動である。

LGBT理解増進法の衝撃

「LGBT 法」の拙速な成立はG7 広島サミット成功のための「取り引き」との声も囁かれた(2023年5 月21 日=首相官邸HP から)

 安倍氏が党の運命をかけて押し上げた岸田政権は、「願い」と真逆のことを行った。LGBT理解増進法の成立だ。「性的指向やジェンダーアイデンティティを理由とする不当な差別はあってはならない」として、政府が基本計画をつくることなどを定めている

 ここに重大な懸念がある。米国内の深刻な分断と対立が、日本に持ち込まれようとしているということだ。左翼リベラル=文化マルクス主義者によってもたらされた分断が、これから日本でも確実に展開するだろう。

 「読売」は社説(6月)で複数回にわたり、「首相と自民の見識が問われる」「この法案で女性の安全を守れるのか」「教育現場は混乱しないのか」と痛烈に批判した。

 男女の在り方=「国の在り方」を変えるような重要な内容を含む法案成立を、なぜ急いだのか。2つの理由があると見られている。1つは自民と公明の対立緩和、そして日米関係、バイデン米政権の「LGBT外交」である。

 米民主党政権のLGBT外交への懸念は発足当時から指摘されていた。「サンデー世界日報」(2021年3月14日号)に次のようにある。

 バイデン大統領は2021年2月4日、就任後初の外交政策演説で、「米国が戻ってきたと世界に伝えたい」と語った。トランプ前政権の「米国第一」から多国間主義への転換であり、国際問題に積極的に関与する姿勢を示したものと広くは理解されている。

 しかし、途上国、特にアフリカ諸国では、別の意味で「米国が戻ってきた」と受け止めた人も多いに違いないという。それは、オバマ元大統領が推し進めたLGBTの国際的な権利向上、いわゆるLGBT外交の復活との認識である。

 バイデン氏の発言に、「LGBT問題で国際的なリーダーシップを回復する。LGBTを犯罪として扱う動きと闘い、LGBTの難民や亡命申請者をまもる権利向上に努める」とある。

 バイデン氏はさらに、海外援助をLGBT外交のツールとして利用することを政府機関に指示する行政命令を出した。これは経済援助の条件として途上国に同性愛行為の非犯罪化などを迫ったオバマ政権の手法を踏襲したものであり、「文化帝国主義」だと激しく反発した国もあった。

 岸田政権がLGBT理解増進法の成立を急いだのは、G7広島サミット成功のためといわれた。債務上限引き上げをめぐる共和党との交渉が山場を迎えていたバイデン氏が来日せず、オンライン参加の可能性が囁かれていた。さらに、G7サミットの中心テーマは、核で脅すロシアへの対応であり「核廃絶」ではなかった。そこで大統領の出席と共同声明に核廃絶を書き込むために、LGBT法成立が「取り引き」条件とされたのではないか、との指摘があるのだ。

 共同通信社は世論調査(23年8月)で、来年9月に予定される自民党総裁選について尋ねた。「次の総裁」として石破茂元幹事長が18・5%でトップ。河野太郎氏は13・5%、小泉進次郎氏が11・9%で続き、岸田文雄首相は10・2%で4位だった。

 立憲民主党は21年総選挙で、共産党と「限定的な閣外協力」に合意、国民からの信頼を失った。政党支持率で野党トップとなった日本維新の会は今後、政権担当能力の有無について厳しい国民の視線にさらされることとなる。日本共産党は長期低落傾向、保守勢力では参政党に加え、「日本保守党」も登場した。次期総選挙後の政治地図は、これまで見たこともない様相、混乱を呈することになるだろう

 日本政治は動乱期に入った。

◆2023年10月号の世界思想 動乱 日本政治の明日
Part 1 保守の「塊」結集し改憲を
Part 2 自公と維新 次期衆院選で全面対決へ
Part 3「リベラル」履き違えた自民 立党の原点と保守の矜持貫け
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思想新聞号外ビラ – 共産党批判ビラ「日本共産党100年の欺瞞」

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