「8月ジャーナリズム」という呼称がある。メディアとりわけ新聞の戦争に関する報道は毎年、8月6日の「広島原爆の日」の前あたりから増え始め、長崎の「原爆の日」を経て15日の「終戦の日」でピークを迎え、その後は潮が引くように減じていく。それが8月ジャーナリズムである。
8月にメディアことに左翼メディアが何を訴えるのかと言うと、「終戦から時間がたっても『平和を守る。二度と戦争はしない』と確認する」(作家、保坂正康氏)というものだ。平和を守るのも二度と戦争をしないのも当然の願いではあるが、ならば、どのようにして平和を守るのか、どうすれば戦争をしなくてすむのか、このことについてメディアは口を閉ざす。
白旗・赤旗では平和は到来せず
元来、8月は7月の新盆から続く、お盆(旧盆)の季節である。それを通じて日本人は現世だけでなく前世(過去)、来世(未来)を考える霊的、宗教的な時を過ごすのである。ここに「原爆の日」「終戦の日」が重なり、戦没者を追悼する。追悼とは「死者を偲んで悼み悲しむ」ことであるが、それに留まらず顕彰すなわち「功績や善行をたたえて広く世間に知らしめる」ことが必要だ。なぜなら戦没者は今に生きる日本人の礎になった人々であるからだ。慰霊とともに顕彰しなければ先祖に申し訳が立たない。それが「8月」の真の意義である。

全国戦没者追悼式
ところが、左翼が主導する8月ジャーナリズムは絶好の「反戦」の機会と捉え、「軍事=悪」論を盛んに唱える。それがあたかも死者への供養であり、戦争への「反省」のごとくに騒ぎ立てる。これこそが「罠」である。
本連合が創設されて約10年後のことであるが、1970年代末にロンドン大学教授の森嶋通夫氏が「日本がもしソ連に侵略されれば、戦うことはせずに、白旗と赤旗を掲げて降伏すればよい」と主張したことがある。「白旗・赤旗平和論」である。
当時は冷戦の最中で、ソ連がSS20という従来のミサイルに比べて射程が長く、命中精度の高い中距離核ミサイルを欧州や極東に配備し、核の脅威が一段と増した。それに対して森嶋氏は、日本はソ連の核兵器にかなわないから、非武装中立にし、もしソ連が攻めてくれば白旗と赤旗を掲げて降伏すれば、被害は少なくてすむと主張したのである。まさに「奴隷の平和」論である。
こうした主張は冷戦後にもあった。2003年に小泉純一郎政権が有事3法を国会に提出した際、社民党の田英夫参院議員は「憲法9条には日本は戦争をしない、軍隊を持たないと明確に規定しているから、戦争をしない国に武力攻撃事態対処法はいらない」と反対したのである。
この主張に対して小泉首相は「日本を侵略しようとする勢力に対して、日本は無抵抗で白旗を掲げて、はい降参します、どうぞ人権でも財産でもどうぞ侵害してくださいというわけにはいかない」と烈火のごとき怒りをもって退けた(03年6月5日、参院特別委答弁)。まことにもって正論と言わねばならない。
それ以降、公然たる「奴隷の平和」論は聞かなくなったが、8月ジャーナリズムは手を変え品を変え、これを唱えるのである。今年5月3日の憲法記念日のことだが、朝日新聞に「戦争の犠牲者は罪のない市民 戦争を始めるのは政府、ブレーキをかけるのは主権者・国民」なる全面広告が掲載された。共産党系団体の意見広告である。典型的な左翼の「平和を守る。二度と戦争はしない」論である。8月ジャーナリズムも同じような主張を唱えている。
だが、これは根本的に間違っている。日本共産党の野坂参三氏(元名誉議長)は1946年の憲法制定議会(同6月28日、第90回帝国議会)で次のように正論を唱えたことがある。この言を共産党員、左翼メディアは心して聞くべきだ。
「戦争には、二つの種類の戦争がある、一つは正しくない不正の戦争である、他国征服、侵略の戦争である、侵略された国が自国を守るための戦争は、我々は正しい戦争といって差し支えないと思う、憲法草案に戦争一般放棄という形でなしに、我々はこれを侵略戦争の放棄、こうするのがもっと的確ではないか」
「自衛の戦争」は「正義の戦争」だ
この当時の共産党には戦争に対するリアリズムがあったのである。野坂氏が指摘したごとく「自国を守るための戦争」は正しい戦争なのである。「戦争の犠牲者は罪のない市民」というが、彼らは決して「国民」とは言わない。彼らが言う戦争も市民も国籍不明である。「戦争を始めるのは政府」というが、どこの政府なのか、ちんぷんかんぷんである。
ウクライナ戦争を見よ。ここではプーチンのロシアが戦争を始めた。もし日本への侵略があるとすれば、その政府は差し詰め中国共産党政府であろう。共産党系のデマ広告はそれには一言も触れず、あたかも日本政府が侵略戦争を始めるかのように言いふらしている(これを売国奴と言う)。
8月ジャーナリズムの欺瞞を広く国民に知らせ、「自衛の戦争」なら毅然としてこれに参画することを誓う、そういう8月にしたいものである。
【思想新聞 8月15日号】米大統領選・鮮明な共和「保守」対民主「急進左派」の戦いに