「世界思想」7月号特集【韓国大統領選と日米韓関係流動化への懸念】からPart2 米国の視点から見た韓国大統領選挙をお届けします。
韓国の大統領選挙期間に合わせ5月25日に、同選挙システムを監視するため米国の「国際選挙監視団」が訪韓した。モース・タン(元国際刑事司法大使)、ジョン・ミルス(元米国防総省サイバーセキュリティー政策局長)、グラント・ニューサム(元米海兵隊戦略将校)、ブラッドリー・テイアー(米シカゴ大政治学博士)各氏ら、多方面の分野の専門家で構成。26日~6月4日の10日間に渡り、韓国の選挙を直接観察し、選挙の手続き面での公正性を検証し、国際社会に向け報告書を公表するのが任務だった。
国際選挙監視団の「声明」について
「韓国の投票システムは手続きの透明性が保障されていない。有権者は常に疑問を投げかけてきたが、政府と中央選挙管理委員会は閉鎖的な態度を変えないため制度に対する信頼性は低い。今後は変化が必要だ」
5月29日、監視団はこのような「緊急声明」を発表し、「韓国の選挙制度は10点満点の3~4点レベル」の評価とともに、5月29~30日の期日前投票制度について、電子開票システムがサイバー攻撃を受ける可能性、また選管が正当な監視活動を行う者を警察に逮捕させるなど、選管の中立性・公平性に関わる問題点を指摘した。
さらに、前節でも触れたように、6月3日の即日投票と、期日前投票との極端な得票分布の乖離 があったにもかかわらず、マスメディアにより発表された「出口調査」結果が、即日投票分(李在明氏37・96%、金文洙氏53・00%)よりも、むしろ本来は開票前に分かるはずのない期日前投票の結果(李氏63・72%、金氏26・44%)に近いのは明らかに不自然だった。
米国の「当惑」を象徴するレビット報道官
こうした選挙監視団の報告をトランプ米政権も把握していたはずだが、李在明氏が大統領選で当選した事実に、ある種「当惑」していたことを示すエピソードがある。それは、トランプ政権の「顔」として歯切れのよい明快な答弁から、保守派層の間ですこぶる評判の良かった米国ホワイトハウスのキャロライン・レビット報道官が会見で示した珍しいハプニングだ。
6月3日(現地時間)、ホワイトハウスで行われた記者会見の途中で、記者団から「韓国の大統領選挙結果に対する何らかの見解はあるか」という質問を受けると、レビット報道官は「もちろんある」と答えた。 そして壇上に立ったまま、事前に準備してきた書類から回答関連の文面を探した。レビット氏は「確かにここのどこかにあったはずなのに…」と関連書類を探したものの、結局準備してきたものを「確認」できず、苦笑しながら「(韓国大統領選への見解を今は)持っていないが、間もなく見解を発表する」と話すにとどめた。
この「ハプニング」直後に国務省でも記者会見が行われたが、同省のタミー・ブルース報道官は米政府の反応を尋ねる質問に対して「(韓国で大統領)選挙があり、当選認証(certification) を待っている」とし「その結果が出れば声明を発表するだろう」と答えた。
米韓電話会談も安保政策では「対中シフト」へ
その後6日にトランプ米大統領は、就任式を終えた李在明大統領と電話で約20分間会談して李氏に大統領選勝利への祝意を伝え、両者は米韓関係の発展に向け緊密に連携していくことを確認するとともに、「鉄鋼問題」などを抱える「トランプ関税」をめぐり両国が実務者交渉を進めることで一致した。だが李在明氏がカナダ・カナナスキスでのG7(主要7カ国)サミットに招待されたにもかかわらず、米韓首脳会談は実現せず、米国の「塩対応」が目立つ形となった。
一方、5月30日に開かれたアジアの安全保障を討議するシンガポールでの「シャングリラ会合」において、ヘグセス米国防長官が重要な演説を行い、トランプ政権の安全保障政策を改めて開陳した。重要なポイントとして、従来のNATO(北大西洋条約機構)として欧州とアジアの二正面戦略から、欧州の防衛は欧州に任せ、米国は環太平洋国家と自らを位置づけし、アジア太平洋防衛に注力するとし、その最大は対中国で、断固として台湾侵攻を阻止するという宣言である。この演説でほとんど韓国や在韓米軍への言及はなかった。
一方、在韓米軍については、米紙「ウォール・ストリート・ジャーナル」は、米政府が在韓米軍2万8千人のうち約4500人をグアムなどインド太平洋地域へ再配置する案を米国防総省が検討中と報じた。ところが米国防総省は事実ではないと表明したと韓国メディアが報道。
トランプ政権は対北朝鮮政策で、米朝首脳会談の実現を模索しているとも言われる。ブランソン在韓米軍司令官は「在韓米軍は北朝鮮の撃退だけに焦点を当てない」と基本方針を示している。在韓米軍は駐留の意義を対中戦略に重点を置く、つまり朝鮮半島防衛から東アジア全体の安全保障へとシフトしつつあり、その延長上に何らかの形で在韓米軍の再編がなされる可能性はあるだろう。
◆2025年7月号の世界思想 特集・韓国大統領選と日米韓関係流動化への懸念
Part1 李在明の韓国版「文化革命」
Part2 米国の視点から見た韓国大統領選挙