「戦後思考」からの脱却が焦眉の急だ

 

 コロナ禍が世界で広がる中、国際政治を揺るがす新たな事態が勃発した。

 アフガニスタンでイスラム原理主義勢力タリバンが全土を制圧し、親米ガニ政権が崩壊したことである。これによってアジア情勢が激変する可能性がある。

 何よりも警戒すべきは、自由陣営の旗手として戦後の国際秩 序をリードしてきた米国の信頼が、(すでに低下しているが)一層落ち込み、その隙に乗じて共産中国やロシアが一大攻勢をかけてくることだ。

 もはや「戦後」とは言えない新たな時代に突入したと捉えねばならない。この大激変に際して日本および日本人は何を為すべきかを熟考しなければならない。

 ガニ政権崩壊についてバイデン米大統領は「米国の国益に沿わない紛争にとどまるという過去の過ちは繰りかえさない。アフガン国軍が戦う気のない紛争で米兵が戦死してはならない」と言明している。

8月16日、タリバン勝利宣言後の初めての演説で「アフガニスタン軍が戦う意思がない戦争で、アメリカ軍の兵士が戦って死ぬべきではない」と述べた。

 

今日のアフガンは明日の日本の姿か

 トランプ前大統領は日米安全保障条約について「日本が攻撃されれば、米国は第3次世界大戦を戦う。我々は命と財産をかけて戦い、彼らを守る。しかし我々が攻撃されても、日本は我々を助ける必要はない。彼らができるのは攻撃をソニーのテレビで見ることだ」(2019年6月26日)と条約の片務性を揶揄したことがあるが、バイデン大統領は一歩進めて、「戦う気力のない国は切り捨てる」と明言したのだ。

 トランプ氏の呈した疑問は米国民の中に潜在的にあった。バイデン時代にそれが顕現してくると見なければならない。

 

 台湾では「きょうのアフガンは明日の台湾」との不安が生じ、「台湾はアフガンを教訓にすべきだ。米国に頼れば何も起きないという考えを捨てねばならない」「バイデン米大統領は軽々と盟友を見捨てる」といった懸念の声が出ている。

 これに対して蔡英文総統は「台湾の唯一の選択肢は、自らをより強くし、より団結することだ」と強調している(産経新聞8月20日付)。

台湾の蘇貞昌行政院長は8月17日、記者からアフガニスタン情勢を引き合いに「もし台湾が攻撃されたら総統も院長も逃げ出すか」と聞かれ、「我々は死を恐れることなく必ず国を守る」と話した。また、中国を念頭に「誰もこの土地を攻撃したりのみ込んだりすることはできない」と述べた。まさに日本の覚悟も問われる時が来ている。

 

 

 日本にも「きょうのアフガンは明日の日本」と言い得る日本も「自らをより強く」すべきだ

 安全保障を米国に頼っていれば事足りるという米国依存体質と、それに疑問も抱かない戦後思考に訣別しなければならない

 これは元来、戦後の主権回復と同時に行うべきだった。それを怠ったツケが回ってきた。今こそ国家としての自立心を取り戻すときなのだ。

 戦後思考は現行憲法が「平時の憲法」と呼ばれるように有事を想定しないどの国にもある緊急事態条項を持たない。軍隊を持たない(憲法に明記せず自衛隊で甘んじている)。

 それは日本を半人前国家にとどめ、米国に囲われた国家に貶め、二度と立ち上がれない様に仕組まれたからだ。

 

 占領憲法の下で人権至上、個人至上で国家国民への奉仕、犠牲心を軽んじる戦後日本人が生み出されてきた。

 こういう国と国民はあっという間に滅んでしまうのが歴史の常である。

 今まで生き永らえてきたが、このままでは亡国あるのみと自覚せねばならない。

 

 新型コロナウイルスが爆発的に広がっているのも有事を制定した医療体制が構築されていないからだ。憲法に緊急事態条項がないので、法律レベルでも国が医療体制を動かす体制がなく、何事も「お願い」レベルで終始している。

 とりわけ〝軍事抜き〟の戦後体制が致命傷である。

 米国では昨年来、軍が動いて有事の医療体制を支援してきた。海軍は7万トン級の病院船(病床約1000)を2隻保有し大統領命令で、コロナ患者を収容・治療した。陸軍も野戦病院を展開している。

アメリカ海軍の病院船「コンフォート」は、およそ1,000床のベットのほか、手術室などを備えていて、新型コロナウイルスの感染者以外の診療を行うために使用され、病院の負担を軽減する役割を果たした。

 

 またワクチンを確保するため朝鮮戦争時の1950年に制定された軍需物資増産のための「国防生産法」を発動し、米国防総省国防高等研究計画局(DARPA)はモデルナ社などに研究開発資金を援助し、いち早くワクチンを開発・製造した。

 ワクチン接種率が世界トップのイスラエルは対外諜報機関「モサド」が首相の命を受け、軍や保健省と共に合同作戦室を設置、対コロナの前面に立った。

 他国でも緊急事態には軍が出るそれはごく当たり前のことで、世界の常識だ。

有事態勢の構築に新たな思想戦必須

 わが国では自衛隊がクラスターを起こしたクルーズ船「ダイヤモンドプリンセス号」の医療支援や東京大規模接種センターでの集団接種に当たったが、いかんせん単発的な活動に終始している。

 むろん国防が第一義であるが、感染症を巡る緊急事態においても災害出動と同様の展開を可能とする有事態勢を構築しておくべきだ。

 これができないのは憲法9条に呪縛されているからだ。

 アフガニスタンも新型コロナウイルスも戦後思考では成り行かないことを如実に示している

 我々は価値観を転換させねばならない。人権・個人一辺倒、人任せといった悪しき戦後思考から脱却し、現行憲法を改正し、緊急事態条項と軍隊保持を明記し、有事に対応できる確固たる体制を構築しなければならない

 

 これを実現するには単なる法改正の次元を超えて国民の精神改革を必要とする。本格的な思想戦が始まるのだ。

 

 

思想新聞 主張【「戦後思考」からの脱却が焦眉の急だ】(掲載のニュースは本紙にて)

月1日号  【アフガンの衝撃】タリバンのカブール占拠 米国の威信、信頼に歴史的傷 / コロナ禍の戦没者国民集会、再び 英霊に哀悼の誠を捧げる /【主張】「戦後思考」からの脱却が焦眉の急だ

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