展望2024 危機迫る民主主義と選挙イヤー

 

「世界思想」2月号の特集「展望2024 危機迫る民主主義と選挙イヤー」の一部をお届けします。

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 ロシア・ウクライナ戦争、イスラエルとハマスの軍事衝突など危機の連鎖による世界的混乱が広がっている。台湾海峡や朝鮮半島の動向からも目が離せない。混乱は紛争だけではない。AIなど新技術がもたらす期待と不安が広がり、未来が全く見えない状態だ。

 ロシアとそれを支える中国、さらにイラン、北朝鮮による新たな世界秩序への挑戦は続いている。安倍晋三元首相は2015年7月、「戦後70年談話」で歴史的教訓として以下のように強調した。「私たちは、国際秩序への挑戦者となってしまった過去を、この胸に刻み続けます」。

 ウクライナにも課題、問題はあるがロシアの「力による一方的な現状変更」は決して容認できない。私たちは1930年代当時の「大失敗」を改めて想起すべきだ。1938年、チェンバレン英首相らはナチスドイツに甘い態度をとり、チェコスロバキアの一部割譲を認めた。その結果、足元を見透かしたドイツが翌年、ポーランドに侵攻し、第2次大戦が勃発した。「力による一方的な現状変更」は許さないとの大原則を普遍的なものとすることこそが平和への現実的な第一歩なのだ。

史上最大の選挙の年

 今年は史上最大の選挙イヤーといわれる。70カ国以上で国政レベルの選挙が行われ、30億を超す有権者が投票用紙を手にすることになる。主なものとして、1月台湾、2月インドネシア大統領選挙、3月ロシア大統領選挙、4~5月インド総選挙、4月韓国総選挙、11月米大統領選挙がある。わが国も今秋に自民党総裁の任期が切れる。これらのうち最も注目されるのが米国であることは論を待たない

 バイデン大統領の支持率は下落の一途をたどる。気候変動対策やインフレ抑制に関する重要法案を次々に成立させ、国民生活の改善を志向するも、国際情勢や国内の党派対立に振り回され、指導力を発揮できていない。

 外交面でカギを握るのは、米国が向き合う「3正面」への対処だ。ウクライナ支援の継続に筋道をつけつつ、国際協調を主導してロシアの侵略を押し返せるか。さらにイスラエルの苛烈なガザ攻撃を最大の同盟国として制御し、国際的孤立を避けながら中東情勢の泥沼化を防げるか。そして、台湾問題などで中国の覇権主義的行動を抑え込めるか、の3点である。

 一方、大統領選の勝敗に直結するのは国内の経済状況だ。国内総生産(GDP)や失業率などの経済指標は良好だが、物価水準は高止まり。国民の生活実感は上向いていない。今後、高金利の副作用で経済が息切れするようだと再選はさらに危うくなる。バイデン氏の81歳という高齢も、民主党内に選挙戦を不安視する声がくすぶる大きな要因だ。

 ロシアはどうか。現在も40万人の兵士がウクライナ領土内に投入されており、戦死者数は膨らみ、国内経済も疲弊している。想定した短期制圧シナリオは大きく崩れたが、政権基盤はそれほど揺らいでいない。

 プーチン大統領は昨年12月8日、大統領選出馬を表明した。さらに19日、国防省の会合で、ロシアが闘いの主導権を握っていると述べた。3月の大統領選を見据え、国民に『特別軍事作戦』が順調であると知らせ、選挙運動を有利な形で展開したい思惑がある。一方で「停戦」を望む声が高まってきていることも確かだ。

 ウクライナは今、米国からの軍事支援の縮小による戦闘力低下の懸念に加え、恒常的な兵員不足に悩まされている。国民が一丸となってロシアに対抗しているというイメージと裏腹に、兵力確保のため出国が禁じられた18~60歳の男性らが隣国に脱出したり、書類を偽造して兵役免除を受けたりする事例の増加も報じられている。

北朝鮮による挑発の狙い

 朝鮮半島情勢の予測は非常に困難だ。4月10日に迫る韓国の総選挙は、2022年5月に発足した尹錫悦政権にとって中間評価に当たる。保守系与党「国民の力」は少数与党であり、過半数獲得の成否がカギとなる。

 尹政権の支持率は30%台と振るわない。その一因は、主要な法案が左派系野党の反対で成立を阻まれるなど、内政で目立った成果がないことだ。
一方で北朝鮮は核・ミサイル開発を加速。2021年に発表した国防分野「5カ年計画」に従い昨年11月、軍事偵察衛星打ち上げに成功した。今年も追加打ち上げ計画を公表している。

 さらに奇襲的に発射できる固体燃料式の中距離弾道ミサイルの発射などを試みるだろう。ロシアとの軍事協力をすすめ、中国とも接近し、米国へのけん制を強めるとみられる。金正恩総書記はトランプ氏の再選を望んでいるとの指摘もある。米朝首脳会談の再開により、経済制裁解除の実現を期待しているとの見方だ。対米交渉力を高めるためにも今年は核戦力のさらなる強化を図るはずだ。

台湾総統選挙と中国

 中国は今、対外環境の安定化を図る必要性に迫られている。理由は経済の不振である。不動産市場の不況や消費の停滞で減速傾向が続いており、外貨の対中投資も減退した。

 中国との長期的な競争に備える米国は、半導体製造装置などハイテク分野での対中輸出規制を強め、日欧とデリスキング(リスク低減)を図るなど、対中包囲網を年々強めている。

 習政権が共産党一党支配を堅持するためには経済成長の維持が必須であり、対外関係の改善が必要となっている。そのためBRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカなどで構成)首脳会議や上海協力機構などの多国間の枠組みの連携を強化している。

 日本との関係は、昨年11月の日中首脳会談で、個別の懸案では対立しても、日中双方の利益を追求していくという「戦略的互恵関係」を推進する方向で一致した。しかし、東京電力福島第一原発の処理水海洋放出の問題や中国国内での邦人拘束での妥協はない。尖閣の領有権問題も同様だ。

 最後に台湾である。1月13日に総統選と立法委員(国会議員に相当)選があった。アジアで今年行われる最も重要な選挙といっても過言ではない。
習近平主席は、2027年までに台湾侵攻の準備を完了させようと急いでいる。総統選の結果は、中台のみならず国際社会の安全保障環境にも大きく影響を及ぼす。

 どの候補が勝利しても、「中台関係の現状維持」という台湾側の方針に大きな変化はないが、中国に対するアプローチは異なることになる。

 総統選で現政権与党の民進党が敗北すれば「台湾政治が不安定化」し、日米が苦心しながら築いてきた東アジアの対中包囲網に致命傷となる大きな穴が開く懸念があったが、結果は民進党が総統選で勝利した。ただ、立法院(国会)選挙で過半数を確保できず、思うような政治を展開できない恐れがある。

 混迷を深める世界を守るために立てるべき大原則は、「力による一方的な現状変更」を行わないことであり、「テロは絶対に許されない」という原則も徹底することだ。

 したがってロシア、ハマスの「行為」は糾弾、排除されるべきであり、中国の台湾への覇権行動、北朝鮮の武力挑発は容認できない。
 この大原則を徹底するための「力」を備え、連携を構築できるのか。各国の選挙の帰趨に注目が集まる。

◆2024年2月号の世界思想 展望2024 危機迫る民主主義と選挙イヤー
Part 1 国のあり方左右する2024 年米大統領選
Part 2 中東パレスチナ情勢の行方を占う
Part 3 2024年の東アジア情勢

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