陳腐な「お願い国民保護」に訣別せよ

 北朝鮮が人工衛星を打ち上げると称するミサイル発射を11月21日に行った。政府は国民保護法に基づき沖縄県を対象に全国瞬時警報システム「Jアラート」を発令し、建物の中や地下への避難を一時呼びかけた。今回は上空を通過しただけで何事も起こらなかったが、これが日本を標的にしたミサイル攻撃だった場合、真に国民を守れるのか、国民保護のあり方を改めて問わねばならない

 国民保護法は武力侵攻やミサイル・テロ攻撃があった場合、国や自治体が対応する決まりや手順を定めたもので2004年に制定された。ミサイル発射があった場合、Jアラートで市町村に伝達し、市町村は防災無線などを通じて全住民に知らせ避難させる。ミサイルは数分から10分で日本上空に飛来するので、避難は一刻を争う。

国民に義務課さず人権だけの粗末さ

11月21日、北朝鮮が発射した「偵察衛星」

 いったい避難場所はどこにあるのか。それは全国に約6万カ所あるとされるが、より安全な地下施設は約2400カ所(4%)にとどまる。東京都は昨春、23区内の計109の地下施設を緊急一時避難施設に指定したが、このうち105施設は都営地下鉄と東京メトロの小さな地下鉄駅にすぎない。他の大都市も似たり寄ったりだ。地方では地下鉄や地下街、大規模ビルがほとんどなく丸裸も同然で、国民は烏合の衆になりかねない。

 国や自治体には国民を避難させる強制力がないし、国民には避難する義務もないのである。そんな「なあなあ」のお粗末さだ。国民保護法は言ってみれば「お願い国民保護」である。第4条は「国民は、この法律の規定により国民の保護のための措置の実施に関し協力を要請されたときは、必要な協力をするよう努めるものとする」(第1項)とする。国民は「協力するよう努める」だけなのだ。強制力がないから「嫌だ」と言えば、お仕舞だ。

 おまけに同条第2項は「協力」は「自発的な意思」であって「強制にわたることがあってはならない」とわざわざ断る。さらに第5条は、「憲法の保障する国民の自由と権利が尊重されなければならない」と「基本的人権の尊重」をうたい、「いやしくも国民を差別的に取り扱い、並びに思想及び良心の自由並びに表現の自由を侵すものであってはならない」と戒めるのである。

 生きるか死ぬかという緊急事態にあっても「人権サマ」のお通りだ。国民の義務はどこにいったのか。実に馬鹿げた「お願い国民保護」である。わざわざ憲法を持ち出し、おまけにその解説もどきの条文を入れるのは憲法に緊急事態条項が存在しないからだ。

 国民を守るには時には強制も必要だ。このことは我々の日常生活でも緊急事態があることを思い浮かべれば、おのずと知れる。例えば、緊急時には救急車やパトカーは赤信号でも進み、一般車は青信号で通行できる権利を返上し青信号でも止まる。救急車は超法規的に赤信号を無視して通行する。緊急事態ではこうした権利の制限や超法規的措置を、もっと大掛かりにやらないと国民の命を守れないのである。

 独裁国なら、権力保持者が好き勝手、恣意的に行い、言論弾圧や思想弾圧、宗教弾圧、人権侵害も平気でやるだろう。民主主義国の場合はそうはいかない。どこかの国の野党が名乗っているように「立憲民主」、法の支配であるからである。

 日本国民は同じ2次大戦の敗戦国ドイツを見倣うべきだ。1968年に基本法(憲法)を大改正し、いわゆる「ボン基本法」を制定した際、対外的、対内的および災害による非常事態への対処のために28条項もの新設、削除、変更を加えた

 基本法は緊急事態を「防衛事態」「緊迫事態」「同盟事態」「憲法上の緊急事態」「災害事態」に分類し、それぞれについて定義や確定の要件、効果等を規定し、ナチス独裁の苦い経験をもとに緊急事態下でも立法機能を休止させず、平時において国会議員の中から有事用「合同委員会」議員(48人)を選任し、緊急事態になれば地下壕で備える、としている

 また「伝染病の危険、自然災害もしくは重大な災害事故に対処するために必要な場合、または青少年を非行化から守り、もしくは犯罪行為を防止するために必要な場合にのみ、これを制限することができる」(11条)と明記する。

覚悟なき国会の憲法審議の遅さ

 このような緊急事態の規定は民主主義国では常識である。人権とも矛盾しない。市民の自由や権利を守るための「国際人権規約」(市民的及び政治的権利に関するB規約)第4条は、国家は緊急事態に「必要な限度において、この規約に基づく義務に違反する措置をとることができる」と規定している。人権を守るためにも緊急事態措置が必要なのである。

 しかるに戦後憲法には緊急事態条項が存在しない。国会は衆議院議員の任期延長といった小手先の話でごまかしている。国を守る、国民を守るという国家国民の本質的問題としての緊急事態条項でなければならない。そういう覚悟がないから国会は〝ちんたら審議〟でお茶を濁している。国民よ、平和ボケから一刻も早く目覚めよ。

【思想新聞月12月1日号】戦争の連鎖 ウクライナ、ハマス、そして北朝鮮に/真・日本共産党実録/特別寄稿/JFF2023/共産主義「定点観測」

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